地震や台風などの大規模災害、新型コロナウイルス感染症といった感染症危機などは、国民の生命・身体・財産に対する深刻な脅威であり、わが国として、国の総力をあげて全力で対応していく必要がある。
大規模災害などに際しては、警察、消防、海上保安庁、地方公共団体などの関係機関と緊密に連携して人命救助、応急復旧、生活支援などを行う。
防衛省・自衛隊は、発災当初においては、被害状況の速やかな把握に努め、最優先で人命救助を行う9とともに、地方公共団体、関係省庁などと役割分担、対応方針、活動期間、民間企業の活用などについて調整しつつ、生活支援などを行う。この際、被災により地方公共団体の態勢が整っていない場合には、自衛隊側から「提案型」の支援を行い、その後は地方公共団体のニーズに基づく活動に移行する。また、自衛隊の支援を真に必要としている方々が、支援に関する情報により簡単にアクセスすることができるよう、情報発信についても強化している。
自衛隊が災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部への国民保護・災害対策連絡調整官(事務官)の設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)や相互交流(陸自中部方面隊と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。
2025年3月末現在、全国47都道府県・493市区町村に計690人の退職自衛官が、地方公共団体の防災・危機管理部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、実際の災害対応においてその有効性が確認されている。特に、陸自各方面総監部は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報共有や意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。また、地方公共団体と共に災害対処訓練を行い、災害対処能力の向上に加え、連携強化を図っているほか、災害発生時には、地方公共団体に対して、部隊などから速やかに連絡員を派遣し、地方公共団体と自衛隊との間の調整の円滑化に努めている。
2020年、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策10が閣議決定された。本対策を踏まえ、防衛省は、災害発生時において自衛隊の重要な機能を維持する観点から、自衛隊の飛行場や港湾施設などのインフラ基盤の強化や、自衛隊施設の復旧や活用などに必要な資機材の整備、自衛隊施設の耐震化・老朽化対策について重点的かつ集中的に取り組んでいる。
近年、大規模かつ長期間の災害派遣活動が増えているが、わが国の防衛態勢に影響が出ないように、平素の警戒監視などの任務や練度の維持・向上のため、訓練・演習についても滞りなく行っていくことが重要である。
このため、災害が発生した場合、防衛省・自衛隊は人命救助活動などに自衛隊の有する能力を最大限に活用し、全力で対応するが、生活支援などの活動については、地方公共団体や関係省庁などと対応方針や役割分担、民間企業の活用などの調整を行い、適切な態勢や規模、期間で活動することとしており、今後も、わが国を防衛する態勢を確保しつつ、適切に災害派遣活動を行っていく。
資料:災害派遣について
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/index.html
資料:防衛省・自衛隊(災害対策)X
URL:https://x.com/ModJapan_saigai
防衛省・自衛隊は、中央防災会議11で想定している首都直下地震、南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震といった大規模地震や津波が発生した際に、迅速かつ組織的に災害派遣を行えるよう、必要な計画を策定している。
2024年1月1日、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生したことに伴い、防衛省・自衛隊は、石川県知事と富山県知事からの災害派遣要請を受けて、人命救助などの災害派遣活動を行った12。同月2日には、陸自中部方面総監を指揮官とする統合任務部隊を編成し、最大時は約14,000名態勢で活動を行った。本活動においては、人命救助のほか、衛生支援、輸送支援、給食支援、給水支援、入浴支援や、車両などを通行させるための道路啓開(けいかい)などを行った。この際、避難所などの訪問による被災者の要望の把握や、PFI(Private Finance Initiative)船舶を活用した休養施設の運営など、被災者に寄り添うことに留意したきめ細かな活動を行った。また、予備自衛官と即応予備自衛官を招集し、約200名が生活支援や衛生支援の活動に従事した。さらに、在日米軍に支援を要請し、航空機による支援物資の輸送支援を受けた。
入浴支援活動(石川県珠洲市)(2024年4月)
防衛省・自衛隊は、同年2月2日に統合任務部隊から陸自中部方面隊を中心とした態勢に移行し、同年8月31日に活動を終了した(富山県における活動は同年1月9日に終了)。(①活動人員(のべ1,140,000名)、②物資輸送(食料品約430万食、飲料水約230万本)、③給食支援(約26万食)、④給水支援(約6,400t)、⑤入浴支援(約50万人))
ア 石川県能登半島における大雨にかかる災害派遣
2024年9月21日、秋雨前線や線状降水帯などの影響により、石川県の能登半島を中心に記録的な大雨が発生し、輪島市、珠洲(すず)市、能登町に大雨特別警報が発表された。この大雨により河川の氾濫や土砂災害が発生したため、石川県知事からの災害派遣要請を受けて、陸自と空自が、最大時は約1,400名態勢で人命救助、道路啓開、物資輸送、給水支援などの活動を行った。同年10月、輪島市と能登町での活動が終了し、同年12月15日、珠洲市において継続していた入浴支援活動を含む全ての活動を終了した。(人員のべ約26,000名、車両のべ約960両、航空機のべ約120機)
行方不明者捜索(石川県能登町)(2024年9月)
イ 山形県酒田市および最上郡戸沢村などにおける大雨にかかる災害派遣
2024年7月25日、山形県において大雨の影響により河川が氾濫するなどの被害が発生し、山形県知事からの災害派遣要請を受け、山形県酒田市や戸沢村などにおいて、陸自と空自が人命救助活動などを行った。(人員のべ約2,300名、車両のべ約420両、航空機のべ約10機)
人命救助活動(山形県酒田市)
2024年8月28日、愛知県蒲郡市において発生した土砂災害に対し、愛知県知事からの災害派遣要請を受け、陸自が人命救助活動などを行った。(人員のべ約100名)
また、同年10月23日、宮崎県延岡市において発生した土砂災害に対し、宮崎県知事からの災害派遣要請を受け、陸自が人命救助活動などを行った。(人員のべ約510名)
人命救助活動(愛知県蒲郡市)
2024年4月から2025年3月末までの間に発生した鳥インフルエンザ対応のうち、自治体のみで対応ができなかったものについて、自衛隊は6県(岩手県、新潟県、茨城県、千葉県、愛知県、島根県)において、各知事からの災害派遣要請を受け、陸自により鳥インフルエンザの発生鶏舎などにおける殺処分支援を行った。(全ての活動をあわせて人員のべ約6,500名)
鳥インフルエンザの発生における殺処分支援(千葉県銚子市)(2025年1月)
2024年4月から2025年3月末までの間に発生した林野火災のうち、自治体による消火活動で鎮火できなかったものについて、自衛隊は14都道県(北海道、岩手県、山形県、群馬県、山梨県、東京都(伊豆大島)、長野県、奈良県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県、宮崎県、鹿児島県(硫黄島))において、各知事からの災害派遣要請を受け、陸自や空自のヘリコプターにより空中消火活動などを行った。特に、2025年2月に発生した岩手県大船渡市における林野火災においては、平成以降最大規模の延焼範囲となるなか、自衛隊は自治体や消防と緊密に連携して対応し、陸自と空自の航空機のべ約70機が活動して、空中消火活動などを行った。(全ての活動をあわせて人員のべ約8,800名、車両のべ約1,100両、航空機のべ約400機)
林野火災における空中消火活動(岩手県大船渡市)
自衛隊は、医療施設が不足している地域の救急患者をヘリコプターなどの航空機で輸送(緊急患者空輸)している。2024年度は災害派遣総数377件のうち、318件が救急患者の輸送(急患輸送)であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などでの活動が大半を占めている。
空自航空機による救急患者の輸送(北海道奥尻町)(2024年4月)
防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、原子力災害対処にかかる計画を策定している。また、国、地方公共団体、原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、地方公共団体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。
9 自衛隊は、災害派遣を迅速に行うため、全国の駐屯地などに初動対処部隊(FAST-FORCE(ファスト・フォース)と呼称)を、常時即応できる態勢で待機させている。
10 気候変動の影響による気象災害の激甚化・頻発化、南海トラフ地震などの大規模地震の切迫、高度成長期以降に集中的に整備されたインフラの老朽化を踏まえ、防災・減災、国土強靱化の取組の加速化・深化を図る必要があり、また、国土強靱化の施策を効率的に進めるためにはデジタル技術の活用などが不可欠である。このため、激甚化する風水害や切迫する大規模地震などへの対策、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策の加速、国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化などの推進の各分野について、さらなる加速化・深化を図ることとし、2025年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模などを定め、重点的・集中的に対策を講ずることとしている。
11 内閣府におかれる会議の一つとして、内閣総理大臣をはじめとする全閣僚、指定公共機関の代表者と学識経験者により構成されており、防災基本計画の作成や、防災に関する重要事項の審議などを行っている。
12 石川県知事からの災害派遣要請は2024年1月1日。富山県知事からの災害派遣要請は同月4日。