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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチなど

2 力による一方的な現状変更やその試みへの対応など

1 わが国周辺における常時継続的な情報収集・警戒監視
(1)基本的考え方

わが国は、東西南北、それぞれ約3,000kmに及ぶ領域を有しており、領海(内水を含む。)と排他的経済水域(EEZ)を合わせると世界第6位13の面積となる広大な海域と、広範囲にわたって多くの島嶼を有している。防衛省・自衛隊は、各種事態に迅速かつ切れ目なく対応するため、平素から領海・領空とその周辺の海空域において情報収集や警戒監視を行っている。

(2)防衛省・自衛隊の対応

防衛省・自衛隊は、わが国の領海・領空とその周辺の海空域において、全国各所の空自のレーダーサイトや早期警戒管制機、海自の哨戒機などにより、平素から24時間態勢で情報収集・警戒監視を行っている。また、主要な海峡などでは、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所などが同様に警戒監視を行っている14。自衛隊は、これらの情報収集・警戒監視態勢に加え、必要に応じ、艦艇や航空機などを柔軟に運用し、各種事態に即応できる態勢を維持している。

空自では、2022年に空自三沢基地(青森県)に新編した偵察航空隊が、常時継続的な監視を強化するため、滞空型無人機RQ-4B(グローバルホーク)を運用している。

また、海自は、洋上監視能力の強化のため、2024年11月、滞空型無人機MQ-9B(シーガーディアン)の導入を決定した。

海自が導入を決定した滞空型無人機MQ-9B(シーガーディアン)(写真は同型機)

海自が導入を決定した滞空型無人機MQ-9B(シーガーディアン)(写真は同型機)

近年、尖閣諸島(沖縄県)周辺海域では、中国軍艦艇が活動を活発化させるとともに、中国海警船がわが国の領海への侵入を繰り返している。また、中国軍艦艇が領海や領海に近接した海域を航行する例や、わが国周辺海域での中国軍空母の活動も続いている。2024年8月、中国軍艦艇が口永良部島(くちのえらぶじま)(鹿児島県)南西のわが国の領海内を航行したほか、同年9月には、中国軍空母「遼寧(りょうねい)」が、沖縄県の与那国島(よなぐにじま)と西表島(いりおもてじま)の間のわが国の領海に近接した海域を航行した。中国軍空母が与那国島と西表島の間の海域を航行したのは初めてである。さらに、わが国の周辺海域においては、中国軍艦艇とロシア軍艦艇の共同航行も確認していることから、防衛省・自衛隊は、高い緊張感を持ってわが国周辺の海空域の警戒監視などにあたっている。

与那国島と西表島の間を航行する中国軍空母「遼寧」(2024年9月)

与那国島と西表島の間を航行する中国軍空母「遼寧」(2024年9月)

なお、防衛省・自衛隊は、警戒監視により得られた情報を、海上保安庁を含む関係省庁に共有している。

参照図表III-1-1-3(わが国周辺海域での警戒監視(イメージ))、3節5項(平素からの常時継続的な情報収集・警戒監視など)資料13(中国海警局に所属する船舶などの尖閣諸島周辺における活動状況)

図表III-1-1-3 わが国周辺海空域での警戒監視(イメージ)

動画アイコンQRコード資料:令和6年度 外国海軍艦艇等の動向
URL:https://www.mod.go.jp/js/activity/domestic/keikai2024.html

2 領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)
(1)基本的考え方

領空を侵犯した外国の航空機などに対して、警告や必要と認める場合の武器の使用に至るまでの、対領空侵犯措置を行う能力を有するのは自衛隊のみであり、防衛省・自衛隊では、空自が第一義的に対領空侵犯措置を行っている。

参照II部5章3項6(領空侵犯に対する措置)

(2)防衛省・自衛隊の対応

空自は、わが国周辺を飛行する航空機を警戒管制レーダーや早期警戒管制機などにより探知・識別し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、戦闘機などを緊急発進(スクランブル)させ、その航空機の状況を確認し、必要に応じてその行動を監視している。さらに、この航空機が実際に領空を侵犯した場合には、無線などにより退去の警告などを行っている。

緊急発進(スクランブル)に対応する空自戦闘機

緊急発進(スクランブル)に対応する空自戦闘機

2024年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は704回(中国機に対し464回、ロシア機に対し237回、その他3回)であった。

近年、中国機の飛行形態は多様化し、その活動範囲は東シナ海のみならず、太平洋や日本海の上空にも拡大している。

また、2019年以降、中露両軍の爆撃機などによるわが国周辺での長距離にわたる共同飛行が計8回確認されている。2024年11月には、2日間にわたり、日本海、東シナ海、太平洋上において中露両軍の爆撃機による長距離にわたる共同飛行を確認した。

このように、中国機とロシア機はわが国周辺で活発に活動を継続していることから、防衛省・自衛隊はその動向を注視しつつ、対領空侵犯措置に万全を期していく。

(3)中国機とロシア機による領空侵犯

2024年8月26日、中国軍のY-9情報収集機1機が男女群島(長崎県)沖の領空を侵犯した。また、同年9月23日、ロシア軍のIL-38哨戒機1機が3度にわたり礼文島(北海道)北方の領空を侵犯した。さらに、2025年5月3日、尖閣諸島(沖縄県)周辺のわが国領海に侵入した中国海警船から発艦したヘリコプター1機が同諸島周辺の領空を侵犯した。いずれも空自は戦闘機を緊急発進させ対応するとともに、ロシア機による領空侵犯に対しては、対領空侵犯措置では初めてフレア15による警告を行った。

フレアを散布する空自戦闘機(イメージ)

フレアを散布する空自戦闘機(イメージ)

これらの領空侵犯は、わが国の主権の重大な侵害であるだけでなく、国民の安全を脅かすものであり、全く受け入れることはできない。わが国政府は、中国政府とロシア政府に対し、極めて厳重に抗議し、再発防止を強く求めた。

参照図表III-1-1-4(冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳)、図表III-1-1-5(緊急発進の対象となったロシア機と中国機の飛行パターン例(2024年度))、図表III-1-1-6(わが国と周辺国・地域の防空識別圏(ADIZ)(イメージ))、図表III-1-1-7(中国機の領空侵犯における行動概要(Y-9情報収集機)(2024年8月26日))、図表III-1-1-8(ロシア機の領空侵犯における行動概要(IL-38哨戒機)(2024年9月23日))、I部3章2節2項6(2)(わが国周辺海空域における軍の動向)I部3章5節5項3(中国との関係)

図表III-1-1-4 冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳

図表III-1-1-5 緊急発進の対象となったロシア機と中国機の飛行パターン例(2024年度)

図表III-1-1-6 わが国と周辺国・地域の防空識別圏(ADIZ)(イメージ)

図表III-1-1-7 中国機の領空侵犯における行動概要(Y-9情報収集機)(2024年8月26日)

図表III-1-1-8 ロシア機の領空侵犯における行動概要(IL-38哨戒機)(2024年9月23日)

動画アイコンQRコード動画:UNIT-1 航空警戒管制
URL:https://www.youtube.com/watch?v=DKd7UEU73rM

動画アイコンQRコード資料:2024年度 年度緊急発進状況
URL:https://www.mod.go.jp/js/activity/domestic/Scramble2024.html

3 領海や内水内を潜水航行する潜水艦への対応など
(1)基本的考え方

わが国の領水内16で潜水航行する外国潜水艦に対しては、海上警備行動を発令して対処する。このような潜水艦に対しては、国際法に基づき、海面上を航行し、かつ、その旗17を掲げるよう要求し、これに応じない場合にはわが国の領海外への退去を要求する。

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、哨戒機や艦艇などによりわが国周辺海域の警戒監視を行っており、わが国の領水内を潜水航行する外国潜水艦を探知した場合は、識別・追尾し、国際法に違反する潜水航行を認めないとの意思を示す能力や水深が浅い海域においても対処できる能力の維持・向上を図っている。

2004年、先島(さきしま)諸島(沖縄県)周辺のわが国の領海内を潜水航行する中国原子力潜水艦に対し、海上警備行動を発令し、海自艦艇などが、潜水艦が公海上に至るまで継続して追尾した。また、2018年、尖閣諸島周辺のわが国の接続水域において、中国潜水艦による潜水航行が初確認された。さらに、2021年には、中国国籍と推定される潜水艦が、奄美大島(鹿児島県)周辺のわが国の接続水域内を潜水航行しているのを確認し、海自護衛艦と哨戒機が警戒監視を行った。防衛省・自衛隊は、わが国の領水内を潜水航行する外国潜水艦に対応するため、警戒監視態勢を維持するとともに対処能力を向上させていく。

4 武装工作船などへの対処
(1)基本的考え方

武装工作船と疑われる船(不審船)には、海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁が対処できない、または対処が著しく困難となる場合には、海上警備行動により、自衛隊が海上保安庁と連携しつつ対処することになる。

(2)防衛省・自衛隊の対応

防衛省・自衛隊は、1999年の能登半島(石川県)沖での不審船事案や2001年の九州南西海域での不審船事案のなどの教訓を踏まえ、様々な取組を行っている。海自は、特別警備隊18の編成や護衛艦などへの機関銃の装備などを行ったほか、1999年に防衛庁(当時)と海上保安庁が策定した「不審船に係る共同対処マニュアル」に基づき、海上保安庁と定期的に共同訓練を行うなど、連携の強化を図っている。

5 認知領域を含む情報戦への対応
(1)基本的考え方

近年、国際社会においては、偽(にせ)情報の流布や、政府の信頼低下や社会の分断を狙った情報の拡散などにより、人の認知に働きかけ、世論や政府の意思決定に影響を及ぼす情報戦への懸念が高まっている。ロシアや中国などの情報戦を行う国は、自身にとって好ましい情報を発信することで、自らに有利な安全保障環境を構築することを目指しているとみられる。わが国は、偽情報などの拡散など認知領域を含む情報戦への対応能力を強化することとしている。

(2)防衛省・自衛隊の対応

防衛省・自衛隊は、認知領域を含む情報戦に対して平素から、①情報機能を強化することで、多様な情報収集能力を獲得しつつ、②諸外国による偽情報の流布を始めとしたあらゆる脅威に関して、その真偽や意図などを見極め、様々な手段で無力化などの対処を行うとともに、③同盟国・同志国などとの連携のもと、あらゆる機会を捉え、適切な情報を迅速かつ戦略的に発信する、といった手段を通じて、わが国の意思決定への影響を防ぎつつ、望ましい安全保障環境を構築していく。

なお、わが国の信頼を損なうような取組(SNS(Social Networking Service)などによる偽情報の流布、世論操作、謀略など)は行わない。

防衛省・自衛隊においては、情報戦対応の中心的役割を情報本部が担うこととし、様々な情報を継続的に収集・分析するとともに、情報の真偽を見極め、適切な情報を発信するなど、必要な措置を講じている。

6 「瀬取り」への対応
(1)基本的考え方

2017年に国連安保理決議第2375号が採択され、国連加盟国は、北朝鮮籍船舶による洋上での物資の積替え(いわゆる「瀬取り」)に関与することが禁止された。これは、「瀬取り」により、北朝鮮が国連安保理決議に基づく制裁を逃れて密輸することを防ぐ狙いがある。

わが国は、北朝鮮による完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法による、全ての大量破壊兵器と弾道ミサイルの廃棄の実現に向け、米国や韓国のみならず、国際社会と密接に連携しながら「瀬取り」に対応し、国連安保理決議の実効性を確保していくこととしている。

動画アイコンQRコード資料:わが国における国連安保理決議の実効性の確保のための取組
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/sedori/index.html

(2)防衛省・自衛隊の対応

防衛省・自衛隊においては、わが国周辺海域における平素からの警戒監視活動の一環として、海自が、国連安保理決議違反が疑われる船舶の情報収集を行っており、関係省庁、関係国および関係国際機関と緊密に協力している。その結果、北朝鮮籍タンカーと外国籍タンカーなどが東シナ海の公海上で接舷(せつげん)(横付け)している様子を、2018年以降、2025年3月末までの間に計24回確認した。これらの船舶は、国連安保理決議で禁止されている「瀬取り」を行っていたことが強く疑われるとの認識に至ったため、わが国として、関係国への情報提供や対外公表を行っている。

北朝鮮籍船舶による「瀬取り」を含む違法な海上活動に対しては、近年、国際的な関心が高まってきており、2018年以降、米国や韓国を始め、オーストラリア、カナダ、英国、ニュージーランド、フランス、ドイツ、オランダ、イタリアが、わが国周辺海域に艦艇や航空機を派遣し、警戒監視活動を行っている。防衛省・自衛隊は、引き続き関係国と緊密に協力し、国連安保理決議の実効性を確保していく。

7 シーレーンの安定的利用を確保するための取組
(1)海賊対処の取組

ア 海賊対処の意義と国際社会の取組

海賊行為は、海上における公共の安全と秩序の維持に対する重大な脅威である。特に、海洋国家として国家の生存と繁栄の基盤である資源や食料の多くを海上輸送に依存しているわが国にとっては、看過できない問題である。

わが国は、海賊行為に対し、第一義的には警察機関である海上保安庁が対処し、海上保安庁では対処できない、または著しく困難と認められる場合には、自衛隊が対処することとしている。

この点、後述のソマリア沖・アデン湾における海賊行為については、海上保安庁が対処することが困難であることから、自衛隊の部隊を派遣し、海賊対処を行ってきている。

ソマリア沖・アデン湾は、わが国を含む国際社会にとって、欧州や中東から東アジアを結ぶ極めて重要な海上交通路(シーレーン)である。同海域においては、人質の抑留による身代金獲得などを目的に、機関銃やロケット・ランチャーなどで武装した海賊事案が多発したことから、2008年に国連安保理決議第1816号が採択された。以後、追加で採択された関連決議により、各国は同海域における海賊行為を抑止するための行動、特に軍艦や軍用機の派遣を要請されたことを踏まえ、これまでに、わが国や米国を含む約30か国がソマリア沖・アデン湾に軍艦などを派遣している。

海賊対処のための国際的な取組としては、多国籍部隊の第151連合任務群が、同じく海賊対処を担うEU海上部隊(EUNAVFOR:European Union Naval Force)と連携し、作戦地域の沿岸国の領域外において海賊対処にあたっている。

こうした国際社会の取組により、ソマリア沖・アデン湾における海賊事案の発生件数は低い水準で推移している。しかし、2023年には1件、2024年には8件の事案(ハイジャックを含む。)が発生し、海賊の活動は再び活発化の様相を見せていることに加え、海賊を生み出す根本的な原因とされているソマリア国内の不安定な治安や貧困などはいまだ解決されておらず、海賊行為に対処しなければならない状況に依然として変化がみられないこと、また、ソマリア自身の海賊取締能力もいまだ不十分であることから、わが国としても、極めて重要なシーレーンであるソマリア沖・アデン湾における航行の安全確保に万全を期すとともに、国際社会の平和と安定に貢献するため、引き続き諸外国の部隊を含む国際社会と連携して海賊対処行動を確実に行っていく必要がある。

参照図表III-1-1-9(ソマリア沖・アデン湾およびその周辺における海賊等事案の発生状況(未遂を含む。))、I部4章5節2項2(海賊)

図表III-1-1-9 ソマリア沖・アデン湾およびその周辺における海賊等事案の発生状況(未遂を含む。)

イ わが国の取組

2009年、ソマリア沖・アデン湾においてわが国の関係船舶を海賊行為から防護するために海上警備行動が発令され、護衛艦19とP-3C哨戒機20を派遣して直接護衛などを開始した。さらに、同年、海賊対処法21が施行され、全ての国の船舶を海賊行為から防護できるようになったほか、民間船舶に接近するなどの海賊行為を行っている船舶の進行を停止するため、他の手段がない場合、合理的に必要な限度において武器の使用が可能となった。

防衛省・自衛隊は、海賊対処部隊として派遣海賊対処行動水上部隊、派遣海賊対処行動航空隊、派遣海賊対処行動支援隊を派遣し、現地において活動している。

派遣海賊対処行動水上部隊は、護衛艦により、アデン湾を往復しながら民間船舶を直接護衛するエスコート方式と、状況に応じて割り当てられたアデン湾内の特定の区域で警戒にあたるゾーンディフェンス方式により、航行する船舶の安全確保に努めている。護衛艦には海上保安官も同乗22している。

アデン湾において船舶を護衛する海自護衛艦(奥)

アデン湾において船舶を護衛する海自護衛艦(奥)

派遣海賊対処行動航空隊は、P-3C哨戒機により、第151連合任務群司令部との調整で決定した飛行区域において警戒監視を行っている。不審な船舶を確認した際は、海自護衛艦や他国艦艇、民間船舶に情報を提供し、求めがあればただちに周囲の安全を確認するなどの対応をとっている。また、収集した情報は、常時、関係機関などと共有され、海賊行為の抑止や海賊船と疑われる船舶の武装解除といった成果に大きく寄与している。

派遣海賊対処行動支援隊は、派遣海賊対処行動航空隊を効率的かつ効果的に運用するために整備された、ジブチ共和国における自衛隊の活動拠点(ジブチ国際空港北西地区)において、警備や拠点の維持管理などを行っている。

また、これらの部隊を支援するため、必要に応じ空輸隊などを組織し、空自の輸送機により物資などを輸送している。

なお、海賊対処のために運営されているジブチの自衛隊活動拠点については、国家安全保障戦略などにおいて、ジブチ政府の理解を得つつ、在外邦人等の保護にあたっても活用していくこととされた。2023年には、「中東・アフリカ地域における在外邦人等の安全確保等に関する政府の取組について」が閣議決定され、現地の海賊対処部隊には、装備品などの集積・管理など、在外邦人等の保護措置および輸送の可能性を見据えた臨時の態勢整備の任務が新たに追加された。

参照II部5章3項3(海賊対処行動)3節8項(在外邦人等の保護措置および輸送への対応)資料10(自衛隊の主な行動の要件(国会承認含む)と武器使用権限など)

動画アイコンQRコード資料:海賊対処への取組
URL:https://www.mod.go.jp/js/activity/overseas.html

動画アイコンQRコード動画:海賊から船舶を守れ
URL:https://www.youtube.com/watch?v=9-VlPG_jsMc

動画アイコンQRコード動画:ソマリア沖・アデン湾における海賊対処活動
URL:https://www.youtube.com/watch?v=0GvdTkufJwU&feature=youtu.be

ウ 活動実績とわが国の取組に対する評価

海賊対処を行う各国部隊との連携強化や自衛隊の海賊対処行動の実効性向上を図るため、2014年以降、防衛省・自衛隊は、第151連合任務群と連合海上部隊の各司令部に司令部要員を派遣している。このうち、第151連合任務群には、これまでに4度(2015年、2017年、2018年、2020年)、自衛隊から司令官を派遣した。

派遣海賊対処行動水上部隊が護衛した船舶は、2025年3月31日現在で4,076隻(海上警備行動に基づく護衛実績である121隻を含む。)である。また、派遣海賊対処行動航空隊は、アデン湾における各国の航空機による警戒監視活動の大部分を担っており、同日現在で飛行回数3,406回、延べ飛行時間約24,300時間、船舶や海賊対処に取り組む諸外国への情報提供16,444回の活動を行っている。

自衛隊による海賊対処行動は、各国首脳などから感謝の意が表されているほか、累次の国連安保理決議でも歓迎されるなど、国際社会から高く評価されている。また、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処に従事する現場の海自護衛艦に対し、護衛を受けた船舶の船長や船主の方々から、安心してアデン湾を航行できた旨の感謝や、引き続き護衛をお願いしたい旨のメッセージが多数寄せられている。加えて、一般社団法人日本船主協会などからも日本関連船舶の護衛に対する感謝の意とともに、引き続き海賊対処に万全を期して欲しいとの要請を継続的に受けている。

防衛省・自衛隊は、引き続き諸外国の部隊を含む国際社会と緊密に連携し、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動を確実に行い、シーレーンの安定的な利用の確保を図っていく。

参照図表III-1-1-10(派遣部隊の編成・自衛隊による海賊対処のための活動(イメージ))

図表III-1-1-10 派遣部隊の編成・自衛隊による海賊対処のための活動(イメージ)

(2)中東地域における日本関係船舶の安全確保のための情報収集

ア 中東地域への自衛隊派遣の経緯

中東地域の平和と安定は、わが国を含む国際社会の平和と繁栄にとって極めて重要である。また、世界における主要なエネルギーの供給源であり、わが国の原油輸入量の約9割を依存する中東地域での日本関係船舶の航行の安全を確保することは、わが国にとっても非常に重要である。

中東地域では、緊張が高まるなか、船舶を対象とした攻撃事案が生起し、2019年には、オマーン湾において日本関係船舶の被害も発生した。このような状況のもと、米国や欧州諸国などの各国は、中東地域において艦船、航空機などを活用し、船舶の航行の安全のための取組を進めている。

わが国は、中東地域における緊張緩和と情勢の安定化に向けて、政府として外交的な取組を積極的に進めるとともに、政府内での議論を経て、2019年、「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について」を閣議決定した。そのなかで、わが国独自の取組として、①中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けたさらなる外交努力、②関係業界との綿密な情報共有をはじめとする航行安全対策の徹底、③日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集態勢を強化するための自衛隊の艦艇および航空機の活用、について政府一体となった総合的な施策を行うこととしている。

イ 防衛省・自衛隊の活動

防衛省・自衛隊による情報収集活動は、オマーン湾、アラビア海北部、バブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の三海域の公海(沿岸国の排他的経済水域(EEZ)を含む。)を活動海域とし、海賊対処部隊の護衛艦とP-3C哨戒機を活用して行っている。

本情報収集活動は、政府の航行安全対策の一環として日本関係船舶の安全確保に必要な情報を収集するものであり、不測の事態の発生など、状況が変化する場合への対応としての海上警備行動の発令の要否にかかる判断や、発令時の円滑な実施に必要なものである23。具体的には、活動海域を航行する船舶の船種、船籍、位置、針路、速力などを確認し、不審な船舶の存在や不測事態の兆候といった、船舶の航行の安全に直接影響を及ぼす情報やその他必要な情報を収集している。

防衛省・自衛隊が収集した情報は、内閣官房、国土交通省、外務省をはじめとする関係省庁に共有しているほか、官民連絡会議などを通じて関係業界にも共有するなど、政府としての航行安全対策に活用されている。

本情報収集活動の態勢については、2020年から、海賊対処部隊のP-3C哨戒機2機と、海賊対処部隊とは別に新たに編成した派遣情報収集活動水上部隊の護衛艦1隻が、それぞれ情報収集活動を開始した。2022年からは、海賊対処部隊の護衛艦に情報収集活動の任務を付与し、現在は、護衛艦1隻とP-3C哨戒機1機が、海賊対処行動と本情報収集活動を兼務している。

本情報収集活動におけるこれまでの活動実績について、水上部隊(2022年2月以降、派遣海賊対処行動水上部隊が兼務)は、オマーン湾の公海とアラビア海北部の公海において活動しており、確認した船舶数は2025年3月31日現在で累計95,444隻となっている。

また、航空隊(派遣海賊対処行動航空隊)は、アデン湾の公海とアラビア海北部の西側の公海において活動しており、確認した船舶数は2025年3月31日現在で累計88,365隻となっている。

中東地域では、高い緊張状態が継続していること、また、米国などによる海洋安全保障イニシアティブをはじめ、各国も活動を継続していることなどを踏まえ、2020年以降、政府は自衛隊の活動期間を毎年約1年延長している。

なお、期間満了前に、日本関係船舶の航行の安全確保の必要性に照らし、自衛隊による活動が必要と認められなくなった場合には、その時点において活動を終了するほか、情勢に顕著な変化が見られた場合は、国家安全保障会議において対応を検討することとしている。

参照図表III-1-1-11(中東地域における情報収集活動に従事する部隊)、図表III-1-1-12(自衛隊による情報収集のための活動(イメージ))、I部4章5節2項(1)(中東地域における海洋安全保障)資料14(中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について)

図表III-1-1-11 中東地域における情報収集活動に従事する部隊

図表III-1-1-12 自衛隊による情報収集のための活動(イメージ)

ウ 関係国との連携など

中東地域における日本関係船舶の航行の安全を確保するための効果的な対応について、原油の安定供給の確保や、米国やイランとの関係といった点を踏まえ、総合的に検討した結果、わが国は、米国などによる海洋安全保障イニシアティブには参加せず、わが国独自の取組を行うこととしている。一方、同盟国である米国とはこれまでも緊密に連携しており、バーレーンに所在する米中央海軍司令部に海上自衛官1名を連絡官として派遣し、情報共有を行っている。

わが国独自の取組として行っている本情報収集活動は、イランを含む沿岸国の理解を得ることが重要であり、これまでもこの活動について、透明性をもって説明してきている。また、中東地域における船舶の航行の安全確保については、沿岸国の役割が重要であり、わが国の取組について、沿岸国に働きかけ、理解を得てきている。

情報収集活動に従事中の隊員

情報収集活動に従事中の隊員

動画アイコンQRコード資料:中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/m_east/index.html

13 各国の海外領土の持つ海域も当該国のものとすると世界第8位とされる。

14 自衛隊による警戒監視活動は、防衛省設置法第4条第1項第18号(所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと)に基づいて行われる。

15 発射された赤外線誘導のミサイルを回避するために戦闘機などが空中に散布するおとりの熱源。激しく燃焼するため視認が容易である。

16 領海と内水

17 海洋法に関する国際連合条約第20条「潜水船その他の水中航行機器は、領海においては、海面上を航行し、かつ、その旗を掲げなければならない。」

18 海上警備行動下において不審船の立ち入り検査を行う際に不審船の武装解除などを行うための専門の部隊(2001年3月に新編)。

19 2016年12月以降、2隻から1隻に変更。

20 2023年12月以降、2機から1機に変更。

21 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律

22 海自護衛艦に海上保安官8名が同乗し、必要に応じて海賊の逮捕、取調べなどの司法警察活動を行っている。

23 本情報収集活動は、防衛省設置法第4条第1項第18号の規定(所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと。)に基づき行うものとしている。