防衛大臣は、外国での災害、騒乱その他の緊急事態に際し、外務大臣から在外邦人等の警護、救出などの保護措置または輸送の依頼があった場合、外務大臣と協議をしたうえで、在外邦人等の保護措置または輸送を行うことができる。
参照II部5章3項7(在外邦人等の保護措置および輸送)、資料19(自衛隊による在外邦人等の輸送の実施について)
在外邦人等の保護措置または輸送を迅速かつ的確に実施するため、自衛隊は、部隊を速やかに派遣する態勢をとっている。具体的には、陸自ではヘリコプター部隊と陸上輸送を担当する部隊の要員を、海自では輸送艦などの艦艇(搭載航空機を含む。)を、空自では輸送機部隊と派遣要員をそれぞれ指定し、待機態勢を維持している。
また、これらの行動においては、陸・海・空自の緊密な連携が必要となるため、平素から統合訓練などを行っている。2022年8月から9月にかけて、防衛省・自衛隊は関係機関とともに、国内において在外邦人等輸送にかかる部隊の一連の行動や関係機関との連携要領を訓練し、統合運用能力の向上や関係機関との連携強化を図った。さらに、毎年タイで行われている多国間共同訓練「コブラ・ゴールド」の機会を活用し、2024年2月から3月には、関係省庁、在タイ日本国大使館などの協力のもと、在外邦人等の保護措置における一連の活動を訓練し、防衛省・自衛隊と外務省との連携を強化した。
防衛省・自衛隊は、これまでに7件の在外邦人等の輸送を実施しており、2023年にはこのうち2件を実施した。
1件目は在スーダン共和国邦人等の輸送であり、2023年4月、スーダン共和国の情勢に鑑み、外務大臣からの依頼を受け、C-130輸送機2機、C-2輸送機2機、KC-767空中給油・輸送機1機をジブチ共和国に派遣した。うちC-2輸送機1機により、スーダンからジブチまで邦人とその家族計45名を輸送した。
2件目は在イスラエル国邦人等輸送であり、同年10月、イスラエル・パレスチナ情勢に鑑み、外務大臣からの依頼を受け、KC-767空中給油・輸送機1機、C-2輸送機2機をヨルダンなどに派遣した。うちKC-767空中給油・輸送機1機により、同月21日に83名5、11月3日に46名6の邦人等をイスラエルから本邦まで輸送した。
在イスラエル国邦人等の輸送における羽田空港到着後の降機の様子
これまで、2016年の在南スーダン邦人等輸送や、2021年のエチオピア情勢悪化に伴う調査チームの派遣といった場面で、海賊対処法7に基づき活動する自衛隊の部隊が使用するジブチ共和国における活動拠点を活用してきた。
こうした経験も踏まえ、国家安全保障戦略において、「ジブチ政府の理解を得つつ、在外邦人等の保護に当たっても、海賊対処のために運営されているジブチにある自衛隊の活動拠点を活用していく」という方向性を示した。政府として、在外邦人等の保護・輸送の実施に万全を期すため、2023年12月22日、「中東・アフリカ地域における在外邦人等の安全確保等に関する政府の取組について」を閣議決定した。
これを受け、海賊対処部隊に、装備品などの集積・管理、ジブチ拠点を活用した防衛協力・交流、在外邦人等の保護および輸送などの確実な実施を目的とした平素からの情報収集・分析など、在外邦人等の保護および輸送の可能性を見据えた臨時の態勢整備の任務を新たに追加した。防衛省・自衛隊として、在外邦人等の安全の確保に万全を期していく。