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ダイジェスト 第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチなど

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わが国自身の防衛体制

わが国に対する侵攻への対応など

  • 海に囲まれ長大な海岸線を持つわが国は、本土から離れた多くの島嶼(しょ)や広大な排他的経済水域(EEZ)、大陸棚を有しており、そこに広く存在する国民の生命・身体・財産、領土・領海・領空と多くの資源を守り抜くことが課題である。また、資源や食料の多くを海外との貿易に依存するわが国にとって、自由で開かれた海洋秩序を強化し、航行・飛行の自由や安全を確保することも不可欠である。
  • 防衛省・自衛隊は、陸・海・空の領域と宇宙・サイバー・電磁波の領域における作戦能力などを有機的に融合させるとともに、陸・海・空自の部隊を連携させて統合作戦を行い、わが国に対する侵攻を阻止・排除する。
  • また、侵攻への対処だけでなく、力による一方的な現状変更やその試みなどにも対応するため、平素から常時継続的に情報収集・警戒監視を行い、領空侵犯や領海侵入に対しても迅速かつ的確に対応する態勢を維持している。
  • 2024年度の緊急発進(スクランブル)回数は704回(中国機に対して464回、ロシア機に対して237回であった。同年度中は中国機(8月)とロシア機(9月)、2025年5月には中国機による領空侵犯に空自機が緊急発進し、対応した。
  • さらに、偽(にせ)情報の流布や、政府の信頼低下、社会の分断を狙った情報の拡散などにより、人の認知に働きかけ、世論や政府の意思決定に影響を及ぼす「認知領域を含む情報戦」にも対応し、その中心的な役割を担う情報本部が必要な措置を講じている。
  • このほか、国連安保理決議に違反する北朝鮮の「瀬取り」への対応や、わが国の重要なシーレーンの安定的利用を確保するため、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処や中東地域における日本関係船舶の安全確保に必要な取組も継続して行っている。

緊急発進(スクランブル)に対応する空自戦闘機

緊急発進(スクランブル)に対応する空自戦闘機

アデン湾において船舶を護衛する海自護衛艦(写真奥)

アデン湾において船舶を護衛する海自護衛艦(写真奥)

わが国の防衛力の抜本的強化

  • 今後の防衛力は、相手の能力と新しい戦い方に着目し、抑止力と対処力を高めるために、「スタンド・オフ防衛能力」、「統合防空ミサイル防衛能力」、「無人アセット防衛能力」、「領域横断作戦能力」、「指揮統制・情報関連機能」、「機動展開能力・国民保護」、「持続性・強靱性」の7つの分野を重視して、わが国の防衛力を抜本的に強化していく。
  • 侵攻する艦艇や上陸部隊などに対して、その脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力を強化するため、2025年度は、12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)の配備や米国製トマホークを取得するほか、これらのミサイルを運用する上で必要となる目標情報を収集するための衛星コンステレーションの構築を開始する。
  • 多様化・複雑化・高度化する経空脅威に対処するため、統合防空ミサイル防衛能力を強化することとし、イージス・システム搭載艦の建造のほか、極超音速滑空兵器(HGV)に対処することができる滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)の日米共同開発を開始した。
  • 危険な環境下や長時間連続で運用できる無人アセットについては、2024年度に滞空型無人機MQ-9B(シーガーディアン)の導入を決定したほか、英国・イタリアと共同開発する次期戦闘機に随伴して飛行し、次期戦闘機を支援する無人機の開発を計画している。
  • 領域横断作戦能力に関しては、2025年度に宇宙作戦団(仮称)を新編するなど、宇宙領域把握(SDA)に関する能力を強化していくほか、サイバー攻撃への対応について、政府全体での取組と連携して能力を強化していく。また、電子戦能力と電磁波管理機能についても引き続き強化していく。
  • 指揮統制・情報関連機能に関しては、今後、各自衛隊の一元的な指揮統制を可能とする防衛省クラウド(仮称)基盤の整備や、空自の自動警戒管制システム(JADGE)の大規模な換装などを行うほか、防衛駐在官の派遣を含む様々な手段を適切に活用し、隙のない情報収集体制を構築していく。
  • 機動展開能力に関しては、特に南西地域において必要な部隊の配備を進めるとともに、輸送船舶や輸送機などの取得を推進している。2024年度は、陸・海・空自の共同の部隊として自衛隊海上輸送群を新編(2025年3月)した。
  • 国民保護についても、警察、消防、海上保安庁など様々な関係省庁と連携しつつ、被害状況の確認、人命救助、住民避難の支援などを行うこととしている。
  • 持続性・強靱性の強化の取組として、弾薬・燃料の確保、装備品の可動数の向上、防衛施設の強靱化などを推進する。

GPI日米共同開発「プロジェクト取決め」署名(2024年5月)

GPI日米共同開発「プロジェクト取決め」署名(2024年5月)

多国間宇宙演習(AsterX(アステリクス))への参加(2025年3月)【フランス航空・宇宙軍提供】

多国間宇宙演習(AsterX(アステリクス))への参加(2025年3月)【フランス航空・宇宙軍提供】

海上輸送群の輸送艦「にほんばれ」(進水時の様子 2024年10月)

海上輸送群の輸送艦「にほんばれ」(進水時の様子 2024年10月)

国全体の防衛体制の強化

  • 政府は、防衛力の抜本的強化に加えて、外交力、情報力、経済力、技術力を含めた国力を統合し、あらゆる政策手段を体系的に組み合わせて国全体の防衛体制を構築することとしている。
  • このため、総合的な防衛体制の強化を進めることとし、「研究開発」、「公共インフラ整備」、「サイバー安全保障」、「わが国と同志国の抑止力の向上などのための国際協力」の4つの分野における取組を推進することとしている。
  • このほか、平素からの常時継続的な警戒監視や宇宙領域に関する取組、大規模災害や在外邦人等の保護措置・輸送への対応なども、国の総力を挙げて対応すべき取組であるため、防衛省・自衛隊は、関係省庁などと緊密に連携して各種活動を行っていく。
  • サイバー安全保障に関しては、2025年5月にサイバー対処能力強化法と同整備法が成立したことを受け、防衛省・自衛隊は、関係省庁と連携して政府の取組に積極的に貢献していく。
  • また、災害派遣に関して、2024年度は、能登半島地震にかかる災害派遣を継続して行ったほか、大雨や土砂災害、林野火災にかかる災害派遣などにおいて、関係省庁と連携して活動を行った。
  • 在外邦人等の保護措置または輸送を迅速かつ的確に行うため、自衛隊は、部隊を速やかに派遣する態勢を維持している。2024年度は、在レバノン共和国邦人等の輸送を行った。

林野火災における空中消火活動(岩手県大船渡市)(2025年2月)

林野火災における空中消火活動(岩手県大船渡市)(2025年2月)

わが国自身による防衛体制を強化するための訓練・演習など

  • 防衛省・自衛隊は、様々なハイレベルの共同訓練・演習や他省庁・自治体を交えた各種演習を積極的に行い、抑止力・対処力のさらなる向上に努めている。
  • 2024年9月から11月にかけて、全国の陸自部隊が参加する「令和6年度陸上自衛隊演習」を行い、作戦準備段階から作戦段階までを一連の各種部隊行動の演練を通じて任務遂行能力や運用の実効性向上を図るとともに、抑止力・対処力の強化に寄与している。

令和6年度陸上自衛隊演習(2024年10月)

令和6年度陸上自衛隊演習(2024年10月)

日米同盟

日米安全保障体制の概要

  • わが国は、民主主義、人権の尊重、法の支配、資本主義経済といった基本的な価値観や世界の平和と安全の維持に関する利益を共有し、経済面においても関係が深く、かつ、強大な軍事力を有する米国との安全保障体制を基軸として、わが国の平和、安全や独立を確保していく。

日米防衛相会談(2025年3月)

日米防衛相会談(2025年3月)

日米共同の抑止力・対処力の強化

  • わが国の防衛戦略と米国の国防戦略は、あらゆるアプローチと手段を統合させて、力による一方的な現状変更を起こさせないことを最優先とする点で一致している。
  • 日米の役割・任務・能力に関する議論をより深化させ、日米共同の統合的な抑止力をより一層強化していく。

同盟調整機能の強化

  • 日米両国による整合的な共同対処を切れ目のない形で実効的に対処することを目的として、同盟調整メカニズム(ACM)を設置している。
  • 例えば、熊本地震や能登半島地震、北朝鮮の弾道ミサイル発射や尖閣諸島周辺海空域における中国の活動について、日米間ではACMも活用しながら、緊密に連携している。

共同対処基盤の強化

  • あらゆるレベルにおける情報共有をさらに強化するために、情報保全やサイバーセキュリティにかかる取組を抜本的に強化することとしている。
  • 先端技術に関する共同分析や共同研究、装備品の共同開発・生産、相互互換性の向上、各種ネットワークの共有や強化、米国製装備品の国内における生産・整備能力の拡充、サプライチェーンの強化にかかる取組など、防衛装備・技術協力を一層強化することとしている

吉田統幕長とスティーブン・ケーラー米太平洋艦隊司令官による日米共同記者会見(2024年10月)

吉田統幕長とスティーブン・ケーラー米太平洋艦隊司令官による日米共同記者会見(2024年10月)

在日米軍の駐留に関する取組

  • 日米同盟がわが国の防衛や地域の平和と安定に寄与する抑止力として十分に機能するためには、在日米軍のプレゼンスが確保されていることや、在日米軍が緊急事態に迅速かつ機動的に対応できる態勢がとられていることなどが必要である。
  • 日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するとともに、沖縄をはじめとする地元の負担を軽減するため、在日米軍再編に向けた取組を着実に進めていく。

日米共同訓練・演習など

  • 日米同盟は、わが国の安全保障にとって不可欠であり、その抑止力・対処力の強化にあたり、日米共同訓練は重要な役割を果たしている。
  • 自衛隊は、各軍種間の共同訓練や日米共同統合演習(実動演習および指揮所演習)を着実に積み重ねており、自衛隊の戦術技量の向上や米軍との連携強化などを図るとともに、地域の平和と安定に向けた日米の一致した意思や能力を示していく。

令和6年度日米共同統合演習(実動演習)「キーン・ソード25」(2024年10月)

令和6年度日米共同統合演習(実動演習)「キーン・ソード25」(2024年10月)

同志国などとの連携

多角的・多層的な安全保障協力の戦略的な推進

  • 力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出していくため、同盟国のみならず、一か国でも多くの国々と連携を強化することが極めて重要であり、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現のため、多角的・多層的な防衛協力・交流を推進していく。
  • インド太平洋、欧州、中東・アフリカ・中南米など、様々な地域の国々との間で、ハイレベル交流、共同訓練、能力構築支援、防衛装備・技術協力などを行う。
  • 同志国などとの間では、円滑化協定(RAA)、物品役務相互提供協定(ACSA)、防衛装備品・技術移転協定などの制度的枠組みの整備をさらに推進していく。
  • 女性・平和・安全保障(WPS)にかかる国内外の取組を推進し、インド太平洋地域、ひいては国際社会の平和と安定に寄与していく。
  • 海洋国家であるわが国にとって、自由で開かれた海洋秩序を強化し、航行・飛行の自由や安全を確保することは、必要不可欠であり、海賊対処をはじめ、海洋状況監視などの海洋安全保障に関する取組を推進していく。

第11回ADMMプラス(2024年11月)

第11回ADMMプラス(2024年11月)

国際平和協力活動への取組

  • エジプトとイスラエルの停戦監視を任務とする多国籍部隊・監視団(MFO)や、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に、司令部要員などの派遣を継続していく。
  • 国連事務局やPKO訓練センターなどへの職員派遣、国連三角パートナーシップ・プログラム(UNTPP)への支援などを通じ、国連の国際平和に向けた努力に対して積極的に貢献していく。
  • 自衛隊は、国際緊急援助活動について、被災国からの緊急の要請に対応できる態勢を常時維持する。

日英伊防衛相会合(2024年10月)

日英伊防衛相会合(2024年10月)

軍備管理・軍縮や不拡散への取組

  • 大量破壊兵器やその運搬手段となりうるミサイルなどの拡散、武器および軍事転用可能な貨物・機微技術の拡散は、国際社会の平和と安定に対する差し迫った課題である。
  • 防衛省・自衛隊は、軍備管理・軍縮・不拡散にかかわる国際的な体制整備や訓練に、積極的に参画していく。

UNMISS軍事部門司令部で活躍する派遣隊員

UNMISS軍事部門司令部で活躍する派遣隊員

同志国との訓練・演習など

  • FOIPの実現に向けた取組として、広くインド太平洋地域において同盟国・同志国などとの共同訓練を積極的に推進していく。
  • 特に、共同訓練などといった共通の努力を同盟国・同志国などと行い、各国の能力・練度の維持・向上および共同・連携による抑止力・対処力の強化により、相乗効果を発揮することで、力による一方的な現状変更やその試みを許さない安全保障環境の創出を図っていく。

豪空軍演習「ピッチ・ブラック24」(2024年7月)

豪空軍演習「ピッチ・ブラック24」(2024年7月)