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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 軍事

1 国防政策

中国は、国家の安全と発展の利益に見合った強固な国防と強大な軍隊の建設を、国家の近代化建設のための戦略的な任務であると位置づけており、国防政策の目標と任務は、主に、国家の主権、安全、発展の利益を擁護すること、社会の調和と安定を擁護すること、国防と軍隊の近代化を推進すること、ならびに世界の安定と平和を擁護することであるとしている3

中国は、湾岸戦争やコソボ紛争、イラク戦争などにおいて見られた世界の軍事発展の動向に対応し、情報化条件下の局地戦に勝利するとの軍事戦略に基づいて、軍事力の機械化および情報化を主な内容とする「中国の特色ある軍事変革」を積極的に推し進めるとの方針をとっている。中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿論(よろん)戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目に加えた4ほか、軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させるとの方針も掲げている。

中国の軍事力強化においては、台湾問題への対処、具体的には台湾の独立および外国軍隊による台湾の独立支援を阻止する能力の向上が、最優先の課題として念頭に置かれていると考えられる。さらに、近年では、台湾問題への対処以外の任務のための能力の獲得にも積極的に取り組んでおり、非伝統的安全保障分野における軍隊の活用も重視している。軍事力強化については、「2020年までに機械化を基本的に実現させ、情報化建設において重大な進展を成し遂げる」との目標を掲げ、「情報化条件下における局地戦で勝利する能力を中核とする、多様化した軍事任務を完遂する能力を向上させ、新世紀における新段階での軍隊の歴史的使命を全面的に履行する」5としており、国力の向上にともない軍事力も発展させていく考えであるとみられる。

中国は継続的に高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力を広範かつ急速に強化しており、その一環として、いわゆる「A2/AD」能力の強化に取り組んでいるとみられる。また、統合作戦能力の向上、戦力を遠方に展開させる能力の強化、実戦に即した訓練の実施、情報化された軍隊の運用を担うための高い能力を持つ人材の育成および獲得、国内の防衛産業基盤の向上に努めている。さらに中国は、東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域などにおいて活動を急速に拡大・活発化させている。特に、海洋における利害が対立する問題をめぐって、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を示している。このような中国の軍事動向などは、軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国として強く懸念しており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。また、地域・国際社会の安全保障上も懸念されるところとなっている。

2 軍事に関する透明性

中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標および調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。また、軍事力の強化の具体的な将来像は明確にされておらず、軍事や安全保障に関する意思決定プロセスの透明性も十分確保されていない。

中国は、98(平成10)年以降2年ごとに、「中国の国防」などの国防白書を発表してきており、外国の国防当局との対話も数多く行っている。07(同19)年8月には、国連軍備登録制度への復帰および国連軍事支出報告制度への参加を表明し、それぞれの制度に基づく年次報告を提出した。中国国防部は、11(同23)年4月から毎月定例で報道官による記者会見を行っているほか、13(同25)年11月には海軍、空軍など7部門6に報道官が新設され、軍の動向に関する情報発信を行っている。中国によるこのような動きは、軍事力の透明性向上に資する動きとも考えられる一方、「輿論(よろん)戦」を強化するための動きとも考えられる。

一方で、国防費については、主要装備品の調達費用など、内訳の詳細を明らかにしていない。過去においては、人員生活費、活動維持費、装備費に三分類し、それぞれの総額と概括的な使途を公表していた7が、最近はそのような説明も行われていない。また、13(同25)年4月に発表された国防白書「中国武装力の多様化運用」においては、記述を特定のテーマに限定し、一部にこれまでよりも詳細に記述したところがある反面、それまでの国防白書にはあった国防費に関する記述が一切なくなるなど、透明性が低下している面も見られ、国際社会の責任ある国家として望まれる透明性は依然として確保されていない。

中国による事実に反する説明を含め、中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせる事案も発生している。たとえば、中国原子力潜水艦によるわが国領海内潜没航行事案(04(同16)年11月)については、国際法違反にもかかわらずその詳細な原因は明らかにされていない。また、中国海軍艦艇による海自護衛艦に対する火器管制レーダー照射事案(13(同25)年1月)などが発生していることについては、中国国防部および外交部が同レーダーの使用そのものを否定するなど事実に反する説明を行っている。さらに、中国軍の戦闘機が海自機および空自機に対して異常に接近した事案(14(同26)年5月)についても、中国国防部は日本側が「演習空域に無断で押し入り、危険な行為を行った」などと事実に反する説明を行っている。近年では、軍事力強化にともなう軍の専門化の進展や任務の多様化など軍を取り巻く環境が大きく変化してきている中で、共産党指導部と人民解放軍との関係が複雑化しているとの見方や、対外政策決定における軍の影響力が変化しているとの見方8もあり、こうした状況については危機管理上の課題としても注目される。また、第18期三中全会において設立が決定され、国家安全に関する重大事項などについて統一的な計画および調整を行うとされる中央国家安全委員会と、従来より軍を指導および指揮する中央軍事委員会や軍との関係も注目される。

中国は、政治面、経済面に加え、軍事面においても国際社会で大きな影響力を有するに至っているため、各国がその動向を注目している。中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、今後、国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが望まれる。

3 国防費

中国は、2014年度の国防予算を約8,082億元9と発表した10。発表された予算額を昨年度の当初予算額と比較すると、約12.2%(約881億元)の伸びとなり11、中国の公表国防費は、引き続き速いペースで増加している12。公表国防費の名目上の規模は、過去26年間で約40倍、過去10年間で約4倍となっている。中国は、国防建設を経済建設と並ぶ重要課題と位置づけており、経済の発展にあわせて、国防力の向上のための資源投入を継続しているものと考えられる。

また、中国が国防費として公表している額は、中国が実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないとみられていること13に留意する必要がある。たとえば、装備購入費や研究開発費などはすべてが公表国防費に含まれているわけではないとみられている。

参照図表I-1-3-1(中国の公表国防費の推移)

図表I-1-3-1 中国の公表国防費の推移

4 軍事態勢

中国の軍事力は、人民解放軍、人民武装警察部隊14と民兵15から構成されており、中央軍事委員会の指導および指揮を受けるものとされている16。人民解放軍は、陸・海・空軍と第二砲兵(戦略ミサイル部隊)からなり、中国共産党が創建、指導する人民軍隊とされている。

第18期三中全会においては、中央軍事委員会などの機能および組織を最適化し、各軍種などに対する指導管理体制を完全なものにすることや、当該委員会の統合作戦指揮機構および戦区統合作戦指揮体制を整え、統合作戦訓練および後方支援体制の改革を推進することなどが決定された。これらの改革は、統合作戦能力および後方支援能力を向上することにより、より実戦的な軍の建設などを目的としていると考えられる。今後、これらの改革がどのように具体化されていくか現在のところ不明であるが、わが国を含む地域の安全保障への影響も含め、今後の展開が注目される。

(1)核戦力およびミサイル戦力

中国は、核戦力および弾道ミサイル戦力について、50年代半ば頃から独自の開発努力を続けており、抑止力の確保、通常戦力の補完および国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。核戦略に関して、中国は、核攻撃を受けた場合に、相手国の都市などの少数の目標に対して核による報復攻撃を行える能力を維持することにより、自国への核攻撃を抑止するとの戦略をとっているとみられている17

中国は、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)、中距離弾道ミサイル(IRBM(Intermediate-Range Ballistic Missile) / MRBM(Medium-Range Ballistic Missile))、短距離弾道ミサイル(SRBM:Short-Range Ballistic Missile)といった各種類・各射程の弾道ミサイルを保有している。これらの弾道ミサイル戦力は、液体燃料推進方式から固体燃料推進方式への更新による残存性および即応性の向上が行われている18ほか、射程の延伸、命中精度の向上、弾頭の機動化や多弾頭化などの性能向上の努力が行われているとみられている。

戦略核戦力であるICBMについては、これまでその主力は固定式の液体燃料推進方式のミサイルであったが、中国は、固体燃料推進方式で、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載される移動型のDF-31およびその射程延伸型であるDF-31Aを配備しており、特にDF-31Aの数を今後増加させていくとの指摘もある19。また、SLBMについては、現在射程約8,000kmとみられている新型のJL-2の開発およびこれを搭載するためのジン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)の建造および就役が行われているとみられている。JL-2が実用化に至れば、中国の戦略核戦力は大幅に向上するものと考えられる。

わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBMについては、液体燃料推進方式のDF-3のほか、TELに搭載され移動して運用される固体燃料推進方式のDF-21も配備されており、これらのミサイルは、核を搭載することが可能である。中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦攻撃弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)を配備しているとの指摘もある。また、中国は、IRBM/MRBMに加えて、射程1,500km以上の巡航ミサイルであるDH-10(CJ-10)のほか、核兵器や巡航ミサイルを搭載可能なH-6(Tu-16)爆撃機を保有しており、これらは、弾道ミサイル戦力を補完し、わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める戦力となるとみられている20。SRBMについては、固体燃料推進方式のDF-15およびDF-11を多数保有し、台湾正面に配備しており21、わが国固有の領土である尖閣諸島を含む南西諸島の一部もその射程に入っているとみられている。

一方、中国は10(同22)年および13(同25)年1月に、ミッドコース段階におけるミサイル迎撃技術の実験を行ったと発表しており、中国による弾道ミサイル防衛の今後の動向が注目される。

参照図表I-1-3-2(中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程)

図表I-1-3-2 中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程

(2)陸上戦力

陸上戦力については、約160万人と世界最大である。中国は、85(昭和60)年以降に軍の近代化の観点から行ってきた人員の削減や組織・機構の簡素化・効率化に引き続き努力しており、装備や技術の面で立ち遅れた部隊を漸減し、能力に重点を置いた軍隊を目指している。具体的には、これまでの地域防御型から全国土機動型への転換を図り、歩兵部隊の自動車化、機械化を進めるなど機動力の向上を図っているほか、空挺部隊(空軍所属)、特殊部隊およびヘリコプター部隊の強化を図っているものと考えられる。また、部隊の多機能化を進め、統合作戦能力の向上と効率的な運用に向けた指揮システムの構築に努力し、後方支援能力を向上させるための改革にも取り組んでいる。中国は09(平成21)年、複数の軍区による機動演習としては過去最大とされる「跨越2009」演習を行ったほか、10(同22)年以降は、同様の機動演習「使命行動」を行っている。これらの演習は、陸軍の長距離機動能力、民兵や公共交通機関の動員を含む後方支援能力など、陸軍部隊を遠隔地に展開するために必要な能力の検証・向上などを目的とするとともに、「使命行動2013」には、海軍および空軍も参加したとされるなど、あわせて統合作戦能力の向上も企図しているものと考えられる。

参照図表I-1-3-3(中国軍の配置と戦力)

図表I-1-3-3 中国軍の配置と戦力

(3)海上戦力

海上戦力は、北海、東海、南海の3個の艦隊からなり、艦艇約890隻(うち潜水艦約60隻)、約142万トンを保有しており、自国の海上の安全を守り、領海の主権と海洋権益を保全する任務を担っている。中国海軍は、キロ級潜水艦のロシアからの導入や新型国産潜水艦の積極的な建造を行うなど潜水艦戦力を増強22するとともに、艦隊防空能力や対艦攻撃能力の高い水上戦闘艦艇の増強を進めている。また、大型の揚陸艦や補給艦の増強を行っているほか、08(同20)年10月には大型の病院船を就役させた。

空母に関しては、ウクライナから購入した未完成のクズネツォフ級空母ワリャーグの改修を進め、11(同23)年8月から試験航行を開始し、12(同24)年9月に遼寧(りょうねい)と命名し、就役させた23。同艦就役後も艦載機パイロットの育成や同艦における発着艦試験を含む国産のJ-15艦載機の開発など必要な技術の研究・開発を継続していると考えられ、13(同25)年11月には、同艦が初めて南シナ海に進出し、当該海域で試験航行を実施した24。また、中国初の国産空母の建造を進めている可能性があるとの指摘もある25

このような海上戦力強化の状況などから、中国は近海における防御に加え、より遠方の海域において作戦を遂行する能力の構築を目指していると考えられる。こうした中国の海上戦力の動向には今後も注目していく必要がある。

(4)航空戦力

航空戦力は、海軍、空軍を合わせて作戦機を約2,580機保有している。第4世代の近代的戦闘機は着実に増加しており、ロシアからSu-27戦闘機の導入・ライセンス生産などを行い、対地・対艦攻撃能力を有するSu-30戦闘機も導入しているほか、Su-27戦闘機を模倣したと指摘されるJ-11B戦闘機や国産のJ-10戦闘機を量産している。また、中国は次世代戦闘機との指摘もあるJ-20およびJ-31の開発を進めている26。また、H-6空中給油機やKJ-2000早期警戒管制機などの導入により近代的な航空戦力の運用に必要な能力を向上させる努力も継続している。さらに、輸送能力向上のため、新型のY-20大型輸送機を開発中27であるとみられている。このような多種多様な航空機の自国での開発・生産・配備やロシアからの導入に加え、偵察などを目的に高高度において長時間滞空可能な機体や、攻撃を目的にミサイルなどを搭載可能な機体などを含む多種多様な無人機の自国での開発を進めているとみられ、その一部については生産・配備も行っているとみられている。

このような航空戦力の近代化状況などから、中国は、国土の防空能力の向上に加えて、より遠方での制空戦闘および対地・対艦攻撃が可能な能力の構築や長距離輸送能力の向上を目指していると考えられる28。こうした中国の航空戦力の動向には今後も注目していく必要がある。

5)宇宙の軍事利用およびサイバー戦に関する能力

中国は軍事目的で宇宙利用を行っている可能性があるほか、サイバー空間にも関心を有している。その背景としては、迅速で効率的な戦力の発揮に欠くことのできない軍事分野での情報収集、指揮通信などが人工衛星やコンピュータ・ネットワークへの依存を高めていることが指摘できる。

参照I部2章4節(宇宙空間と安全保障)I部2章5節(サイバー空間をめぐる動向)

5 海洋における活動
(1)全般

近年、中国は、より遠方の海空域における作戦遂行能力の構築を目指していると考えられ、その海上戦力および航空戦力による海洋における活動を質・量ともに急速に拡大させている。特に、わが国周辺海空域においては、艦載ヘリの飛行や陣形運動など、何らかの訓練と思われる活動や情報収集活動を行っていると考えられる中国の海軍艦艇29や海・空軍機、海洋権益の保護などのための監視活動を行う中国の海上法執行機関所属30の公船や航空機が多数確認されている31。このような中国の活動には、わが国領海への侵入や領空の侵犯のほか、火器管制レーダーの照射や戦闘機による自衛隊機への異常な接近、「東シナ海防空識別区」の設定といった公海上空における飛行の自由を妨げるような動きを含め、不測の事態を招きかねない危険な行為をともなうものもみられ、きわめて遺憾であり、中国は国際的な規範の共有・遵守が求められる。

(2)わが国周辺海域における活動の状況

海上戦力の動向としては、中国海軍の艦艇部隊による太平洋への進出回数が近年増加傾向にあり、現在では当該進出が常態化している。この際、中国海軍の艦艇部隊は、08(同20)年以来毎年沖縄本島と宮古島の間の海域を通過しているが、12(同24)年4月に、大隅海峡を初めて東進し、同年10月に、与那国島と西表島近傍の仲ノ神島の間の海域を初めて北進したほか、13(同25)年7月には、宗谷海峡を初めて東進した。このように、中国海軍の艦艇部隊による東シナ海・太平洋間の進出・帰投ルートは、わが国の北方を含む形で引き続き多様化の傾向にあるなど、外洋への展開能力の向上を図っているものと考えられる。また、13(同25)年10月には、西太平洋で初となる海軍三艦隊合同演習「機動5号」が実施されたとされる。

このほか、東シナ海においては、中国海軍艦艇による活動が常態化しているとみられており32、中国側は尖閣諸島に関する中国独自の立場に言及したうえで、管轄海域における中国海軍艦艇によるパトロールの実施は完全に正当かつ合法的である旨発言している。13(同25)年1月には、中国海軍艦艇から海自護衛艦に対して火器管制レーダーが照射された事案や、中国海軍艦艇から海自護衛艦搭載ヘリコプターに対して同レーダーが照射されたと疑われる事案が発生している。

中国公船の動向としては、尖閣諸島周辺のわが国領海において、08(同20)年12月に中国国土資源部国家海洋局所属の「海監」船が徘徊(はいかい)・漂泊といった国際法上認められない活動を行った。その後も、11(同23)年8月、12(同24)年3月および同年7月に「海監」船や中国農業部漁業局所属(当時)の「漁政」船が、当該領海に侵入する事案が発生している33。このように、「海監」船および「漁政」船は、近年徐々に当該領海における活動を活発化させてきたが、12(同24)年9月のわが国政府による尖閣三島(魚釣島、北小島および南小島)の所有権の取得・保有以降、このような活動は著しく活発化し、当該領海へ断続的に侵入している。13(同25)年4月および9月には、当該領海に同時に8隻の中国公船が侵入した。

また、10(同22)年9月には、尖閣諸島周辺のわが国領海において、わが国海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件が生起している。

なお、12(同24)年10月には、中国海軍東海艦隊の艦艇が「海監」船や「漁政」船と領土主権および海洋権益の維持・擁護に着目した共同演習を実施しているほか、海軍の退役艦艇を13(同25)年7月に正式に発足した中国海警局34に引き渡しているとみられるなど、海軍は、運用面および装備面の両面から海上法執行機関を支援しているとみられる。

参照図表I-1-3-4(わが国周辺海域における最近の中国の活動)

図表I-1-3-4 わが国周辺海域における最近の中国の活動(航跡はイメージ)

(3)わが国周辺空域における活動の状況

近年、中国海・空軍の航空機によるわが国に対する何らかの情報収集と考えられる活動が活発にみられるようになっており、近年、空自による中国機に対する緊急発進の回数も急激な増加傾向にある。

航空戦力の東シナ海上空における動向としては、07(同19)年9月、複数のH-6爆撃機が、東シナ海上空においてわが国の防空識別圏に入り日中中間線付近まで進出する飛行を行っており、10(同22)年3月にはY-8早期警戒機が、同じく日中中間線付近まで進出する飛行を行っている。11(同23)年3月には、Y-8哨戒機およびY-8情報収集機が、日中中間線を越えて尖閣諸島付近のわが国領空まで約50kmに接近する飛行を行うなど、飛行パターンも多様化している。12(同24)年には戦闘機を含む中国機による活動も活発化した。13(同25)年1月には、中国国防部が東シナ海における中国軍機による定例的な警戒監視および同軍戦闘機による空中警戒待機(CAP:Combat Air Patrol)とみられる活動の実施について公表を行った。また、最新の中国の国防白書では、空軍による海上空域での警戒パトロールに関する記述が新たに追加された。

「H-6」爆撃機の画像

沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋へ進出した「H-6」爆撃機(13(平成25)年9月)

同年11月16日および17日には、Tu-154情報収集機が2日間連続で東シナ海上空を飛行した。同月23日には中国政府が、尖閣諸島をあたかも「中国の領土」であるかのような形で含む「東シナ海防空識別区」を設定し、当該空域を飛行する航空機に対し中国国防部の定める規則を強制し、これに従わない場合は中国軍による「防御的緊急措置」をとる旨発表した。こうした措置は、東シナ海における現状を一方的に変更し、事態をエスカレートさせ、不測の事態を招きかねない非常に危険なものであり、わが国として強く懸念している。また、国際法上の一般原則である公海上空における飛行の自由の原則を不当に侵害するものであり、わが国は中国側に対し、公海上空における飛行の自由を妨げるような一切の措置の撤回を求めている。米国、韓国、オーストラリアおよび欧州連合(EU:European Union)は、中国による当該防空識別区設定に関して懸念を表明している。

「Tu-154」情報収集機の画像

東シナ海上空を飛行する「Tu-154」情報収集機(13(平成25)年11月)

中国による「東シナ海防空識別区」設定発表当日、Tu-154情報収集機およびY-8情報収集機がそれぞれ東シナ海を飛行しており、同日、中国空軍は、当該防空識別区設定後、初のパトロール飛行を実施した旨公表している。その後も、同月28日に、中国軍のKJ-2000早期警戒管制機、Su-30およびJ-11戦闘機が当該防空識別区においてパトロール飛行を、同月29日には、中国軍のSu-30およびJ-11戦闘機が緊急発進を実施した旨公表した。また、同年12月26日には、当該防空識別区設定後の1か月で、中国軍は関係空域に偵察機、早期警戒機、戦闘機を51回、のべ87機出動させた旨公表している。

また、11(同23)年3月、4月および12(同24)年4月には、東シナ海において警戒監視中の海自護衛艦に対して、中国国家海洋局所属とみられるヘリコプターなどが近接飛行する事案が発生している35。さらに、14(同26)年5月および6月には、東シナ海において通常の警戒監視活動を行っていた海自機および空自機に対して、中国軍のSu-27戦闘機2機が異常に接近する事案が発生している。中国国防部は、自衛隊の航空機が中国側の航空機に対し危険な行為を行ったなどと発表しているが、いずれの場合も、自衛隊機による活動は国際法にのっとった正当なものであり、自衛隊機が危険な行為などを行ったとの事実は一切ない。

「Su-27」戦闘機の画像

自衛隊機に対して異常な接近を行った「Su-27」戦闘機(14(平成26)年6月)

航空戦力の太平洋への進出については、13(同25)年7月にY-8早期警戒機1機が、同年9月にH-6爆撃機2機が、それぞれ沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出したことが空自の対領空侵犯措置により初めて確認された。同年10月には、Y-8早期警戒機2機およびH-6爆撃機2機の計4機が3日間連続で、14(同26)年3月には、Y-8情報収集機1機およびH-6爆撃機2機の計3機が、それぞれ同様の飛行を行った。このように、戦闘機を含む中国機による活動はさらに活発化している。

尖閣諸島およびその周辺上空のわが国領空については、12(同24)年12月に、中国国家海洋局所属の固定翼機が中国機として初めて当該領空を侵犯する事案が発生し、その後も同局所属の固定翼機の当該領空への接近飛行がたびたび確認されている。

参照図表I-1-3-5(わが国周辺空域における最近の中国の活動)、図表I-1-3-6(中国機に対する緊急発進回数の推移)

図表I-1-3-5 わが国周辺空域における最近の中国の活動(航跡はイメージ)

図表I-1-3-6 中国機に対する緊急発進回数の推移

(4)南シナ海およびインド洋における活動の状況

中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)諸国などと領有権について争いのある南沙・西沙諸島などを含む南シナ海においても活動を活発化させている。09(同21)年3月には、中国海軍艦艇、国家海洋局の海洋調査船、漁業局の漁業監視船およびトロール漁船が、南シナ海で活動していた米海軍の音響測定艦に接近し、同船の航行を妨害するなどの行為を行ったほか、13(同25)年12月には、中国海軍艦艇が南シナ海で活動していた米海軍の巡洋艦の手前を至近距離で横切るといった事案などが発生している。また、中国海軍艦艇が周辺諸国の漁船に対し威嚇射撃を行う事案も生起していると伝えられている。さらに近年では、同海域における中国の活動に対してベトナムやフィリピンなどが抗議を行うなど、南シナ海をめぐって中国と周辺諸国との摩擦が表面化している。

参照I部1章5節(東南アジア)

また、中国海軍艦艇は、インド洋へも進出している。08(同20)年12月以降、海賊に対処するための国際的な取組に参加するため、中国海軍艦艇は、インド洋を航行し、ソマリア沖・アデン湾に進出しているほか、10(同22)年および13(同25)年には中国海軍の病院船がインド洋沿岸諸国などに対し、医療サービス任務「調和の使命」を実施している。さらに、同年末から14(同26)年初めにかけて、中国海軍の原子力潜水艦がインド洋に進出し、ソマリア沖・アデン湾において活動したとされるほか、同年には、中国海軍艦艇がスンダ海峡からインド洋に進出し、訓練を実施したとされる。このように、中国海軍は、インド洋などの、より遠方の海域で作戦を遂行する能力を向上させている。

(5)海洋における活動の目標

中国による海上および航空戦力の整備状況、海空域における活動状況、国防白書における記述、中国の置かれた地理的条件、グローバル化する経済などを考慮すれば、中国海空軍などの海洋における活動には、次のような目標があるものと考えられる。

第一に、中国の領土、領海および領空を防衛するために、可能な限り遠方の海空域で敵の作戦を阻止することである。これは、近年の科学技術の発展により、遠距離からの攻撃の有効性が増していることが背景にある。

第二に、台湾の独立を抑止・阻止するための軍事的能力を整備することである。たとえば、中国は、台湾問題を解決し、中国統一を実現することにはいかなる外国勢力の干渉も受けないとしており、中国が、四方を海に囲まれた台湾への外国からの介入を実力で阻止することを企図すれば、海空域における軍事作戦能力を充実させる必要がある。

第三に、中国が独自に領有権を主張している島嶼(しょ)の周辺海空域において、各種の監視活動や実力行使などにより、当該島嶼に対する他国の支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強めることである。

第四に、海洋権益を獲得し、維持および保護することである。中国は、東シナ海や南シナ海において、石油や天然ガスの採掘およびそのための施設建設や探査を行っている36

第五に、自国の海上輸送路を保護することである。この背景には、中東からの原油の輸送ルートなどの海上輸送路が、グローバル化する中国の経済活動にとって、生命線ともいうべき重要性を有していることがある。将来的に、中国海軍が、どこまでの海上輸送路を自ら保護すべき対象とするかは、そのときの国際情勢などにも左右されるものであるが、近年の中国の海・空軍の強化を考慮すれば、その能力の及ぶ範囲は、中国の近海を越えて拡大していくと考えられる。

こうした中国の海空域における活動の目標や近年の動向を踏まえれば、今後とも中国は、東シナ海や太平洋といったわが国近海および南シナ海ならびにそれらの上空などにおいて、活動領域をより一層拡大するとともに活動の活発化をさらに進めていくものと考えられる。このため、わが国周辺における海軍艦艇および海・空軍機の活動や各種の監視活動のほか、活動拠点となる施設の整備状況37、自国の排他的経済水域などの法的地位に関する独自の解釈の展開38などを含め、その動向により一層注目していく必要がある。

6 軍の国際的な活動

人民解放軍は近年、平和維持、人道支援・災害救助、海賊対処といった非伝統的安全保障分野における任務を重視し始めており、これらの任務を行うために積極的に海外にも部隊を派遣するようになってきている。このような軍の国際的な活動に対する姿勢の背景には、中国の国益が国境を越えて拡大していることにともない、国外において国益の保護および促進を図る必要性が高まっていることや、国際社会に対する責任を果たす意思を示すことにより自国の地位を向上させる意図があるとみられている。

中国は、PKOを一貫して支持するとともに積極的に参加するとしており、最新の国防白書などによれば、これまでにPKOにのべ2万2,000人以上の軍人が派遣されている。国連によれば、中国は、14(同26)年4月末時点で、国連マリ多角的統合安定化ミッション(MINUSMA:United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Missions in Mali)などのPKOに計2,180人の部隊要員、文民警察要員、軍事監視要員を派遣しており、PKOにおいて一定の存在感を示している。中国のPKOに対する積極姿勢の背景には、同活動を通じて当該PKO実施地域、特にアフリカ諸国との関係強化を図るとのねらいもあるとみられている。

また、中国は、海軍として初めての遠洋における任務として、08(同20)年12月から、ソマリア沖・アデン湾に海軍艦艇を派遣し、中国船舶などの護衛にあたらせている。これは、中国海軍がより遠方の海域で作戦を遂行する能力を向上させていることを示すとともに、中国が自国の海上輸送路の保護を一層重視しつつあることのあらわれと考えられる。

さらに、中国は、リビア情勢の悪化を受け、11(同23)年2月から3月にかけて在留中国人の退避活動を行った際、民間のチャーター機などに加え、海軍のフリゲートおよび空軍の輸送機を現地に派遣した。海外在留中国人の退避活動に軍が参加することは初めてとされる。また、13(同25)年11月から12月にかけて、中国はフィリピンにおける医療救援活動のため、病院船を派遣した。中国はこれらの活動を通じて、軍の平和的・人道的なイメージや、戦争以外の軍事作戦を重視する意図を内外に示すとともに、戦力を遠方に展開させる能力を検証するねらいもあるとの指摘がなされている。

7 教育・訓練などの状況

人民解放軍は、近年、運用面においても強化を図ることなどを目的として実戦的な訓練の実施を推進しており、陸・海・空軍間の協同演習や上陸演習などを含む大規模な演習も行っている。習近平総書記の軍に対する発言や、総参謀部による軍などに対する軍事訓練指示において、「戦いができる。勝つ戦いをする」との目標が繰り返し言及されていることは、軍がより実戦的な訓練の実施を推進している証左と考えられる。06(同18)年に開かれた全軍軍事訓練会議において、機械化条件下の軍事訓練から情報化条件下の軍事訓練への転換の推進が強調され、09(同21)年から施行された、新たな「軍事訓練および評価大綱」では、複数の軍種による統合訓練のほか、非戦争軍事行動の訓練、情報化に関する知識・技能の教育、ハイテク装備のシミュレーション訓練、ネットワーク訓練、電子妨害が行われるなどの複雑な電磁環境下での訓練などが重視されている。

人民解放軍は、教育面でも、科学技術に精通した軍人の育成を目指している。03(同15)年から、統合作戦・情報化作戦の指揮や情報化された軍隊の建設などを担うための高い能力を持つ人材を育成するための軍隊の人材戦略プロジェクトが推進されており、20(同32)年にかけて、人材建設の大きな飛躍を成し遂げるという目標を掲げている。人民解放軍で近年行われているとみられる給与水準の向上には優秀な人材を確保する目的があると考えられる。また、00(同12)年から、優秀な高学歴者を確保するため、一般大学の学生に奨学金を給付して卒業後に将校として入隊させる制度も導入されている。一方、近年では、退役軍人の処遇をめぐる問題も指摘されている。

中国は、戦争などの非常事態において民間資源を有効に活用するため、動員体制の整備を進めてきており、10(同22)年2月には、戦時における動員についての基本法となる「国防動員法」を制定し、同年7月に施行した。

8 国防産業部門の状況

中国では、自国で生産できない高性能の装備や部品をロシアなど外国から輸入しているが、装備の国産化を重視していると考えられ、多くの装備を国産しているほか、新型装備の研究開発に意欲的に取り組んでいる。中国の国防産業部門は、独自の努力のほか、経済成長にともなう民間の産業基盤の向上、軍民両用技術の利用、外国技術の吸収によって発展しているとみられ、中国の軍事力の強化を支える役割を果たしている39

中国の国防産業は、かつて、過度の秘密主義などによる非効率性のために成長が妨げられてきたが、近年は、国防産業の改革が進められている。特に、軍用技術を国民経済建設に役立てるとともに、民生技術を国防建設に吸収するという双方向の技術交流に重点を置いており、具体的には、国防産業の技術が、宇宙開発や航空機工業、船舶工業の発展に寄与してきたとされている。

また、軍民両用産業分野における国際協力および競争を奨励、支持するとしており、軍民両用の分野を通じて外国の技術を吸収することにも関心を有しているとみられる。

3 「2010年中国の国防」による。なお、11(平成23)年9月に発表された「中国の平和的発展」白書において、中国は「覇権を唱えず平和的発展を歩む」と説明する一方で、「国家主権」「国家安全」「領土保全」「国家統一」「国家の政治制度と社会の安定」「経済社会の持続的発展の基本的保障」を含む「核心的利益」については断固擁護するとしている。

4 中国は03(平成15)年、「中国人民解放軍政治工作条例」を改正し、「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」の展開を政治工作に追加した。これらについて、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(11(同23)年8月)は次のように説明している。
・「輿論戦」は、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することのないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの
・「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの
・「法律戦」は、国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処するもの

5 「2008年中国の国防」では、「21世紀中頃に国防および軍隊の近代化の目標を基本的に達成する」との目標があわせて記述されている。

6 総政治部、総後勤部、総装備部、海軍、空軍、第二砲兵および武装警察の7部門

7 「2008年中国の国防」では、2007年度の国防費の支出に限り、人員生活費、活動維持費、装備費のそれぞれについて、現役部隊、予備役部隊、民兵別の内訳が明らかにされた。

8 たとえば、国家主権や海洋権益などをめぐる安全保障上の課題に関して、人民解放軍が態度を表明する場面が近年増加しているとの指摘がある。一方、中国共産党の主要な意思決定機関における人民解放軍の代表者数は過去に比べて減少していることから、党の意思決定プロセスにおける軍の関与は限定的であるとの指摘もある。なお、人民解放軍は「党による軍隊の絶対指導」を繰り返し強調している。

9 中央財政支出における国防予算

10 外国の国防費を単純に外国為替相場のレートを適用して他の通貨に換算することは、必ずしもその国の物価水準に照らした価値を正確に反映するものではないが、仮に2014年度の中国の国防予算を1元=16円(平成26年度の出納官吏レート)で換算すると約12兆9,317億円となる。なお、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)「2013年版年鑑」は、12(平成24)年の中国の軍事支出を1,661億米ドルと見積もっており、米国に次ぐ世界第2位としている。

11 中国は、2014年度の国防費の伸び率を「前年度比12.2%の増加」と発表したが、これは2013年度執行額と2014年度当初予算を比較した伸び率である。

12 中国の公表国防費は、中央財政支出における当初予算比で、1989年度からこれまでの間、2010年度を除き、毎年二桁の伸び率を記録している。

13 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(14(平成26)年6月)は、中国の13(同25)年の軍事関連支出を1,450億ドル以上と見積っている。また、同報告書は、中国の公表国防費は、外国からの兵器調達などの主要な支出区分を含んでいないと指摘している。

14 党・政府機関や国境地域の警備、治安維持のほか、民生協力事業や消防などの任務を負う。「2002年中国の国防」では、「国の安全と社会の安定を維持し、戦時は人民解放軍の防衛作戦に協力する」とされる。

15 平時においては経済建設などに従事するが、有事には戦時後方支援任務を負う。「2002年中国の国防」では、「軍事機関の指揮のもとで、戦時は常備軍との合同作戦、独自作戦、常備軍の作戦に対する後方勤務保障提供および兵員補充などの任務を担い、平時は戦備勤務、災害救助、社会秩序維持などの任務を担当する」とされる。12(平成24)年10月9日付解放軍報によれば2010年時点の基幹民兵数は600万人とされている。

16 中央軍事委員会には、形式上は中国共産党と国家の二つの中央軍事委員会があるが、党と国家の中央軍事委員会の構成メンバーは基本的には同一であり、いずれも実質的には中国共産党が軍事力を掌握するための機関とみなされている。

17 「2010年中国の国防」では、「中国は終始、核兵器先制不使用の政策を遂行し、自衛防御の核戦略を堅持し、いかなる国とも核軍備競争を行わない」としている。一方、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(12(平成24)年5月)は、中国の核兵器先制不使用政策の適用条件については不明瞭な点がある旨指摘している。

18 液体燃料推進方式と固体燃料推進方式の違いについては、I部1章2節脚注27参照

19 なお、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(14(平成26)年6月)は、中国は「DF-41」として知られる新型の移動型ICBMを開発しており、おそらくこのICBMは、多弾頭独立目標再突入体(MIRV:Multiple Independently Targetable Re-entry Vehicles)を搭載できると指摘している。

20 米中経済安全保障再検討委員会(中国との通商・経済関係が米国の安全保障に及ぼす影響について監視・調査、および報告書の提出を行うことを目的として米議会に設置された超党派諮問機関)の年次報告書(10(平成22)年11月)は、中国は東アジアにおける米空軍の6か所の主要基地のうち5か所を、通常ミサイル(弾道ミサイルおよび陸上発射巡航ミサイル)によって攻撃することが可能であるほか、爆撃機の能力向上によってはグアムの空軍基地をも標的にすることが可能になるなどと指摘している。

21 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(14(平成26)年6月)は、中国が13(同25)年11月時点で、1,000基以上のSRBMを保有していると指摘している。このほか、11(同23)年3月には、台湾の蔡得勝(さい・とくしょう)国家安全局長(当時)は、中国が新型ミサイル「DF-16」を開発・配備しており、同ミサイルが長射程で威力が大きく主に台湾および米軍介入阻止作戦に対して使用される旨発言したと伝えられる。

22 近年では特に、中国国産で最新鋭のユアン級潜水艦を大幅に増強しているとみられる。同艦は静粛性に優れているほか、必要な酸素をあらかじめ搭載することで、浮上などにより酸素を大気中から取り込むことなく、従来より長期間の潜航が可能となる大気非依存型推進(AIP:Air Independent Propulsion)システムを搭載しているとされる。

23 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(14(平成26)年6月)は、空母「遼寧」について、固定翼機の訓練を継続しているとの見方を示しつつ、艦載機部隊が実戦配備されるのは15(同27)年以降とも指摘している。

24 13(平成25)年5月には、中国初の艦載機部隊が正式に創設された旨、報じられた。

25 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(14(平成26)年6月)は、中国が20(同32)年代にかけて複数の国産空母を建造し、初の国産空母は20(同32)年代初めに実戦配備されると思われる旨指摘している。

26 ゲイツ米国防長官(当時)は、11(平成23)年2月の上院軍事委員会での証言において、中国はステルス性能を備えた次世代戦闘機を20(同32)年までに50機、25(同37)年までに200機程度配備する可能性がある、との見方を示している。11(同23)年1月には、J-20の試作機が初の飛行試験に成功した。

27 中国国防部は、13(平成25)年1月26日、中国が自主開発したY-20大型輸送機が試験飛行に初成功し、今後計画に基づいて関連する各種試験や試験飛行を継続すると発表している。

28 「2008年中国の国防」は、中国空軍が「国土防空型から攻防兼備型への転換を加速し、偵察・早期警戒、航空攻撃、防空・ミサイル対処および戦略投射能力を高め、近代化された戦略空軍を建設することに力を入れている」と説明している。また、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)は、中国空軍は引き続き、限定的な領土防衛から、米国およびロシアの空軍をモデルとして、沖合で攻撃および防御の両方の役割で作戦を行うことが可能な、より柔軟性のある有能な戦力への転換を継続している、と指摘している。

29 中国の海軍艦艇による活動としては、たとえば、04(平成16)年11月には、中国の原子力潜水艦が、国際法違反となるわが国の領海内での潜没航行を行っている。また、05(同17)年9月には、東シナ海の樫(中国名「天外天」)ガス田付近を中国のソブレメンヌイ級駆逐艦1隻を含む5隻の艦艇が航行し、その一部が同ガス田の採掘施設を周回したことが確認されている。さらに、06(同18)年10月には、沖縄近海と伝えられる海域において、中国のソン級潜水艦が米空母キティホークの近傍に浮上したが、米空母に外国の潜水艦が接近したことは軍事的に注目すべき事象と考えられる。

30 中国国務院(わが国の内閣に相当)の隷下の公安部「海警」、国土資源部国家海洋局「海監」、農業部漁業局「漁政」、交通運輸部海事局「海巡」、海関総署海上密輸取締警察などが海上における監視活動などを行ってきたが、13(平成25)年3月、「海巡」を除くこれら4つの機関などを統合し、新たな国家海洋局として再編したうえで、同局が公安部の指導のもと、中国海警局の名称により監視活動などを実施する方針などが決定された。同年7月、中国海警局は正式に発足した。また、辺海防委員会が、国務院および中央軍事委員会の指導のもと、これら海上法執行機関および海軍による海洋における活動などについての調整を行っているとされる。なお、13(同25)年1月には、中国は今後5年以内に、36隻の「海洋法執行船」の建造を計画している旨伝えられている。

31 人民解放軍については、平時と戦時の兵力配備を同一化し、従来の活動領域を超えた領域での活動を行うなどして、例外的行為を慣例化・常態化させることにより、相手方の警戒意識の麻痺や国際社会に状況の変化を黙認・受容させることなどを企図している、との見方(2009年版台湾「国防報告書」)がある。

32 たとえば、14(平成26)年2月19日付解放軍報は、近年、中国海軍東海艦隊のある部隊の年平均活動日数が190日を超えている旨報じている。

33 12(平成24)年2月には、わが国の排他的経済水域において海洋調査を行っていた海上保安庁測量船に対して、中国国家海洋局所属の「海監」船2隻が中止要求を行う事案が発生している。同様の事案は、10(同22)年5月および9月にも発生している。

34 I部1章3節脚注30参照

35 11(平成23)年3月7日、中国国家海洋局所属とみられるZ-9ヘリコプターが、東シナ海中部海域において警戒監視中の護衛艦「さみだれ」に対して、水平約70m、高度約40mの距離に接近し周回したほか、同月26日には、護衛艦「いそゆき」に対して、水平約90m、高度約60mの距離に接近し周回するという事案が発生した。また、同年4月1日には、「いそゆき」に対し、同局所属とみられるY-12航空機が、水平約90m、高度約60mの距離に接近し周回した。12(同24)年4月12日には、護衛艦「あさゆき」に対し、同局所属とみられるY-12が水平約50m、高度約50mの距離に接近し周回した。

36 東シナ海資源開発に関しては、いわゆる「2008年6月合意」を実施するための国際約束締結交渉について、10(平成22)年9月に中国側が延期を一方的に発表した。交渉が再開されない中、樫ガス田などにおいては、中国による生産が行われている可能性が高いなどとの指摘がなされている。一方、南シナ海においては、中国国家海洋局が、12(同24)年5月に石油掘削装置「海洋石油981」が初の掘削に成功したと発表している。

37 中国は、海南島南端の三亜市に、原子力潜水艦用の地下トンネルを有する大規模な海軍基地を建設していると伝えられている。中国にとって同基地は、南シナ海のほか、西太平洋へ進出する上での戦略的要衝に位置しており、空母の配備を含め、南海艦隊の主要な基地として整備が進められているとの指摘もある。

38 中国は近年、国連海洋法条約などの独自の解釈を利用しつつ、自国の排他的経済水域における他国の軍事活動の制限を企図した主張を展開しているとの指摘がある。たとえば、中国政府は、「中国の排他的経済水域においては、許可を得ていない如何なる国の、如何なる軍事活動にも反対である」と表明している(10(平成22)年11月26日、外交部声明)。

39 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(11(平成23)年8月)は、中国の国防産業について、造船産業および電子機器分野において特に進展がみられるほか、ミサイルや宇宙システム分野においても技術力を高めているが、対照的に、誘導・制御システムやエンジン、最新のアプリケーション・ソフトウェアといった分野における進展は遅く、これらの技術については依然として海外に大きく依存している旨指摘している。