防衛省・自衛隊に対し、国民から多くの期待が寄せられるなか、防衛省・自衛隊がその実力を最大限に発揮し任務を遂行するためには、国民の支持と信頼を勝ち得ることが必要不可欠である。そのためには常に規律正しい存在であることが求められている。
防衛省・自衛隊では、高い規律を保持した隊員を育成するため、従来から服務指導の徹底などの諸施策を実施してきた。しかし、近年、ハラスメントを理由とした懲戒処分が発生している。防衛省・自衛隊が組織力を発揮し、様々な事態にしっかりと対応していくためには、防衛力の中核である隊員が士気高く安心して働ける環境を構築する必要がある。特に、ハラスメントは、部隊行動を基本とする防衛省・自衛隊において、隊員相互の信頼関係を失わせ、組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないものである。
こうした認識のもと、防衛省・自衛隊は、ハラスメントを一切許容しない環境の構築のため、ハラスメント案件の対応およびハラスメント防止対策について、スピード感をもって取り組むこととしている。
防衛省・自衛隊では、隊員からの相談に対応するホットラインを設置しており、2024年度は653件であった。
特に、相談件数が多いパワー・ハラスメントは、隊員の認識不足や上司・部下との間のコミュニケーション・ギャップなどの問題に起因するとして、それらの問題を解消していくため、①隊員の啓発・意識向上のための集合教育・e-ラーニング、②隊員(特に管理職)の理解促進・指導能力向上のための教育、③相談体制の改善・強化などの施策を行ってきた。
また、暴行、傷害やパワー・ハラスメントなどの規律違反の根絶を図るため、2020年から懲戒処分の基準を厳罰化した。なお、2023年度におけるハラスメントを事由とする懲戒処分者数は、364人であり、この内、最も重い「免職16」が17件(パワー・ハラスメント5件、セクシュアル・ハラスメント12件)であった。
さらに、ハラスメントに関する悩みを抱えている隊員の中には、部内の相談窓口では、相談しにくいと感じている者がいることから、弁護士が対応する相談窓口に加え、部外の心理カウンセラーなどが休日や勤務時間外に対応する相談窓口を設置している。
しかしながら、これまで様々なハラスメント防止対策を講じてきたにもかかわらず、ハラスメントが生起し、また、その対応も不十分であったケースが存在している。例えば、元陸上自衛官のセクシュアル・ハラスメント事案17もその一つである。
参照図表IV-3-4-1(ハラスメントを事由とする処分者数)、図表IV-3-4-2(防衛省ハラスメントホットライン相談件数の推移)