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第III部 わが国の防衛のための取組

3 弾道ミサイル攻撃などへの対応

わが国は、弾道ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、平成16年度から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)システムの整備を開始した。05(平成17)年には、自衛隊法の所要の改正を行い、同年、安全保障会議と閣議において、弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。

現在までに、イージス艦8への弾道ミサイル対処能力の付与やペトリオットPAC-3(Patriot Advanced Capability-3)9の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の多層防衛体制の整備を着実に進めている。

参照図表III-1-1-7(わが国のBMD整備への取組の変遷)

図表III-1-1-7 わが国のBMD整備への取組の変遷

1 わが国の弾道ミサイル防衛
(1)基本的考え方

わが国の弾道ミサイル防衛は、イージス艦による上層での迎撃とペトリオットPAC-3による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE:Japan Aerospace Defense Ground Environment)により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。この体制を確立するため、現在保有しているイージス艦とペトリオット・システムの能力の向上やBMD能力を有するイージス艦の増勢などにより、BMDシステムの整備を推進している。

参照図表III-1-1-8(BMD整備構想・運用構想(イメージ図))

図表III-1-1-8 BMD整備構想・運用構想(イメージ図)

護衛艦「きりしま」の画像

SM-3を発射する護衛艦「きりしま」

(2)BMDシステムの整備の状況

防衛省・自衛隊は、今後、イージス艦については「あたご」型2隻へのBMD能力の付与を継続するとともに、BMD能力を有するイージス艦2隻を増勢して8隻態勢とする予定である。また、全ての6個高射群にペトリオットPAC-3を平成27年度までに配備するとともに、弾道ミサイル防衛と巡航ミサイルや航空機への対処の双方に対応可能な迎撃ミサイル(PAC-3 MSE(Missile Segment Enhancement))を搭載するため、さらなる能力向上を図る予定である。さらに、弾道ミサイルの探知・追尾能力を強化するため、自動警戒管制システムの能力向上やFPS-710固定式警戒管制レーダーの整備および能力向上を推進する。

参照図表III-1-1-9(能力向上型PAC-3ミサイル)

図表III-1-1-9 ‌能力向上型PAC-3ミサイル(PAC-3 MSE:イメージ)

FPS-7固定式警戒管制レーダーの画像

FPS-7固定式警戒管制レーダー(イメージ図:近空アンテナ(左)、遠空アンテナ(右))

2 法制・運用面の整備
(1)弾道ミサイル対処に関する法的枠組み

わが国に武力攻撃として弾道ミサイルなど11が飛来した場合には、武力攻撃事態における防衛出動により対処する。

一方、わが国に弾道ミサイルなどが飛来する場合に、武力攻撃事態が認定されていないときには、①迅速かつ適切な対処を行うこと、②文民統制を確保することを十分考慮し、以下の措置をとることができる。

ア 防衛大臣は、弾道ミサイルなどがわが国に飛来するおそれがあると判断する場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、弾道ミサイルなどがわが国に向けて飛来したときには同ミサイルを破壊する措置をとるべき旨を命ずる12

イ また、上記の場合のほか、発射に関する情報がほとんど得られなかった場合や、事故や誤射による場合などのように、事態が急変し、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得る時間がないことが考えられる。防衛大臣は、このような場合に備え、平素から緊急対処要領を作成して内閣総理大臣の承認を受けておくことができる。そして、防衛大臣は、この緊急対処要領に従い、一定の期間を定めたうえで、あらかじめ自衛隊の部隊に対し、実際に弾道ミサイルなどがわが国に向けて飛来したときには同ミサイルの破壊措置をとるべき旨を命令しておくことができる。

参照図表III-1-1-10(弾道ミサイルなどへの対処の流れ)、資料21(自衛隊の主な行動)資料22(武力行使および武器使用に関する規定)

図表III-1-1-10 弾道ミサイルなどへの対処の流れ

(2)文民統制の確保の考え方

弾道ミサイルなどへの対処にあたっては、飛来のおそれの有無について、具体的な状況や国際情勢などを総合的に分析・評価したうえでの、政府としての判断が必要である。また、自衛隊による破壊措置だけではなく、警報や避難などの国民の保護のための措置、外交面での活動、関係部局の情報収集や緊急時に備えた態勢強化など、政府全体での対応が必要である。

このような事柄の重要性および政府全体としての対応の必要性にかんがみ、内閣総理大臣の承認(閣議決定)と防衛大臣の命令を要件とし、内閣および防衛大臣がその責任を十分果たせるようにしている。さらに、国会報告を法律に規定し、国会の関与についても明確にしている。

(3)運用面の取組

ア 統合運用による弾道ミサイルなどへの対処

飛来する弾道ミサイルなどに対しては、空自航空総隊司令官を指揮官とする「BMD統合任務部隊」を組織し、JADGEなどを通じた一元的な指揮のもと、効果的に対処するための各種態勢をとる。

また、弾道ミサイルの弾着などによる被害については、陸自が中心となって対処する。

イ 弾道ミサイル攻撃対処のための日米の協力

BMDシステムの効率的・効果的な運用のためには、在日米軍をはじめとする米国とのさらなる協力が必要である。このため、これまでの日米安全保障協議委員会(「2+2」)において、BMD運用情報および関連情報の常時リアルタイムでの共有をはじめとする関連措置について合意してきた。13(同25)年の「2+2」会合においても、協力を拡大していくことが確認された。

参照III部2章2節3(「2+2」会合)

また、わが国は従来から、弾道ミサイルの対処にあたり、早期警戒情報13(SEW:Shared Early Warning)を米軍から受領するとともに、米軍がわが国に配備しているBMD用移動式レーダー(Xバンド・レーダー)やイージス艦などを用いて収集した情報について情報共有を行うなど、緊密に協力している。

なお、訓練などによる日米対処能力の維持・向上、検証なども積極的に行われており、14(同26)年2月には、前年に引き続き日米艦艇をネットワークで連接して、弾道ミサイル対処にかかるシミュレーションを行うBMD特別訓練を行い、弾道ミサイル対処に関する戦術技量の向上と連携の強化を図った。

3 米国のミサイル防衛と日米BMD技術協力
(1)米国のミサイル防衛

米国は、弾道ミサイルの飛翔(ひしょう)経路上の①ブースト段階、②ミッドコース段階、③ターミナル段階のそれぞれの段階に適した防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層防衛システムを構築している。

日米両国は、弾道ミサイル防衛に関して緊密な連携を図ってきており、米国保有のミサイル防衛システムの一部が、わが国に段階的に配備されている。

具体的には、米軍車力通信所にTPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が配備されている14。また、同年12月以降、BMD能力搭載イージス艦が、わが国およびその周辺に前方展開している。さらに、同年10月には沖縄県の嘉手納(かでな)飛行場などにペトリオットPAC-3を、07(同19)年10月には青森県の三沢(みさわ)飛行場に統合戦術地上ステーション(JTAGS:Joint Tactical Ground Station)15を配備した。さらに、京都府の空自経ヶ岬(きょうがみさき)分屯基地がTPY-2レーダーの追加配備先として選定され、13(同25)年12月、配備に必要な施設・区域を米国に提供した。

(2)弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発など

98(同10)年、政府は、平成11年度から、海上配備型上層システムの日米共同技術研究に着手することを決定した。

この共同技術研究は、より将来的な迎撃ミサイルの能力向上を念頭に置き、日米が共同して技術研究を行うものであり、迎撃ミサイルの主要な四つの構成品16に関する設計、試作および必要な試験を行った。

日米共同技術研究の結果、当初の技術的課題を解決する見通しを得たことから、05(同17)年12月の安全保障会議および閣議において、この成果を技術的基盤として活用し、BMD用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。同共同開発は、防護範囲を拡大し、より高性能化・多様化する将来脅威に対処することを目的として06(同18)年6月から開始しており、17(同29)年頃の完了を目標としている。

参照図表III-1-1-11(能力向上型迎撃ミサイル日米共同開発の概要)

図表III-1-1-11 能力向上型迎撃ミサイル日米共同開発の概要

(3)武器輸出三原則等(当時)との関係

より将来的な能力向上を目指したBMDに関する日米共同開発に関しては、開発の一環として、わが国から米国に対して、BMDにかかわる武器を輸出する必要性が生じる。これについて、04(同16)年12月の内閣官房長官談話において、BMDシステムに関する案件については、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則等によらないとされた。このような経緯を踏まえてSM-3ブロックIIAの第三国移転について検討を行った結果、わが国の安全保障や国際の平和および安定に資する場合であって、かつ当該第三国がSM-3ブロックIIAのさらなる移転を防ぐための十分な政策を有しているときには、「対米武器・武器技術供与交換公文」にしたがい、第三国移転の事前同意を付与できるとわが国として判断し、11(同23)年6月21日の日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同発表においてその旨を発表した。

なお、14(同26)年4月1日に閣議決定した防衛装備移転三原則(移転三原則)に基づき、同日、国家安全保障会議が決定した移転三原則の運用指針において、移転三原則の決定前に講じられてきた例外化措置については、引き続き移転三原則のもとで海外移転を認め得るものと整理されている。

参照IV部1章3節(防衛装備移転三原則)資料62(武器輸出三原則等)資料63(防衛装備移転三原則)

4 北朝鮮によるミサイル発射事案などへの

対応

09(同21)年3月12日、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)から、北朝鮮当局から「試験通信衛星」打上げのための事前通報があった旨の連絡が入った。これを受け、防衛大臣は、自衛隊法第82条の2(当時。現在は第82条の3)第3項に基づく「弾道ミサイル等に対する破壊措置命令(行動命令)」を発出した。自衛隊は、BMD統合任務部隊を組織し、SM-3搭載イージス艦2隻を日本海中部へ、ペトリオットPAC-3部隊を東北地方や首都圏に展開した。同年4月5日、北朝鮮から東の方向にミサイル1発が発射されたため、早期警戒情報(SEW)や自衛隊の各種レーダーにより得た情報を官邸などへ伝達17した。また、航空機により、被害の有無を確認するための情報収集を実施した。同年4月6日、防衛大臣は、「弾道ミサイル等に対する破壊措置の終結に関する命令(終結命令)」を発出した。

また、12(同24)年3月19日には、IMOから、北朝鮮当局から「地球観測衛星」打上げのための事前通報があった旨の通報があった。これを受け、3月27日、防衛省・自衛隊は準備命令に基づき準備を開始し、同月30日、防衛大臣が行動命令を発出した。自衛隊は、SM-3搭載イージス艦を日本海および東シナ海に、ペトリオットPAC-3部隊を沖縄県や首都圏にそれぞれ展開させるとともに、万一の落下に備え、陸自部隊を南西諸島に派遣した。4月13日午前7時40分頃、北朝鮮西岸から飛翔体が発射された後、数個に分かれて黄海に落下したため、同日夕刻、防衛大臣は終結命令を発出した。

さらに同年12月1日、北朝鮮が「人工衛星」を同月10日から22日までの間(後に同月29日まで延長)に打ち上げる旨を発表した。これを受け、同日、防衛大臣が準備命令を発出し、SM-3搭載イージス艦を日本海および東シナ海に、ペトリオットPAC-3部隊を沖縄県や首都圏にそれぞれ展開させるとともに、万一の落下に備え、陸自部隊を南西諸島に派遣した。同月7日、防衛大臣は行動命令を発出した。同月12日午前9時49分頃、北朝鮮西岸から「人工衛星」と称するミサイルが発射され、沖縄県上空を通過し太平洋側へ通過したため、同日夕刻、防衛大臣が終結命令などを発出した。

13(同25)年の前半には、北朝鮮はミサイル発射の示唆を含む様々な挑発的な行動を繰り返し行うとともに、14(同26)年3月3日、26日、6月29日および7月9日には、弾道ミサイル発射を行った。このような情勢を受け、防衛省・自衛隊は、いかなる事態においても国民の生命・財産を守るべく、関係省庁・米国などと連携しつつ、警戒監視をはじめとする必要な対応に万全の態勢をとった。

参照I部1章2節1(北朝鮮)

8 II部4章3節脚注5参照

9 ペトリオットPAC-3は、経空脅威に対処するための防空システムの一つであり、主として航空機を迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするシステム

10 航空機などの従来型の脅威と弾道ミサイルの双方に対応可能な固定式警戒管制レーダーとして平成26年度より整備

11 弾道ミサイルその他その落下により、人命または財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であって、航空機以外のものをいう。

12 自衛隊の具体的な活動の一例としては、弾道ミサイルなどの飛来に備え、防衛大臣の当該命令を受けて、弾道ミサイルなど対処のための空自のペトリオットPAC-3や海自のイージス艦を展開し、弾道ミサイルなどが飛来してきた場合に、先に下された大臣の命令に基づきこれを破壊する。

13 わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関するデータを、発射直後、短時間のうちに米軍が解析して自衛隊に伝達する情報であり、具体的には、発射地域、発射時刻、落下予想地域、落下予想時刻などが伝達される。自衛隊は、日米安全保障体制のもとで、従来から、米軍との間で種々の情報交換を行っているところであり、その一環として早期警戒情報を受領しているもの(96(平成8)年4月から受領開始)。その性質上、精度などに限界があることは否定できないが、わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関するいわば「第一報」として、有益な情報であると考えている。

14 レーダーは、06(同18)年6月、青森県の空自車力(しゃりき)分屯基地に配備されたが、その後米軍車力通信所に移設された。

15 弾道ミサイル情報処理システムの一つ

16 ノーズコーン、第2段ロケットモーター、キネティック弾頭、赤外線シーカーをいう。

17 実際の発射の前日には、防衛省・自衛隊の情報伝達の不手際により、発射に関する誤報事案が生起した。実際の発射に際しては、情報収集や伝達を適切に行った。