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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 対外関係など

1 全般

中国は、特に、海洋における利害が対立する問題をめぐり、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させ、さらに、その既成事実化を着実に進めるなど、自らの一方的主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示している。また、14(平成26)年5月には、習近平国家主席がアジア信頼醸成措置会議(CICA:Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asia)において軍事同盟を批判し、「アジア人によるアジア安全保障」を提唱するなど、独自の国際秩序形成への動きもみられるとともに、米国との間で「新型の大国関係」108の構築を提案し、自らの「核心的利益」の尊重を求めているほか、アジア太平洋における「米中棲み分け」などを認めさせようとしているとの指摘もある。一方、中国は、持続的な経済発展を維持し、総合国力を向上させるためには、平和で安定した国際環境が必要であるとの認識に基づき、諸外国との間において、軍高官による相互訪問や合同軍事演習などを含む軍事交流を積極的に展開している。近年では、米国やロシアをはじめとする大国や東南アジアを含む周辺諸国に加えて、アフリカ諸国や中南米諸国などとの軍事交流も活発に行っている。一方、中国が軍事交流を推進する目的としては、諸外国との関係強化を通じて中国に対する懸念の払拭に努めつつ、自国に有利な安全保障環境の構築や国際社会における影響力の強化を図ることや、資源・エネルギーの安定的な確保や海外拠点の構築などがあるものと考えられ、中国の軍事交流は、国家利益を保護するための戦略的手段として、全体的な外交戦略の枠組みの一つとして位置づけられているとみられる。このほか中国は、対外政策として「一帯一路」構想を打ち出しているほか、国際金融の分野でも、新開発銀行(BRICS開発銀行)やアジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)の設立を主導するなどしている。

2 台湾との関係

中国は、台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の内政問題であるとの原則を堅持しており、「一つの中国」の原則が、中台間の議論の前提であり、基礎であるとしている。また、中国は、平和的な統一を目指す努力は決して放棄しないとし、台湾人民が関心を寄せている問題を解決し、その正当な権限を守る政策や措置をとっていく旨を表明する一方で、外国勢力による中国統一への干渉や台湾独立を狙う動きに強く反対する立場から、武力行使を放棄していないことをたびたび表明している。05(同17)年3月に制定された「反国家分裂法」においては、武力行使の不放棄が明文化されている109

台湾の馬英九(ば・えいきゅう)前総統(国民党)は、中国との経済交流の拡大による台湾経済の発展や、独立よりも現状維持を追求する政策を掲げてきた。その結果、中台関係は、経済分野を中心に進展し、15(同27)年11月には、習近平国家主席と馬英九総統(当時)が中台分断後初の首脳会談を実現させた。

しかし、16(同28)年5月、台湾で蔡英文(さい・えいぶん)総統率いる民進党政権が発足すると、中国は、「一つの中国」の原則について明確な立場をとらない同政権に対し、同年6月、台湾との交流が既に停止されている旨発表した110。さらに、蔡英文総統の就任前後から、台湾に対する国際機関会議などからの招待の見送りなどが相次いでいるほか、台湾と外交関係を有する国による台湾との断交及び中国との国交樹立が発表される111などしている。

このような中、16(同28)年12月2日、蔡英文総統と米国のトランプ次期大統領(当時)による電話会談が行われた。台湾総統と米国大統領・次期大統領が直接対話するのは、米中外交関係樹立後初めてであり、中国は、米国に対し厳正な申し入れを行うなど強い反発を示した。今後の米新政権下での取り組み及びそれに対する中国の反応が注目される。

一方、尖閣諸島について、中台はそれぞれ独自の主張を展開112しているが、台湾は中国との連携については否定的な態度を示している。

3 米国との関係

米中間には、中国の人権問題や台湾問題113、貿易問題など、種々の懸案が存在している。一方、中国側としては、安定的な米中関係は経済建設を行っていくうえで必須であり、今後もその存続を望んでいくものと考えられる。

米国は、中国の安定的、平和的、繁栄的な台頭を歓迎するとしており、米中間の協力関係を今後もさらに発展させるとしてきている。その一方で、海洋安全保障、国際貿易、人権問題などの国際的課題について、国際ルール・規範を遵守するよう中国に求めるとともに、中国の軍備近代化及びアジアでのプレゼンス拡大を引き続き注視するとしてきている114。また、米国は、中国を国際的な規範に挑戦する「修正主義国家」の一つととらえ、深刻な安全保障上の懸念をもたらしているとも認識してきている115。これに対し、中国側は、相互尊重及び「ウィン・ウィン」の協力などに基づく「新型の大国関係」と中国側が呼称する関係の構築を希望しているが、その具体的な内容については、米中間でコンセンサスが得られているわけではない116

尖閣諸島については、米国は日米安全保障条約が同諸島に適用される旨繰り返し表明しており、17(同29)年2月、トランプ政権となって初の日米首脳会談の共同声明においては、尖閣諸島への同条約5条の適用に明示的に言及する形で、日米首脳間の文書として初めて確認した。同年6月に米国防省が発表した「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」においても、同様の見解が示されているが、中国はこれらの動きに対し、強く反発する姿勢を示している。また、南シナ海をめぐる問題については、米国は海上交通路の航行の自由の阻害、米軍の活動に対する制約、地域全体の安全保障環境の悪化などの観点から懸念を有しており、中国に対し国際的な規範の遵守を求めるとともに、中国の一方的かつ高圧的な行動を累次にわたり批判している117。また、中国等による行き過ぎた海洋権益の主張に対抗するため、南シナ海においても「航行の自由作戦」118を実施している。

米中間では、軍事面での交流も進展し、各種の政策対話が行われてきた。08(同20)年4月には両国の国防当局間にホットラインが開設された。また、米軍の演習へのオブザーバーの派遣、海軍艦艇の相互訪問の機会における共同訓練が行われている。例えば、13(同25)年11月、米中陸軍が人道支援・災害救助演習を実施したほか、14(同26)年と16(同28)年の環太平洋合同演習(リムパック)には、中国海軍の艦艇が参加した。一方で、中国は、両軍関係の健全な発展を実現するには、台湾への武器売却、米軍艦艇・航空機による中国のEEZにおける活動、両軍交流における法的障害、米側による対中戦略的信頼の欠如といった問題を解決する必要があるとも主張している119。実際に、08(同20)年10月及び10(同22)年1月に米国防省が台湾への武器売却を議会に通知した際には、米国との主要な軍事交流の中止を通告するなど、米中間の軍事交流には不安定な側面もみられる120。これに対して、米国は、米中関係は信頼を増進し、誤解を減らすプロセスによって下支えする必要があるとしており、軍事交流においても、問題が生じるたびに軍事交流が中断される状況を改善し、より安定的な意思疎通のチャンネルを維持できる関係の構築を目指すとみられる。近年では、例えば米中戦略・経済対話において、11(同23)年に戦略安保対話が創設され、同対話はこれまで毎年開催されていた。また、17(同29)年4月、米中首脳会談において、これに代わる枠組みとして新たに立ち上げられた米中包括対話の一つとして、外交・安全保障対話が創設され、同年6月、ワシントンで第1回会合が開催された121。このほか、14(同26)年11月及び15(同27)年9月には、米中間で意図せぬ衝突のリスクを低減することを目的とした信頼醸成措置についての合意が発表されている122

4 ロシアとの関係

1989(同元)年にいわゆる中ソ対立に終止符が打たれて以来、中露双方は、継続して両国関係重視の姿勢を見せている。90年代半ばに、両国間で「戦略的パートナーシップ」を確立して以来、同パートナーシップの深化が強調されており、01(同13)年には、中露善隣友好協力条約123が締結されている。04(同16)年には、長年の懸案であった中露国境画定問題も解決されるに至った。両国は、世界の多極化と国際新秩序の構築を推進するとの認識を共有し、関係を一層深めている。

軍事面では、中国は、90年代以降、ロシアから戦闘機や駆逐艦、潜水艦など近代的な武器を購入しており、中国にとってロシアは最大の武器供給国である124。中国の装備国産化の進展などを背景に近年取引額が低下傾向にあるとされている一方で、中国は引き続きロシアが保有する先進装備の輸入に強い関心を示しているとの指摘もある。例えば、中国は、15(同27)年11月、ロシアの国営軍事企業と最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機24機の購入契約を締結し、16(同28)年12月には最初の4機を受領したとされているほか、S-400対空ミサイルシステムの輸入についても中露間で合意に至ったとの指摘がある。一方、ロシアは、陸上で国境を接する中国に対して自国に脅威が及ぶような特定の高性能武器は供与しない、また、輸出する兵器の性能を差別化しているなどの方針を有しているとの指摘や、武器輸出における中国との競合を懸念しつつあるとの指摘もある125。なお、中国は空母「遼寧」の元となった未完成のクズネツォフ級空母「ワリャーグ」をウクライナから購入しているように、武器調達の面でウクライナとの関係が深く、今後のウクライナとの関係も注目される126

中露間の軍事交流としては、定期的な軍高官などの往来に加え、共同訓練などを実施している。例えば、中露両国は、海軍による大規模な合同軍事演習「海上協力」を、12(同24)年以降毎年実施しており127、16(同28)年には初めて南シナ海で実施した。中国としては、これらの交流を通じて、両国軍の間の相互理解や信頼醸成を進めるだけではなく、ロシア製兵器の運用方法やロシア軍の作戦教義などを学習することなどが可能になると考えられる。また、中国は、中露二国間もしくは中露を含む上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)加盟国間で、対テロ合同演習「平和の使命」を実施している128。さらに、15(同27)年には、中露双方の戦勝70周年記念行事に、両国首脳及び軍隊が参加しており、両国の軍事関係は引き続き良好である。

5 その他の諸国との関係
(1)東南アジア諸国との関係

東南アジア諸国との関係では、引き続き首脳クラスなどの往来が活発である。16(同28)年には、アウン・サン・スー・チー・ミャンマー国家顧問兼外相(8月)やドゥテルテ比大統領(10月)などが訪中し、習近平国家主席も同年10月にカンボジアを訪問した。また、ASEAN+1(中国)やASEAN+3(日本、中国及び韓国)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)といった多国間の枠組みにおいても中国は積極的な関与を行っている。16(同28)年9月には、李克強(り・こくきょう)総理がラオスでASEAN+1首脳会議や東アジア首脳会議などの多国間会議に出席した。さらに、中国は「一帯一路」構想のもと、インフラ整備支援などを通じて各国との二国間関係の発展を図ってきている。例えば、17(同29)年1月には、中国・ラオス鉄道の建設が着工された。

軍事面では、16(同28)年10月には、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動に参加した中国海軍艦艇がミャンマー、マレーシア、カンボジア及びベトナムを親善訪問するなど、軍事面での信頼醸成に向けた動きも見られる。さらに、17(同29)年1月には、ソン級潜水艦がマレーシアに初寄港した。このような動きには、中国海軍のインド洋方面での遠方の海域における活動拠点を確保しようとする目的もあると考えられる。

一方、中国による南シナ海進出により、一部のASEAN諸国とのあつれきも生じている。例えば、14(同26)年5月の西沙諸島における中国による油ガス田掘削を契機に、ベトナムとの関係は緊迫の度を増している。インドネシアについては、中国の主張するいわゆる「九段線」がナツナ諸島周辺のインドネシアの排他的経済水域と重複しているとされており、16(同28)年には複数の中国漁船拿捕事案が発生するなど、両国の対立が顕在化している。また、フィリピンは、スカボロー礁、セカンドトーマス礁など南シナ海をめぐる中国との紛争に関し、国連海洋法条約(UNCLOS:United NationsConvention on the Law of the Sea)に基づく仲裁手続を行っていたが129、16(同28)年7月、フィリピンの申立て内容をほぼ認める最終判断が下された。しかし、16(同28)年10月に行われた比中首脳会談の共同声明においては、「南シナ海における係争問題は比中関係の全てではないことを確認」と明記された130。一方で、南沙諸島における施設整備を継続する中国に対し、フィリピンのヤサイ外相(当時)が、「挑発的であり、抗議も辞さない」と発言するなど、今後の比中関係の進展が注目される。

(2)中央アジア諸国との関係

中国西部の新疆ウイグル自治区は、中央アジア地域と隣接している。カザフスタン、キルギス及びタジキスタンの3か国とは直接国境を接し、それぞれの国境地帯にまたがって居住する少数民族があり、人的交流も活発である。そのため、中国にとって中央アジア諸国の政治的安定やイスラム過激派によるテロなどの治安情勢は大きな関心事項であり、01(同13)年6月に設立されたSCOへの関与は、中国のこのような関心の表れとみられる。また、中国は、資源・エネルギーの供給源や調達方法の多様化などを図るため、中央アジアの豊富な資源・エネルギーに強い関心を有しており、中国・中央アジア間に石油や天然ガスのパイプラインを建設するなど、中央アジア諸国とのエネルギー分野での協力を進めている。

(3)南アジア諸国との関係

中国は、パキスタンと従来から特に密接な関係を有し、首脳級の訪問が活発であるほか、武器輸出や武器技術移転を含む軍事分野での協力関係も進展しているとみられている。中国にとって海上輸送路の重要性が増す中、パキスタンがインド洋に面しているという地政学上の特性もあり、中国にとってパキスタンの重要性が高まっていると考えられる131。16(同28)年11月には、中国が建設を支援していたグワダル港の運用が正式に開始された。

中国は、インドとの間に国境未確定地域132を抱えており、近年も当該地域においては、両国間で「トラブル」が発生したとされている133。一方、近年中国は、パキスタンとのバランスにも配慮しつつ、インドとの関係改善にも努めており、インドとの関係を戦略的パートナーシップの関係にあるとし、積極的な首脳往来を行っている134。インドとの関係進展の背景には、中印両国における経済成長の重視や米印関係の強化の動きへの対応があるものと考えられる。

近年中国はスリランカとの関係構築も進めている。15(同27)年1月の選挙において中国傾斜から全方位外交への転換を公約し勝利したシリセーナ大統領は、就任当初、中国資金によるコロンボ港湾都市事業を差し止めたが、16(同28)年1月にはその再開を表明し、その後、中国との新規開発事業も進展をみせている。同年10月には、中国からの沿岸哨戒艦の供与について合意した。同大統領が当初表明していた中国潜水艦を寄港させない方針も撤回が検討されているとの指摘がある。また、中国は、バングラデシュとの間でも、海軍基地のあるチッタゴンにおける港湾開発や、武器輸出135などを通じて関係を深めている。16(同28)年10月、習近平国家主席は、国家主席としては約30年ぶりにバングラデシュを訪問した。

軍事交流としては、中国とパキスタンやインドとの間で、03(同15)年以降、海軍共同捜索・救難訓練、対テロ訓練をはじめ、各種の共同訓練が行われている。

(4)EU諸国との関係

近年、中国にとってEU(European Union)諸国は、特に経済面において、わが国、米国と並ぶパートナーとなっている。中国は、外交の場を利用して、EU諸国に対し、1989(同元)年の天安門事件以来の対中武器禁輸措置の解除を強く求めてきている136

KeyWord対中武器禁輸措置とは

1989(平成元)年の天安門事件の際の中国国内における人権弾圧に対する措置として、EU諸国は中国への武器の売却中止を宣言。ただし、実際の禁輸対象は各加盟国の解釈に最終的には委ねられている。中国側は対中武器禁輸解除を継続して求めており、また、EU内での再検討の動きもある。

EU加盟国は、情報通信技術、航空機用電子機器、潜水艦の大気非依存型推進システムなどにおいて中国や中国に武器を輸出しているロシアよりも進んだ軍事技術を保有している。EUによる対中武器禁輸措置が解除された場合、EU諸国の武器や軍事技術が中国に移転されたり、ロシアとの武器取引を有利にするための交渉材料として用いられたりする可能性がある。このため、わが国からEUに対しては、対中武器禁輸措置の解除に一貫して反対の意を表明するとともに、EU加盟国に対し、中国への武器及び汎用品並びにそれらの技術の輸出管理をより厳格に行うよう申し入れてきている。16(同28)年7月、10年ぶりに採択されたEUの対中戦略では、対中武器禁輸に関する立場に変化がない旨明記されたが、引き続き今後のEU内の議論に注目していく必要がある。

(5)中東・アフリカ諸国、太平洋島嶼国及び中南米諸国との関係

中国は、従来から、インフラ建設支援や資源・エネルギー開発への積極的な投資などの経済面において、中東・アフリカ諸国との関係強化に努めており、その影響力をさらに拡大させつつある。近年では、首脳クラス137のみならず軍高官の往来も活発であるほか、武器輸出や部隊間の交流なども積極的に行われている。このような動きの背景には、資源・エネルギーの安定供給を確保するねらいのほか、将来的には海外拠点の確保も念頭においているとの見方がある。また、中国はアフリカにおける国連PKOへ要員を積極的に派遣しているほか、15(同27)年12月に中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)の首脳会議を初めてアフリカで実施するなどしており、同地域への関与を強めている。

オーストラリアとの間では、ダーウィン港における中国企業によるオーストラリア北部準州政府との間でのリース契約が安全保障上の議論を生起させた138。また、中国は太平洋島嶼国との関係も強化しており、パプアニューギニアにおいて石油、天然ガス、コバルト鉱山などの開発を進めているほか、同国と軍事協力に関する協定を締結している。さらに、他の島嶼国に対しても積極的かつ継続的な経済援助を行っているほか、フィジーやトンガとの間では軍事交流を進める動きもみられる139

中南米諸国との関係では、アルゼンチンやブラジルをはじめとする各国を軍高官が継続的に訪問しているほか、15(同27)年1月に中国とラテンアメリカカリブ諸国共同体(CELAC:Comunidad de Estados Latinoamericanos y Caribeños)の初めてとなる閣僚級会議を開催したりするなど、一層の関係強化に努めている。16(同28)年11月にはAPEC首脳会議がペルー・リマで開催され、習近平国家主席がエクアドル、ペルー、チリを訪問した。

6 武器の国際的な移転

中国は、10(同22)年以降、武器輸出総額が輸入総額を上回っており、アジア、アフリカなどの開発途上国に小型武器、戦車、航空機などの供与を拡大している。具体的には、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマーなどが主要な輸出先とされているほか、アルジェリア、ナイジェリア、スーダン、タンザニア、ガーナ、ケニアなどのアフリカ諸国や、ベネズエラなどの中南米諸国、さらにイラク、イランなどの中東諸国にも武器を輸出している。中国からの武器移転については、友好国との戦略的な関係の強化や国際社会における発言力の拡大のほか、資源・エネルギーの獲得にも関係しているとの指摘がある。中国は、国際的な武器輸出管理の枠組みの一部には未参加であり、ミサイル関連技術の拡散が指摘されるなどしている140。中国が、国際社会の懸念に応えて武器の国際的な移転に関する透明性を向上させていくかが注目される。

108 「新型の大国関係」とは、12(平成24)年に習近平国家副主席(当時)が訪米した際、オバマ米大統領(当時)との会談で用いたのが始まりで、中国側は①衝突・対抗せず、②相互尊重、③協力・「ウィン・ウィン」の3点であると説明している。

109 同法は、「『台独』分裂勢力(『台湾独立』をめざす分裂勢力)がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、又は平和的統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる」と規定している。

110 16(平成28)年6月25日、中国国務院台湾事務弁公室報道官は、「台湾との交流メカニズムは5月20日以降、既に停止している」と発言した。

111 2章3節4項1参照

112 台湾当局の船舶は、12(平成24)年に3回、尖閣諸島周辺のわが国領海へ侵入した。

113 16(平成28)年12月、トランプ次期米大統領(当時)は、米国の「一つの中国」政策に縛られることを疑問視するような発言をツイッターで表明したが、17(同29)年2月10日の米中首脳電話会談において、トランプ米大統領が米国の同政策を尊重することに同意した旨発表された。

114 米国「国家安全保障戦略」(15(平成27)年2月)

115 米国「国家軍事戦略」(15(平成27)年7月)

116 米中が「対等」で「特別」な関係であるとする「(新型の)大国関係」という概念について米国は慎重であり、いわゆる「核心的利益」という用語も用いず、中国の一方的主張に与しない姿勢を示している。

117 本節脚注89参照

118 米軍が実施した「航行の自由作戦」として、15(平成27)年10月に、米海軍艦艇「ラッセン」が南沙諸島・スビ礁の12海里以内を航行したほか、16(同28)年1月に、米海軍艦艇「カーティス・ウィルバー」が西沙諸島・トリトン島の12海里以内を、また、同年5月に、米海軍艦艇「ウィリアム・P・ローレンス」が南沙諸島・ファイアリークロス礁12海里以内を航行している。同年10月には、米海軍艦艇「ディケーター」によって、西沙諸島周辺で同作戦が実施された。さらに、17(同29)年5月、米海軍艦艇「デューイ」が南沙諸島・ミスチーフ礁12海里以内を航行したと報じられている。

119 ゲイツ米国防長官(当時)との会談における徐才厚中央軍事委員会副主席(当時)の発言(09(平成21)年10月)。

120 15(平成27)年12月に米国防省が台湾への武器売却を議会に通知した際には、中国側から断固とした反対が表明されたものの、米国との主要な軍事交流の中止などはなかった。

121 同会合では、北朝鮮問題、南シナ海、米中軍事交流などに関する協議が行われたとされる。

122 2章3節2項5(6)参照

123 同条約は、軍事面において、国境地域の軍事分野における信頼醸成と相互兵力削減の強化、軍事技術協力などの軍事協力、平和への脅威などを認識した場合の協議の実施などに言及している。

124 SIPRIは、12(平成24)年から16(同28)年までの中国の武器輸入におけるロシアのシェアが57%を占めると指摘している。

125 中国はロシア製のSu-27戦闘機を元にJ-11B戦闘機を独自に再設計するなど、軍事科学技術の剽窃(ひょうせつ)、コピー、リバースエンジニアリングを行っていると指摘されており、ロシアは中国に対し強い不満と疑念を抱き、Su-35戦闘機やS-400対空ミサイルなどの最新鋭の装備品の供給には慎重であるとの指摘がある。例えば、Su-35戦闘機の供給については、コピー生産を行った際の巨額の賠償金支払いを契約に盛り込むよう求めているとする指摘があるほか、S-400については、比較的短射程のミサイルのみを供給する可能性などが指摘されている。

126 中国とウクライナは09(平成21)年、ズーブル級エアクッション艇4隻の中国への輸出・共同生産について合意し、13(同25)年から14(同26)年にかけて2隻が中国に引き渡された。また、11(同23)年、IL-78空中給油機3機の売却について契約を締結。16(同28)年には、An-225大型輸送機の輸出・中国国内での生産に関する協議を行うための合意に署名したと報じられている。

127 12(平成24)年4月、13(同25)年7月、14(同26)年5月、15(同27)年5月及び8月、16(同28)年9月に、それぞれ、黄海、ウラジオストク沖の日本海、東シナ海北部、地中海及びピョートル大帝湾、南シナ海において実施。17(同29)年には、7月及び9月に、それぞれ、バルト海海域及び日本海・オホーツク海海域で実施すると発表されている。

128 05(平成17)年8月、09(同21)年7月及び13(同25)年7月から8月には、中露二国間で、また、07(同19)年8月、10(同22)年9月、12(同24)年6月及び14(同26)年8月には、中露を含むSCO加盟国間で実施

129 2章6節4項参照

130 過去数年間、中国はスカボロー礁周辺に海警所属と思われる海上法執行船を派遣し、フィリピン漁船による同礁への接近を妨害してきたと指摘されていた。CSIS/AMTIによると、16(平成28)年10月の比中首脳会談後においても、フィリピン漁船がスカボロー礁周辺で操業していることが確認された。同年11月、中国外交部報道官は「フィリピン漁民が漁を行うことについて友好に基づいて適切に処置した」と述べ、中国がフィリピン漁船の操業を容認していることを認めた。

131 中国は、パキスタンのグワダル港を起点とした陸上輸送ルートである中パ経済回廊を「一帯一路」構想の旗艦プロジェクトと位置づけており、同回廊構築に460億ドルを投資すると発表している。

132 カシミール地方、アルナーチャル・プラデシュ州など

133 13(平成25)年8月、中国国防部報道官会見による。

134 16(平成28)年、習近平国家主席とモディ印首相は、6月(ウズベキスタン・タシケント)、9月(中国・杭州)、10月(インド・ゴア)と3回会談した。6月の会談においては、習近平が「中印の共通利益は、意見の相違よりもはるかに大きい」などと発言したと報じられている。

135 SIPRIは、12(平成24)年から16(同28)年までの中国の武器輸出におけるバングラデシュのシェアが18%を占め、第2位であると指摘している。

136 例えば、10(平成22)年11月には胡錦濤国家主席(当時)がフランスを訪問し、中仏双方が対中武器禁輸措置の解除を支持する旨を盛り込んだ共同声明を発表するなど、EU内の一部には対中武器禁輸の解除に前向きな姿勢を示す国もあるとみられる。

137 16(平成28)年1月、習近平国家主席はサウジアラビア、エジプト、イランを訪問し、中東に対して約6.3兆円の経済支援を表明した。

138 15(平成27)年11月、オバマ米大統領(当時)は、マニラにおける米豪首脳会談において、中国企業によるダーウィン港のリースについて、「注意喚起がほしかった」、「次回は知らせてほしい」など発言したとされている。

139 中国は、14(平成26)年8月から9月にかけて、トンガ、フィジー、バヌアツ、パプアニューギニアに対し、病院船による医療サービス任務「調和の使命2014」を実施した。

140 例えば中国はミサイル技術管理レジーム(MTCR)には参加しておらず、中国からパキスタンなどへのミサイル関連技術の拡散が指摘されている。