Contents

第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチなど

2 統合防空ミサイル防衛能力の強化

1 基本的考え方

周囲を海で囲まれているわが国は、空から侵攻する航空機やミサイルなどの脅威(経空脅威)への対応が極めて重要である。近年、多弾頭4・機動弾頭5を搭載した弾道ミサイル、高速化・長射程化した巡航ミサイル、有人・無人航空機のステルス化やマルチロール化6といった能力向上に加え、対艦弾道ミサイル、極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)などの出現により、経空脅威は多様化・複雑化・高度化している。

このため、これらの経空脅威に対する探知・追尾能力や迎撃能力を抜本的に強化するとともに、ネットワークを通じて、レーダーなどの各種センサーやシューター(迎撃ミサイルとその発射母体となる装備品)を一元的かつ最適に運用できる体制を確立することで、統合防空ミサイル防衛能力を強化していく。

防衛省・自衛隊は、統合防空ミサイル防衛として、わが国に対するミサイル攻撃を、質・量ともに強化したミサイル防衛網により迎撃しつつ、スタンド・オフ防衛能力などを活用した反撃能力を持つことにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛とあわせてミサイル攻撃そのものを抑止していく。

参照図表III-1-2-4(今後の統合防空ミサイル防衛(迎撃部分)(イメージ))

図表III-1-2-4 今後の統合防空ミサイル防衛(迎撃部分)(イメージ)

動画アイコンQRコード資料:統合防空ミサイル防衛について
URL:https://www.mod.go.jp/j/policy/defense/bmd/index.html

動画アイコンQRコード動画:UNIT-4 高射
URL:https://www.youtube.com/watch?v=coZf5SbfC-M

2 防衛省・自衛隊の取組

わが国の弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)は、2004年から整備が開始され、海自イージス艦への弾道ミサイル対処能力の付与や空自ペトリオットPAC-3(Patriot Advanced Capability)の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の体制整備を着実に進めている。

2017年度以降は、日米で共同開発した、イージス艦に搭載するSM(Standard Missile)-3ブロックIIA7を取得している。SM-3ブロックIIAは、デコイ(おとり)などの迎撃回避手段を備えた弾道ミサイルや通常の軌道よりも高い軌道(ロフテッド軌道8)をとることにより迎撃を回避することを意図して発射された弾道ミサイルなどに対しても、迎撃能力が向上している。

また、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)に替えて取得することとしたイージス・システム搭載艦2隻は、SM-3ブロックIIAのほか、HGVなどにも対処できるSM-6を搭載するなど、最新鋭のイージス艦と同等以上の能力を保有するものであり、省人化とあわせて、荒天時にも運用可能な耐洋性や、長期間の任務につくために居住性などを向上させた艦艇として、2024年度から建造に着手している。

PAC-3についても、能力向上型のPAC-3MSE(Missile Segment Enhancement)の取得を進め、2019年度から部隊に配備している。PAC-3MSEは、従来のPAC-3に比べ、弾道ミサイルに対する迎撃高度が十数キロから数十キロに延伸し、防護範囲(面積)がおおむね2倍以上に拡大した迎撃ミサイルである。

一方、HGVなど多様化・複雑化・高度化する経空脅威に対して、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を局限するためには、弾道ミサイル防衛のための装備品に加え、従来、陸・海・空の各自衛隊で個別に運用してきた防空のための装備品もあわせ、一体的に運用する体制を確立して、統合防空ミサイル防衛能力を強化する必要がある。

このため、各自衛隊が保有する迎撃手段について、整備・補給体系も含めて共通化や合理化を図るほか、HGVなどの探知・追尾能力を強化するため、空自の固定式警戒管制レーダーの能力向上や次期警戒管制レーダーへの換装を進める。また、ペトリオットを改修し、新型レーダー(LTAMDS(エルタムズ):Lower Tier Air Missile Defense Sensor)9を導入することで、PAC-3MSEによるHGVなどへの対処能力を向上させる。さらに、陸自03(マルサン)式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上の開発により、HGVや弾道ミサイル対処のための能力向上を行う。

ペトリオット新型レーダーLTAMDS(イメージ)

ペトリオット新型レーダーLTAMDS(イメージ)

参照図表III-1-2-5(イージス・システム搭載艦(イメージ))、資料15(わが国のBMD整備への取組の変遷)

図表III-1-2-5 イージス・システム搭載艦(イメージ)

3 日米BMD技術協力

弾道ミサイル防衛(BMD)に関する日米間の技術協力については、SM-3ブロックIIAの共同開発10が完了し、配備に至っている。加えて、2023年の日米「2+2」において、将来のインターセプター(迎撃用ミサイル)の共同開発の可能性について議論を開始することなどを合意した。これに基づき、可能な限り遠方でHGVに対処することができる滑空段階迎撃用誘導弾(GPI:Glide Phase Interceptor)の開発に日米共同で取り組むこととし、2024年5月から共同開発を開始するとともに、同年9月に開発コンセプトを決定した。

GPI日米共同開発「プロジェクト取決め」署名(2024年5月)

GPI日米共同開発「プロジェクト取決め」署名(2024年5月)

参照図表III-1-2-6(GPIの概要)、V部1章3節3項1(共同研究・開発など)

図表III-1-2-6 GPIの概要

4 一つの弾道ミサイルに複数の弾頭が装備されたもの。

5 大気圏内に再突入する際に、迎撃を回避したり命中率を高めるため、翼や舵、またはロケット噴射によって自律的に機動できる弾頭。

6 装備を変更することで制空戦闘、各種攻撃、偵察などの複数任務を実施できるようにすること。

7 SM-3ブロックIIAは、従来のSM-3ブロックIAと比較して、迎撃可能高度や防護範囲が拡大するとともに、撃破能力が向上し、さらに同時対処能力についても向上している。2022年にイージス艦「まや」が海自艦艇として初めてSM-3ブロックIIAの発射試験を行い、標的の迎撃に成功した。

8 ロフテッド軌道は、弾道ミサイルを高く打ち上げる軌道である。通常よりも高い軌道とすることで、落下速度が速くなり、対処が難しくなる。このほか、射程を最も大きくするミニマムエナジー軌道や、高度を低く抑え高速で飛翔させるディプレスト軌道がある。

9 HGVなどの対処のために米国で開発された低層防空用射撃管制レーダー

10 日米共同開発に関しては、わが国から米国に対して武器を輸出する必要性が生じる。これについては、2004年の内閣官房長官談話において、弾道ミサイル防衛システムに関する案件は、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則などによらないとされた。このような経緯を踏まえ、SM-3ブロックIIAの第三国移転は、一定の条件のもと、事前同意を付与できるとわが国として判断し、2011年の日米「2+2」の共同発表においてその旨を発表した。なお、2014年、防衛装備移転三原則(移転三原則)が閣議決定されたが、この決定以前の例外化措置については、引き続き移転三原則のもとで海外移転を認めうるものと整理されている。