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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 軍事分野における先端技術動向

1 極超音速兵器

米国、中国、ロシアなどは、弾道ミサイルに搭載され、大気圏内を極超音速(マッハ5以上)で滑空飛翔・機動し、目標へ到達するとされる極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)や、極超音速飛翔を可能とするスクラムジェットエンジンなどの技術を使用した極超音速巡航ミサイル(HCM:Hypersonic Cruise Missile)といった極超音速兵器の開発を行っている。極超音速兵器については、通常の弾道ミサイルとは異なる低い軌道を、極超音速で長時間飛翔すること、高い機動性を有することなどから、探知や迎撃がより困難になると指摘されている。

米国は、2021年、米国防省高官が、極超音速兵器の開発構想に言及しており、2020年代初頭から半ばにかけて極超音速兵器を配備し、2020年代半ばから後半にかけて防衛能力を構築すると公表した1。同年、米陸軍は、HGV「LRHW(Long Range Hypersonic Weapon)」のプロトタイプを受領し、配備に向け訓練を実施しており、2024年6月と12月に発射試験に成功しているが、一方で、配備の遅延も指摘されている。また、米海軍と米空軍も極超音速兵器を開発しており、米海軍はズムウォルト級ミサイル駆逐艦やバージニア級原子力潜水艦への搭載を目指しているとされている。

中国は、2019年の中国建国70周年閲兵式において、HGVを搭載可能な弾道ミサイルとされるDF-17を初めて登場させており、米国防省は、中国がDF-17の運用を2020年には開始したと指摘しているほか、弾道ミサイルDF-27にもHGVが搭載される可能性に言及している。2

ロシアは、HGV「アヴァンガルド」を既に配備しており、アヴァンガルドを搭載可能とされる新型ICBM「サルマト」を2024年内に配備予定とされていたが、2024年9月に発射試験が失敗した可能性が指摘されており、開発中とされている。また、2021年にHCM「ツィルコン」の潜水艦発射試験に成功するほか、ツィルコンを搭載したフリゲートが2023年から戦闘哨戒任務を開始し、2024年2月には、プーチン大統領が、ウクライナにおいて、ロシア軍がツィルコンを使用した旨初めて言及している。

北朝鮮は、極超音速滑空飛行弾頭の開発を優先目標の一つに掲げ、研究開発を進めているとみられ、2021年以降、「極超音速ミサイル」と称するミサイルを発射している。

参照3章4節1項3(3)(ミサイル戦力)

このような極超音速ミサイルの脅威に対して、米国は、滑空段階で迎撃するミサイル「GPI(Glide Phase Interceptor)」の開発を日米共同により進めている。

参照III部1章2節2項3(日米BMD技術協力)

2 高出力エネルギー技術

レールガンや高出力レーザー兵器、高出力マイクロ波兵器などの高出力エネルギー兵器は、多様な経空脅威に対処するための手段として開発が進められている。

レールガンは、電気エネルギーから発生する磁場を利用して弾丸を打ち出す兵器であり、使用する弾丸はミサイルとは異なり推進装置を有していない。このため、小型・低コストかつ省スペースで備蓄でき、多数のミサイルによる攻撃にも効率的に対処可能とされている。

レーザー兵器は、高出力のレーザーエネルギーにより対象を破壊する兵器であり、多数の小型無人機や小型船舶などに対する低コストで有効な迎撃手段として、米国、中国、ロシアなどで開発されている。

米国は複数のレーザー兵器の開発を進めており、2023年、米陸軍は50kW級の車載型レーザー兵器「DE M-SHORAD(Directed Energy Maneuver-Short Range Air Defense)」のプロトタイプを受領したほか、300kW級のレーザー兵器の開発契約を締結している。米海軍においても、2022年には60kW級レーザー兵器「HELIOS(High Energy Laser and Integrated Optical-dazzler with Surveillance)」が、アーレ・イバーク級ミサイル駆逐艦「プレブル」に搭載されている。

中国は、2024年の中国国際航空宇宙博覧会において、小型無人機を対象とした出力不明の車載型レーザー兵器「LW-60」を公開した。また、低軌道周回衛星の光学センサーを妨害または損傷させることを企図していると思われる対衛星レーザー兵器を配備しているとの指摘があるほか、さらに高出力のレーザー兵器も開発中との指摘もある。

ロシアは、出力数10kW級のレーザー兵器「ペレスヴェト」を既に配備しており、対衛星兵器として出力数がMW級の化学レーザー兵器も開発中との指摘がある。

イスラエルは、2022年に出力数が100kW級の車載型防空用レーザー兵器「アイアン・ビーム」による無人機や迫撃砲などの迎撃試験に成功しており、2025年内の運用開始が指摘されている。

高出力マイクロ波兵器は、無人機、ミサイルなどに搭載された電子機器を破損や誤作動させる兵器である。2023年、米空軍は、スウォーム飛行を模擬した多数の無人機に対して、高出力マイクロ波兵器「THOR(Tactical High-power Operational Responder)」を使用し多数の無人機を効果的に無効化したとしている。また、米海兵隊は、AIによる無人機の検出・追跡機能と高出力マイクロ波兵器の融合について評価を行っている。

1 2021年2月27日付の米国防省HPによる。

2 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(2024年)による。