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<解説>北朝鮮とロシアの軍事協力の進展

ロシアによるウクライナ侵略が継続するなか、北朝鮮はロシアとの軍事協力を強化しています。例えば、2023年以降、北朝鮮からロシアに対して、弾道ミサイルを含む武器・弾薬の供与が行われたことが明らかになりました。供与された武器・弾薬は、ウクライナに対して使用されており、ウクライナでのロシアの継戦能力に少なからず貢献しています。また、北朝鮮のロシアに対する軍事協力は、武器・弾薬の供与といった物的支援にとどまりません。2024年10月には、北朝鮮兵士がロシア東部へ派遣されたことが確認され、その後、派遣された兵士はウクライナに対する戦闘に参加するに至りました。

北朝鮮兵士の派遣に関して、2025年4月、ロシアはクルスク州の奪還を宣言するなかで、同州での戦闘に北朝鮮兵士が参加していたことに初めて言及し、北朝鮮兵士の戦闘参加に謝意を表明するプーチン大統領の声明を発表しました。北朝鮮においても、党中央軍事委員会による書面立場文を発表し、クルスク州における戦闘参加の事実を初めて対外的に明らかにしたほか、ロシアとの間で締結した「包括的戦略的パートナーシップ条約」第4条の規定を根拠に、金正恩委員長が北朝鮮兵士を参戦させる決定を下したことも明らかにしました。

「包括的戦略的パートナーシップ条約」とは、2024年6月の金正恩委員長とプーチン大統領による首脳会談の際に署名されたもので、同年12月に発効しました。北朝鮮が参戦の根拠としたと主張する同条約の第4条(朝鮮語正文)には、「双方のうちいずれか一方が個別の国家または諸国から武力侵攻を受けて戦争状態におかれることとなった場合、他方は、国連憲章第51条と北朝鮮、ロシア連邦の法に従って、遅滞なく自らが保有している全ての手段により、軍事的およびその他援助を提供する」と規定されています。条約が署名された露朝首脳会談後の共同記者発表においては、北朝鮮側が露朝関係を「同盟」と表現したほか、ロシア側は北朝鮮との軍事技術協力の発展を排除しないと明示的に言及するなど、軍事面でのさらなる連携が示唆されていました。

「包括的戦略的パートナーシップ条約」への署名後、握手をするプーチン大統領と金正恩委員長【朝鮮通信=時事】

「包括的戦略的パートナーシップ条約」への署名後、握手をするプーチン大統領と金正恩委員長【朝鮮通信=時事】

北朝鮮がロシアに対して軍事支援を行う背景として、その見返りに、ロシアの核・ミサイル関連技術の移転を求めている可能性が指摘されています。金正恩委員長は、2021年の朝鮮労働党第8回大会において、核兵器の小型・軽量化や、「超大型核弾頭」生産の推進、「極超音速滑空飛行弾頭」、原子力潜水艦、固体燃料推進のICBMの開発、軍事偵察衛星の運用といった具体的な目標に言及しました。北朝鮮はその実現に向けて計画的に開発を進めているとみられますが、これまでに具体的な進展が確認されていないものもあり、北朝鮮が何らかの技術的課題を抱えていることもその要因の一つとして考えられます。

また、核・ミサイル関連技術のみならず、北朝鮮が、その通常戦力の近代化に寄与する装備品などを求めている可能性も指摘されています。現状、北朝鮮の通常戦力の多くは旧式化し、韓国軍と在韓米軍に対して著しい質的格差が生じている状況です。

北朝鮮は、核・ミサイル開発を依然として継続し、弾道ミサイル等の発射を繰り返し強行するなど、地域と国際社会の平和と安全を著しく損なっています。こうした北朝鮮が、核・ミサイル関連技術の移転といった軍事支援をロシアから獲得する可能性があること、それ自体がわが国を取り巻く地域の安全保障の観点から深刻に憂慮すべきものです。

このように、露朝軍事協力の進展の動きについては、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障が不可分であるという認識のもと、北朝鮮がウクライナ侵略にどのように関与し、ロシアからいかなる協力を得るのかをしっかりと注視していく必要があります。