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第IV部 防衛力の能力発揮のための基盤

4 契約制度の改善

1 検討の経緯

装備品などの調達をめぐる環境が一段と厳しさを増してきている状況に対応するため、防衛省では、新たな発想も取り入れ、さらに強力に取得改革を推進する必要性が高まっている。

このような背景のもと、防衛省は新たな施策を検討するため、10(平成22)年から有識者による「契約制度研究会」を開催している。

本研究会では、装備品調達に関連する契約などについて、国側から見た調達コストの抑制にとどまらず、短期的・中長期的視点も踏まえ、企業が防衛事業に取り組むメリットの向上や、効率化の努力を行った者が報われる「Win-Win」の関係の構築などに留意しながら、様々な課題について検討を行っている。

2 防衛装備品にかかる契約に関する制度の改善方策
(1)「超過利益返納条項」の改善

「超過利益返納条項」とは、契約履行後に企業に超過利益が生じた場合に、国にその超過利益を返納することを規定した契約条項である。この条項は、国にとっては契約相手方に対する超過利益の防止だけではなく、契約履行後の監査によりコスト情報が収集できるなどのメリットがあり、企業にも、原価を国から容認されることになるため、将来の同種契約の価格の基礎となるなどのメリットもある。

一方、本条項を付した契約については、企業努力によるコスト低減などにより超過利益が発生した場合には返納の対象となるため、企業のコストダウン・インセンティブが働きにくい。さらに、実質的な競争性が認められる複数者による入札案件に対して超過利益返納条項を付すことの妥当性については、慎重な評価が必要である。

このため、防衛省では、12(同24)年3月、実質的な競争性が確保されている競争契約の場合には、本条項を付さないこととする見直しを行った。現在は引き続き、超過利益返納条項をはじめとする原価監査付契約(実際に要した原価を監査し、最終的な支払金額を確定する特約を付した契約)から、実際の製造原価の増減とは無関係に契約締結当初の段階で金額を完全に確定する一般確定契約への移行を推進するための検討を加速させている。

(2)コストダウン・インセンティブを引き出す契約制度への改善

防衛省は、企業のコストダウン・インセンティブを引き出すため、これまでにも「インセンティブ契約制度」3の運用をはじめ様々な取組を行ってきた。しかし、このインセンティブ契約は、99(同11)年の導入以降、わずか4件の採用にとどまっている。さらに、供給者が事実上1者と考えられている装備品の調達にも、公募など競争性を持たせた手続を毎回行っているが、結果的にはその多くが1者応募であり、手続が事実上形骸化している。

このため、防衛省では、12(同24)年4月に「作業効率化促進制度」4を改善し、企業が作業の効率化によってコストダウンを行う約束をした場合に、一定の条件のもとで、削減される工数の50%相当額をインセンティブ料として認めることとした。さらに、13(同25)年4月には、企業の作業効率化に対する一層の取組みを促す観点から、企業が同制度を利用し、大幅なコスト削減を行うことを約束した場合には、制度の適用決定から最大5年度の間に締結される契約を随意的な契約とする制度を施行したところである。現在、契約制度について、インセンティブ料の付与対象や料率5の多様化などの制度見直しや継続的な受注を約束することにより、コストダウンに対する一層の取組を誘引する制度なども視野に検討を進めている。

(3)PFI(Private Finance Initiative)法6などを積極的に活用した複数年度契約とさらなる調達コストの低減

コストダウンを図るためには、一定程度まとまった長期の契約が不可欠である。しかし、国庫債務負担行為の上限は5年であり、企業にとっては、このような短期間の契約のために投資することは採算が合わないため、コスト削減のための投資を控えたり、さらにはリスク回避の観点から受注しないことも考えられる。

このため、PFI法や公共サービス改革法7などを積極的に活用してより長期の複数年度契約を実現することにより、投資額の平準化による予算の計画的取得および執行を実現するとともに、受注者側のリスク軽減、新規参入の促進などを通じた装備品調達コストの低減などのメリットを引き出すことが期待される。このような観点から、防衛省は、PFI法を活用したXバンド衛星通信の整備・運営事業について、13(同25)年1月に事業契約の締結を行った。

3 過大請求事案の再発防止策に関わる事項

三菱電機などの防衛関連企業による一連の過大請求事案について、その動機を調査・分析し、防衛省は12(同24)年12月に再発防止策を取りまとめのうえ、公表した。

調査の結果は、工数付替えなどによる過大請求が行われてきた背景として、装備品という特殊な商品を取り扱う防衛関連部門の閉鎖性を浮き彫りにするものであった。一方、民間企業において通常期待されるような損益管理や売上の実現が難しいという装備品調達に特有の取引条件も大きく影響していることが明らかとなった。

これらの背景は、今回の当事者である三菱電機などに特有のものではなく、防衛生産に関わる大部分の企業に共通する課題であると考えられる。再発防止策では、防衛生産の担い手の閉鎖性を軽減し、透明性を高める措置を充実・強化するとともに、企業が負担するコストとリスクをより中立的に評価する方策を検討した。13(同25)年3月以降、防衛大臣政務官を長とする過大請求事案調査・検討委員会において、これらの方策を具体的に実施するための検討を進め、一部については同年4月から施行しているところである。

3 企業からのコスト低減に向けた意欲を引き出すため、契約締結時に想定されなかった技術などによるコストダウン策を企業が提案して採用された場合に、コスト削減効果の一定割合(料率)分をインセンティブ料として予定価格のもととなる計算価格に付加する制度

4 契約相手方の作業の実施効率を向上させるよう、防衛省がコンサルタント会社も活用して、作業の実態調査・分析を行い、作業効率化のための余地を官民共同で探求する制度

5 計算価格に付加されるインセンティブ料としてコスト削減効果に適用される料率は、現在50%である。

6 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律

7 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律