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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチなど

6 海洋安全保障の確保

国家防衛戦略は、海洋国家であるわが国にとって、自由で開かれた海洋秩序を強化し、航行・飛行の自由や安全を確保することは、わが国の平和と安全にとって必要不可欠であるとしている。

このため、防衛省・自衛隊は、インド太平洋地域の沿岸国と共に、自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)の実現のため、海洋安全保障に関する協力を推進している。

また、シーレーンの安定的利用を確保するため、関係機関との協力・連携のもと、海賊対処や日本関係船舶の安全確保に必要な取組を行っている。

参照I部4章5節(海洋をめぐる動向)

(1)海洋安全保障の確保に向けた取組

ア 政府としての基本的考え方

国家安全保障戦略において、わが国は海洋国家として、同盟国・同志国などと連携し、航行・飛行の自由や安全の確保、法の支配を含む普遍的価値に基づく国際的な海洋秩序の維持・発展に向けた取組を進めることとしている。具体的には、海洋状況監視、共同訓練・演習、海外における寄港などの推進、海賊対処や情報収集活動を行うことを明記している。

さらに、南シナ海などにおける航行および上空飛行の自由の確保、国際法に基づく紛争の平和的解決の推進、シーレーン沿岸国との関係強化、北極海航路の利活用、ジブチにおける拠点の活用などについて取り組むこととしている。

2023年4月に閣議決定された第4期海洋基本計画39においては、引き続き海洋の安全保障の観点から海洋政策を幅広く捉え、「総合的な海洋の安全保障」のための取組を政府一体となって進めることとされた。そのため、わが国自身の努力を主とする「わが国の領海などにおける国益の確保」や同盟国・同志国などとの連携強化を通じた、「国際的な海洋秩序の維持・発展」のために必要な施策を推進することとしている。

また、中国とASEANが策定に向け協議を続けている南シナ海行動規範(COC:Code of Conduct in the South China Sea)に対し、わが国としては、COCが実効的かつ実質的で国連海洋法条約をはじめとする国際法に合致し、南シナ海を利用する全てのステークホルダーの正当な権利と利益を尊重するものとなるべきとの立場を表明している。

イ 防衛省・自衛隊の取組

防衛省・自衛隊は、シーレーンの安定的利用を確保するための海賊対処行動、中東地域における日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動などを行っている。また、国際的な海洋秩序の強化や航行の自由の重要性について、防衛省・自衛隊としても機会を捉えて国際社会に呼びかけており、人類の繁栄に不可欠な海においても「法の支配」を徹底することを一貫して訴えている。特に、東シナ海において、力による一方的な現状変更やその試みが継続していることや、南シナ海を巡る問題においても、全ての当事者が、国連海洋法条約をはじめとする国際法に基づき、紛争の平和的解決に向け努力することの重要性について強調している。

参照1章1節2項7(1)(海賊対処の取組)(2)(中東地域における日本関係船舶の安全確保のための情報収集)

(2)海洋安全保障にかかる協力

第4期海洋基本計画では、「自由で開かれた海洋」の維持・発展に向け、防衛当局間における二国間・多国間の様々なレベルの安全保障対話・防衛交流を活用し、各国との海洋安全保障に関する協力を強化することとされている。

これを受け、防衛省・自衛隊は、ADMMプラスやARF海洋安全保障会期間会合(ISM-MS:Inter Sessional Meeting on Maritime Security)といった地域の安全保障対話の枠組みにおいて、海洋安全保障のための協力に取り組んでおり、2024年から2027年までの間、フィリピンとともに、ADMMプラス海洋安全保障専門家会合の共同議長を務めている。

また、インド太平洋地域沿岸国に対し、海洋安全保障にかかる能力構築支援を行っており40、沿岸国の海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)能力の向上を支援するほか、同盟国・同志国などと海洋安全保障にかかる協力を強化している。

海自は、インド太平洋地域の各国海軍などと連携しつつ、同地域沿岸国の海軍、警察機関などと海洋安全保障にかかる訓練を行っている。特に、太平洋島嶼国は、違法・無報告・無規制(IUU:Illegal, Unreported, Unregulated)漁業41、海上における犯罪などのため、海洋安全保障能力の強化が急務であることから、海自インド太平洋方面派遣(IPD24:Indo-Pacific Deployment)部隊は、一部の訓練で海上保安庁、米国、オーストラリアと連携しつつ、マーシャル、ミクロネシア、パラオ42において海洋安全保障にかかる訓練を実施した。

派遣海賊対処行動水上部隊および航空隊は、海賊対処任務に加え、ジブチに駐留する他国軍との防衛交流を推進しているほか、中東地域沿岸国港湾への寄港や、戦術技量の向上、各国軍との連携強化を目的に、EU海上部隊など43と共同訓練を行っている。

こうした防衛交流・協力を通じたインド太平洋地域沿岸国との連携強化は、海洋安全保障の維持に寄与するものであり、大きな意義がある。

参照1節4項3(関係各国との連携)資料59(多国間共同訓練の参加など(2021年度以降))

39 海洋における施策を総合的かつ計画的に推進するために政府が策定するもので、おおむね5年おきに見直しがなされる。

40 これまで、インドネシア、ベトナム、フィリピン、タイ、ミャンマー、マレーシア、ブルネイ、スリランカに対し、海洋安全保障に関する能力構築支援の取組を行った実績がある。

41 無許可操業、無報告または虚偽報告された操業、無国籍の漁船、地域漁業管理機関非加盟国の漁船による違反操業など、各国の国内法や国際的な操業ルールに従わない漁業活動であり、水産資源の持続可能な利用に対する深刻な脅威、かつ、食料安全保障にも直結する。

42 IPD24部隊は、パラオにおいて、日本の団体が供与したパラオ海上保安機関巡視船(ケダム)と訓練を実施した。マーシャルでは、海上保安庁と連携し、マーシャル海上警察と訓練を実施した。ミクロネシアには同国の海洋安全保障能力の強化に寄与するため、立入検査部隊を空路派遣し、立入検査訓練などを実施した。

43 派遣海賊対処行動水上部隊は、2024年4月にEU海上部隊(イタリア海軍)と、9月、12月には、EU海上部隊(スペイン海軍)と海賊対処共同訓練を行った。