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<視点>トランプ政権後の米国の安全保障戦略の見通し

防衛研究所 グローバル安全保障研究室 室長 新垣 拓(あらかき ひろむ)

トランプ政権は、1期目よりも厳しい戦略環境に直面しています。国際社会に大きな衝撃を与えたロシアによるウクライナ侵略は今もなお継続しています。その一方で、中国との戦略的競争は激しさを増し、軍事・外交分野からAIなどの新興技術の開発競争という経済分野にまで拡大しています。さらに、北朝鮮やイランは、それぞれロシアや中国との包括的・戦略的な協力関係を強めています。

この状況の中、トランプ政権の安全保障戦略における最大の焦点は、中国になると考えられます。近年、中国に対する米国内の認識は悪化しています。東シナ海や南シナ海、台湾海峡をめぐる中国の威圧的な言動、米国企業が開発した先端技術の窃取問題、米国国内での影響工作などを背景に、中国の行動が米国の安全保障を大きく脅かしているという認識が共和党・民主党の党派を超えて広く共有されるようになりました。

トランプ政権は1期目において、関与政策という冷戦期から継続されてきた対中政策の方向性を転換し、対中強硬路線へと大きく舵を切りました。第2期トランプ政権の陣容をみても、マルコ・ルビオ国務長官をはじめ対中強硬派が多数政権入りしていることから、この姿勢は今後も継続されると考えられます。ピート・ヘグセス国防長官は、中国との戦争を抑止することが米国にとって優先課題であるという姿勢を明らかにしています。

トランプ政権が掲げる「力による平和」という政策アプローチは、米国が中国との戦略的競争を優位に進めるために、まず米国自身の軍事力や経済力を強化することを重視しています。その一方で、戦略環境が一段と厳しくなっていることを受けて、米国の安全保障戦略における同盟国の重要性は益々高まっています。

インド太平洋地域だけでなく、ウクライナでの戦争やガザ紛争で大きく揺れる欧州や中東地域の平和と安定に向けて、同盟国がより大きな役割を果たすことに対する期待は、トランプ政権内で強くきかれます。

このようなトランプ政権の安全保障戦略を踏まえると、わが国をはじめとする同盟国自身の能力強化が不可欠となります。それに加えて、同盟国間の協力関係を深めていくことも重要な課題です。

インド太平洋では、米国との2国間関係に加えて、ミニラテラルと呼ばれる日米豪、日米韓、日米比関係の強化、さらには「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米豪印4か国の協力関係を今後も深めていくことが、力や威圧による一方的な現状変更を阻止する上で重要な政策であると考えられます。

(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。