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第V部 防衛力を維持・強化するために必要な基盤や取組

防衛白書トップ > 第V部 防衛力を維持・強化するために必要な基盤や取組 > 第2章 地域社会や環境との共生に関する取組 > 第2節 気候変動などの環境問題への対応 > 1 防衛省・自衛隊の施設に関する取組

第2節 気候変動などの環境問題への対応

世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)によると、2024年の世界平均気温は工業化以前の1850~1900年の基準線を1.55℃上回った。2015年から2024年は記録上最も暖かい10年となり、氷河の氷の消失、海面上昇、海洋温暖化の加速や異常気象が世界中の社会や経済に大損害を与えている。

気候変動などの環境問題への対応については、2015年には、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の国連における採択や気候変動に関する国際枠組みであるパリ協定の採択などを受け、各国で取組が進められている。

わが国においても、2018年に第5次環境基本計画を閣議決定し、持続可能な社会の実現に取り組んでいるところであり、国内外における取組をさらに加速させる旨表明している。また、2021年に気候変動適応計画、2025年2月に地球温暖化対策計画を閣議決定し、具体的な気候変動対策が進められている。

また、気候変動は、大雨、干ばつ、熱帯低気圧などをもたらし、住居やインフラの破壊、財産や生計手段の喪失、食料や水の確保に影響を及ぼす上、紛争の可能性を高めるものと指摘されており、軍の装備品、インフラ、作戦そのものにも影響を及ぼす。

米国防省は、「気候強靱性」の概念のもと、気候変動がもたらす課題に積極的に対処してきた1。「気候強靱性」とは、変化する気候条件について予測、準備、適応し、同時に気候による混乱に対応し、迅速に回復する能力を指す。

NATOは、2024年7月、年次の事務総長報告「気候変動と安全保障影響評価」を公表し、各作戦領域への気候変動の影響のほか、軍事紛争は気候変動と環境破壊の重大な要因であるとした上で、ロシアによるウクライナ侵略の気候変動への影響を取り上げた。

こうした国内外の取組が加速していることを受け、防衛省・自衛隊としても、気候変動や環境問題の各種課題に対応し、解決に貢献するとともに、自衛隊施設や米軍施設・区域と周辺地域の共生について、より一層重点を置いた施策を進めていく必要がある。

また、気候変動の問題は、将来のエネルギーシフトへの対応を含め、今後、防衛省・自衛隊の運用や各種計画、施設、装備品、さらにわが国を取り巻く安全保障環境により一層の影響をもたらすことから、これらにも適切に対応していく必要がある。

1 防衛省・自衛隊の施設に関する取組

防衛省・自衛隊は、これまで環境関連法令を遵守し、環境保全の徹底や環境負荷の低減に努めてきており、職員の心構えや環境施策などを示した防衛省環境配慮の方針のもと、環境への取組を推進している。2021年度には、防衛省内部部局に防衛省・自衛隊の環境政策全般を担当する環境政策課を新設するとともに、2022年度には、全国の地方防衛局に環境対策室を設置するなど、環境問題への対応について防衛省・自衛隊として一元的・効果的に実施する体制を整備した。引き続き、さらなる施策の推進に取り組んでいく。

1 防衛省気候変動対処戦略

気候変動を安全保障上の課題として捉える動きが、国連安保理をはじめ各国の国防組織にも広がってきている。防衛省では、2021年に防衛省気候変動タスクフォースを設置し、気候変動がわが国の安全保障に与える影響について幅広く検討を行い、2022年、防衛省気候変動対処戦略を策定した。同戦略では、気候変動が今後与える直接的・間接的な影響に対し、防衛省において今後推進すべき10の具体的な施策を掲げている。防衛省・自衛隊は、同文書に基づき、気候変動への対処を防衛力の維持・強化と同時に進めていく。

防衛省は、同戦略に基づき、2024年6月、2050年までの長期を見据えたロードマップを策定し、戦略的かつ計画的に各種取組を推進している。

また、同戦略を踏まえ、政府専用機や空自戦闘機などが持続可能な航空燃料2(SAF:Sustainable Aviation Fuel)を使用した。

2 再生可能エネルギー電力の調達

防衛省・自衛隊は、約25万人の隊員を有し、全国各地で様々な装備品や施設を運用しており、政府の機関で最も電力を使用していることから、温室効果ガスの排出の削減などに貢献するため、2020年度から、防衛省・自衛隊施設の電力の調達にあたり、再生可能エネルギーにより発電された電力(再エネ電力)の調達を積極的に進めている。

3 再生可能エネルギーの推進と安全保障の両立

気候変動問題への対応として風力発電を含む再生可能エネルギーの導入が進められており、風力発電設備は今後増加していくことが予想される。風力発電設備は、その設置場所や規格によっては、例えば、警戒管制レーダーの運用に支障を及ぼし、航空機やミサイルの探知を困難にさせるなど、自衛隊や在日米軍の活動に影響を及ぼすおそれがある。このため、防衛省・自衛隊としては、事業者をはじめとする関係者との調整を事業計画の早期の段階からきめ細やかに行っている。また、現在の取組を制度化するための法律として、2024年5月に防衛・風力発電調整法3が成立し、2025年3月に施行された。

動画アイコンQRコード資料:環境対策に関する取組
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/kankyo_taisaku/index.html

動画アイコンQRコード資料:風力発電設備が自衛隊・在日米軍の運用に及ぼす影響及び風力発電関係者の皆様へのお願い
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/windpower/index.html

4 PFOS(ピーフォス)など4への対応

防衛省・自衛隊は、策定したPFOS処理実行計画に基づき、保有する全てのPFOSを含有する泡消火薬剤などの交換と処分を2024年9月末に完了した。

また、2022年以降、全国の自衛隊施設において、過去にPFOSを含有する泡消火薬剤を使用していた施設や使用していた可能性がある施設の泡消火設備専用水槽の水の分析結果を公表するとともに、PFOSなどが検出された水槽の水の処理を進め、2025年2月に全ての処理を完了した。

1 一方で、第2期トランプ政権が、パリ協定からの離脱を表明したことなどから、気候変動の取組に関する米国の今後の動向が注目される。

2 空自は、2022年11月、政府専用機の運航時において、SAFを初めて使用した。

3 風力発電設備の設置等による電波の伝搬障害を回避し電波を用いた自衛隊等の円滑かつ安全な活動を確保するための措置に関する法律

4 PFOS、PFOAのこと。有機フッ素化合物の一種であり、撥水性、撥油性、耐熱性の性質を持ち、これまで泡消火薬剤や半導体、金属メッキなどに使用されてきた。