09(平成21)年以降17(同29)年1月までの8年間にわたるオバマ大統領(当時)の在任期間中においては、アフガニスタン及びイラクにおける2つの戦争の終息後、グローバルなパワーバランスの変化、ウクライナや南シナ海をめぐる力を背景とした現状変更の試み、国際テロ組織による活動の活発化、新たな段階の脅威となっている北朝鮮による核兵器・弾道ミサイルの開発や運用能力の向上など、新たな安全保障環境のもと、米国の世界への関わり方が大きく変化してきた。
同政権においては、安全、繁栄、普遍的価値の尊重及び規範に基づく国際秩序といった4つの国益を追求するとの戦略方針のもと、厳しい財政状況の中においても世界最大の総合的な国力をもって世界の平和と安定のための役割を果たすとの姿勢を示してきた。
オバマ前政権において、米国は、各種戦略文書1に示されているように、アジア太平洋地域における同盟国などとの関係を強化するとともに、同地域へのアセット配備を量・質ともに充実させるとの考えのもと、アジア太平洋地域へのリバランスを推進し、同地域を重視してきた。
同時に、米国はアジア太平洋地域以外の安全保障上の課題にも対処してきた。14(同26)年以降、イラク・レバントのイスラム国(ISIL:Islamic State of Iraq and the Levant)などによるイラク及びシリアにおける攻勢を受け、同年8月以降、米国は空爆をはじめとする対ISIL軍事作戦として「固有の決意作戦」(OIR:Operation Inherent Resolve)を主導している(3章1節2項参照)。また、アフガニスタンにおいても、15(同27)年10月、オバマ大統領(当時)は16(同28)年末までに撤収予定であった計画を見直し、在任中は8,400人の態勢を維持するとしてきた。さらに、ウクライナ情勢の緊迫化や大量の難民流入に直面している欧州における米軍による抑止力を強化するため、「欧州再保証イニシアティブ」2の関連予算を増額させてきた。
このほか、米国は、昨今の中国などによる「A2/AD」能力の強化などを念頭に、米軍の軍事的優位性が徐々に浸食されているとの認識のもと、米軍の優位性の維持・拡大のため、新たな分野の軍事技術の開発を企図して「第3のオフセット戦略」を推進してきた。
KeyWord第3のオフセット戦略とは
米国の「第3のオフセット戦略」とは、敵の有する能力と異なる非対称的な手段を獲得することにより、相手の能力をオフセット(相殺)する考え方に基づくものであり、これまでに①核兵器の抑止力(1950年代)、②精密誘導・ステルス技術(1970年代)といった2つの時代があったとされる。
こうした中、17(同29)年1月20日に就任したトランプ大統領は、就任演説の中で「米国第一」への転換を宣言し、その新たな統治のビジョンとして外交問題などを含む今後の全ての決定は、米国の労働者とその家族に利益をもたらすために行われるとした。また、同大統領は、古くからの同盟を強化するとともに新しい関係を築き、イスラム過激派のテロを地球上から完全に根絶させるべく世界を結束させるとした。
また、トランプ政権は、発足初日に外交、軍事などを含む6つの政策3の基本について明らかにした。このうち、外交政策4においては、力による平和が外交政策の中心にあるとした上で、外交政策における優先順位を提示し、まずISILなどイスラム過激派テロ組織の打倒を最優先とし、次に、海・空軍の縮小傾向を転換し米軍を再建すること、さらに、外交を活用するとしつつ、昔の敵国が友好国となり、友好国が同盟国となることを歓迎するとした。軍事政策5に関しては、米国を防衛するためにあらゆるアセットを配置する必要性に触れた上で、他国が米国の軍事能力を上回ることは許されないとの認識を示し、政権として最高レベルの軍事的即応性を追求するとした。また、イランや北朝鮮からのミサイル攻撃を防ぐ最新のミサイル防衛システムを開発するとともに、サイバー能力の発展を優先課題とした。
17(平成29)年3月、建造中の空母「ジェラルド・R・フォード」の艦上で
軍再建について演説するトランプ大統領【米海軍提供】
このような政策方針のもと、トランプ大統領は、就任後早々、米軍の即応態勢の見直しを行い、その改善のための計画を提出すること、及び米軍再建のための新たな国家防衛戦略(NDS:National Defense Strategy)の策定に着手することをマティス国防長官に指示6している。
また、政権の最優先事項に据えたISIL打倒に関しては、その打倒計画の策定に早急に着手するよう閣僚らに指示し、打倒計画の素案提出は国防長官が行うものとした。
一方、トランプ政権においてはアジア太平洋、中東、欧州といった地域安全保障にどのように関与していくかについて包括的な戦略方針は示されていないが、アジア太平洋地域の安全保障を引き続き重視する姿勢を明確にしており、特にトランプ大統領の指示に基づき、北朝鮮政策の見直しを行い、北朝鮮に対する軍事的プレゼンスを強化している(本節1項3参照)。また、中東においても、17(同29)年4月には、シリア北西部の反体制派が支配する地域に対してアサド政権が化学兵器による攻撃を実施したと判断し、シリア軍に対する攻撃を実施した(3章1節4項参照)ほか、アフガニスタンで活動するISILに対し、実戦で初めて大規模爆風爆弾7を投下するなど、アジア太平洋地域以外の安全保障上の課題にも引き続き対処していく姿勢を示している。
他方、トランプ大統領は、環太平洋パートナーシップ(TPP:Trans-Pacific Partnership)からの離脱や自国の雇用を優先する貿易・経済政策とともに、安全保障政策においては、負担の少ないことが指摘される一部の同盟国は、米国が提供する安全保障への応分の負担を支払うべきであるとの考え方をこれまでに示している。これに関連し、17(同29)年3月にブリュッセルで開催されたNATO外相理事会に出席したティラソン国務長官は、加盟国に対し国防費をGDPの2%以上に引き上げる目標の早期達成を求めた。
新政権が発足し、「米国第一」への転換が宣言される中で、今後の同盟国やパートナー国との具体的な関係構築の動向が注目される。また、こうしたトランプ政権による政策の変化が、アジア太平洋、中東や欧州などをめぐる情勢の変化と相まって、今後の各国の政策にどのような影響を与えるのかについても注目される。
オバマ前政権期の15(同27)年7月に公表された国家軍事戦略は、国際秩序の主要な側面を見直すことを試み、米国の国家安全保障上の利益を脅かすような形で行動する「修正主義国家」として、ロシア、中国、イラン、北朝鮮を明示的に列挙したほか、ISILなどの暴力的な過激派組織が差し迫った脅威になっているとした。
一方、トランプ政権においては、安全保障上の脅威認識を包括的に示すような戦略文書はこれまでのところ発表されていない。しかしながら、トランプ大統領は、政権発足直後にISILなどのイスラム過激派テロ組織の打倒を最優先事項に据えたほか、17(同29)年4月に実施したシリアへの攻撃について、化学兵器の拡散・使用を阻止し、抑止することは、米国にとって不可欠な国家安全保障上の利益であるとした。また、同年4月、ティラソン国務長官は、国連安全保障理事会において、韓国や日本に対する北朝鮮の核攻撃の脅威は現実であり、北朝鮮が米本土を攻撃する能力を保有するのは恐らく時間の問題に過ぎないとしつつ、世界で最も差し迫った安全保障上の問題に対応しないと破滅的な結末をもたらす可能性があると発言した。このほか、同年4月、トランプ大統領は、イランの核問題に関する合意(3章第2節5項参照)について、イランが合意の精神に従っていないとの認識のもと、再検討を指示している。また、マティス国防長官は、同年2月の日米防衛相会談において、東シナ海・南シナ海における中国の活動に対する懸念を表明しているほか、同年4月のアフガニスタンにおける記者会見において、米国は、国際法に反し他国の主権を認めようとしないロシアに向かい合わなければならなくなっているとの見解を示している。
このような認識を考慮すれば、米国は、「米国第一」の統治ビジョンのもと、米国及び同盟国の利益を脅かすことを試みる国家や組織を安全保障上の脅威として認識しており、中でも、北朝鮮やISILなどの過激派組織、さらに大量破壊兵器の拡散・使用を優先的に対処すべき問題と位置づけていると考えられる。
14(同26)年3月に公表された「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR:Quadrennial Defense Review)は、アジア太平洋地域へのリバランス、欧州や中東の安定への強い関与など、国防戦略指針8に示された優先事項を具体化していくため、相互に関連し、補強し合う三本の柱として、本土の防衛、グローバルな安全保障の構築、戦力の投射と決定的な勝利9を重視するとしている。
この三本の柱のもとで、米軍は以下のことを同時に実施することが可能であるとしており、抑止が失敗した場合には、大規模かつ多面にわたる作戦で第一の地域で敵対者を打破するとともに、他の地域において第二の敵対者の目的を挫き、あるいは(第二の)敵に受容できないコストを課すことが可能であるとしている10。
また、三本の柱の実現のため、国防省は、戦闘の方法、戦力の配備、能力の優越や技術的先進性への投資といった分野で革新的な手法を追求しており、具体的には、アジア太平洋地域などの重要地域への海軍前方展開部隊の追加配備や艦艇・航空・地上部隊などの新たな組み合わせなどをあげている11。
こうした中、トランプ政権においては、17(同29)年2月、マティス国防長官が、米軍再建についてのトランプ大統領の指示を受けた国防省の取組において、長期的には「より大規模で優れた統合戦力の整備を目指す」との目標を示しており、現政権下で策定が進められる新たな国家防衛戦略の内容が注目される。
米国は、国防戦略指針やQDR、国家安全保障戦略(NSS:National Security Strategy)に示されているように、アジア太平洋地域を重視し、同地域へのプレゼンスを強化するリバランスの方針を継続してきた12。11(同23)年11月、オバマ大統領(当時)はオーストラリアの議会において演説を行い、今後、アジア太平洋地域におけるプレゼンス及び任務を最優先とすることを初めて明言し、日本や韓国におけるプレゼンスを維持しつつ東南アジアでのプレゼンスを向上させることなどを示した。
17(平成29)年4月24日、フィリピン海を航行中の米空母
「カール・ヴィンソン」【米海軍提供】
また、トランプ政権においては、17(同29)年2月4日、政権発足後2週間という非常に早い段階で日本を訪問したマティス国防長官が、稲田防衛大臣との会談の中で、米国にとってアジア太平洋地域は優先地域であり、米軍の継続したプレゼンスを通して同地域への米国のコミットメントを強化していく旨強調した。また、同年2月10日の日米首脳会談において、安倍総理大臣とトランプ大統領は、新たな段階の脅威となっている北朝鮮の核・ミサイル開発や東シナ海・南シナ海における一方的な現状変更の試みを含め、一層厳しさを増すアジア太平洋地域の安全保障環境について懸念を共有し、同日発出された共同声明の中で、米国が地域におけるプレゼンスを強化することが確認された。
特に、トランプ政権は、北朝鮮政策の再検討を行うとともに、北朝鮮の核・弾道ミサイルの開発や実験を阻止するための過去の取り組みは失敗したとの認識のもと、オバマ前政権が掲げた「戦略的忍耐」の政策を終わらせ、外交、安全保障、経済を含め、「全ての選択肢はテーブルの上にある」とする発言を累次に亘って行っている13。こうした中、17(同29)年4月には、シンガポールを出航しオーストラリアに寄港予定であった空母「カール・ヴィンソン」を中心とする空母打撃群が北上して西太平洋で任務に就く旨発表され、原子力潜水艦「ミシガン」が韓国のプサン港に入港したほか、同年5月には同年3月に続きB-1B戦略爆撃機が朝鮮半島上空を飛行した。また、同年5月には、在韓米軍に配備されたTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense)システム14が初期能力を発揮できる状態となったとされている。
THAADシステム
【Jane's By IHS Markit】
〈概説〉
ターミナル段階(弾道ミサイルが大気圏に再突入して着弾するまでの段階)にある短・中距離弾道ミサイルを地上から迎撃するシステムであり、大気圏外及び大気圏内上層部の高高度で目標を捕捉し迎撃するもの。
ティラソン国務長官は17(同29)年4月、国連安全保障理事会の閣僚級会合において、北朝鮮の核・弾道ミサイルの開発を放棄させるため、経済制裁及び外交的手段を通じ圧力を強めていくとした一方、全ての選択肢はテーブルの上にあることに改めて言及しつつ、こうした圧力は、北朝鮮の武力侵略に対し軍事行動で対抗する意思があることが後ろ盾となっており、米国は自ら及び同盟国を守っていくと述べている15。トランプ政権によるこのような対北朝鮮政策を踏まえると、米国は、引き続き北朝鮮に対し軍事的プレゼンスを示していくと考えられる。
14(同26)年11月、ヘーゲル国防長官(当時)は国防イノベーション構想を発表し、これが第3のオフセット戦略へと発展することを期待する旨述べた。米国は、1950年代以降、敵の有する能力と異なる新たな分野の軍事技術の開発に投資し、非対称的な手段を獲得することにより、相手の能力をオフセット(相殺)する戦略16を通じ軍事作戦上及び技術上の優位を維持してきた。しかし、今日こうした米国の優位性は潜在的な敵が軍を近代化させ先進的な軍事力を獲得したり、技術が拡散することにより、徐々に失われつつあることから、限られた資源を活用して米国の優位性を維持・拡大するため、新たに革新的な方策を見つけることを企図して本構想を打ち出したとしている。
本構想の策定を指揮するワーク国防副長官は、第3のオフセット戦略においては、ロシアや中国を念頭に置いた大国に対する通常戦力による抑止を強化するため、技術・組織・運用の各側面において相手に対し優位性を得ることがねらいとされており、そのための投資として、人間と機械の協働及び戦闘チーム化を重視17するとしている。また、民生技術の革新により、競争環境が大きく変化しており、民生技術を注視・活用していくため民間部門とのより緊密な連携が求められること、技術の拡散により優位性が短期間のうちに失われる可能性があることを指摘している。
オバマ大統領(当時)は、核兵器のない世界を目標にする一方で、この目標は早期に実現できるものではなく、核兵器が存在する限り核抑止力を維持するとした。
10(同22)年4月に発表された「核態勢の見直し」(NPR:Nuclear Posture Review)は、核をめぐる安全保障環境が変化してきており、核テロリズム及び核拡散が今日における切迫した脅威となっているとしている。また、核兵器保有国、特にロシア及び中国との戦略的安定性の確保という課題に向けて取り組まなくてはならない18とした。
13(同25)年6月、オバマ大統領(当時)はベルリンにおいて核兵器の削減などに関する演説を行い、同日、国防省は核兵器運用戦略に関する報告書を公表した。それらの中で、米国は、米国の配備済み戦略核兵器のうち3分の1にあたる数量を削減することなどについてロシアと交渉を行っていくとの考えを表明した。
一方、トランプ大統領は、21世紀の脅威を抑止し、同盟国を安心させるために、米国の核抑止力が近代的で堅牢かつ柔軟性を持ち、弾力性と即応態勢を有するとともに適切に調整されたものであることを確保するための新たなNPRの策定に着手するようマティス国防長官に指示しており、17(同29)年4月、マティス国防長官はNPRの策定を開始し、同年末までに大統領に最終報告を行うことを発表している。
近年、米国政府の財政赤字が深刻化しており、11(同23)年8月に成立した予算管理法において、21会計年度までに政府歳出を大幅に削減することが規定された。12(同24)年1月、国防省は、同法の成立を踏まえた具体的な国防歳出削減額が、12会計年度から21会計年度までの10年間で約4,870億ドル(13会計年度から17会計年度までの5年間で約2,590億ドル)に上ることを発表した。13(同25)年3月には、予算管理法の規定により、国防歳出を含む政府歳出の強制削減が開始されたが、同年12月に成立した民主党及び共和党による超党派予算法により、14及び15会計年度予算における強制削減は緩和され、また、15(同27)年11月に成立した超党派予算法により、16及び17会計年度予算における強制削減も緩和された。
一方、トランプ政権は、米軍再建のため国防歳出の強制削減を終わらせる旨表明し、17(同29)年5月に議会に提出された18会計年度予算教書における国防省予算要求においては、米国の安全を守るためには国防予算上限の引き上げが必要としつつ、前年度比約10%増となる5,745億ドル19の基本予算を計上したほか、海外における作戦経費については、「固有の決意作戦」や「欧州再保証イニシアティブ」の予算額を増加させるなどして計646億ドルを計上した。また、国防予算の主要な原則として①戦闘即応態勢の改善、②進行する安全保障課題への対処、③能力増強と今後の成長に向けた準備などを挙げた上で、陸軍については兵力、部隊、飛行訓練、弾薬の増強、海軍については戦闘艦艇8隻の調達、F-35戦闘機24機、F/A-18E/F戦闘攻撃機14機を含む航空機91機の調達、空軍についてはF-35戦闘機46機の調達、パイロット・保守管理要員の不足に対処するための兵力増強などの目標が示された。さらに、弾道ミサイル防衛については、アラスカに32基、カリフォルニアに4基配備している地上発射型迎撃ミサイルについて、北朝鮮及びイランのICBMによる脅威からの防護を強化するため、2017年末までにアラスカへの8基の追加配備を完了させるとしている。
参照図表I-2-1-1(米国の国防費の推移)
1 12(平成24)年1月の国防戦略指針(Sustaining U.S. Global Leadership:Priorities for 21st Century Defense)、14(同26)年3月の「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR:Quadrennial Defense Review)、15(同27)年2月の国家安全保障戦略(NSS:National Security Strategy)及び同年7月の国家軍事戦略(NMS:National Military Strategy)においてアジア太平洋へのリバランス政策を推進する旨記述
2 米国が北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)の同盟国及びパートナー国に対し、安全保障及び地域統合へのコミットメントを再保証するため、欧州における米軍のプレゼンスの増加、NATO同盟国などとのさらなる二国間・多国間の訓練・演習の実施、欧州における米国装備の事前集積の強化などを行う取組
3 トランプ政権が17(平成29)年1月20日に公表した6つの政策の基本:①「米国第一」エネルギー計画、②「米国第一」外交政策、③雇用と成長の回復、④我々の軍隊を再び強くする、⑤法執行コミュニティーのために立ち上がる、⑥全米国民のための貿易取組
4 「『米国第一』外交政策」において示された優先順序
5 「我々の軍隊を再び強くする」との政策において示された主要な内容
6 17(平成29)年1月27日、トランプ大統領は「米軍再建」を主題とする国家安全保障に関する国防長官及び予算管理局長宛ての大統領覚書に署名した。同内容では、「強さにより平和を追求するために、米軍を再建することが米国の政策となる」とした上で、即応態勢の見直しとそれに基づく一連の予算要求等の措置実施や、新たな国家安全保障戦略に基づくNDSの策定、核態勢の見直し(NPR)及び弾道ミサイル防衛の見直し(BMDR)の着手が指示されている。
7 米軍が投下した大規模爆風爆弾(MOAB:Massive Ordnance Air Blast)「GBU-43/B」は、全長約10m、総重量約9.8トンで、空中発射型の武装の中で最も大きく、米軍が保有する非核兵器として最大の破壊力を持つと言われており、C-130などの大型輸送機から投下された後、GPS誘導によって方向を制御する大型爆弾である。
8 12(平成24)年1月にオバマ政権が公表。10年にわたるアフガニスタン及びイラクにおける作戦の後、米軍が両国からの撤収を進めており、また、厳しい米政府の財政状況下で国防歳出を含む政府歳出の大幅削減が求められる国外・国内双方の要因により、国防上の優先順位について改めて見直し、米国の安全保障戦略を含む戦略の重点をアジア太平洋地域に置く方針が明らかにされた。
9 三本柱の主な内容は、次のとおり。
10 10(平成22)年に公表されたQDRでは、米軍は2つの国家による攻撃に対処する能力は保持しつつも、多岐にわたる作戦を実施する能力を保有するとした。また、12(同24)年に公表された国防戦略指針では、1つの地域において国家主体の攻撃的な目的を完全に否定することを見据えながら、2つ目の地域において、その機会に乗じて攻撃を行おうとする者に対し、その目的を否定したり、受容できないコストを課したりする能力を保有するとした。
11 QDRにおいては、統合軍の構成について、多岐にわたる紛争への対応に向けた変更、海外におけるプレゼンスと態勢の変更と維持、能力・戦力・即応性の変更などを行うとともに、米軍は規模を縮小するものの、先進的な能力と即応性を備えたものとするとしている。また、予算などの資源が減少する状況にあっても、国防省は、国防戦略の柱と緊密に整合する能力分野として、①ミサイル防衛、②核抑止、③サイバー、④宇宙、⑤航空/海上、⑥精密打撃、⑦情報・監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)、⑧対テロ・特殊作戦、⑨抵抗・回復力を重視するとしている。
12 QDRなどでは、アジア太平洋地域へのリバランスに関する国防省の取組の中核は、わが国を含む地域の同盟国との安全保障に関する取組を改善し、向上させることであるとするとともに、米軍は20(平成32)年までに、海軍及び海外に展開する空軍の戦力の60%をアジア太平洋地域に配備することとしている。
13 「戦略的忍耐」を終わらせ、「全ての選択肢はテーブルの上にある」とするトランプ政権の北朝鮮政策については、ティラソン国務長官及びペンス副大統領がそれぞれ17(平成29)年3月及び4月に韓国を訪問した際、記者会見で明言しているほか、同年4月28日に北朝鮮問題をめぐって開催された国連安全保障理事会の閣僚級会合でもティラソン国務長官が改めて言及するなど、繰り返し表明されている。
14 ターミナル段階にある短・中距離弾道ミサイルを地上から迎撃する弾道ミサイル防衛システム。大気圏外及び大気圏内上層部の高高度で目標を捕捉し迎撃する。弾道ミサイル防衛システムについては、III部1章2節参照
15 このほか、ティラソン国務長官は、17(平成29)年4月28日に行われた国連安全保障理事会の閣僚級会合において、米国は北朝鮮と交渉するテーブルに戻るための方法について交渉するつもりはなく、北朝鮮が国連安全保障理事会の決議及び核開発を終わらせるという過去の約束を順守することに誠実な姿勢を示す時に初めて北朝鮮との協議に関与すると述べている。
16 ヘーゲル国防長官(当時)は過去2つの「オフセット戦略」として、①1950年代に米国は核兵器の抑止力を用いることにより旧ソ連の通常戦力に対抗したこと、②1970年代に旧ソ連との間で双方の核戦力が均衡状態に至る一方で、米国は長射程精密誘導弾、ステルス航空機、ISR関連技術といった新たなシステムを獲得することにより旧ソ連に対し優位に立ったことを挙げている。
17 ワーク国防副長官が15(平成27)年11月の講演で説明したところによれば、具体的には、①自動学習する機械、②人間と機械の協働、③人間の活動への援助、④人間と機械の戦闘チーム化、⑤ネットワーク化された自律的兵器が挙げられている。
18 NPRは、このような安全保障環境認識に立脚し、①核拡散と核テロリズムの防止、②米国の核兵器の役割の低減、③低減された核戦力レベルでの戦略的抑止と安定の維持、④地域的抑止の強化と同盟国・友好国に対する安心の供与、⑤安全・確実・効果的な核兵器の維持、という5つの主要目標を提示している。
19 17会計年度成立予算の水準からは約520億ドル増
B-1B戦略爆撃機
【Jane's By IHS Markit】
〈諸元、性能〉
最大速度:マッハ1.25
最大行動半径:11,991km
ペイロード:機内34,019kg、機外31,751kg
〈概説〉
ボーイング社が開発した戦略爆撃機で米空軍が保有している。