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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチなど

6 機動展開能力の強化と国民保護の取組など

1 基本的考え方

海に囲まれ長大な海岸線を持ち、本土から離れた多くの島嶼を有するわが国の地理的特性を踏まえると、わが国に対して侵攻があった場合は、平素から地域に配備している部隊だけが対処するのではなく、状況に応じて必要な部隊(人員、装備品、補給品など)を迅速に機動展開させ、侵攻する部隊の接近や上陸を阻止する必要がある。

このため、自衛隊の海上・航空輸送力を強化するとともに、民間資金等活用事業(PFI:Private Finance Initiative)などの民間輸送力も最大限活用することにより機動展開能力を強化する。

また、機動展開能力の強化を進めつつ、わが国への侵攻があった場合に速やかに対処する態勢も保持する必要があることから、特に南西地域において必要な部隊の配備を進め、防衛体制を強化するほか、自衛隊の輸送や補給などをより円滑に行えるよう、統合による後方補給態勢を強化するとともに、特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や、全国の補給処などの改修を積極的に推進していく。

さらに、自衛隊は、強化した機動展開能力を住民避難に活用するなど、国民保護の取組についても行っていく。

参照3節2項(公共インフラ整備)

2 防衛省・自衛隊の取組
(1)機動展開能力の強化

防衛省・自衛隊は、輸送船舶、輸送機、輸送ヘリコプターなどを取得し、自衛隊自身の海上輸送力や航空輸送力を強化する。このため、2024年度は、陸自と空自はCH-47輸送ヘリコプターなどを取得するために予算を計上した。また、南西地域への機動展開能力を向上させるため、2025年3月、海自呉地区(広島県)において、陸・海・空自の共同の部隊として自衛隊海上輸送群を新編し、2隻の輸送船舶を配備した。2025年度は、輸送船舶やヘリコプターの取得を引き続き推進するとともに、空自はKC-46A空中給油・輸送機を取得することとしている。

PFIについても、自衛隊の海上輸送力を補うため、車両やコンテナを大量に輸送できる民間船舶を確保し、活用していく。

(2)南西地域を含む防衛体制の強化

防衛省・自衛隊は、南西地域の防衛体制強化のため、九州・南西地域における部隊の配備を進めてきた。特に陸自は、与那国島(沖縄県)、宮古島(沖縄県)、奄美大島(鹿児島県)、石垣島(沖縄県)に駐屯地を新設し、沿岸監視隊、警備隊、地対艦誘導弾部隊、地対空誘導弾部隊などを配備してきた。

また、陸自は、2025年3月、湯布院駐屯地(大分県)に第8地対艦ミサイル連隊を新編したほか、同年7月には、長崎県佐世保市などに所在する水陸機動団とV-22(オスプレイ)を一体的に運用できる体制を構築するため、佐賀空港(佐賀県)に隣接する佐賀駐屯地(仮称)を開設し、木更津駐屯地(千葉県)に暫定配備しているオスプレイを運用する輸送航空隊を移駐する予定である。

新編した第8地対艦ミサイル連隊(2025年3月)

新編した第8地対艦ミサイル連隊(2025年3月)

今後、陸自は、南西地域の防衛体制を強化するため、沖縄県に所在する第15旅団の師団への改編や、南西地域において補給処支処の新編などを予定している。

空自は、2025年3月、新田原基地(宮崎県)に臨時F-35B飛行隊を新設したほか、太平洋側の島嶼部に隙のない情報収集・警戒監視態勢を構築するため、北大東島(沖縄県)への移動式警戒管制レーダーなどの配備を進めていくこととしている。

南西地域以外について、海自は、2025年3月に、北方から太平洋にかけての沿岸の警戒監視任務をより迅速かつ効率的に行うため、大湊警備区を横須賀警備区に統合するとともに、大湊地区において引き続き後方支援や地元自治体との連絡調整、災害派遣などを行う大湊地区隊を横須賀地方隊の隷下に新編した。2025年度においては、陸自は、輸送を含む後方支援体制を強化するため、補給統制本部を改編して各補給処を一元的に指揮監督する補給本部を新編するほか、後方支援体制の強化の一環として、武器学校、需品学校および輸送学校を廃止して後方支援学校(仮称)を新編する。また、海自は、護衛艦隊、掃海隊群などの水上艦艇部隊を一元的に指揮監督する体制とするため、水上艦隊を新編する予定である。

大湊地区隊新編行事における金子防衛大臣政務官(2025年3月)

大湊地区隊新編行事における金子防衛大臣政務官(2025年3月)

参照図表III-1-2-14(九州・南西地域における主要部隊新編状況(2016年以降))

図表III-1-2-14 九州・南西地域における主要部隊新編状況(2016年以降)

(3)国民保護の取組

ア 政府の取組

度重なる北朝鮮による弾道ミサイルなどの発射、特に日本列島越えの弾道ミサイル発射に伴うJアラートの発出などにより、国民保護の取組への関心や、防衛省・自衛隊の役割に対する期待が高まっている。国民保護は国家防衛戦略における防衛力の抜本的強化の柱の一つであることから、防衛省・自衛隊としても、積極的に取り組んでいくこととしている。

2005年、政府は、国民保護法第32条に基づき、国民の保護に関する基本指針を策定した。この基本指針においては、武力攻撃事態の想定を、①着上陸侵攻、②ゲリラや特殊部隊による攻撃、③弾道ミサイル攻撃、④航空攻撃の4つの類型に整理し、その類型に応じた国民保護措置を行うにあたっての留意事項を定めている。

なお、弾道ミサイルなどによる武力攻撃事態から住民の生命、身体を保護するため必要な機能を備えた避難施設の整備は、被害を防止するための措置であるとともに、弾道ミサイル攻撃などに対する抑止にもつながる観点も踏まえ、政府で検討を行っている。2024年3月、政府は、輸送手段に大きな制約があり、かつ、避難先地域が遠距離にあるといった避難の困難性などがある地域では、一定期間避難可能で堅ろうな避難施設としての「特定臨時避難施設32」を整備するなど、必要な避難施設を確保する取組の基本的考え方を示すとともに、特定臨時避難施設が備えるべき技術的な仕様などを規定した「特定臨時避難施設の技術ガイドライン」を策定した。

武力攻撃などが発生した場合、国民の命を守りながらわが国への侵攻に対処するにあたっては、国の行政機関、地方公共団体、公共機関、民間事業者が協力・連携して統合的に取り組む必要がある。

政府としては、武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民を速やかに避難させるため、円滑な避難に関する計画の速やかな策定、官民の輸送手段の確保、空港・港湾などの公共インフラの整備と利用調整、様々な種類の避難施設の確保、国際機関との連携などを行うこととしている。また、こうした取組の実効性を高めるため、住民避難などの各種訓練の実施と検証を行ったうえで、国、地方公共団体、指定公共機関などとの連携を推進しつつ、制度面を含む必要な施策の検討を行うこととしている。

防衛省・自衛隊としては、これらの施策への参画や協力に加え、自衛隊が使用する民間船舶・航空機や自衛隊の各種輸送アセットを利用した国民保護措置を計画的に行えるよう調整・協力することとしているほか、国民保護にも対応できるように、自衛隊の部隊の強化、予備自衛官の活用などの各種施策を推進している。

参照図表III-1-2-15(弾道ミサイル飛来時の行動について(リーフレット))

図表III-1-2-15 弾道ミサイル飛来時の行動について(リーフレット)

イ 防衛省・自衛隊の取組

防衛省・自衛隊は、国民保護措置として、警察、消防、海上保安庁など様々な関係省庁と連携しつつ、被害状況の確認、人命救助、住民避難の支援などを行うこととしている。

この国民保護措置の的確かつ迅速な実施のためには、平素から関係機関と連携態勢を構築しておくことが必須であり、防衛省・自衛隊として地方公共団体などとの平素からの連携を深めるとともに、政府全体として武力攻撃事態などを念頭に置いた国民保護訓練を強化することとしている。

具体的な取組としては、地方公共団体などとの連携のため、陸・海・空自の主要な総監部、司令部、自衛隊地方協力本部などに、平素から緊密な連絡調整を担当する部署を設置し、国民保護専門官(事務官)などを配置している。

また、国民保護措置に関する施策を総合的に推進するため、都道府県や市町村に国民保護協議会が設置されており、各自衛隊に所属する者や地方防衛局に所属する職員が委員に任命されている。加えて、地方公共団体は、退職自衛官を危機管理監などとして採用し、防衛省・自衛隊との連携や、国民保護訓練などの企画や実施に活用している。

さらに、防衛省・自衛隊は、関係省庁の協力のもと、地方公共団体などの参加も得て国民保護訓練を主催しているほか、関係省庁や地方公共団体が行う国民保護訓練にも積極的に参加し、協力している。

令和6年度鳥取県国民保護共同実動・図上訓練において地方公共団体などと調整する自衛官(2024年11月)

令和6年度鳥取県国民保護共同実動・図上訓練において地方公共団体などと調整する自衛官(2024年11月)

参照資料17(国民保護にかかる国と地方公共団体との共同訓練への防衛省・自衛隊の参加状況(2024年度))

32 ①住民などが広域避難を行う場合に、輸送手段が航空機または船舶に限られるとともに、避難先地域が遠距離にあるために船舶での輸送時には沿海区域を越えた避難が必要な離島に所在するといった、避難の困難性がある、②全ての住民などの広域避難を想定した避難実施要領のパターンについて、作成・公表を行うとともに、当該避難実施要領のパターンを活用して、国と都道府県が共同で行う国民保護訓練を実施している、という2つの要件を満たす市町村において、市町村が、国の財政措置を受けて、公共・公用施設の地下(平素は会議室、駐車場などの避難施設以外の用途に利用)に整備することとされている。