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第III部 わが国の防衛のための取組

6 東南アジア諸国との防衛協力・交流

東南アジア諸国は、わが国と中東地域や欧州地域とを結ぶ海上交通の要衝を占める地域に位置するとともに、わが国と密接な経済関係を有している伝統的なパートナーである。東南アジア諸国との安全保障上の諸問題に対する信頼・協力関係を増進させることは、わが国と東南アジア諸国の双方にとって有意義である。また、東南アジア諸国は、ADMMプラスやARFのメンバー国であり、アジア太平洋地域の安全保障環境を安定化させる観点から、多国間の枠組みでの協力を見据え、各国との信頼・協力関係を構築することがきわめて重要である。

特に、インドネシア、ベトナム、シンガポールおよびフィリピンに加え、タイおよびカンボジアとは様々なレベルにおいて、防衛協力・交流のあり方、地域における安全保障協力の枠組みに関する意見交換を活発に行っている。また、防衛当局者間の協議、部隊間交流や留学生の派遣・受け入れなども積極的に行っている。さらに、ミャンマー、ラオス、マレーシアおよびブルネイとの関係強化にも取り組んでいる。

日ASEAN友好協力40周年となった13(平成25)年、安倍内閣総理大臣は対ASEAN外交5原則2を発表するとともに、ASEAN全10か国を訪問した。また、防衛省としても、能力構築支援をはじめとする様々なレベル・分野における協力・交流事業を実施し、わが国とASEAN諸国とのさらなる関係の強化・深化を図っている。

1 インドネシア

インドネシアは、東南アジア全体の約4割の国土と人口を有し、世界最大の島嶼国家であるとともに、この地域の大国であり、密接な防衛交流・協力を行っている。特に、11(同23)年6月の日インドネシア首脳会談では、「戦略的パートナーシップ」をより強化するため、防衛大臣間協議の定期開催で合意し、同年6月および13(同25)年6月のシャングリラ会合において、日インドネシア防衛相会談を行い、「戦略的パートナーシップ」に基づき、今後も、防衛分野における協力を進めていくことで一致した。同年11月には、武田防衛副大臣がシャフリー国防副大臣と会談した。また、同年12月の日インドネシア首脳会談において、「日インドネシア外務・防衛担当閣僚会合」の開催について合意した。さらに、14(同26)年4月、若宮防衛大臣政務官がインドネシアを訪問し、国防副大臣およびASEAN事務総長と会談を行った。また、実務レベルにおいても11(同23)年11月から開始された外務・防衛当局間協議、防衛当局間協議、各種教育・研究交流など知識・経験の共有に関して実績が積み重ねられている。

さらに、インドネシアとの間では、能力構築支援を通じた協力の強化にも取り組んでおり、13(同25)年2月および7月、海軍海洋業務センターに海上自衛官などを派遣し、気象海洋業務に関する短期間のセミナーを行ったほか、14(同26)年2月には、日本での視察・研修を行った。

参照図表III-3-1-6(能力構築支援短期派遣事業の活動状況)

2 ベトナム

ベトナムは、約9千万人の人口を擁する東南アジアの大国であり、14(同26)年3月、国賓として来日したサン国家主席と安倍内閣総理大臣は、従来の「戦略的パートナーシップ」関係を「広範な戦略的パートナーシップ」という新たな協力の次元へと発展させることで一致した。また、近年、経済分野のみならず、安全保障・防衛の分野においても協力を深めている。

11(同23)年10月には、タイン・ベトナム国防大臣が国防大臣としては13年ぶりに来日し、日ベトナム防衛相会談を行うとともに、会談後、日ベトナム防衛協力・交流に関する覚書に署名し、ハイレベル交流、次官級対話の定期的実現および人道支援・災害救援などの分野における協力を推進していくことで一致した。13(同25)年9月には、小野寺防衛大臣がベトナムを訪問し、ベトナムによる国連PKO初派遣に向けた協力など、今後とも日ベトナム防衛協力・交流を積極的に進めることで一致するとともに、わが国防衛大臣として初めて南シナ海の戦略的要衝に位置する軍港であるカムラン湾を視察した。次官級協議については、12(同24)年11月に第1回、13(同25)年8月には第2回を開催し、地域情勢についての意見交換や能力構築支援の分野での協力の深化などについて議論した。また、同年8月には、陸幕長がベトナムを訪問し、軍高官などと情勢認識や今後の日ベトナム防衛協力・交流の方向性について意見交換を行った。

能力構築支援については、12(同24)年10月、13(同25)年5月および14(同26)年3月に、海上自衛官などを派遣し、ベトナム海軍医官などを対象に、潜水医学に関する短期間のセミナーを行ったほか、13(同25)年9月には、日本での視察・研修を行った。また、14(同26)年2月、陸自東北方面隊で実施された方面隊震災対処訓練(机上演習)にベトナム軍の実務者を招へいし、人道支援・災害救援に関する短期間の研修を行った。さらに、13(同25)年9月、航空自衛官を派遣し、飛行安全に関するセミナーを行うとともに、14(同26)年3月には、ベトナム防空・空軍の飛行安全担当者を招へいし、飛行安全などに関する短期間の研修を行った。

今後は、防衛協力・交流の覚書を基礎として、より具体的・実務的な協力を実現すべく関係を強化することが重要である。

参照図表III-3-1-6(能力構築支援短期派遣事業の活動状況)

小野寺防衛大臣の画像

ベトナム国防省で栄誉礼・儀じょうを受ける小野寺防衛大臣

3 シンガポール

シンガポールは09(同21)年12月に、わが国が東南アジア諸国の中で最初に防衛協力・交流の覚書を署名した国であり、この覚書に基づき協力関係が着実に進展している。特に、シンガポールとの防衛当局間協議は、東南アジア諸国の間では最も歴史があり、13(同25)年7月に東京で13回目の協議が開催された。

ハイレベル交流では、12(同24)年7月にチャン国防次官が来日し、防衛事務次官と協議を行った。また、同年10月にウン国防大臣が来日し、日シンガポール防衛相会談を行った。

13(同25)年12月、武田防衛副大臣がシンガポールを訪問し、チャン第二国防大臣と会談を行い、地域情勢などについて意見交換を行った。

14(同26)年2月、空幕長が相互理解の促進と信頼関係の醸成などを図るため、アジア太平洋安全保障会議およびシンガポール・エアショーに参加した。また、同年4月、若宮防衛大臣政務官がシンガポールを訪問し、国防担当国務大臣と会談を行った。

さらに、同年5月に開催された第13回シャングリラ会合において、小野寺防衛大臣は、ウン国防大臣と会談を行い、同会合の開催におけるシンガポール国防省の尽力に対して謝意を表明するとともに、地域情勢などについて意見交換を行った。

齊空幕長とマウ空軍司令官の画像

齊空幕長とマウ空軍司令官(シンガポール・エアショーにて)

4 フィリピン

フィリピンとの交流は、これまでも、ハイレベル交流のほか、艦艇の訪問や防衛当局間協議をはじめとする実務者交流が頻繁に行われている。12(同24)年7月、ガズミン・フィリピン国防相が来日して行われた防衛相会談では、日フィリピン防衛協力・交流に関する意図表明文書に署名するとともに、地域情勢や両国の防衛協力・交流について意見交換を行った。

日フィリピン防衛協力・交流に関する意図表明文書では、ハイレベル交流として防衛相会合・次官会合の実施、各幕僚長や部隊司令官などの相互訪問のほか、実務レベル交流として局長級の防衛当局間協議・対話の実施や海自とフィリピン海軍の幕僚間協議などが含まれている。

13(同25)年6月、小野寺防衛大臣がフィリピンを訪問し、日フィリピン防衛相会談を行い、会談後のプレスリリースにおいて、今後海洋分野および航空分野においてさらに協力を促進することなどを発表した。また、同年12月、小野寺防衛大臣は、台風被害を受けて、自衛隊が国際緊急援助活動を行っていたフィリピンを訪問し、日フィリピン防衛相会談を行った。会談では、小野寺防衛大臣から台風被害のお見舞いを伝えたほか、ガズミン国防相から自衛隊による国際緊急援助活動に対する謝意が表明され、日フィリピン協力のさらなる強化を確認した。

5 タイ

タイとの間では、早くから防衛駐在官の派遣や防衛当局間協議を開始し、また、防衛大学校への留学生の受入れについては、最も早くから実施し、その累計受入れ数も最多である。伝統的に良好な関係のもと、防衛省・自衛隊は05(同17)年から米・タイ共催の多国間共同訓練(コブラ・ゴールド)に参加している。13(同25)年1月には、空幕長と陸幕長が相次いでタイを訪問したほか、同年9月には小野寺防衛大臣がタイを訪問し、インラック首相兼国防大臣(当時)などと会談を行い、両国防衛関係を一層深化させることで一致した。さらに、14(同26)年2月には「コブラ・ゴールド14」を視察するため、統幕長がタイを訪問した。

西防衛事務次官の画像

ミャンマーにおいてソンタム・タイ国防省国防副次官と会談する西防衛事務次官

6 カンボジア

カンボジアは、92(同4)年にわが国が初めて国連PKOに自衛隊を派遣した国であり、以来、08(同20)年に在ベトナム防衛駐在官が在カンボジア防衛駐在官を併任したほか、13(同25)年から能力構築支援を開始するなど、両国間での防衛協力・交流は着実に進展している。同年12月、日カンボジア首脳会談において、両国関係は「戦略的パートナーシップ」へと格上げされ、会談後、両国首脳が見守る中、小野寺防衛大臣は「日カンボジア防衛協力・交流の覚書」に署名を行った。

7 ミャンマー

ミャンマーとの間では、11(同23)年3月の民政移管後、防衛事務次官がミャンマーを初訪問したほか、日本側主催の多国間会議にミャンマーからの参加を得る形で、交流を発展させてきた。特に13(同25)年9月、海自練習艦隊がヤンゴンに初めて寄港したほか、同年11月には、第1回となる防衛当局者間の協議を首都ネーピードーで開催し、地域情勢、両国の防衛政策および今後の防衛交流の進め方について意見交換し、交流を強化していくことで一致した。また、14(同26)年5月、統幕長がミャンマーを初訪問し、テイン・セイン大統領を表敬するとともに、国軍司令官と懇談し、各レベルにおける防衛交流の進展などについて意見交換を実施した。

なお、日本はミャンマーに71(昭和46)年から現在に至るまで防衛駐在官を継続的に派遣している。

8 ラオス

ラオスとの間では、在ベトナム防衛駐在官による在カンボジア防衛駐在官併任に加え、11(平成23)年に在ラオス防衛駐在官併任となって以来、防衛協力・交流が徐々に進展している。13(同25)年4月にラオスから初となる防衛大学校への留学生を受入れているほか、同年8月、第2回ADMMプラスの際、初の日ラオス防衛相会談が行われた。同年12月の日ラオス首脳会談では、外務・防衛当局間の安全保障対話の早期開催に向けて調整することで一致し、14(同26)年4月に第1回安保対話を開催した。また、同年1月、防衛事務次官が初めてラオスを訪問し、ラオス副首相兼国防大臣および国防次官と会談を行った。会談では、本年から、ADMMプラスにおける人道支援・災害救援のEWG共同議長国として、両国間でこの分野での協力を強化することで一致した。

9 マレーシア

マレーシアとの間では、14(同26)年4月、小野寺防衛大臣がマレーシアを訪問し、ナジブ首相に表敬するとともに、ヒシャムディン国防大臣と会談した。会談では、海洋安全保障分野における協力強化や防衛交流の覚書の早期署名に向けて努力することなど、日マレーシア防衛協力・交流の強化に向けて協力することで一致した。軍種間では、同年4月、九州西方海域において海自艦艇とマレーシア海軍艦艇が親善訓練を行うとともに、同年6月には海幕長がマレーシアを訪問するなど、東南アジア諸国との友好親善を増進している。

なお、日本はマレーシアに75(昭和50)年から現在に至るまで防衛駐在官を継続的に派遣している。

10 ブルネイ

ブルネイとの間では、13(平成25)年8月、ブルネイで開催された第2回ADMMプラスの際、小野寺防衛大臣がヤスミン首相府エネルギー大臣と会談を行い、ADMMプラスの取組について意見交換を行った。軍種間では、同年6月、統幕長が初めてブルネイを訪問し、防衛政策や地域情勢について意見交換を行った。

参照資料53(最近の東南アジア諸国との防衛協力・交流の主要な実績(過去3年間))

2 (1)自由、民主主義、基本的人権などの普遍的価値の定着および拡大に向けて、ASEAN諸国とともに努力していく。(2)「力」ではなく「法」が支配する、自由で開かれた海洋は「公共財」であり、これをASEAN諸国とともに全力で守る。米国のアジア重視を歓迎する。(3)様々な経済連携のネットワークを通じて、モノ、カネ、ヒト、サービスなど貿易および投資の流れを一層進め、日本経済の再生につなげ、ASEAN諸国とともに繁栄する。(4)アジアの多様な文化、伝統をともに守り、育てていく。(5)未来を担う若い世代の交流をさらに活発に行い、相互理解を促進する。