新防衛大綱では、今後のわが国の防衛力については、統合機動防衛力の考え方のもと、以下の分野において求められる役割を効果的に果たし得るものとし、その役割に十分対応できる態勢を保持するものとしている。
各種兆候を早期に察知するため、わが国周辺を広域にわたり常続監視し、情報優越4を確保する。このような活動などにより、力による現状変更を許容しないとのわが国の意思を明示し、各種事態の発生を未然に防止する。
一方、グレーゾーンの事態を含む各種事態に対し、兆候段階からシームレスかつ機動的に対応し、その長期化にも持続的に対応し得る態勢を確保する。
複数の事態が連続的または同時並行的に発生する場合においても、事態に応じ、実効的な対応を行う。
特に、①周辺海空域における安全確保、②島嶼部に対する攻撃への対応、③弾道ミサイル攻撃への対応、④宇宙空間およびサイバー空間における対応および⑤大規模災害などへの対応を重視する。
空中給油を行う空自の航空機
わが国周辺において、常続監視や訓練・演習などの各種活動を適時・適切に実施し、地域の安全保障環境の安定を確保する。
また、同盟国などと連携しつつ、二国間・多国間の防衛協力・交流、共同訓練・演習、能力構築支援などを多層的に推進する。
グローバルな安全保障上の課題に適切に対応するため、軍備管理・軍縮、不拡散に関する各種取組を強化する。また、国際平和協力活動、海賊対処、能力構築支援などの各種活動を積極的に推進する。
特に、①訓練・演習の実施、②防衛協力・交流の推進、③能力構築支援の推進、④海洋安全保障の確保、⑤国際平和協力活動の実施ならびに⑥軍備管理・軍縮および不拡散の努力への協力を重視する。
海賊対処行動実施部隊を見送る若宮防衛大臣政務官
自衛隊は、上記の防衛力の役割を実効的に果たし得る体制を保持するとの観点から、今後の防衛力整備において特に重視すべき機能・能力を明らかにするため、想定される各種事態について、統合運用の観点から能力評価を実施した。
新防衛大綱は、この能力評価の結果を踏まえ、南西地域の防衛態勢の強化をはじめ、各種事態における実効的な抑止・対処の実現の前提となる海上優勢・航空優勢の確実な維持に向けた防衛力整備を優先することとし、幅広い後方支援基盤の確立に配意しつつ、機動展開能力の整備も重視している。
一方、大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態への備えについては、最小限の専門的知見や技能の維持・継承に必要な範囲に限り保持し、より一層の効率化・合理化を徹底するとしている。
新防衛大綱は、米軍との相互運用性にも配意した統合機能の充実に留意しつつ、特に以下の機能・能力について重点的に強化するとしている。
○ 警戒監視能力
わが国周辺海空域において常続監視を広域にわたって実施するとともに、情勢の悪化に応じて態勢を柔軟に増強する。
○ 情報機能
各種事態などの兆候の早期察知などを行うための情報の収集・処理体制および収集情報の分析・共有体制を強化する。
この際、人的情報・公開情報・電波情報・画像情報などに関する収集機能と無人機による常続監視機能の拡充を図る。また、地理空間情報機能を強化し、情報収集・分析要員の統合的かつ体系的な確保・育成のための体制を確立する。
参照図表II-4-3-1(地理空間情報(イメージ図))
○ 輸送能力
所要の部隊を機動的に展開・移動させるため、平素から民間輸送力との連携を図りつつ、統合輸送能力を強化する。
○ 指揮統制・情報通信能力
全国の部隊を機動的・統合的に運用し得る指揮統制の体制の確立のため、陸自の各方面隊を束ねる統一司令部の新設などを実施する。また、島嶼部における基盤通信網や各自衛隊間のデータリンク機能をはじめとして、その充実・強化を図る。
○ 島嶼部に対する攻撃への対応
海上優勢・航空優勢の確実な維持のため、航空機や艦艇、ミサイルなどによる攻撃への対処能力を強化する。島嶼への侵攻があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための水陸両用作戦能力を整備する。
さらに、南西地域における事態生起時に自衛隊の部隊が迅速かつ継続的に対応できるよう、後方支援能力を向上させる。
なお、太平洋側の島嶼部における防空態勢のあり方についても検討を行う。
○ 弾道ミサイル攻撃への対応
北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上を踏まえ、わが国の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上を図る。
また、弾道ミサイル防衛システムについては、わが国全域を防護し得る能力を強化するため、即応態勢、同時対処能力および継続的に対処できる能力を強化する。
さらに、日米間の適切な役割分担に基づき、日米同盟全体の抑止力の強化のため、わが国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段などに対する対応能力のあり方についても検討のうえ、必要な措置を講ずる。
○ 宇宙空間およびサイバー空間における対応
各種人工衛星を活用した情報収集能力や指揮統制・情報通信能力を強化するほか、宇宙状況監視の取組などを通じて衛星の抗たん性を高める。
サイバー空間においては、統合的な常続監視・対処能力を強化するとともに、専門的な知識・技術を持つ人材や最新の機材を継続的に強化・確保する。
○ 大規模災害などへの対応
十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開するとともに、長期間にわたり持続可能な対処態勢を構築する。
○ 国際平和協力活動などへの対応
人員・部隊の安全確保のための防護能力を強化する。輸送・展開能力、情報通信能力、補給・衛生などの体制整備に取り組む。情報収集能力および教育・訓練・人事管理体制を強化する。
フィリピンにおける国際緊急援助活動の様子
新防衛大綱は、「2 自衛隊の体制整備にあたっての重視事項」において、重視すべき機能・能力が特定されたことを踏まえ、各自衛隊の体制については、以下(1)から(3)のとおり整備することとしている。
参照図表II-4-3-2(新防衛大綱の「別表」)、図表II-4-3-3(防衛大綱別表の変遷)
島嶼部に対する攻撃をはじめとする各種事態に即応し、実効的かつ機動的に対処する必要がある。このため、高い機動力や警戒監視能力を備え、機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団、機動旅団および機甲師団)を保持する。また、水陸両用作戦などを実施し得るよう、専門的機能を備えた機動運用部隊を保持する。良好な訓練環境を踏まえ、機動運用を基本とする作戦基本部隊の半数を北海道に保持する。
また、戦車および火砲を中心として部隊の編成・装備を見直し、効率化・合理化を徹底したうえで、地域の特性に応じて適切に配置する。
陸自の編成定数については、大規模災害などにも十分な規模で対応するために、平成25年度末の水準である約15.9万人を維持する。
周辺海域の防衛や海上交通の安全を確保し得るよう、多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦などにより48隻(12個護衛隊)から54隻(14個護衛隊)に増強された護衛艦部隊および艦載回転翼哨戒部隊を保持する。なお、イージス・システム搭載護衛艦5を2隻増勢し、8隻体制を確立する。
また、水中および洋上における情報収集・警戒監視を平素から実施するとともに、周辺海域の哨戒6および防衛を有効に行い得るよう、増強された潜水艦部隊を保持するとともに、固定翼哨戒機部隊を保持する。
わが国周辺のほぼ全空域を常時継続的に警戒監視するために、航空警戒管制部隊を保持する。警戒管制業務の防空指令所への集約化などにより、警戒群を段階的に警戒隊に移行するとともに、警戒航空部隊に1個飛行隊を新編する7。
戦闘機部隊について、13個目の飛行隊を新編するとともに、航空偵察部隊については廃止する。また、空中給油・輸送部隊に1個飛行隊を新編し、2個飛行隊とする。
さらに、陸自の地対空誘導弾部隊と連携し、重要地域の防空を実施するほか、イージス・システム搭載護衛艦とともに、弾道ミサイル攻撃からわが国を多層的に防護し得る機能を備えた地対空誘導弾部隊を保持する。
参照図表II-4-3-4(戦闘機部隊の体制)