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第IV部 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化

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第3章 人的基盤強化のための各種施策

第1節 人的基盤強化の取組

防衛力の中核は自衛隊員である。防衛力を発揮するにあたっては、必要な人材を確保するとともに、全ての隊員が高い士気と誇りを持ち、個々の能力を発揮できる環境を整備すべく、人的基盤の強化を進めていく。

1 採用段階の取組強化

1 募集

防衛省・自衛隊が各種任務を適切に遂行するためには、少子化による募集対象者人口の減少という厳しい採用環境のなかにあっても、優秀な人材を安定的に確保しなければならない。2024年度の募集については、人材獲得競争が前年度に引き続き熾烈なものとなったが、特に、いわゆる「士」となる自衛官候補生と一般曹候補生の採用者数は、約8,000名となり自衛官候補生の採用者数は5年ぶりに増加に転換し、一般曹候補生の採用者数は引き続き減少しているものの下げ止まりの傾向となっている。他方、自衛官全体の充足率は約9割となっており、人材の確保は喫緊の課題である。このため、募集対象者などに対して、より一層自衛隊の任務や役割、職務の内容などを丁寧に説明し、確固とした入隊意思を持つ人材を募る必要がある。

防衛省・自衛隊では、募集能力強化のため、採用広報動画、資料などのデジタル化・オンライン化、SNS(Social Networking Service)による情報発信などを推進しているほか、既卒者などに対する募集のアプローチを強化するため、2024年11月から防衛省と厚生労働省が連携してハローワークを活用した一般曹候補生および自衛官候補生の求人を開始しており、引き続き積極的に推進していく。

また、全国に50か所ある自衛隊地方協力本部では、地方公共団体、学校、募集相談員などの協力を得ながら、きめ細やかに自衛官などの募集・採用を行っている。2024年10月以降、募集相談員に対し、活動の更なる活性化を図っている。さらに、「基本方針」に基づき、地方協力本部の人的・物的な体制の充実を図ることで募集活動を強化することとしており、2025年2月、大田出張所および横浜出張所を採用広報活動を行う上でより効果的な場所へ移転した。

なお、地方公共団体は、募集期間などの告示や広報宣伝などを含め、自衛官、自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行うこととされており、防衛省はこれに要する経費を負担している。自衛隊に対して募集対象者情報を電子データまたは紙媒体で提供していただいた市区町村は、年々増加し、2024年度にはおおよそ全体の3分の2となっている。防衛省としては、総務省と連携し、募集に関する事務の円滑な遂行のために必要な募集対象者情報を有する全ての市区町村から電子データまたは紙媒体の提出が得られることを目指すとともに、所要の協力が得られるよう地方公共団体などとの連携を強化していく。

カイジョウジエイタイ展を視察する本田防衛副大臣(2025年3月)

カイジョウジエイタイ展を視察する本田防衛副大臣(2025年3月)

動画アイコンQRコード動画:自衛官募集チャンネル
URL:https://www.youtube.com/channel/UCwvH00eFWmfs-FGkRCorzdA

2 採用
(1)自衛官

自衛官は、個人の自由意思に基づく志願制度のもと、様々な区分に応じて採用される。また、自衛隊の精強性を保つため、階級ごとに職務に必要とされる知識、経験、体力などを考慮し、大半が50歳代半ば以降で退職する「若年定年制」や2年または3年を1任期として任用する「任期制」など、一般の公務員とは異なる人事管理1を行っている。

自衛官候補生と一般曹候補生の採用上限年齢は、民間企業での勤務経験を有する者など、より幅広い層から多様な人材を確保するため、2018年に「27歳未満」から「33歳未満」に引き上げられた。また、2024年度からは、空自航空学生の採用上限年齢が「21歳未満」から「24歳未満」に引き上げられたほか、新たな取組として、士と曹で約5年間の勤務を経て将来幹部として活躍する者を採用する「幹部候補曹」を新設し、2025年から募集を開始した。さらに、「基本方針」に基づき、2年または3年の任期で任用される任期制自衛官について、自衛官候補生制度を廃止し、当初から自衛官として採用する新たな任期制士を設け、2026年度から採用する予定である。加えて、新たな任期制士の制度が創設されるまでの措置として、2025年度に自衛官任用一時金を現行より12万3,000円増の34万4,000円に引き上げた。このほか、将来の戦い方を見据えた自衛隊の人的基盤の強化のため、自衛隊奨学生制度2をさらに拡充し、現行より年額31万2,000円増の96万円に引き上げるとともに、自衛官として様々なスキルを培い、任期を全うして次のステップに進んでいく「自衛隊新卒」としての援護広報の強化や再就職先の拡充にも取り組む。また、採用試験の見直しにも取り組む。自衛官候補生と一般曹候補生の採用試験の一部オンライン化に加え、現在、併願可能となっていない一般曹候補生試験の陸海空各自衛隊での併願を2025年度から可能とし、その他の採用種目においても、受験者の負担軽減に向けた見直しを検討していく。

民間の人材を活用するという点では、キャリア採用幹部や技術曹として、専門的技術に関する国家資格・免許などを保有する者を採用する取組や、中途退職した元自衛官の採用数の拡大など、中途採用の強化に取り組んでいる。また、サイバー分野などの専門的知識・技能を有する部外の高度人材を最大5年の任期で自衛官として採用する任期付自衛官制度の導入に向けて、関連法案を2024年2月に国会に提出し、同年5月に成立した。

参照1節6項(退職、再就職などの取組)、図表IV-3-1-1(募集対象人口の推移)、図表IV-3-1-2(自衛官の任用制度の概要)、資料64(自衛官の定員と現員、自衛官の定員と現員の推移(過去10年間))資料65(自衛官などの応募と採用状況)

図表IV-3-1-1 募集対象人口の推移

図表IV-3-1-2 自衛官の任用制度の概要

(2)事務官、技官、教官など

防衛省・自衛隊には、自衛官のほか、約2万1,000人の事務官、技官、教官など3が勤務している。職員の採用は、人事院が行う国家公務員採用総合職試験や国家公務員採用一般職試験、防衛省が行う防衛省専門職員採用試験の合格者から面接を経て行っているほか、近年では、経験者採用、2年から5年の任期付採用、非常勤採用などにも力を入れて取り組んでいる。

これらの採用された職員のうち事務官は、本省、防衛装備庁の内部部局などで防衛行政や自衛隊の運用をはじめ安全保障政策全般に関する様々な政策の企画・立案を担うほか、情報本部における国際情勢の収集・分析・評価、全国各地の部隊や地方防衛局などでの行政実務を担っている。

技官は、本省、防衛装備庁の内部部局などでの防衛施設(司令部庁舎、滑走路、火薬庫など)や防衛装備品などの物的基盤に関する各種政策の企画・立案を担うほか、情報本部における先端技術情報の収集・分析・評価、全国各地の部隊や地方防衛局などで、防衛施設の建設工事、自衛隊の運用に欠かせない装備品の研究開発・効率的な調達・維持・整備、隊員のメンタルヘルスケアなどに従事している。

教官は、防衛大学校、防衛医科大学校や防衛研究所などで、安全保障に関する幅広い分野の高度な研究や、隊員に対する質の高い教育を行っている。

わが国の生産年齢人口が減少傾向にあり、今後、人材の獲得競争はより一層厳しさが増していくことが予想される一方、防衛力の抜本的強化を図るための防衛行政は拡大・多様化・複雑化している。こうした状況を踏まえると、既存の業務や体制の見直しなど様々な業務効率化の取組を行っていくと同時に、専門的知見を持つ人材をはじめ、業務の拡大・多様化・複雑化に必要な人員を確保し、定着させていく取組が重要である。

国家公務員採用試験の申込者数は減少傾向にあり、防衛省で勤務する事務官・技官などの確保は喫緊の課題である。このため、民間で広く利用されている就職・転職情報媒体の積極活用や大学への訪問強化などを通じ、防衛省で勤務する魅力を積極的に発信するとともに、経験者採用の充実などに取り組んでいく。

防衛省・自衛隊におけるマネジメントの改善や職員の成長機会の確保により、職員がやりがいをもって十分に能力を発揮できる魅力ある組織とする。このため、マネジメント教育や専門性を高めるための研修の充実などを図るとともに、優秀な人材の努力を正しく評価し、より効果的な成果を得るため、採用区分などにとらわれない人材登用を実施していく。また、多様化・複雑化する防衛行政を担う事務官・技官などへの負担を緩和するなど、勤務環境を改善していく。

参照資料66(防衛省の職員等の内訳)

1 国家公務員法第2条に定められた特別職の国家公務員として位置づけ。

2 学校教育法に規定する大学(短期大学および大学院を含む。)、高等専門学校、専門学校またはこれらの学校に相当する外国の学校において、理学、工学、文学(語学)または法学を専攻している者(今後、専攻しようとしているもの含む。)で卒業(修了)後その専攻した学術を活かして、引き続き自衛隊に勤務する意思を持つ者に対し防衛省より学資金が貸与される制度

3 防衛省の職員のうち、特別職の国家公務員を「自衛隊員」といい、自衛隊員には、自衛官のほか、事務官、技官、教官などが含まれる。