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<解説>新たな段階の脅威

北朝鮮は、これまで各種の弾道ミサイルの発射を繰り返してきていますが、特に16(平成28)年には、金正日氏が、その父・金日成国家主席の死去に伴い最高権力者としての地位を継承してから死去するまでの約18年間に発射した全ての発射数(16発)を一年間で超える、20発以上という過去に例を見ない頻度で発射を行い、また、17(同29)年に入ってからも新型とみられるものを含め、引き続き発射を繰り返しています。最近の北朝鮮による弾道ミサイル発射の動向については、

(1)第一に、弾道ミサイルの長射程化を図っているものとみられます。16(同28)年には、2月に「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイル(テポドン2派生型)を発射したほか、グアムが射程に入ると言われる中距離弾道ミサイル(ムスダン)の発射を繰り返しました。17(同29)年5月14日にロフテッド軌道で発射されたと推定される新型弾道ミサイルについては、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は、現時点では、最大で約5,000kmに達すると見込まれます。また、同年7月4日に発射された弾道ミサイルについては、その飛翔高度・距離などを踏まえれば、最大射程が少なくとも5,500kmを超えるとみられることから、ICBM級の弾道ミサイルであると考えられます。

(2)第二に、16(同28)年9月には、3発の弾道ミサイル(スカッドER)を同時に発射し、3発ともわが国EEZ内のほぼ同じ地点に打ち込んだほか、17(同29)年3月6日には、4発の弾道ミサイル(スカッドER)を同時に発射するなど、実戦配備済みの弾道ミサイルについて、飽和攻撃のために必要な正確性及び運用能力の向上を企図している可能性があります。

(3)第三に、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性を高め、奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられます。発射台付き車両(TEL)や潜水艦を使用する場合、任意の地点からの発射が可能であり、発射の兆候を事前に把握するのが困難となりますが、北朝鮮は、TELからの発射や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射を繰り返しています。また、16(同28)年に発射を繰り返したSLBMや17(同29)年2月12日及び5月21日に発射されたSLBMを地上発射型に改良したと推定される新型弾道ミサイルは、固体燃料を使用しているものとみられ、北朝鮮は、弾道ミサイルの固体燃料化を進めている可能性があります。一般的に、固体燃料のミサイルは、液体燃料に比べ、即時の発射が可能であり、発射の兆候が事前に察知されにくいとされています。このように、奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられます。

(4)第四に、発射形態の多様化を図っている可能性があります。16(同28)年6月22日のムスダン発射、17(同29)年5月14日及び7月4日の新型弾道ミサイル発射においては、通常よりも高い角度で高い高度まで打ち上げる、いわゆるロフテッド軌道と推定される発射形態が確認されましたが、一般論として、ロフテッド軌道で発射された場合、迎撃がより困難になると考えられます。

核兵器についても、小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられ、北朝鮮が核兵器計画を継続する姿勢を崩していないことを踏まえれば、時間の経過とともに、わが国が射程内に入る核弾頭搭載弾道ミサイルが配備されるリスクが増大していくものと考えられます。

政府としては、このような北朝鮮による核・弾道ミサイルの開発及び運用能力の向上が、16(同28)年来、わが国を含む地域及び国際社会に対する新たな段階の脅威になっていると認識しています。