AI技術は、自然な文章や画像などを生成できる生成AIなど技術開発が急速に進んでいる技術分野の一つであり、軍事分野においては、指揮・意思決定の補助、情報処理能力の向上に加え、無人機への搭載やサイバー領域での活用など、影響の大きさが指摘されている。
AIの活用として、米陸軍は、「メイブン・スマート・システム」計画を進めている。同システムは、戦闘空間を迅速に評価、大量のデータを収集、AIを使用して収集データを分析して目標を特定、攻撃することを可能とするとされており、2024年5月、米国防省は民間企業との開発契約を公表している。
また、中国は、2020年、次世代指揮情報システムの研究・開発を目的に、中央軍事委員会がAI軍事シミュレーション競技会の開催を発表している。米国防省は、中国が2025年までにAIの研究開発で欧米を追い抜き、2030年までにAIで世界のリーダーとなることを目指していると指摘している。3
一方、イスラエルは、2023年に発生したパレスチナ武装勢力との衝突において、攻撃目標選定の過程で「Lavender」と呼ばれるAIを活用していることが指摘されている。ガザ市民のスマートフォンなどにインストールされている通話アプリのデータをAIに解析させ、そのスマートフォンなどの持ち主とハマスなどとの関係性を評価していると指摘されている。なお、イスラエル軍は、テロ工作員の特定や工作員かどうかを予測するAIは利用していないと発表している旨、報じられている。
また、各国は、AIを搭載した無人機の開発を進めている。
米国では、空対空戦闘の自動化や有人機・無人機の連携、海洋監視任務での実証など多様な研究開発を実施している。2023年、米空軍では、AI操縦のXQ-58A無人機が有人機との編隊飛行や、模擬された任務・武器・敵に対する戦術飛行の試験を行っているほか、同年には、数千規模のAIを活用した安価な自律システムを導入するとする「レプリケーター」構想を発表している。
中国は、2018年、中国電子科技集団公司がAIを搭載した200機の無人機によるスウォーム飛行を成功させており、スウォーム飛行を伴う軍事行動が実現すれば、従来の防空システムでは対処が困難になることが想定される。2023年には、無人機の空中戦を想定したAIアルゴリズム競技会を開催している。
ロシアは、2019年、S-70大型無人機(オホートニク)と第5世代戦闘機であるSu-57戦闘機との協調飛行の試験を行っており、2023年以降、ウクライナへの侵略に際し、オホートニクを実戦配備しているとされている。
なお、AIの軍事利用は、自律型致死兵器システム(LAWS(ローズ):Lethal Autonomous Weapons Systems)に発展する可能性も指摘されており、国際社会で議論されている。2023年、同志国の取組として、国際法上の義務に従い責任ある利用を確認した「REAIM(Responsible Artificial Intelligence in the Military Domain)宣言」や、責任ある人間の指揮命令系統のもとで運用し、責任の所在を明らかにする必要があることを確認した「AIと自律性の責任ある軍事利用に関する政治宣言」が、2024年には「REAIM行動のためのブループリント」が発表され、わが国も支持を表明している。国連総会では、LAWSによる課題への対応が急務だとする決議が採択されている。
量子技術は、原子核や電子などミクロな世界で働く量子力学を応用することで、社会に変革をもたらす重要な技術とされる。米国は、2023年に公表した国防科学技術戦略において、量子技術を重要技術とし、同盟国との連携や技術革新を強化するとしている。中国は、2021年に公表した第14次5か年計画において、量子コンピュータや量子通信などの先端技術を加速し、量子技術分野における軍民の協調開発を強化するとしている。また、NATO(North Atlantic Treaty Organization)も2024年1月、NATO量子技術戦略を初めて公表し、量子技術を防衛・安全保障にどのように応用できるかを概説している。
量子暗号通信は、第三者が解読できない暗号通信とされ、各国で研究されている。中国は、量子暗号通信衛星「墨子(ぼくし)」と北京・上海間の地上通信網からなる4,600kmの量子暗号通信網を構築したほか、2022年には、合肥(ごうひ)市の共産党や政府機関などに量子暗号化サービスを提供している。また、2022年7月には、量子鍵配送をテストする済南1号小型量子暗号通信衛星を打ち上げた。
量子センサーは、将来的に、ミサイルや航空機の追跡用途のほか、より進化したジャイロや加速度計として使用できる可能性4が指摘されている。米国は、GPS(Global Positioning System)の代替として、2023年、量子磁気センサーによる磁気航法の実証に成功したほか、量子慣性センサーによる慣性航法の開発のため、量子ジャイロを搭載した衛星を開発している。
量子コンピュータは、スーパーコンピュータでも膨大な時間がかかる問題を短時間で計算できるとされ、暗号解読などの分野への応用が期待されている。一方、量子コンピュータでは解読できない耐量子計算機暗号(PQC:Post-Quantum Cryptography)も各国で研究されており、米国国立標準技術研究所(NIST)は2024年8月、最初のPQC標準を公表している。
3Dプリンターに代表される積層製造技術は、低コストでの製造や、在庫に頼らない部品調達など各国で軍事分野への応用が期待されている。
米国は、2021年に公表した「積層製造技術の利用」において、軍事サービスの自立性・即応性向上を図るとし、3Dプリンターを一部の水上艦や潜水艦に搭載している。また、中国は軍用機の部品製造に3Dプリンターを使用するほか、ウクライナではドローンの部品などの製造に3Dプリンターを活用している。