地震や台風などの大規模災害、新型コロナウイルス感染症といった感染症危機などは、国民の生命・身体・財産に対する深刻な脅威であり、わが国として、国の総力をあげて全力で対応していく必要がある。大規模災害などに際しては、警察、消防、海上保安庁、地方公共団体などの関係機関と緊密に連携し、効果的に人命救助、応急復旧、生活支援などを行うこととしている。
大規模な災害が発生した際には、発災当初においては被害状況が不明であることから、防衛省・自衛隊は、いかなる被害や活動にも対応できる態勢で対応する。また、人命救助を最優先で行いつつ、生活支援などについては、地方公共団体、関係省庁などの関係者と役割分担、対応方針、活動期間、民間企業の活用などの調整を行うこととしている。さらに、特に地方公共団体に対する支援については、被災直後の地方公共団体は混乱していることを前提に、過去の災害派遣における教訓を踏まえ、当初は「提案型」の支援を行い、じ後は地方公共団体のニーズに基づく活動に移行する。その際、自衛隊の支援を真に必要としている方々が、支援に関する情報により簡単にアクセスすることができるよう、情報発信を強化している。
また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うため、全国の駐屯地などにFAST-FORCE(ファスト・フォース)と呼ばれる部隊を待機させている。
ア 2023年台風第6号と台風第13号にかかる災害派遣
2023年8月7日、沖縄県知事から空自に対し、台風第6号の影響による伊是名(いぜな)村と伊平屋(いへや)村への人員・物資の空輸に係る災害派遣要請があり、人員5名、航空機1機により人員・物資の空輸を実施した。
台風第6号にかかる災害派遣における人員・物資の空輸(伊是名村)
同年9月9日、茨城県知事から陸自に対し、台風第13号の影響による土砂災害に伴う捜索・人命救助にかかる災害派遣要請があり、人員のべ246名、車両のべ38両により捜索・人命救助活動を実施した。
イ 大雨にかかる災害派遣
2023年7月10日、2023年梅雨前線の影響により九州地方を中心に線状降水帯が発生し、記録的な大雨が続くなか、同日、佐賀県知事と福岡県知事から陸自に対し、唐津市内と久留米市内における人命救助活動やがれき除去にかかる災害派遣要請があり、人員のべ474名、車両のべ181両、航空機のべ4機により人命救助活動を実施した。
空自人員捜索犬による人命救助活動
同年7月16日、14日からの大雨の影響により秋田県内で土砂災害などが発生するなか、秋田県知事から陸自に対し、八峰(はっぽう)町、男鹿(おが)市、五城目(ごじょうめ)町における給水活動と秋田市における患者輸送、災害廃棄物の除去にかかる災害派遣要請があり、患者輸送や災害廃棄物の除去を実施した。これらに対する派遣の規模は人員のべ約820名、車両のべ約270両に上った。
ウ 大雪にかかる災害派遣
2024年1月24日、前日からの大雪の影響により、名神高速道路(岐阜県関ケ原IC~滋賀県堺付近)で約5km、民間車両約1,200台の立ち往生が発生したことから、岐阜県知事から陸自に対し、除雪などにかかる災害派遣要請があり、人員のべ約720名により除雪支援を実施した。
エ 鳥インフルエンザ発生にかかる災害派遣
2023年4月から2024年3月末までの間に鳥インフルエンザが発生した北海道と群馬県において、自衛隊は知事からの災害派遣要請を受け、鳥インフルエンザの発生鶏舎における殺処分支援などを実施した。これらに対する派遣の規模は、人員のべ約5,000名に上った。
鳥インフルエンザ発生にかかる災害派遣における殺処分などの支援
オ 豚熱1発生にかかる災害派遣
2023年8月31日から同年9月5日までの間に、佐賀県において、豚熱の発生した養豚場における殺処分支援など(豚の追い出し・追い込み、豚舎外への搬出)を実施した。これらに対する派遣の規模は、人員のべ1,529名に上った。
豚熱発生にかかる災害派遣における殺処分などの支援
カ 山林火災にかかる災害派遣
2023年4月から2024年3月末までの間に発生した山林火災のうち、自治体により消火活動を実施するも鎮火に至らなかったものについて、自衛隊は5県(群馬県、長野県、愛媛県、広島県、和歌山県)において、各県知事からの災害派遣要請を受け、空中消火活動などを実施した。これらに対する派遣の規模は人員のべ約950名、車両のべ約100両、航空機のべ約80機に上った。
資料:災害派遣について
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/index.html
資料:防衛省・自衛隊(災害対策)
URL:https://twitter.com/ModJapan_saigai?ref_src=twsrc%5Etfw
自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(緊急患者空輸)している。2023年度の災害派遣総数387件のうち、352件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。
2023年11月29日の屋久島の洋上において、米空軍CV-22(オスプレイ)が墜落した。これを受け、陸・海・空自の航空機、艦艇、地上部隊が自主派遣により同日から12月2日にかけて探索救難活動を実施し、本活動に対する派遣の規模は人員のべ約790名、航空機のべ約50機、艦艇のべ約10隻に上った。なお、自主派遣に引き続き、捜索活動の支援を同月23日まで実施した。これらの活動は、海上保安庁、地元自治体、地元漁業関係者などの協力も得て実施した。
掃海母艦「ぶんご」から捜索活動にむかう隊員
参照2章5節2項7(2)(MV-22(オスプレイ)などの訓練移転)、IV部3章2節2項(安全管理への取組)、IV部4章1節4項2(3)(米軍オスプレイの墜落事故)、資料33(米軍オスプレイのわが国への配備の経緯)
防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、自衛隊原子力災害対処計画を策定している。また、国、地方公共団体、原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、地方公共団体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。
防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し迅速に部隊を輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、中央防災会議2で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、自衛隊のとるべき行動の基本的事項を定め、もって、迅速かつ組織的に災害派遣を実施することを目的とし、各種の大規模地震対処計画を策定している。
また、内閣府から発表された日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定や日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画を踏まえて、2022年度に同地震への対処計画3を策定している。
災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部への国民保護・災害対策連絡調整官(事務官)の設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)や事務官による相互交流(陸自中部方面隊と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。
2024年3月末現在、全国46都道府県・476市区町村に665人の退職自衛官が、地方公共団体の防災・危機管理部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、各種災害対応においてその有効性が確認されている。特に、陸自各方面総監部は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報共有・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。
また、災害の発生に際しては、各種調整を円滑にするため、部隊などから地方公共団体に対し、迅速な連絡員の派遣を行っている。
2020年12月、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策4が閣議決定された。本対策において、防衛省としては、防災のための重要インフラなどの機能維持・強化の観点から、自衛隊の飛行場施設などの資機材などの対策、自衛隊のインフラ基盤強化対策、自衛隊施設の建物などの強化対策について、重点的かつ集中的に取り組んでいる。
近年、大規模かつ長期間の災害派遣活動が増えており、災害派遣活動中に、当初予定していた訓練を行うことができず、訓練計画に支障を来すこともあった。
今後は、初動における人命救助活動などに全力で対応するとともに、各種の緊急支援などについては、地方公共団体・関係省庁などの関係者と役割分担、対応方針、活動期間、民間企業の活用などの調整を行い、適宜態勢を移行し、適切な態勢・規模で活動することとしている。
1 豚熱ウイルスにより起こる豚、いのししの熱性伝染病で、強い伝染力と高い致死率が特徴。
2 内閣府におかれる会議の一つとして、内閣総理大臣をはじめとする全閣僚、指定公共機関の代表者と学識経験者により構成されており、防災基本計画の作成や、防災に関する重要事項の審議などを行っている。
3 自衛隊日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対処計画
4 気候変動の影響による気象災害の激甚化・頻発化、南海トラフ地震などの大規模地震の切迫、高度成長期以降に集中的に整備されたインフラの老朽化を踏まえ、防災・減災、国土強靱化の取組の加速化・深化を図る必要があり、また、国土強靱化の施策を効率的に進めるためにはデジタル技術の活用などが不可欠である。このため、激甚化する風水害や切迫する大規模地震などへの対策、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策の加速、国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化などの推進の各分野について、さらなる加速化・深化を図ることとし、2025年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模などを定め、重点的・集中的に対策を講ずることとしている。