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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第2節 朝鮮半島

朝鮮半島では、半世紀以上にわたり同一民族の南北分断状態が続いている。現在も、非武装地帯(DMZ:Demilitarized Zone)を挟んで、160万人程度の地上軍が厳しく対峙している。

このような状況にある朝鮮半島の平和と安定は、わが国のみならず、東アジア全域の平和と安定にとってきわめて重要な課題である。

参照図表I-1-2-1(朝鮮半島における軍事力の対峙)

図表I-1-2-1 朝鮮半島における軍事力の対峙

1 北朝鮮

1 全般

北朝鮮は、思想、政治、軍事、経済などすべての分野における社会主義的強国の建設を基本政策として標榜し1、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとっている。これは、「軍事先行の原則に立って革命と建設に提起されるすべての問題を解決し、軍隊を革命の柱として前面に出し、社会主義偉業全般を推進する領導方式」と説明されている2。実際に、指導者の金正恩(キム・ジョンウン)国防委員会第1委員長は軍を掌握する立場にあり、14(平成26)年1月の「新年の辞」3において、「国防力強化は国事の中の国事であり、強力な銃の上に祖国の尊厳も、人民の幸福も、平和もある」と述べるなど軍事力の重要性に言及しているほか、軍組織の視察などを多く行っている。これらのことなどから、軍事を重視し、かつ、軍事に依存する状況は、今後も継続すると考えられる。

北朝鮮は、現在も深刻な経済困難に直面し、食糧などを国際社会の支援に依存しているにもかかわらず、軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めていると考えられる。また、その軍事力の多くはDMZ付近に展開している。なお、14(同26)年4月の最高人民会議における北朝鮮の公式発表によれば、北朝鮮の同年度予算に占める国防費の割合は、15.9%となっているが、これは、実際の国防費の一部にすぎないとみられている。

さらに、北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発などを続けるとともに、大規模な特殊部隊を保持するなど、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられる。加えて、北朝鮮は、わが国を含む関係国に対する挑発的言動を繰り返し、特に13(同25)年3月から4月にかけては、米国などに対する核先制攻撃の権利行使やわが国の具体的な都市名をあげて弾道ミサイルの打撃圏内にあることなどを強調した4

北朝鮮のこうした軍事的な動きは、わが国はもとより、地域・国際社会の安全保障にとっても重大な不安定要因となっている。北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、弾道ミサイルの開発・配備の動きや朝鮮半島における軍事的対峙、北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の動きなどにも注目する必要がある。

北朝鮮がきわめて閉鎖的な体制をとっていることなどから、北朝鮮の動向の詳細や意図を明確に把握することは困難であるが、わが国として強い関心を持って注視していく必要がある。

2 軍事態勢
(1)全般

北朝鮮は、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線5に基づいて軍事力を増強してきた。

北朝鮮の軍事力は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約120万人である。北朝鮮軍は、現在も、依然として戦力や即応態勢を維持・強化していると考えられるものの、その装備の多くは旧式である。

一方、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する大規模な特殊部隊などを保有している。また、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。

(2)軍事力

陸上戦力は、約100万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、首都であるソウルを含む韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。また、北朝鮮は、現在も限られた資源の中で選択的に通常戦力の増強を図っており、主力戦車や多連装ロケットなどを改良しているとみられる6

海上戦力は、約650隻約10.1万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、ロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入などに使用されると考えられる小型潜水艦約70隻とエアクッション揚陸艇約140隻を有している。

航空戦力は、約600機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn-2輸送機を多数保有している。

また、北朝鮮は、いわゆる非対称的な軍事能力として、約10万人に達するとみられる特殊部隊7を保有しているほか、近年はサイバー部隊を重視し強化を図っているとの指摘もある8

北朝鮮軍は、即応態勢の維持・強化などの観点から、現在も各種の訓練を活発に行っている。一方、深刻な食糧事情などを背景にいわゆる援農活動や、金正恩国防委員会第1委員長が推進してきた馬息嶺(マシンニョン)スキー場建設などの大規模建設事業にも動員されているとみられている9

3 大量破壊兵器・弾道ミサイル

北朝鮮は、依然として大規模な軍事力を維持している一方、冷戦構造の崩壊による旧ソ連圏からの軍事援助の減少や経済の不調による国防支出の限界、韓国の防衛力の急速な近代化といった要因により、韓国および在韓米軍に対して通常戦力において著しく劣勢に陥っている。このため北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの増強に集中的に取り組むことにより劣勢を補おうとしていると考えられる。

こうした北朝鮮の大量破壊兵器・ミサイル開発は、わが国に対するミサイル攻撃などの挑発的言動とあいまって、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。また、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。

(1)核兵器

ア 北朝鮮の核開発問題をめぐる最近の主な動き

北朝鮮による核開発問題については、平和的な方法による朝鮮半島の検証可能な非核化を目標として、03(同15)年8月以降、6回にわたって六者会合が開催されている。05(同17)年の第4回六者会合では、北朝鮮による「すべての核兵器および既存の核計画」の放棄を柱とする共同声明が採択された。06(同18)年には、北朝鮮による7発の弾道ミサイルの発射や核実験実施10、それらに対する国連安保理決議第1695号および第1718号の採択などもあり、協議は一時中断していたが、北朝鮮はその後第5回六者会合に復帰し、07(同19)年10月の第6回六者会合では、北朝鮮が同年末までに寧辺(ヨンビョン)の核施設の無能力化を完了し、「すべての核計画の完全かつ正確な申告」を行うことなどが合意された。しかしながら、その合意内容の履行は完了しておらず11、六者会合は08(同20)年12月以降、中断している。

北朝鮮は09(同21)年に再びミサイル発射や核実験を行い12、国際社会は北朝鮮に対する追加的な措置を決定する国連安保理決議第1874号を同年6月に採択した。その後、南北の六者会合首席代表会談や米朝高官会談が行われたが、六者会合の再開には至っておらず、12(同24)年12月の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射を受け、13(同25)年1月には、北朝鮮に対するこれまでの決議による制裁を拡充・強化することなどを内容とする国連安保理決議第2087号が採択された。さらに13(同25)年2月の北朝鮮による核実験実施を受け、同年3月には、対北朝鮮制裁の追加・強化を含む強い内容が含まれる国連安保理決議第2094号が採択された。

北朝鮮は、05(同17)年に核兵器製造を公言し、12(同24)年に改正された憲法において自らを「核保有国」である旨明記したが、13(同25)年中も「核保有国」としての地位を国際社会に認知させるための動きを見せた。同年3月に、核抑止力さえしっかりしていれば安心して経済建設と人民生活向上に集中できるとして、経済建設と核武力建設を並行して進めていく、いわゆる「並進路線」を決定し、核兵器は政治的駆け引きや経済的取引の対象ではないとあらためて主張した。また、同年4月には、「自衛的核保有国の地位をさらに強固にすることについての法」を定めた。このように、北朝鮮は、核兵器開発を今後も進めていく姿勢を崩していない。

北朝鮮の核兵器計画については、事実上の核兵器保有国としての地位を確立することによって米国などとの交渉を優位に進め、何らかの見返りを得ようとするいわゆる瀬戸際政策であるとの指摘がなされてきた。一方で、北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であると指摘13されていること、北朝鮮は米国の核の脅威に対抗する独自の核抑止力が必要と考えており14、かつ、北朝鮮が米国および韓国に対する通常戦力における劣勢を覆すことは少なくとも短期的にはきわめて難しい状況にあること、北朝鮮がイラクやリビアでの体制崩壊は核抑止力を保有しなかったために引き起こされた事態であると主張していること15、そして核兵器は交渉における取引の対象ではないと繰り返し主張していることなどを踏まえれば、北朝鮮は体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。

イ 核兵器計画の現状

北朝鮮の核兵器計画の現状は、北朝鮮がきわめて閉鎖的な体制をとっていることもあり、その詳細について不明な点が多い。しかしながら、過去の核開発の状況が解明されていないことや、06(同18)年10月、09(同21)年5月に加え、13(同25)年2月にも核実験を行ったことなどを考えれば、核兵器計画が相当に進んでいる可能性は排除できない16

核兵器の原料となり得る核分裂性物質17であるプルトニウムについて、北朝鮮はこれまで製造・抽出を数回にわたり示唆してきたほか18、09(同21)年6月には、新たに抽出されるプルトニウムの全量を兵器化することを表明している19。北朝鮮は13(同25)年4月、07(同19)年10月の第6回六者会合で無能力化が合意された原子炉を含む、寧辺のすべての核施設を再整備、再稼働する方針を表明した。13(同25)年11月、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)は、査察が行われていないため断定はできないものの、原子炉の再稼働を示唆する複数の活動が衛星画像により観測されたとの見解を示した20。当該原子炉の再稼働は、北朝鮮によるプルトニウム製造・抽出につながりうることから、その動向が強く懸念される。

また、同じく核兵器の原料となりうる高濃縮ウランについては、米国が02(同14)年に、北朝鮮が核兵器用ウラン濃縮計画の存在を認めたと発表し、その後、北朝鮮は09(同21)年6月にウラン濃縮活動への着手を宣言した。さらに北朝鮮は10(同22)年11月に、訪朝した米国人の核専門家に対してウラン濃縮施設を公開し、その後、数千基規模の遠心分離機を備えたウラン濃縮工場の稼動に言及した。北朝鮮は、濃縮ウランは軽水炉の燃料として使用されるものであり、ウラン濃縮活動は核の平和利用にあたると主張しているが、ウラン濃縮に関する北朝鮮の一連の動きは、北朝鮮が、プルトニウムに加えて、高濃縮ウランを用いた核兵器開発を推進している可能性があることを示すものであると考えられる21

13(同25)年1月に国連安保理決議第2087号が採択されて以降、北朝鮮は、核実験の実施を示唆する声明などを発表していた。これに対し、わが国を含む国際社会は、北朝鮮に対し核実験を行わないよう強く求めてきたにもかかわらず、同年2月、北朝鮮は核実験を行った22。北朝鮮は、同核実験により、必要なデータの収集を行うなどして核兵器計画をさらに進展させた可能性が高い。

北朝鮮は、その核兵器計画の一環として、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための努力をしているものと考えられる。一般に、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化には相当の技術力が必要とされているが、米国、ソ連、英国、フランス、中国が60年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや13(同25)年2月にも核実験を行ったことなどを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できず23、関連動向に注目していく必要がある。

このように、北朝鮮による核兵器開発は、北朝鮮が大量破壊兵器の運搬手段となりうる弾道ミサイルの長射程化などの能力増強を行っていることとあわせて考えれば、わが国の安全に対する重大な脅威であり、北東アジアおよび国際社会の平和と安定を著しく害するものとして断じて容認できない。

(2)生物・化学兵器

北朝鮮の生物兵器や化学兵器の開発・保有状況については、北朝鮮の閉鎖的な体制に加え、生物・化学兵器の製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装も容易であることから、詳細については不明である。しかし、生物兵器については、87(昭和62)年に生物兵器禁止条約を批准したものの、一定の生産基盤を有しているとみられている。また、化学兵器については、化学兵器禁止条約には加入しておらず、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられている24

(3)弾道ミサイル

北朝鮮の弾道ミサイルは、北朝鮮がきわめて閉鎖的な体制をとっていることもあり、大量破壊兵器同様その詳細については不明な点が多いが、北朝鮮は、軍事能力強化の観点に加え、政治外交的観点や外貨獲得の観点25などからも、弾道ミサイル開発に高い優先度を与えていると考えられる。また、14(平成26)年3月、6月および7月にもみられたように、北朝鮮は、しばしば弾道ミサイルを発射し、わが国を含む関係国に対する軍事的挑発を行っている26

ア トクサ

北朝鮮は、射程約120kmと考えられる短距離弾道ミサイル「トクサ」の開発を行っていると考えられる27。トクサは北朝鮮が保有または開発している弾道ミサイルとしては初めて固体燃料推進方式を採用しているとみられる28

イ スカッド

北朝鮮は、80年代半ば以降、スカッドBやその射程を延長したスカッドC29を生産・配備するとともに、これらの弾道ミサイルを中東諸国などへ輸出してきたとみられている。また、現在、スカッドの胴体部分の延長や弾頭重量の軽量化などにより射程を延長したスカッドER(Extended Range)を配備しているとみられている。スカッドERの射程は1,000km30に達するとみられており、わが国の一部がその射程内に入る可能性がある。

ウ ノドン

90年代までに、北朝鮮は、ノドンなど、より長射程の弾道ミサイル開発に着手したと考えられる。すでに配備されていると考えられるノドンは、単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルであると考えられる。射程は約1,300kmに達するとみられており、わが国のほぼ全域がその射程内に入る可能性がある。

ノドンはこれまで、93(平成5)年に行われた日本海に向けての発射において使用された可能性が高いほか、06(同18)年7月に北朝鮮南東部の旗対嶺(キテリョン)地区から発射された計6発の弾道ミサイルは、スカッドおよびノドンであったと考えられる31。また、09(同21)年7月、同地区から発射されたと考えられる計7発の弾道ミサイルについては、それぞれスカッドまたはノドンであった可能性がある32。さらに、14(同26)年3月、北朝鮮はスカッドおよびノドンと推定される弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。今回の発射では、北朝鮮は過去に例の無い地点から、早朝・深夜に、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)を用いて複数の弾道ミサイルを発射しており、北朝鮮が任意の地点・タイミングで弾道ミサイルを発射できることを示すものと考えられる。また、特にノドンは北朝鮮西岸から東に向けて朝鮮半島を横断する形で発射されており、北朝鮮は弾道ミサイルの性能や信頼性に自信を深めているものと考えられる。

ノドンの性能の詳細は確認されていないが、命中精度については、この弾道ミサイルがスカッドの技術を基にしているとみられていることから、たとえば、特定の施設をピンポイントに攻撃できるような精度の高さではないと考えられる。

エ テポドン1

テポドン1は、ノドンを1段目、スカッドを2段目に利用した2段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、射程は約1,500km以上と考えられ、98(同10)年に発射された弾道ミサイルの基礎となったと考えられる。北朝鮮は、現在では、さらに長射程のミサイルの開発に力点を移していると考えられ、テポドン1はテポドン2を開発するための過渡的なものであった可能性がある。

オ ムスダン

北朝鮮は現在、新型中距離弾道ミサイル(IRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile)「ムスダン」の開発を行っているものと考えられる。ムスダンは北朝鮮が90年代初期に入手したロシア製潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)SS-N-6を改良したものであると指摘されており、スカッドやノドンと同様に発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載され移動して運用されると考えられる。また、射程については約2,500~4,000kmに達するとの指摘があり、わが国全域に加え、グアムがその射程に入る可能性がある33

なお、閉鎖的な体制のために北朝鮮の軍事活動の意図を確認することはきわめて困難であること、全土にわたって軍事関連の地下施設が存在するとみられていることに加え、TELに搭載され移動して運用されると考えられることなどから、トクサ、スカッド、ノドン、ムスダンなどのTEL搭載式ミサイルの発射については、その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難であると考えられる34

カ テポドン2

テポドン2は、1段目にノドンの技術を利用したエンジン4基を、2段目に同様のエンジン1基をそれぞれ使用していると推定されるミサイルである。射程については、2段式のものは約6,000kmとみられ、3段式である派生型については、ミサイルの弾頭重量を約1トン以下と仮定した場合、約1万km以上におよぶ可能性があると考えられる。テポドン2は、06(同18)年7月、北朝鮮北東部沿岸地域のテポドン地区から発射され、発射数十秒後に高度数kmの地点で、1段目を分離することなく空中で破損し、発射地点の近傍に墜落したと考えられる。また、北朝鮮は09(同21)年4月、「人工衛星」を打ち上げるとして、同地区からテポドン2または派生型を利用したとみられる発射を行った。この発射については、わが国の上空を飛び越えて3,000km以上飛翔し、太平洋に落下したと推定される。北朝鮮は、12(同24)年4月にも、「人工衛星」を打ち上げるとして、北朝鮮北西部沿岸地域の東倉里(トンチャンリ)地区から、テポドン2または派生型を利用したとみられる発射を行ったが、ミサイルは1分以上飛翔し、数個に分かれて黄海に落下しており、発射は失敗したと考えられる35

同年12月、北朝鮮は再び「人工衛星」を打ち上げるとして、同地区からテポドン2派生型を利用した発射を行った。この発射については、落下物がいずれも北朝鮮が事前に設定した予告落下区域に落下し、3段目の推進装置とみられるものを含む物体は軌道を変更しながら飛翔を続け、地球周回軌道に何らかの物体を投入させたことなどが推定される36。これらのことから、この発射により、北朝鮮が多段階推進装置の分離技術など弾道ミサイルの長射程化に資する技術や、姿勢・誘導制御技術など精度の向上に資する技術を進展させていることが示され、北朝鮮の弾道ミサイル開発は新たな段階に入ったと考えられる。特に長射程化に関する技術については、この発射などで検証された技術により北朝鮮が長射程の弾道ミサイルを開発した場合、いくつかの関連技術について依然明らかでない点はあるものの、その射程は米国本土の中部や西部などに到達する可能性があると考えられることから、大きく進展していると考えられる。

キ KN08

12(同24)年4月および13(同25)年7月に行われた閲兵式(軍事パレード)で登場した新型ミサイル「KN08」は、詳細は不明ながら、大陸間弾道ミサイルとみられている37。テポドン2が固定発射台から発射するのに対し、KN08はTEL搭載式であるため、発射兆候の事前の把握を困難にし、残存性を高める意図があると考えられる。

ク 弾道ミサイル開発に関する動向と見通し

北朝鮮が発射実験をほとんど行うことなく、弾道ミサイル開発を急速に進展させてきた背景として、外部からの各種の資材・技術の北朝鮮への移転の可能性が考えられる。また、弾道ミサイル本体および関連技術の移転・拡散を行い、こうした移転・拡散によって得た利益でさらにミサイル開発を進めているといった指摘38や、北朝鮮が弾道ミサイルの輸出先で試験を行い、その結果を利用しているといった指摘もある。このほか、長射程の弾道ミサイルの発射実験は、射程の短い他の弾道ミサイルの射程の延伸、弾頭重量の増加や命中精度の向上にも資するものであるため、12(同24)年12月の発射も含め、テポドン2など長射程の弾道ミサイルの発射は、ノドンなど北朝鮮が保有するその他の弾道ミサイルの性能の向上につながるものと考えられる。

北朝鮮は、「人工衛星の打上げ」を継続するとともに、より強力な運搬ロケットを開発・発射していくとの主張を続けており、今後も、長射程の弾道ミサイルの実用化に向けたさらなる技術的検証のため、「人工衛星」打上げを名目にした同様の発射を繰り返すなどして、長射程の弾道ミサイル開発を一層進展させる可能性が高い39。仮に北朝鮮がこうした弾道ミサイルの長射程化をさらに進展させ、同時に核兵器の小型化・弾頭化を実現した場合は、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る。

このように、北朝鮮の弾道ミサイル問題は、核問題ともあいまって、その能力向上の観点、移転・拡散の観点の双方から、北東アジアおよび国際社会にとって、より現実的で差し迫った問題となっており、その動向が強く懸念される。

参照図表I-1-2-2(12(平成24)年12月12日の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について)、図表I-1-2-3(北朝鮮の弾道ミサイルの射程)

図表I-1-2-2 12(平成24)年12月12日の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について

図表I-1-2-3 北朝鮮の弾道ミサイルの射程

4 内政
(1)金正恩体制の動向

北朝鮮においては、11(同23)年の金正日(キム・ジョンイル)国防委員会委員長死去後、金正恩氏が12(同24)年4月までに朝鮮人民軍最高司令官、朝鮮労働党第1書記および国防委員会第1委員長に就任して事実上の軍・党・「国家」のトップとなり、短期間で金正恩体制が整えられた。体制移行後は、党関連会議の開催や決定事項などが多く公表されており、党を中心とした「国家」運営を行っているとの指摘がある。その一方で、軍事力の重要性を強調しているほか、軍組織の視察などを多く行っていることなどから、金正恩国防委員会第1委員長は、引き続き軍事力を重視していくものと考えられる。

体制移行後、軍や内閣の高官を中心に、人事面で多くの変化がみられており、これは金正恩国防委員会第1委員長の権力基盤を強化するねらいがあるとも伝えられている。12(同24)年に引き続き13(同25)年から14(同26)年6月にかけても多くの人事異動が見られ、軍の主要3職である総政治局長が1度、総参謀長が2度、人民武力部長が2度交代している。これらの人事により、軍の主要3職は全て金正恩国防委員会第1委員長が引き上げた人物となった。

また、13(同25)年12月には、金正恩国防委員会第1委員長の叔父にあたる張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長が「国家転覆陰謀行為」を行ったとされ処刑された。金正恩国防委員会第1委員長は、後見人と見られていた張成沢国防委員会副委員長の死刑執行により、自身を唯一の指導者とする体制の強化・引き締めを図っているものとみられる40

なお、現在のところ、このような人事面での変化にともなう混乱はみられず、また、北朝鮮では様々な「国家」的行事や金正恩国防委員会第1委員長による現地指導も整斉と行われていることから、体制は一定の軌道に乗っていると考えられる。しかし、張成沢国防委員会副委員長処刑の影響などによる忠誠心競争の激化などの要因により、北朝鮮が安易に軍事的挑発行動に走る可能性も生じつつあり、不確実性が増したとも考えられる。また、貧富の差の拡大や外国からの情報の流入などにともなう社会統制の弛緩などに関する指摘もなされており、体制の安定性という点から注目される。

(2)経済事情

経済面では、社会主義計画経済のぜい弱性に加え、冷戦の終結にともなう旧ソ連や東欧諸国などとの経済協力関係の縮小の影響などもあり、北朝鮮は慢性的な経済不振、エネルギーと食糧の不足に直面している。特に、食糧事情については、引き続き海外からの食糧援助に依存せざるを得ない状況にあるとみられている41

こうした経済面での様々な困難に対し、北朝鮮ではこれまでにも、限定的な改善策や一部の経済管理システムの変更が試みられてきた42ほか、中国などとの経済協力プロジェクトも行われている。現在も、金正恩国防委員会第1委員長が経済状況改善の必要性をたびたび強調し、経済開発区の設置を発表している43ほか、工場などの生産・販売計画に関する裁量を拡大するなどの新しい経済政策を進めていると報じられるなど、北朝鮮は経済の立て直しを重要視しているとみられる。一方、北朝鮮が現在の統治体制の不安定化につながり得る構造的な改革を行う可能性は低いと考えられることから、経済の現状を根本的に改善することには、様々な困難がともなうと考えられる。

5 対外関係
(1)米国との関係

米国は、他国と緊密に協力しつつ北朝鮮の核計画廃棄に取り組む姿勢を明らかにし、六者会合を通じた核問題の解決を図ろうとしている。六者会合の再開については、米国は一貫して、北朝鮮が05(同17)年の六者会合共同声明の遵守や南北関係の改善のための具体的な措置を講じることが必要との立場を示している。

これに対し北朝鮮は、米国の北朝鮮に対する敵視政策や米朝間の信頼関係の欠如が朝鮮半島の平和と非核化を妨げているなどとして米国を非難し、信頼関係構築のため、まず米朝間における平和協定締結が必要だと主張している44。このように、以前から米朝の立場には隔たりがみられていたが、さらに13(同25)年1月の国連安保理決議第2087号採択以降、北朝鮮は、米国の敵視政策がより危険な段階に入っているとして、地域の平和と安全を保障するための対話の余地は残しつつ、世界の非核化が実現される以前の朝鮮半島の非核化は不可能であり、朝鮮半島の非核化のための対話は今後なくなるであろうと主張している。こうした両者の立場の溝は依然埋まっておらず、同年6月に北朝鮮が国防委員会報道官重大談話として米朝高官級会談の開催を提案したのに対し、米国は、具体的な行動で非核化に向かっていることを示さなければならないとの立場を崩さず、会談は実現していない。

また、北朝鮮は、米国の対北朝鮮敵視政策の現れとして、米韓連合演習などに強く反発している。同年3月から4月まで実施されていた米韓連合演習に対しては、国連安保理決議などへの反発とあいまって、朝鮮軍事休戦協定の完全白紙化、米国への核先制攻撃の示唆などの強硬な主張を繰り返した。14(同26)年2月から4月にかけて実施された米韓連合演習に際しても、対米非難を行いつつ、弾道ミサイルや多連装ロケットなどを多数発射した。さらに今後も自衛的権利としてミサイル発射や核抑止力の強化を継続するといった主張を繰り返した。

(2)韓国との関係

南北関係は、10(同22)年3月の韓国哨戒艦沈没事件45、同年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件46といった南北間の軍事的な緊張をもたらす事案が発生するなど、李明博(イ・ミョンバク)政権下では関係が悪化していた。13(同25)年2月に朴槿恵(パク・クネ)政権が発足してからも、北朝鮮は、13(同25)年1月の国連安保理決議第2087号や3月の国連安保理決議第2094号の採択、また3月から4月にかけての米韓連合演習などに反発し、南北の不可侵に関する全ての合意の全面無効化など強硬な主張を行った47。13(同25)年4月末まで行われた米韓連合演習の終了後は、北朝鮮は次第に韓国に対する挑発的言動を緩和させ、8月には事実上操業を停止していた開城(ケソン)工業団地48の再開に合意したほか、14(同26)年2月には南北離散家族再会行事が3年4か月ぶりに実施されるなど韓国との対話を行ってきたが、14(同26)年2月末から米韓連合演習が開始されると、小型無人機の韓国領空内への侵入49や、白翎島(ペンニョンド)や延坪島(ヨンピョンド)などが位置する韓国西北島嶼地域で大規模な海上射撃訓練を行うなど、軍事的挑発を行った50

一方、近年では韓国と中国が経済面のみならず政治面・外交面でも協力関係を構築する動きを見せており、そのような状況において、これまで対話と挑発を繰り返してきた北朝鮮が、今後韓国に対してどのような政策を採っていくか注目していく必要がある。

(3)中国との関係

中国との関係では、61(昭和36)年に締結された「中朝友好協力および相互援助条約」が現在も継続している51。現在、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、13(平成25)年も中国と北朝鮮の貿易総額は過去最高を更新した。なお、13(同25)年における北朝鮮の貿易総額に占める中国の割合は約80%となっており、北朝鮮による中国依存が高まっていると指摘されている。さらに、11(同23)年6月から、「羅先(ラソン)経済貿易地帯」や「黄金坪(ファングムピョン)・威化島(ウィファド)経済地帯」において、中朝共同開発および共同管理プロジェクトが推進されており、港湾施設や商業施設などの整備が進められている模様である。

北朝鮮情勢や核問題に関しては、中国は朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。また、中国は、国連安保理決議第2087号および第2094号に賛成したほか、両決議の採択を受けて、13(同25)年2月および同年4月に同決議で定められた物品の禁輸措置を徹底する通達を出した。また、同年9月には、大量破壊兵器に転用される恐れがある物資・技術の対北朝鮮禁輸リストを公表するなど、対北朝鮮制裁決議を履行する姿勢を示している。

一方で、中国は、同年6月に外交当局による中朝戦略対話を開催し、また同年7月には北朝鮮の朝鮮戦争休戦60周年行事に李源潮(り・げんちょう)国家副主席を派遣するなど、友好・協力関係を維持する姿勢もみせている。

このように、中国は北朝鮮にとってきわめて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。一方、核・弾道ミサイル問題をめぐり北朝鮮が必ずしも中国の立場と一致した行動を採らないことや、中国との経済協力において重要な役割を果たしていた張成沢国防委員会副委員長が処刑されたことなどから、北朝鮮と中国の関係や中国の北朝鮮に対する影響力については、今後とも注目していく必要がある。

(4)ロシアとの関係

ロシアとの関係は、冷戦の終結にともない疎遠になっていたが、00(同12)年には「露朝友好善隣協力条約」が署名された52。11(同23)年8月には、金正日国防委員会委員長(当時)がロシアを訪問し、9年ぶりに露朝首脳会談が行われ、ガス・パイプライン事業における協力などを進めることで合意したほか、金正恩体制への移行後の12(同24)年9月には、北朝鮮のロシアに対する債務のうち、90%を帳消しとする旨の協定に調印するなど、露朝間は友好関係を保っている。さらに、13(同25)年9月にはロシア極東沿海地方のハサンと北朝鮮北東部の羅津(ラジン)港を結ぶ鉄道が開通した。

北朝鮮の核問題については、ロシアは、中国と同様、朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。13(同25)年2月の北朝鮮による核実験実施後には、核実験を非難する声明を発表しているが、同時に、北朝鮮との正常な貿易・経済関係に影響を及ぼしかねない制裁措置には反対するとも表明している。

(5)その他の国との関係

北朝鮮は、99(同11)年以降、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試み、欧州諸国などとの国交の樹立53やARF(ASEAN Regional Forum)閣僚会合への参加などを行ってきた。また、イラン、シリア、パキスタン、ミャンマー、キューバといった国々との間では、武器取引や武器技術移転を含む軍事分野での協力関係が伝えられている。13(同25)年4月には、北朝鮮がシリアに対してガスマスクなどの輸出を図りトルコ当局に阻止され、また同年7月には、キューバから北朝鮮に向かっていた北朝鮮船籍の「清川江(チョンチョンガン)」号が、パナマ運河付近でパナマ当局によって拿捕され、MiG-21戦闘機や地対空ミサイルシステムなど、国連制裁決議違反の積荷が押収された。

1 北朝鮮はこれまで、故金日成(キム・イルソン)国家主席の生誕100周年にあたる12(平成24)年に「強盛大国」の扉を開くとしてきたが、最近では「強盛国家」との表現も用いられている。

2 朝鮮労働党機関紙「労働新聞」および朝鮮労働党機関誌「勤労者」共同論説(99(平成11)年6月16日)

3 北朝鮮では、94(平成6)年まで、毎年1月1日に金日成国家主席による「新年の辞」の演説が行われてきたが、同国家主席死去後の95(同7)年以降12(同24)年までの間は、これに代わり、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」、朝鮮人民軍機関紙「朝鮮人民軍」、金日成社会主義青年同盟機関紙「青年前衛」の3紙による「新年共同社説」が発表されていた。

4 たとえば、「横須賀、三沢、沖縄、グアムはもちろん、米本土もわれわれの射程圏内にある」(13(平成25)年3月31日付「労働新聞」)、「日本の全領土は、われわれの報復攻撃の対象となることを免れられない(その文脈で、東京、大阪、横浜、名古屋、京都の地名を列挙)」(同年4月10日付「労働新聞」)など

5 62(昭和37)年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回総会で採択された。

6 「ミリタリーバランス(2014)」によれば、北朝鮮は、ソ連製T-54やT-55といった戦車を、T-62 を基礎として独自生産した天馬(チョンマ)に更新している。また、13(平成25)年5月中旬には、射程を60kmから70kmに延長した240mm多連装ロケットの試射を行ったとされる。

7 北朝鮮の特殊部隊には軍関係のものと朝鮮労働党関係のものがあるとされていたが、09(平成21)年にこれらの組織が統合され、軍の下に「偵察総局」が設置されたと伝えられており、13(同25)年3月には、北朝鮮の朝鮮中央放送が、金英哲(キム・ヨンチョル)大将を偵察総局長として報じたことから、同組織の存在が公式に確認された。なお、サーマン在韓米軍司令官(当時)は、12(同24)年10月の米陸軍協会における講演で「北朝鮮は、世界最大の特殊部隊を保有しており、その兵力は6万人以上に上る」と述べているほか、韓国の「2012国防白書」は、「北朝鮮軍の特殊戦兵力は現在、20万人余りに達すると評価される」と指摘している。

8 サーマン在韓米軍司令官(当時)は、12(平成24)年10月の米陸軍協会における講演で、「北朝鮮は、かなり高いサイバー戦能力を保持しており、その能力を高め続けている」と述べ、北朝鮮が近年、サイバー空間における攻撃能力の増強に力を入れているとの認識を示している。北朝鮮による韓国へのサイバー攻撃事案については、I部2章5節参照

9 13(平成25)年6月、金正恩国防委員会第1委員長は、軍が行っている馬息嶺スキー場の建設を年内に無条件で終わらせることを呼び掛けるアピール文を発表し、同年12月に完成させた。また、祖国解放戦争勝利記念館、紋繍(ムンス)遊泳場(プール施設)や銀河(ウナ)科学者通り(高級住宅地区)などの建設にも軍人を動員している。

10 06(平成18)年10月27日、わが国が収集した情報とその分析ならびに米国や韓国の分析などをわが国独自で慎重に検討・分析した結果、政府として、北朝鮮が核実験を行った蓋然性がきわめて高いものと判断するに至った。

11 08(平成20)年6月、北朝鮮は核計画の申告を提出したが、14(同26)年6月現在、検証の具体的な枠組みに関する合意は得られていない。

12 政府としては、09(平成21)年5月25日に北朝鮮が朝鮮中央通信を通じて地下核実験を実施し成功させた旨を公表したことおよび気象庁が通常の波形とは異なる北朝鮮の核実験による可能性のある地震波を探知したことから、北朝鮮が同日に核実験を行ったものと考えている。

13 14(平成26)年3月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する報告」

14 たとえば、14(平成26)年3月14日に発表された朝鮮民主主義人民共和国国防委員会声明では、米国が北朝鮮に対して核の威嚇と恐喝を行っており、北朝鮮は国と民族の自主権を守護するためにやむを得ず核抑止力を持つことになったと主張している。

15 たとえば、13(平成25)年12月2日付の「労働新聞」論評は、「イラク・リビア事態は、米国の核先制攻撃の脅威を恒常的に受けている国が強力な戦争抑止力を持たなければ、米国の国家テロの犠牲、被害者になるしかないという深刻な教訓を与えている」と主張している。

16 12(平成24)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「(06年と09年の実験は)北朝鮮が核兵器を製造したとのわれわれの評価を補強するものである」と指摘している。

17 プルトニウムは、原子炉でウランに中性子を照射することで人工的に作り出され、その後、再処理施設において使用済の燃料から抽出し、核兵器の原料として使用される。一方、ウランを核兵器に使用する場合は、自然界に存在する天然ウランから核分裂を起こしやすいウラン235を抽出する作業(濃縮)が必要となり、一般的に、数千の遠心分離機を連結した大規模な濃縮施設を用いてウラン235の濃度を兵器級(90%以上)に高める作業が行われる。

18 北朝鮮は03(平成15)年10月に、プルトニウムが含まれる8,000本の使用済み燃料棒の再処理を完了したことを、05(同17)年5月には、新たに8,000本の使用済み燃料棒の抜き取りを完了したことをそれぞれ発表している。

19 シャープ在韓米軍司令官(当時)は、11(平成23)年4月の下院軍事委員会で「いくつかの核兵器に十分な量のプルトニウムを保有していると評価している」と証言している。また、韓国の「2012国防白書」は、北朝鮮が40kg余りのプルトニウムを保有していると推定している。

20 14(平成26)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、北朝鮮は「ウラン濃縮施設を拡張し、以前プルトニウム製造に使用していた原子炉を再稼働させ、自身が表明したことを実行した」と指摘。また、原子炉が再稼働すれば、1年あたり核爆弾約1個を製造できる量のプルトニウム(約6kg)を製造できる能力を有することになるとの指摘がある。

21 12(平成24)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮の(ウラン濃縮施設の)公開は、北朝鮮がこれまでウラン濃縮能力を追求してきたとの米国の長年にわたる評価を裏付けるものである」と指摘している。また、韓国の「2012国防白書」においては、「2009年4月の外務省報道官の「ウラン濃縮」についての言及や2010年11月のウラン濃縮施設の公開などを考慮すると、北朝鮮は高濃縮ウラン(HEU:Highly Enriched Uranium)プログラムを行っていると評価される」との指摘がなされている。

22 13(平成25)年2月12日午前11時59分頃、北朝鮮付近を震源とする、通常の波形とは異なる自然地震ではない可能性のある地震波を気象庁が観測し、また、同日、朝鮮中央通信を通じ北朝鮮が核実験を実施し成功させた旨公表があった。これらを踏まえ、政府において、米国や韓国などと連絡を取りつつ、事実関係の確認を行った。政府としては、以上の諸情報を総合的に勘案した結果、北朝鮮が核実験を実施したものと判断した。なお、北朝鮮は、「第3回地下核実験を成功裏に行った」「以前とは異なり、爆発力が大きいながらも小型化・軽量化された原子爆弾を使用し、高い水準で安全かつ完璧に行われた」「多種化されたわれわれの核抑止力の優秀な性能が物理的に誇示された」などと発表している。

23 10(平成22)年2月に米国防省が公表した「弾道ミサイル防衛見直し」(BMDR:Ballistic Missile Defense Review)は、「われわれは、北朝鮮が安全保障戦略を今後10年間変更しない場合、北朝鮮が立証された運搬システムに核弾頭を搭載することが可能となるということを想定しなくてはならない」と指摘している。

24 たとえば、韓国の「2012国防白書」は、「(北朝鮮は)1980年代から化学兵器を生産し始め、約2,500~5,000トンの様々な化学兵器を全国に分散した施設に貯蔵していると推定される。また、北朝鮮は炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペスト、コレラ、出血熱など様々な種類の生物兵器を独自に培養し、生産しうる能力を保有していると推定される」と指摘している。また、13(平成25)年5月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する報告」は、「北朝鮮は、火砲や弾道ミサイルを含む様々な通常兵器を改良することにより、化学兵器を使用できる可能性がある」と指摘している。

25 北朝鮮は自ら、「外貨稼ぎを目的」に弾道ミサイルを輸出していると認めている。(98(平成10)年6月16日「朝鮮中央通信」論評、02(同14)年12月13日北朝鮮外務省報道官談話)

26 北朝鮮は14(平成26)年3月3日午前6時20分頃および午前6時30分頃、朝鮮半島東岸の元山(ウォンサン)付近から、スカッドと推定される弾道ミサイルを2発、東北東に向けて発射した。いずれも約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。また、同月26日午前2時30分頃から午前2時40分頃にかけて、朝鮮半島西岸の粛川(スクチョン)付近から、ノドンと推定される弾道ミサイルを2発、東方に向けて発射した。いずれも約650km飛翔し日本海上に落下したものと推定される。さらに、北朝鮮は同年6月29日午前5時頃、朝鮮半島東岸の元山(ウォンサン)付近から、弾道ミサイルを複数発、東方に向けて発射した。発射された弾道ミサイルは最大で約500km飛翔し、いずれも日本海上に落下したものと推定される。加えて、北朝鮮は同年7月9日午前4時頃から4時20分頃にかけて、北朝鮮南西部(平壌の南方約100km)から、弾道ミサイルを複数発、北東に向けて発射した。発射された弾道ミサイルは最大で約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。

27 ベル在韓米軍司令官(当時)は、07(平成19)年3月の下院軍事委員会で「北朝鮮は、新型で固体燃料推進方式の短距離弾道ミサイルを開発中である。最近では、06(同18)年3月、このミサイルを成功裏に試験発射した。一旦運用可能な状態になれば、このミサイルは現行のシステムに比し、より機動的かつ急速展開が可能で、一層短い準備期間での発射が可能となるだろう」と証言した。

28 一般的に、固体燃料推進方式のミサイルは、固体状の推進薬が前もって充填されており、液体燃料推進方式に比べ、即時発射が可能であり発射の兆候が事前に察知されにくく、かつ、保管や取扱いも比較的容易であることなどから、軍事的に優れているとされる。

29 スカッドBおよびスカッドCの射程は、それぞれ約300km、約500kmとみられている。

30 14(平成26)年3月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する報告」

31 北朝鮮が06(平成18)年7月に発射した計7発の弾道ミサイルのうち、3発目については北朝鮮北東部沿岸地域のテポドン地区から発射されたテポドン2であったと考えられる。その他のスカッドおよびノドンの発射については、たとえば、夜明け前から発射を開始したこと、短時間のうちに異なる種類の弾道ミサイルを連続して発射したと考えられること、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)を運用して発射したと考えられること、射程の異なる弾道ミサイルを一定の範囲に着弾させたと考えられることなど、より実戦的な特徴を有しており、北朝鮮が弾道ミサイル運用能力を向上させてきたことがうかがえる。

32 発射された計7発の弾道ミサイルは、いずれも09(平成21)年6月22日に北朝鮮より連絡を受け、海上保安庁が航行警報を発出した軍事射撃訓練区域内に落下したのではないかと推測される。

33 シャープ在韓米軍司令官(当時)は、09(平成21)年3月の上院軍事委員会で「北朝鮮は現在、沖縄やグアム、アラスカを攻撃することが可能な新型の中距離弾道ミサイルを配備しつつある」と証言した。また、韓国の「2012国防白書」は、「北朝鮮は、2007年に射程3,000km以上のムスダンミサイルを作戦配備したことにより、朝鮮半島を含む日本やグアムなどの周辺国に対する直接的な打撃能力を保有することになった」旨指摘している。

34 14(平成26)年3月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する報告」によれば、トクサおよびスカッド用のTELは合計して最大100両、ノドン用のTELは最大50両、IRBM(ムスダンを指すと考えられる)用のTELは最大50両を保有しているとされる。また、「IHS Jane’s Sentinel Country Risk Assessments China and Northeast Asia (2012)」によれば、北朝鮮はスカッドを約600基、ノドンを約200基、その他の中・長距離ミサイルを約50から150基保有しているとみられている。

35 北朝鮮は発射後、「地球観測衛星の軌道進入は成功しなかった」と発表し、発射が失敗したことを認めている。

36 地球周回軌道に投入されたと推定される何らかの物体が、何らかの通信や、地上との信号の送受信を行っていることは確認されておらず、当該物体が人工衛星としての機能を果たしているとは考えられない。

37 14(平成26)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮は移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)KN08を2度公開した。このミサイルは未だ試験はなされていないものの、北朝鮮はこのミサイルシステムの配備に向けた初期段階の措置を既に取った」と評価している。

38 たとえば、ノドンと、イランのシャハーブ3やパキスタンのガウリの形状には類似点が見受けられ、ノドン本体ないし関連技術の移転などが行われた可能性が指摘されている。また、北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散活動について、14(平成26)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮が弾道ミサイルや関連物資をイランやシリアを含む複数の国家に輸出していることや、(07(同19)年に破壊された)シリアにおける原子炉の建設を援助したことは、北朝鮮の拡散活動の範囲を示すものである」と指摘している。また、13(同25)年5月に米国防省が公表した「朝鮮民主主義人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する報告」は、北朝鮮が国連安保理決議に基づく各国の取組を迂回するため、複数のダミー企業などを介した輸送などのさまざまな手法を利用している旨指摘している。

39 今後、北朝鮮は、長射程弾道ミサイルの信頼性向上、より高高度から高速で大気圏に再突入する弾頭を高熱から保護する技術、精密誘導技術、発射施設を地下化・サイロ化するといった抗たん化技術などの追求を図っていく可能性がある。

40 14(平成26)年1月10日付「労働新聞」社説では「一心団結を損なう些細な現象や要素に対しても警戒心を持つ」ことを求めるなど、北朝鮮メディアは「唯一的領導体系」の強化や「一心団結」を繰り返し呼び掛けている。

41 13(平成25)年11月、国連世界食糧計画(WFP:The United Nations World Food Programme)および国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)は、13(同25)年11月から14(同26)年10月までの主食の食糧総生産量を598万トンと予想し、穀物の輸入必要量を34万トンと推定している。

42 たとえば、09(平成21)年末にはいわゆるデノミネーション(貨幣の呼称単位切下げ)などが行われたが、物資の供給不足などのため物価が高騰するなど経済が混乱し、これにともない社会不安が増大したとの指摘がある。

43 13(平成25)年3月31日の党中央委員会総会において金正恩国防委員会第1委員長は、各道に経済開発区を設置するよう指示し、これに基づき同年5月には経済開発区法が制定された。また、同年11月には、1か所の特殊経済地帯と13か所の経済開発区の設置が発表された。

44 たとえば、13(平成25)年7月2日の第20回東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会合で、北朝鮮の朴宜春(パク・ウィチュン)外相は、「米国の敵視政策の清算は、わが共和国に対する自主権尊重に基づいて米朝間の平和協定を締結し、各種の反共和国制裁と軍事的挑発を終えるところからまず始めるべきである」と演説している。

45 10(平成22)年3月26日、韓国海軍の哨戒艦「天安(チョナン)」が北方限界線(NLL:Northern Limit Line)付近の黄海において沈没し、同年5月、米国、オーストラリア、英国、スウェーデンの専門家を含む軍民の合同調査団は、同艦は北朝鮮の小型潜水艦艇から発射された魚雷による水中爆発によって発生した衝撃波とバブル効果により切断され沈没したとの調査結果を発表した。

46 10(平成22)年11月23日、北朝鮮は、韓国軍が黄海に面する延坪島沖において射撃訓練を行っているさなか、延坪島に向けて砲撃を行い、韓国側に民間人を含む死傷者が発生した。

47 13(平成25)年1月には、北朝鮮の祖国平和統一委員会が、韓国に対し、「国連の制裁に積極的に加担する場合、強力な物理的対応措置がとられるだろう」との声明を発表したほか、同年2月には、労働新聞が、「(核実験への対抗措置として韓国が制裁を強化すれば)無慈悲な報復を引き起こす」との論説を発表している。

48 13(平成25)年4月、北朝鮮は、南北経済協力事業として04(同16)年に操業を開始した開城(ケソン)工業団地(韓国との軍事境界線に近い北朝鮮南西部の開城市に立地。多数の韓国企業が、北朝鮮労働者を雇用して操業)について、韓国人関係者の立入りを禁止し、その後、北朝鮮労働者を全て撤収させ、事業を暫定的に中断すると発表。13(同25)年5月には韓国側関係者も全て団地から撤収していた。

49 14(平成26)年3月24日、同月31日および4月6日に、それぞれ坡州(パジュ)、白翎島(ペンニョンド)および三陟(サムチョク)で墜落した無人機が発見された。同年5月、韓国国防部は、科学的調査の結果これらの無人機は北朝鮮から飛来したものと確認し、休戦協定と南北不可侵合意に違反する明白な軍事的挑発であるとの立場を発表した。一方、北朝鮮側は、韓国側が事件をねつ造していると批判し、韓国と北朝鮮による共同調査を通じて事実を解明すべきと主張している。

50 韓国国防部の発表によれば、14(平成26)年3月31日、北朝鮮は多連装ロケットなどにより約500発の砲撃を行い、そのうち約100発が北方限界線(NLL:Northern Limit Line)以南の韓国側水域に着弾した。韓国政府は、白翎島等の付近住民に避難命令を発令するとともに、約300発の対応射撃を実施した。韓国側に被害は報じられていない。

51 締約国(中国、北朝鮮)の一方が軍事攻撃を受け、戦争状態に陥った際には、他方の締約国は、直ちに全力をあげて軍事およびその他の支援を与える旨の規定が含まれている。

52 締約国(ロシア、北朝鮮)の一方に対する軍事攻撃の際には、他方の締約国は、直ちにその保有するすべての手段をもって軍事的またはその他の援助を与える旨の従前の条約(ソ朝友好協力および相互援助条約)に存在した規定がなくなった。

53 たとえば、英国は00(平成12)年、ドイツは01(同13)年にそれぞれ北朝鮮と国交を樹立した。