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第V部 防衛力を維持・強化するために必要な基盤や取組

4 新たな防衛装備・技術協力の構築

1 諸外国との防衛装備・技術協力など

装備品に関する協力は、構想から退役まで半世紀以上に及ぶ取組であることを踏まえ、防衛装備移転や国際共同開発を含む、防衛装備・技術協力の取組の強化を通じ、相手国軍隊の能力向上や相手国との中長期にわたる関係の維持・強化を図っている11。特に、ハイレベル・実務者交流、共同訓練・演習、能力構築支援などの取組のほか、政府安全保障能力強化支援(OSA:Official Security Assistance)など、防衛省以外の取組とも組み合わせることで、これを効果的に進めることとしている。その際、就役から相当年数が経過し、拡張性などに限界がある装備品の早期用途廃止、早期除籍などの活用による同志国への移転を検討することとしている。

参照図表V-1-3-1(諸外国との主な防衛装備・技術協力(イメージ))、III部1章3節4項(わが国と同志国の抑止力の向上のための国際協力)資料40(各種協定締結状況)

図表V-1-3-1 諸外国との主な防衛装備・技術協力(イメージ)

(1)オーストラリア

オーストラリアとの間では、2014年、防衛装備品・技術移転協定12が発効し、2017年に日豪防衛装備・技術協力共同運営委員会を初開催した。以降、定期的に協議を行い日豪両国の防衛装備・技術協力の進展を図っている。これ以降、各種取決めの署名、科学技術者の相互派遣、各種共同研究を行っている。

2023年には、「研究、開発、試験及び評価プロジェクトに関する取決め」に署名し、共同事業を迅速に開始する枠組みを整理した。2024年1月、本取決めを初めて適用し、「水中自律型無人機に関する日豪共同研究」を開始した。

2023年に行われた日豪防衛相会談において、木原防衛大臣(当時)は、マールズ豪副首相兼国防大臣とともに、豪国防省が三菱電機オーストラリアとの間でレーザー技術を活用した共同開発事業の契約締結を公表したことに歓迎の意を表明した。本事業は、日豪間で初めての共同開発案件であるのみならず、日本の防衛関連企業の技術が外国政府から着目され、防衛分野での国際共同開発の実施に至った初めての事例であり、官民一体となって防衛装備移転を推進してきたわが国にとって新たな一歩となるものである。

豪政府は、2024年2月に「もがみ」型護衛艦を含む4か国の候補艦艇から次期汎用フリゲートを選定する旨発表し、オーストラリア国内での建造を含む調達計画を発表した。わが国は豪政府の求めに応じて必要な情報提供を行ってきたところ、同年11月、豪政府は、「もがみ」型護衛艦の能力向上型である令和6年度型護衛艦(4,800トン型)を含む2か国の艦艇を最終候補として選定した。同月、これを受け、国家安全保障会議で審議した結果、わが国が選定され、オーストラリアの次期汎用フリゲートの共同開発・生産をオーストラリアと行うこととなった場合の完成品などについて、オーストラリアへの移転を認め得ることとした。さらに、同年12月、オーストラリアの次期汎用フリゲートの共同開発・生産に向けて官民一体となって推進していくため、防衛省は、三菱重工業を始めとする関係企業、内閣官房、外務省、財務省、経済産業省、国土交通省からなる関係省庁が出席する「官民合同推進委員会」を設置した。

「もがみ」型護衛艦(候補艦艇)

「もがみ」型護衛艦(候補艦艇)

2024年7月にオーストラリアで開催された国際展示会・カンファレンス「Indian Ocean Defence & Security 2024」に、高見防衛大臣補佐官(当時)が参加し、コンロイ豪国防産業大臣らと会談を行った。2025年2月、若宮防衛大臣補佐官は、オーストラリアを訪問し、コンロイ豪国防産業大臣やキング豪資源大臣らと会談し、日豪防衛産業協力全般について意見交換した。

参照III部3章1節2項1(オーストラリア)

(2)インド

インドとの防衛装備・技術協力は、日印の特別戦略的グローバル・パートナーシップに基づく重要な協力分野と位置づけられており、2015年の日印首脳会談において防衛装備品・技術移転協定13の署名が行われ、2016年に発効した。以降、定期的に協議を行っている。

2024年11月、日印防衛装備品・技術移転協定に基づき、「もがみ」型護衛艦に搭載されている艦艇搭載用複合通信空中線「ユニコーン」の日本からインドへの装備移転に関する細目取極(MOI:Memorandum of Implementation)に日印間で署名を行った。

参照III部3章1節2項2(インド)

(3)英国

英国との間では、2013年、防衛装備品・技術移転協定14の署名・発効に至り、以降、定期的に協議を行っているほか、2022年からはGCAPにおいて戦闘機の共同開発を行っている。

参照III部3章1節2項3(1)(英国)2節3項(次期戦闘機の開発)

(4)フランス

フランスとの間では、2016年、防衛装備品・技術移転協定15が発効した。2024年5月、防衛省、フランス国防省、ドイツ国防省および仏独サン=ルイ研究所は「レールガン技術の協力に係る実施要領」の署名を行った。本実施要領は、レールガン技術に関する研究・開発・試験・評価の協業の可能性を検討することを目的とし、レールガンの早期実用化に向けて着実に取り組んでいる。

参照III部3章1節2項3(2)(フランス)

(5)ドイツ

ドイツとの間では、2017年、防衛装備品・技術移転協定16に署名し、発効した。前述のレールガン技術に関する協力を含め、多様な協力が進展している。

参照III部3章1節2項3(3)(ドイツ)

(6)イタリア

イタリアとの間では、2019年、防衛装備品・技術移転協定17が発効したほか、2022年からはGCAPにおいて戦闘機の共同開発を行っている。

参照III部3章1節2項3(4)(イタリア)2節3項(次期戦闘機の開発)

(7)スウェーデン

スウェーデンとの間では、2022年、防衛装備品・技術移転協定18に署名し、発効した。

参照III部3章1節2項6(1)(スウェーデン)

(8)ウクライナ

2022年のロシアによるウクライナ侵略を受けて、ウクライナ政府からの装備品などの提供要請を踏まえ、自衛隊法に基づき非殺傷の物資を防衛装備移転三原則の範囲内で提供するべく、同年の国家安全保障会議において、防衛装備移転三原則の運用指針を一部改正した。これまでに、防弾チョッキ、鉄帽(ヘルメット)、防寒服、天幕、カメラ、衛生資材・医療用資器材、非常用糧食、双眼鏡、照明器具、個人装具、防護マスク、防護衣、小型のドローン、民生車両(バン)、および自衛隊車両(1/2tトラック、高機動車、資材運搬車)を自衛隊機などにより輸送し、ウクライナ政府への提供を実施した。また、2024年10月に実施した日ウクライナ防衛相会談において、ウクライナへの自衛隊車両の追加提供を行うことを決定した旨伝達した。2025年4月、追加提供の第1弾として、6台の自衛隊車両をウクライナに提供した。

ウクライナに提供した自衛隊車両

ウクライナに提供した自衛隊車両

参照III部3章1節2項7(1)(ウクライナ)資料73(防衛装備移転三原則の運用指針)

(9)ASEAN諸国

ASEAN諸国との間では、日ASEAN防衛当局次官級会合などを通じて、人道支援・災害救援(HA/DR:Humanitarian Assistance and Disaster Relief)や海洋安全保障など、非伝統的安全保障分野における防衛装備・技術協力について意見交換がなされており、参加国からは、これらの課題に効果的に対処するため、わが国からの協力に期待が示されている。2016年にわが国が表明したビエンチャン・ビジョンにおいて、ASEAN諸国との防衛装備・技術協力に関しては、①装備品・技術移転、②人材育成、③防衛産業に関するセミナーなどの開催を3つの柱として進めることとした。

具体的な取組として、インドネシアとの間では、2021年に東京で開催された第2回日インドネシア「2+2」において、防衛装備品・技術移転協定19に署名し、即日発効した。

シンガポールとの間では、2023年にシンガポールで開催されたシャングリラ会合において、防衛装備品・技術移転協定20に署名し、即日発効した。

タイとの間では、2022年、岸田内閣総理大臣(当時)のタイ訪問の際に防衛装備品・技術移転協定21に署名し、発効した。

フィリピンとの間では、2016年に防衛装備品・技術移転協定22が発効した後、5機の海自練習機TC-90の貸付・無償譲渡が実現した。さらに、陸自多用途ヘリUH-1Hの部品などの無償譲渡、初の完成装備品移転として警戒管制レーダー4基の装備移転が決定しており、2023年に1基目、2024年3月に2基目の納入が完了した。また、これらの移転に伴い、自衛隊およびわが国企業によるフィリピン軍要員への運用・維持整備などの教育支援を実施している。

2024年9月には、フィリピンで開催された「ADAS(Asian Defense and Security Exhibition)2024」に防衛装備庁が初めてブースを出展し、フィリピン政府や企業などに対してわが国の装備品の魅力を発信した。また、高見防衛大臣補佐官(当時)が参加し、ミソン国防次官(取得・資源管理担当)との会談を通じ、防衛装備・技術協力の強化にむけて連携していくことを確認した。

ベトナムとの間では、2016年の「防衛装備・技術協力に関する定期協議の実施要領」署名、2019年の「防衛産業間協力の促進の方向性に係る日ベトナム防衛当局間の覚書」署名に続いて、2021年に両国間で防衛装備品・技術移転協定23に署名し、発効した。2023年の防錆表面処理加工技術の移転に加え、2024年12月には、防衛装備品・技術移転協定に基づく初の防衛装備品の移転として、中古資材運搬車2両の譲渡が実現し、ベトナム国防省主催の記念式典が行われた。また、本移転に伴い、陸自およびわが国企業によるベトナム軍要員への運用・整備教育支援を実施した。

マレーシアとの間では、2018年、防衛装備品・技術移転協定24に署名し、発効した。

参照III部3章1節2項8(東南アジア諸国(ASEAN諸国))

(10)中東諸国

アラブ首長国連邦(UAE:United Arab Emirates)との間では、2023年、中東の国との間では初めてとなる、防衛装備品・技術移転協定25に署名、2024年1月に発効した。

イスラエルとの間では、2019年、わが国とイスラエル防衛当局間で提供される、防衛装備・技術に関する秘密情報を適切に保護するため、防衛装備・技術に関する秘密情報保護の覚書26に署名した。

参照III部3章1節2項12(6)(アラブ首長国連邦)III部3章1節2項12(7)(イスラエル)

(11)モンゴル

モンゴルとの間では、2024年12月、防衛装備品・技術移転協定27に署名し、2025年1月に発効した。

参照III部3章1節2項9(モンゴル)

(12)AUKUS(豪英米)

2024年9月、AUKUS(オーカス)首脳共同声明および国防大臣共同声明において、AUKUS「第2の柱」における「海洋無人機システム」が日本との初期的な「第2の柱(Pillar II)」協力の機会を模索する分野として挙げられた。

この協力の機会を模索する一環として、同年10月にオーストラリア主催で開催された海洋無人機システムなどに関する多国間の実験・演習である「オートノマス・ウォーリアー24」に、わが国から防衛装備庁の専門家などを派遣した。

AUKUS「第2の柱(Pillar II)」に関する豪英米3か国との協力は、同盟国・同志国間の連携を先進技術面から支えるものであり、わが国と豪英米3か国の共通の能力を強化し、地域の抑止力・対処力強化に大きく貢献するものであることから、協力を具体化すべく、引き続き協議を進めていくこととしている。

参照I部3章6節1項2(2)(AUKUSの取組)

2 開発途上国に対する装備品の提供

わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか、わが国と安全保障・防衛上の協力・友好関係にある国が適切な能力を備え、安全保障環境の改善に向けて国際社会全体として協力して取り組む基盤を整えることが重要である。

この点、経済規模や財政事情により独力では十分な装備品を調達できない友好国のなかには、以前から、不用となった自衛隊の装備品を活用したいとのニーズがあった。

こうしたなか、友好国のニーズに応えていくため、自衛隊で不用となった装備品を、開発途上地域の政府に対し無償または時価よりも低い対価で譲渡できるよう、財政法第9条第1項28の特例規定を自衛隊法に新設し、2017年から施行されている。

なお、この規定により無償または時価よりも低い対価で譲渡できるようになった場合においても、いかなる場合にいかなる政府に対して装備品の譲渡などを行うかについては、防衛装備移転三原則などを踏まえ、個別具体的に判断されることとなる。また、譲渡した装備品のわが国の事前の同意を得ない目的外使用や第三者移転を防ぐため、相手国政府との間では国際約束を締結する必要がある。

11 2025年4月現在、わが国は、防衛装備品・技術移転協定を、米国、英国、オーストラリア、インド、フィリピン、フランス、ドイツ、マレーシア、イタリア、インドネシア、ベトナム、タイ、スウェーデン、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)、モンゴルと締結している。

12 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定

13 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とインド共和国政府との間の協定

14 防衛装備品及び他の関連物品の共同研究、共同開発及び共同生産を実施するために必要な武器及び武器技術の移転に関する日本国政府とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国政府との間の協定

15 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定

16 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とドイツ連邦共和国政府との間の協定

17 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とイタリア共和国政府との間の協定

18 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とスウェーデン王国政府との間の協定

19 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とインドネシア共和国政府との間の協定

20 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定

21 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とタイ王国政府との間の協定

22 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とフィリピン共和国政府との間の協定

23 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とベトナム社会主義共和国政府との間の協定

24 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とマレーシア政府との間の協定

25 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とアラブ首長国連邦政府との間の協定

26 防衛省とイスラエル国防省との間の防衛装備・技術に関する秘密情報保護の覚書

27 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とモンゴル国政府との間の協定

28 財政法第9条第1項は、「国の財産は、法律に基づく場合を除くほか、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない」と規定。