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<解説>北極海をめぐる安全保障上の動向について

北極圏とは北緯66度33分以北の地域であり、その大部分を北極海が占めている。北極圏には、北極海に面したロシア、米国、カナダ、デンマーク、ノルウェーのほか、北極海に面していないフィンランド、スウェーデンおよびアイスランドを加えた計8か国が所在している。なお、96(平成8)年には、北極海にかかる共通の課題(持続可能な開発、環境保護など)に関し、先住民社会などの関与を得つつ、北極圏諸国の協力、調和、交流を促進することを目的に北極評議会が設立されている。

近年、豊富な資源の存在や、海氷の減少にともない、欧州とアジアとの間の航路の短縮、国際紛争や海賊被害などの危険がある海域の回避といった北極海航路の有用性に対する認識が高まっていることから、北極海沿岸諸国は、資源開発や航路利用などの権益確保に向けた動きを活発化させている。一方、国連海洋法条約に基づく海洋境界の画定や大陸棚の延長について沿岸諸国間にはそれぞれの主張があり、ロシアをはじめとした沿岸諸国の一部は、自国の権益確保や領域の防衛を目的に、軍事力の新たな配置などを進める動きもあるとみられている。また、北極圏は、従来から、戦略核戦力の展開および通過ルートであることに加えて、海氷の減少により、海上艦艇の航行が可能な期間および海域が拡大しており、将来的には、海上戦力の展開や、軍の海上輸送力などを用いた軍事力の機動展開に使用されることが考えられ、その戦略的重要性が高まっている。

ロシアは、諸政策文書の中で北極圏を戦略的に重視する姿勢を明確にするとともに、沿岸諸国で最大の排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)を有していること、この水域内の潜在的な資源の豊かさ、ロシア沿岸に位置する北極海航路の有用性とロシア本土への影響、北洋艦隊に代表される、他の沿岸諸国に比べて有力な軍事力の配備による軍事的優位性を背景に、沿岸諸国の中で最も活発な動きを見せている。ロシアは07(同19)年に、92(同4)年以降中止していた長距離爆撃機による北極圏での哨戒飛行を再開するとともに、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)によるパトロールの再開についても公表している。12(同24)年9月には、北洋艦隊に所属するミサイル巡洋艦がロシアの水上艦艇として初めて北極圏のラプテフ海に展開した。また、13(同25)年9月にも北洋艦隊の艦艇群が北極海東部に進出し、ノヴォシビルスク諸島コテリヌイ島のテンプ飛行場の再開のための資材を輸送し、同飛行場は13(同25)年10月に運用を再開している。さらに、14(同26)年には、海軍航空部隊が北極海航路上の哨戒飛行を強化している。

北極海沿岸諸国以外では、日本および中国を含む12か国が北極評議会のオブザーバー資格を有している。中でも中国は、科学調査船「雪龍」を北極海に派遣し調査活動を実施するなど、北極圏に積極的に関与する姿勢を見せている。

北極海をめぐる安全保障上の動向についての図