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第V部 防衛力を維持・強化するために必要な基盤や取組

4 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策

1 防衛施設6の特徴と周辺地域との調和関連事業
(1)周辺対策事業など

防衛施設は、用途が多岐にわたり、広大な土地を必要とするものが多い。また、日米共同の訓練・演習の多様性・効率性を高めるため、2025年1月1日現在、在日米軍施設・区域(専用施設)の土地面積のうち約29%、76の専用施設のうち30施設を日米地位協定に基づき自衛隊が共同使用している。一方、多くの防衛施設の周辺地域で都市化が進み、防衛施設の設置や運用が制約されるという問題が生じているほか、航空機の頻繁な離着陸による騒音などが、周辺地域の生活環境に影響を及ぼすという問題もある。

防衛施設は、わが国の防衛力と日米安全保障体制を支える基盤として欠くことのできないものであり、その機能を十分に発揮させるためには、防衛施設と周辺地域との調和を図り、地域住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態に維持することが必要である。

このため、防衛省はこれまで、環境整備法7などに基づき、自衛隊や米軍の活動あるいは飛行場をはじめとする防衛施設の設置や運用により、その周辺地域において生じる航空機騒音などの障害を緩和するなどの措置を講じてきた。例えば、公共施設や農業・漁業用施設などの民生安定施設8の整備に対する補助や、生活環境などに及ぼす影響が特に著しい防衛施設の周辺自治体に対する特定防衛施設9周辺整備調整交付金の交付などを行っている。なお、特定防衛施設周辺整備調整交付金については、施設整備だけでなく、医療費助成などのいわゆるソフト事業にも活用されている。

民生安定施設助成事業で整備された道路「喜友名(きゆな)23号線」(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)

民生安定施設助成事業で整備された道路「喜友名(きゆな)23号線」(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)

2023年には、特定防衛施設の運用の態様やそれに伴う周辺地域への影響にきめ細かく対応するために、特定防衛施設周辺整備調整交付金の算定における評価事項を見直すとともに、訓練の多様化などを踏まえて、特定防衛施設以外の防衛施設などにおける自衛隊や米軍などの訓練を対象とする訓練交付金を創設した。

その後も、民生安定施設の助成内容を拡充するなど、自衛隊などの運用や地域への影響といった実状を踏まえた制度の改正を行っており、防衛施設と周辺地域との調和を図るために、地元からの要望などを踏まえ、より実態に即した効果的かつ効率的な施策を引き続き検討している。

参照図表V-2-1-2(自衛隊施設(土地)の状況)、図表V-2-1-3(在日米軍施設・区域(専用施設)の状況)、図表V-2-1-4(在日米軍施設・区域(専用施設)の自衛隊との共同使用状況)、図表V-2-1-5(2025年度基地周辺対策費(契約ベース))、資料75(在日米軍施設・区域(共同使用施設を含む。)別一覧)

図表V-2-1-2 自衛隊施設(土地)の状況

図表V-2-1-3 在日米軍施設・区域(専用施設)の状況

図表V-2-1-4 在日米軍施設・区域(専用施設)の自衛隊との共同使用状況

図表V-2-1-5 2025年度基地周辺対策費(契約ベース)

(2)在日米軍再編を促進するための交付金など

再編交付金10は、在日米軍の再編が行われる前後の期間において、地域住民の生活の利便性向上や産業の振興に寄与する事業11の経費にあてるため、防衛大臣が再編関連特定防衛施設と再編関連特定周辺市町村を指定した後、在日米軍の再編に向けた措置の進み具合などに応じて交付されるものである。

2025年4月現在、7防衛施設11市町村が再編交付金の交付対象となっている。そのほか、在日米軍再編を促進するため、予算措置による追加的な施策も行っている。

参照資料76(防衛施設と周辺地域との調和を図るための主な施策の概要)

(3)その他の措置

ア 漁業補償

防衛省は、自衛隊または在日米軍が海などの水面を使用して行う訓練などに際し、法律または契約により漁業を制限する水域を設定するとともに、これに伴う損失を補償している。

イ 基地交付金など

防衛省は、防衛施設に関する総務省所管の交付金の制度である国有提供施設等所在市町村助成交付金(基地交付金)や施設等所在市町村調整交付金(調整交付金)についても、情報提供などの協力を行っている。

基地交付金は、米軍や自衛隊が使用する飛行場などの施設が市町村の財政に著しい影響を与えていることから、固定資産税の代替的なものとして市町村に対して交付されるものである。

調整交付金は、米軍の資産に対する固定資産税や、米軍の軍人などの市町村民税などが非課税であることから、市町村に対して交付されるものである。

2 在日米軍の駐留に関する理解と協力を得るための取組

わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増すなか、在日米軍のプレゼンスとその即応性の維持は、わが国の安全を確保するうえで極めて重要な要素である。在日米軍が安定して駐留するためには、米軍施設周辺の地方公共団体や地域住民の理解と協力を得ることが不可欠であることから、様々な取組を行っていく必要がある。

(1)在日米軍の部隊運用に関する地方公共団体などとの調整

防衛省では、在日米軍再編や在日米軍の訓練、部隊の展開、新規装備品の配備などに際し、関係する地方公共団体や地域住民に対して事前に説明するなど、在日米軍施設の維持や部隊運用に対する地元の理解の促進に努めている。

在日米軍においても、2024年11月、嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会(三連協)を構成する沖縄県の各市町長(沖縄市、嘉手納町(かでなちょう)、北谷町(ちゃたんちょう))に対し、第18航空団司令官(嘉手納)が、新たに導入した嘉手納飛行場における航空機の騒音軽減対策について説明するなど、地元の理解の促進に努めている。

(2)地域住民の安全確保など

在日米軍の活動にあたっては、地域住民の安全確保が大前提である。政府としては、首脳や閣僚レベルを含め、米側に対し、わが国の考え方をしっかり伝え、日米両国で協力して、地域住民の安全確保を最優先に取り組んでいる。

防衛省は、米軍機の墜落、部品落下・遺失などが発生した際には、米側に対し、速やかな情報提供、安全管理や再発防止の徹底などを求め、得られた情報は直ちに関係自治体などに説明しているほか、生じた被害が迅速かつ適切に補償されるよう措置している。

また、日米両国は、米軍機が日本国内の米軍施設・区域の外で墜落などした場合に備え、航空機事故に関するガイドライン12を定め、迅速かつ的確に対応することとしている。

さらに、米軍人などによる飲酒に起因する事件・事故については、防衛省は、米側に対して、あらゆる機会を通じて、綱紀粛正や再発防止、隊員教育の徹底を申し入れている。

在日米軍は、夜間外出規制措置などを含む勤務時間外行動の指針(リバティ制度)を見直し、全軍種の軍人に対し公共の場での飲酒制限を設けるなどの対策を行っている。米側において、こうした措置が着実に実行され、事件・事故の再発防止につながることが重要である。

(3)米軍オスプレイの墜落事故

2023年11月、屋久島沖合において、米空軍CV-22(オスプレイ)が墜落し、乗員8名が死亡した。

その後、2024年3月のオスプレイの運用再開と同年8月の事故調査報告書の公表に際して、防衛省は、事故原因と原因に対応した各種の安全対策を講じることで、同様の事故を予防し、対処することができるといった点について、30以上の自治体を直接訪問して説明するなど、丁寧な説明や適切な情報提供を行い、地域の方々の不安や懸念の払しょくに努めている。

参照III部2章5節2項7(2)(MV-22(オスプレイ)などの訓練移転)資料34(米軍オスプレイのわが国への配備の経緯)

(4)在日米軍と地域住民の交流の促進

防衛省では、日米の相互理解を深める取組として、地方公共団体と米軍の理解と協力を得ながら、在日米軍施設・区域周辺の住民と米軍関係者がスポーツ、音楽、文化などを通じて交流を行う日米交流事業を開催している。

また、在日米軍においても、基地の開放(フレンドシップデー)やホームページ・SNS(Social Networking Service)を活用した情報発信など、地域の方々との相互理解を深めるための取組を行っている。

在日米軍と地域住民の交流(沖縄アリーナ合同コンサート)(沖縄県沖縄市)(2024年9月)

在日米軍と地域住民の交流(沖縄アリーナ合同コンサート)(沖縄県沖縄市)(2024年9月)

6 防衛施設は、自衛隊施設と在日米軍施設・区域に分けられる。用途としては、演習場、飛行場、港湾などがある。

7 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律

8 公園、道路、体育館、公民館、ごみ・し尿処理施設などの生活環境施設や、農業用、漁業用施設などの事業経営の安定に寄与する施設。

9 ジェット機が離発着する飛行場や、砲撃が行われる演習場、港湾など、その設置または運用が周辺地域の生活環境や開発に著しい影響を及ぼしている防衛施設。

10 令和7(2025)年度予算では約54億円。

11 具体的な事業の範囲は、駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法施行令第2条において、教育、スポーツおよび文化の振興に関する事業など、14事業が規定されている。

12 日本国内における合衆国軍隊の使用する施設・区域外での合衆国軍用航空機事故に関するガイドライン