防衛省・自衛隊は、2027年度までの最優先課題の一つとして、持続性・強靱性を挙げており、具体的には、弾薬・燃料の確保、装備品の可動数の向上、防衛施設の強靱化を加速させるとしている。自衛隊の弾薬や燃料の数量、装備品の可動数などは、敵の攻撃や侵攻を阻止し、粘り強く戦い続けるという継戦能力を示すものである。わが国を守り抜くためには継戦能力を充実させる必要があるが、現在の自衛隊の継戦能力は必ずしも十分ではない。このため、防衛省・自衛隊は、弾薬の生産能力の向上や火薬庫の整備を進め、必要十分な弾薬を早急に確保するとともに、燃料についても必要十分な量を確保していく。また、定期整備などを行っている装備品以外は全て可動できる体制を早急に確立する。
また、自衛隊員の安全を確保し、有事において作戦能力を容易に喪失しないよう、主要司令部などの地下化や構造強化、施設の離隔距離の確保、施設の集約化を行うとともに、隊舎・宿舎の整備や老朽化対策を行う。さらに、装備品の隠ぺいや欺まんなどを図り、抗たん性を向上させるほか、津波などの災害に対する施設やインフラの強靱化も推進する。
自衛隊は、小銃や拳銃の銃弾、戦車や火砲の砲弾、戦闘機や艦艇のミサイルなど多種多様な弾薬を保有している。
しかしながら、近年は、弾薬にかかる技術や性能が高度化して価格が上昇するなどにより、弾薬の十分な確保に影響を及ぼしている。また、受注減などの影響により、弾薬製造企業が事業から撤退し、撤退した企業の部品を代替企業が製造したが、当初、製造期間の長期化や製造コストの上昇が発生し、弾薬確保がさらに困難なものとなる事例も発生していた。
このほか、火薬庫の整備に時間が掛かることに加え、ミサイルなどの大型化などにより、既存の火薬庫の容積が不足するという問題もある。
このような状況を踏まえ、国家防衛戦略では、2027年度までに弾薬の不足を解消することとしている。防衛省・自衛隊は、優先度の高いスタンド・オフ・ミサイルとして、12式地対艦誘導弾能力向上型のミサイルの取得を2023年度から開始するとともに、トマホークは当初の予定よりも1年前倒して2025年度から取得を開始する。また、統合防空ミサイル防衛能力を強化するためのミサイルとして、陸自03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上型、海自イージス艦に搭載するSM-3ブロックIIAやSM-6、空自ペトリオットが運用するPAC-3MSEなども必要な数量を早期に取得するほか、銃弾や砲弾、その他のミサイルなども必要な数量を早期に確保していく。
加えて、早期かつ安定的に弾薬を確保するため、弾薬の製造企業などの防衛産業による国内製造態勢の拡充などを後押しするほか、弾薬の大型化や保管場所の確保に対応するため、火薬庫の増設や不用となった弾薬の廃棄を促進させる。
参照図表III-1-2-16(主要なミサイルと火薬庫)、1項(スタンド・オフ防衛能力の強化)
自衛隊の作戦や行動に必要な燃料を早期かつ安定的に確保するため、燃料タンクの整備や民間の燃料タンクの借り上げを行うこととしている。例えば、海自においては、燃料の使用実績や既設タンクの容量などを基準として段階的に燃料タンクの整備を行っているほか、艦船用燃料の確保を補完する措置として、年間を通じて燃料の保管や受払業務ができる民間の燃料タンクも借り上げていく。
自衛隊の装備品は、一般的に民生品の使用条件よりも過酷な状況で使用することから、頻繁な整備や部品交換が発生するという特性をもっている。このため、予備の部品を一定数保有しておく必要がある。
一方、装備品の高性能化などに伴い、部品の調達単価や整備費用が上昇しており、維持整備予算も増加させてきているが、必ずしも十分ではなかったことから、部品不足により装備品が非可動となる状況も発生している。また、一部の装備品では、可動状態にない同じ装備品から部品を取り外し、転用して整備を実施しており、部品の取り外しと取り付けとで、通常の部品交換の2倍の作業量が必要となり、部隊に過度な負担を強いる状況にもなっている。このため、引き続き維持整備費を大幅に確保し、部品不足による非可動を解消して、2027年度までに装備品の可動数を最大にすることとしている。
ア 部品の確保
部品の確保については、装備品の高性能化などに対応しつつ、リードタイム(部品の納入までの期間)を考慮した部品費と修理費の確保により、部品不足による非可動を解消していく。このため、例えば部品の需要量をAIにより見積もる機能を補給管理システムに付加するなど、需給予測を精緻化し、部品の適正在庫を確保するほか、主要な補給倉庫を自動化・省人化、システム化することにより、正確な在庫管理を可能とし、部隊のニーズに応じて迅速に部品を供給することとしている。
イ 部外委託の推進
装備品の可動数を増やすにあたり、限られた資源を有効に活用するため、装備品の維持整備を部外委託するなど、部外力を活用している。
一部の装備品においては、維持整備計画の分析や、必要なデータ収集などを行い、検査や整備項目の削減を目指す部外委託の取組を行っており、より効率的な維持整備のための取組を推進している。これらの取組により、維持整備業務に従事する隊員や部隊の負担を軽減しつつ、装備品の可動数の向上を図っていく。
ウ デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)の導入
各種業務を効率的に実施していくためには、最新のデジタル基盤を導入するなどのデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、業務のあり方を大きく変革していく必要がある。このため、防衛省・自衛隊は、後方支援分野において、DXの導入を推進し、装備品の維持整備の最適化を図っていく。具体的には、AIを活用した補給管理システムを導入するほか、部品などの在庫状況をより一層適切に把握するため、電波によりIC(Integrated Circuit)タグの情報を非接触で読み書きする自動認証技術(RFID:Radio Frequency IDentification)や、装備品の部品などを応急的に製造するための3Dプリンターについて、実証試験の成果も踏まえ、その導入を図ることにより、在庫管理などの効率化を進め、維持整備体制を最適化していく。
エ PBL(Performance Based Logistics)33などの包括契約の拡大
2012年度から航空機を対象としたPBL契約を締結していたが、2021年度には艦船用ガスタービン機関のPBL契約を締結するなど、対象範囲を拡大している。効果的・効率的な維持整備を実現するために費用対効果を検証しつつ、装備品の可動数の向上につながるPBLの適用対象の拡大に取り組んでいく。
自衛隊施設は築年数が古いものが多く、施設の約4割が旧耐震基準で建設されているため、隊員の安全を確保し、有事においても容易に機能を失わないよう整備する必要がある。このため、駐屯地や基地などの全体(283地区)が保有する20,000棟以上の自衛隊施設を調査し、建替えなどの整備計画(マスタープラン(MP:Master Plan))を作成して、優先順位を付けながら施設の建替えなどを効率的に進めている。
このほか、災害対策として、浸水防止対策、斜面崩壊34防止対策なども進めている。
また、火薬庫の整備のほか、装備品の運用に必要な施設などを分散して配置することや、施設が被害を受けた際の復旧や代替措置など、強靱性を向上させるための各種取組を行っていく。
さらに、自衛隊施設の整備のみならず、在日米軍が使用する提供施設の整備を含む施設整備予算を適切に執行するため、2024年度に防衛省内部部局に建設制度官を新設し、より一層の入札・契約制度の適正化を図っている。
参照図表III-1-2-17(分散パッド(イメージ))、V部2章1節4(防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策)
スタンド・オフ・ミサイルをはじめとする各種弾薬の取得を推進するにあたって、必要な火薬庫を整備することとしており、陸・海・空自の火薬庫の協同運用や米軍の火薬庫の共同使用、抗たん性の確保の観点から各種弾薬の島嶼部への分散配置などにより、火薬庫の整備を促進していく。
主要な装備品、司令部などを防護し、粘り強く戦う態勢を確保するため、主要司令部などについては、地下化や構造強化、電力線などにフィルターを設置するなどの電磁パルス(EMP:Electro Magnetic Pulse)攻撃対策などを行う。また、戦闘機を分散して配置するための分散パッドや、格納庫のえん体35化などの整備を進める。
また、施設の建替えに際しては、爆発物、化学・生物・放射性物質・核(CBRN:Chemical, Biological, Radiological and Nuclear)兵器、電磁波、ゲリラ攻撃などに対する防護性能を付与するものとし、施設の機能や重要度に応じ、構造強化や安全性を考慮した施設間の離隔距離の確保、施設の集約化などを老朽化対策と合わせて行うことで、施設の機能が十分に発揮できるようにする。電気、水道などのライフラインについても、施設の建替えなどに合わせて多重化や老朽更新を図っていく。あわせて、基地警備についても省人化を図りつつ、ドローン対処器材の導入などにより基地警備機能を強化するなど、自衛隊施設の抗たん性を向上させていく。
大規模災害時などにおける自衛隊施設の被災による機能低下を防ぐため、被害が想定される駐屯地や基地などにおいて、津波などの災害対策を推進している。具体的には、受変電設備の高所化や出入り口の止水板の設置などを行っている。また、気候変動に伴う各種課題にも対応しつつ、駐屯地や基地の施設などの強靱化を進めていく。
部隊新編や新規装備品導入に必要となる施設の整備として、陸自は、2025年度に輸送航空隊が移駐する佐賀駐屯地(仮称)を新設するほか、海自は、大型護衛艦などを係留するための佐世保(崎辺東地区)の施設整備を行い、空自は、小松基地(石川県)のF-35A戦闘機の受入施設や新田原基地(宮崎県)のF-35B戦闘機の受入施設、北大東島(沖縄県)の移動式警戒管制レーダーなどの受入施設の整備を行っていく。
参照図表III-1-2-18(移動式警戒管制レーダー受入施設(北大東島)(イメージ))