一層厳しさが増す安全保障環境にあっては、自衛隊が持つ能力を最大限発揮できるよう部隊などの体制整備を図るとともに、訓練の質を向上させることが重要である。このため、自衛隊の訓練は、可能な限り実戦に近い環境で行うよう努めているが、自衛隊の即応性を維持・向上させるためには、訓練環境をより一層充実させていく必要がある。こうした認識のもと、防衛省・自衛隊では、効率的・効果的な訓練・演習を行うため、国内外での訓練実施基盤の拡充にかかる取組を推進している。
その一環として、防衛省・自衛隊は、北海道をはじめとする国内の演習場の整備・活用の拡大を図るとともに、地元との関係に留意しつつ、国内に所在する米軍施設・区域の共同使用を促進することとしている。また、自衛隊施設や米軍施設・区域以外の場所の利用や米国・オーストラリアなど国外の良好な訓練環境の活用を促進するとともに、シミュレーターなどを一層積極的に導入することとしている。
このほか、馬毛島(まげしま)(鹿児島県)に自衛隊が訓練・活動を行うことができる施設などの整備を進めている。
さらに、あらゆる事態において自衛隊の能力を最大限発揮するため、平素から民間空港を使用した訓練を行うことが必要との考えのもと、民間空港における空自戦闘機の訓練を行っている。
演習場や射場は、地域的にも偏在しているうえ、広さも十分でないこともあり、大部隊の演習や戦車、長射程火砲の射撃訓練などを十分には行えない状況にある。これらの制約は、装備の近代化に伴い大きくなる傾向にある。また、演習場や射場の周辺地域の都市化に伴う制約もある。
このため、国内では行うことができない地対空誘導弾部隊や地対艦誘導弾部隊の実射訓練などを米国などで行うほか、海外における多国間共同訓練など、国内にはない良好な演習基盤を活用した実動訓練への参加を通じて、戦術技量の向上を図っている。
また、師団レベルや方面隊レベルの実動演習では、限られた国内の演習場などを最大限に活用しているほか、地元の理解と協力を獲得しながら自衛隊施設・区域以外を活用した、より実戦的な訓練を行っている。
米国ニューメキシコ州マクレガー射場における陸自中SAM実射訓練(2024年10月)
わが国周辺の訓練海域は、気象、海象、船舶交通や漁業などの関連から使用できる時期や場所に制約がある。
このため、例えば、比較的浅い海域で行うことが必要な掃海訓練や潜水艦救難訓練などについては、陸奥湾や相模湾などで行うほか、2024年3月、新たに九州西方の角力灘(すもうなだ)において掃海訓練を行った。また、中東地域で行われる米国主催国際海上訓練(IMX-CE:International Maritime Exercise-Cutlass Express)への掃海部隊の派遣など、海外で行われる多国間共同訓練への参加を通じて、戦術技量の向上を図っている。
このほか、海外任務が増加するなか、短期間により多くの部隊が訓練成果をあげられるよう、計画的・効率的な訓練に努めており、海外で行われる多国間共同訓練への参加や同訓練海域への進出、帰投時における二国間・多国間共同訓練などを通じ、効率的・効果的な戦術技量の向上や同盟国・同志国などとの連携、対処力の強化を図っている。
現在、わが国周辺の訓練空域の多くは、広さが十分でないため、一部の訓練では、航空機の性能や特性を十分に発揮できないこともある。また、基地によっては訓練空域との往復に長時間を要する。さらに、飛行場の運用にあたっては、航空機の騒音に関連して早朝や夜間の飛行訓練について十分配慮した訓練を行うことが必要である。
このため、例えば、硫黄島の訓練空域では、逐次、部隊から航空機を派遣し、本土では十分に行うことができない訓練などを中心に集中的な訓練を行うなど、計画的・効率的な訓練に努めている。また、在日米軍の射爆撃場の共同使用などにより、実弾の射爆撃訓練を行っている。
このほか、高射部隊による米国でのペトリオット実射訓練など、国外の訓練環境の活用にも努めている。
参照資料22(演習場一覧)、資料59(多国間共同訓練への参加など(2021年度以降))
防衛省・自衛隊は、日頃の訓練にあたって安全確保に最大限留意するなど、平素から安全管理に一丸となって取り組んでいる。
2023年6月、日野基本射撃場(岐阜県)において、新隊員教育における実弾射撃訓練中、自衛官候補生1名が3名の隊員に向け発砲、2名が殉職する事案が生起した。2024年4月、本事案は、この自衛官候補生に武器を持つことの重要性の自覚と心構えが涵養されていなかったこと、射撃訓練の勤務員に同じ部隊の仲間に向けて発砲する自衛官候補生がいるという不測の事態を想定していなかったこと、また、結果として、射手、小銃および弾薬の物理的な隔離がされておらず、これにより、この隊員が発砲行為に至るまでの猶予を与えてしまったことを原因とする事故調査結果を公表した。再発防止策として、教育の徹底、服務指導体制の見直し、弾薬交付要領の見直し、不測事態における直接制止が可能なようにするなど安全管理の徹底、再発防止に全力で取り組んでいく。
2024年4月、海自SH-60K哨戒ヘリコプター2機が、夜間の対潜戦訓練中、伊豆諸島鳥島東の洋上において墜落する事故が発生した。同年7月、本事故は、視認距離の把握が困難な夜間において、見張りの要領が不適切であったこと、複雑な作戦環境下における高度管理が不十分であったことを原因とする事故調査結果を公表した。再発防止策として、見張り報告要領・対応の再徹底、いかなる状況においても高度管理などに関する責任を海上戦闘指揮官に統一するなどの高度管理の厳格化により再発防止に全力を挙げるとしている。
2024年5月、陸自北富士演習場(山梨県)において、手りゅう弾投てき訓練中、投てきを指導していた隊員1名が、爆発後の破片により死亡した事故が発生した。本事案は、手りゅう弾の投てき後の破片の飛散特性に関する認識不足によるものなどを原因とする事故調査結果を公表した。再発防止策として、手りゅう弾の投てき後の破片の飛散特性を踏まえた訓練要領を認識させるよう教範を改正するなどにより、再発防止に全力を挙げるとしている。
2024年11月、大島沖北方海上(福岡県)を訓練のために航行していた海自掃海艇「うくしま」から火災が発生し沈没する事故が発生した。現在、事故原因の調査を進めている。
このように、国民の生命や財産に被害を与え、隊員の生命を失うことなどにつながる各種の事故・事案は、絶対に防がなくてはならない。防衛省・自衛隊としては、これらの事故・事案について徹底的な原因究明を行ったうえで、今一度、隊員一人一人が安全管理にかかる認識を新たにし、防衛省・自衛隊全体として、国民の信頼を損なうことがないよう隊員への教育の徹底、装備品の確実な整備など、艦艇や航空機、車両などの運航・運行にあたっての安全確保に万全を期していく。