ロシアはウクライナ侵略を継続するなかでも、核戦力を強化しているものと考えられます。わが国周辺においては、戦略原子力潜水艦の活動海域であるオホーツク海周辺一帯の防衛に一層注力しているとみられます。
戦略原潜については、2021年以降、新型の「ボレイA」級SSBNが毎年配備され、計5隻体制になっているとみられるほか、既存の原潜の一部も近代化改修されています。
戦略原潜の活動海域であるオホーツク海周辺一帯のカムチャツカ半島、帰属先未定地である千島列島及び南樺太、そしてわが国の北方領土において、ロシア軍は、地対艦ミサイル「バスチオン」や「バル」、地対空ミサイル「S-400」を近年新たに配備していますが、これらの動きは、ロシアが戦略原潜の活動海域であるオホーツク海一帯への他国軍の接近を阻もうとする、いわゆる「バスチオン」戦略の一環と考えられます。
また、「バスチオン」戦略強化の観点から、沿海地方やカムチャツカ半島を拠点とする海空戦力の整備・活用を進めているものとみられます。具体的には、太平洋艦隊は、戦術核と通常弾頭を搭載可能な精密誘導兵器である「カリブル」巡航ミサイルを搭載する艦艇を整備中であり、ペトロパブロフスク・カムチャツキーにはステレグシチーIII級フリゲートやヤーセンM級原子力潜水艦が、ウラジオストクにはキロ改級潜水艦が新たに配備されていますが、こういった艦艇は今後も増加するものとみられます。また、2023年1月に実戦配備された極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」は、ゴルシコフ級ミサイルフリゲートに搭載可能であり、将来、「ツィルコン」を搭載する艦艇が極東に配備される可能性があります。
また、これらの海空戦力は、米国や日本などに対するけん制の観点から、平素から活用されているものとみられます。活発な活動はウクライナ侵略開始前からみられており、例えば2021年には太平洋艦隊によるハワイ諸島西方の太平洋中部における大規模演習が報じられました。2024年9月には、IL-38哨戒機がわが国領空を同日中に3度にわたり領空侵犯したことが確認されています。
また近年は、中国との軍事的な連携を一層強化しています。具体的には、中国との間で艦艇の共同航行や爆撃機の共同飛行、各種訓練を実施しているところ、艦艇の共同航行については活動海域が拡大する傾向にあり、また爆撃機の共同飛行については活動空域の拡大や爆撃機以外の参加機種の増加がみられます。さらに各種訓練についても、2024年9月には、同時期に実施された中露それぞれが主催する演習に両国軍が相互に参加しています。
わが国周辺を含むインド太平洋地域におけるロシアの軍事動向については、海空戦力の増強や中国との軍事連携の動向を含め、強い懸念をもって注視していく必要があります。
わが国周辺におけるロシア軍の配置