装備品に関する協力は、構想から退役まで半世紀以上に及ぶ取組であることを踏まえ、防衛装備移転や国際共同開発を含む、防衛装備・技術協力の取組の強化を通じ、相手国軍隊の能力向上や相手国との中長期にわたる関係の維持・強化を図る11。特に、防衛協力・交流・訓練・演習、能力構築支援などの取組のほか、政府安全保障能力強化支援(OSA:Official Security Assistance)など、防衛省以外の取組とも組み合わせることで、これを効果的に進める。その際、就役から相当年数が経過し、拡張性などに限界がある装備品の早期用途廃止、早期除籍などの活用による同志国への移転を検討することとしている。
参照図表IV-1-3-1(諸外国との主な防衛装備・技術協力(イメージ))、資料39(各種協定締結状況)
オーストラリアとの間では、2014年12月、防衛装備品・技術移転協定12が発効し、2017年10月に日豪防衛装備・技術協力共同運営委員会を初開催した。以降、定期的に協議を行い日豪両国の防衛装備・技術協力の進展を図っている。
また、2019年11月には、科学技術者交流計画に係る取決めに署名し、技術者の相互派遣の枠組みを整理した。この枠組みに基づき、2021年よりオーストラリア国防科学技術グループへの日本側からの技術者派遣を開始した。
なお、2021年5月には、「船舶の流体性能及び流体音響性能に係る日豪共同研究」と「複数無人車両の自律化技術に係る日豪共同研究」が開始しており、現在も継続中である。2023年6月には、「研究、開発、試験及び評価プロジェクトに関する取決め」に署名し、共同事業を迅速に開始する枠組みを整理した。2024年1月、本取決めを初めて適用し、「水中自律型無人機に関する日豪共同研究」を開始した。
2023年10月に行われた日豪防衛相会談において、木原防衛大臣は、マールズ副首相兼国防大臣とともに、オーストラリア国防省が三菱電機オーストラリアとの間でレーザー技術を活用した共同開発事業の契約締結を公表したことに歓迎の意を表明した。本事業は、日豪間で初めての共同開発案件であるのみならず、日本の防衛関連企業の技術が外国政府から着目され、防衛分野での国際共同開発の実施に至った初めての事例であり、官民一体となって防衛装備移転を推進してきたわが国にとって新たな一歩となるものである。
2023年11月には、オーストラリアで開催された国際展示会「INDO PACIFIC 2023」において防衛装備庁がブースを出展した。この展示会には和田防衛大臣補佐官(当時)も参加し、わが国装備品の魅力や高い技術力を官民一体となって発信した。
インドとの防衛装備・技術協力は、日印の特別戦略的グローバル・パートナーシップに基づく重要な協力分野と位置づけられており、2015年12月の日印首脳会談において防衛装備品・技術移転協定13の署名が行われ、2016年3月に発効した。
また、これまでに計7回の防衛装備・技術協力に関する事務レベル協議を開催するなど、デュアル・ユースを含む防衛装備・技術協力案件の形成に向け協議を実施している。2018年7月には「UGV(Unmanned Ground Vehicle)14/ロボティクスのための画像による位置推定技術に係る共同研究」を開始し、成功裏に完了した。
さらに、2019年2月には日印・官民防衛産業フォーラムをベンガルールにおいて開催するなど、日印両国の防衛装備・技術協力に関する議論が進展している。
英国との間では、2013年7月、防衛装備品・技術移転協定15の署名・発効に至り、2014年7月に防衛装備・技術協力運営委員会を初開催し、定期的に協議を行っている。
2013年7月、米国以外の国とは初めてとなる「化学・生物防護技術に係る共同研究」を開始し2017年7月に成功裏に完了したほか、4件の研究16を開始し、それぞれ成功裏に完了した。なお、2021年7月には、新たな「化学・生物防護技術に係る日英共同研究」を開始した。また、2018年3月に開始した「次世代RFセンサシステムの実現可能性に係る共同研究」は、2022年2月に「次世代RFセンサシステムの技術実証に係る共同研究」に移行しており、次期戦闘機への適用も視野に現在も継続中である。
次期戦闘機の開発については、日英伊3か国は共通の機体を開発することに合意し、3か国首脳はグローバル戦闘航空プログラム(GCAP)を発表した。2023年12月には、木原防衛大臣はシャップス・英国防大臣、クロセット・イタリア国防大臣と東京で会合を行い、GCAPを一元的に管理・運営する国際機関であるGIGO(GCAP International Government Organisation)設立に関する条約に署名した。
同年9月に英国で開催された国際展示会「DSEI(Defense and Security Equipment International) London 2023」において、防衛装備庁がブースを出展し、わが国装備品の魅力や高い技術力を官民一体となって発信した。
参照III部3章1節2項3(1)(英国)、2節3項(次期戦闘機の開発)
フランスとの間では、2014年1月、防衛装備品協力や輸出管理措置に関する委員会をそれぞれ設置し、2016年12月には、防衛装備品・技術移転協定17が発効した。また、2018年1月の第4回日仏「2+2」においては、次世代機雷探知技術に関する協力の早期開始を確認し、同年6月、「次世代機雷探知技術に係る共同研究」を開始した。
ドイツとの間では、2017年7月、防衛装備品・技術移転協定18に署名し、発効した。また、2023年11月に日独・防衛産業交流会を開催するとともに、ドイツに本部を置く欧州防衛装備共同機構19(OCCAR:Organization Conjointe de Coopération en matière d'Armement)共同開発プログラムへオブザーバー参加が承認されるなど、多様な協力が進展している。
イタリアとの間では、2019年4月、防衛装備品・技術移転協定20が発効した。また、2023年12月には、日伊・官民防衛産業フォーラムを開催し、日伊両国の防衛装備・技術協力に関する議論が進展している。
次期戦闘機の開発については、日英伊3か国は共通の機体を開発することに合意し、3か国首脳はグローバル戦闘航空プログラム(GCAP)を発表した。2023年12月には、木原防衛大臣はクロセット・イタリア国防大臣、シャップス・英国防大臣と東京で会合を行い、GCAPを一元的に管理・運営する国際機関であるGIGO設立に関する条約に署名した。
参照III部3章1節2項3(4)(イタリア)、2節3項(次期戦闘機の開発)
スウェーデンとの間では、2022年12月、防衛装備品・技術移転協定21に署名し、発効した。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵略を受けて、ウクライナ政府からの装備品などの提供要請を踏まえ、自衛隊法に基づき非殺傷の物資を防衛装備移転三原則の範囲内で提供するべく、同年3月8日に国家安全保障会議において、防衛装備移転三原則の運用指針を一部改正し、防弾チョッキ、鉄帽(ヘルメット)、防寒服、天幕、カメラ、衛生資材・医療用資器材、非常用糧食、双眼鏡、照明器具、個人装具、防護マスク、防護衣、小型のドローンを自衛隊機などにより輸送し、ウクライナ政府への提供を実施した。また、ウクライナ政府からの要請を踏まえ、民生車両(バン)などを追加提供した。さらに、2023年5月の日ウクライナ首脳会談におけるゼレンスキー大統領から岸田内閣総理大臣への要請を踏まえ、同年6月から約3万食の非常用糧食、および自衛隊車両(1/2tトラック、高機動車、資材運搬車)合計101台を追加提供した。
経由地ポーランドに到着した
自衛隊車両
参照III部3章1節2項7(1)(ウクライナ)、資料66(防衛装備移転三原則の運用指針)
ASEAN諸国との間では、日ASEAN防衛当局次官級会合などを通じて、人道支援・災害救援(HA/DR:Humanitarian Assistance and Disaster Relief)や海洋安全保障など、非伝統的安全保障分野における防衛装備・技術協力について意見交換がなされており、参加国からは、これらの課題に効果的に対処するため、わが国からの協力に期待が示されている。2016年11月の日ASEAN防衛担当大臣会合の際にわが国が表明したビエンチャン・ビジョンにおいて、ASEAN諸国との防衛装備・技術協力に関しては、①装備品・技術移転、②人材育成、③防衛産業に関するセミナーなどの開催を3つの柱として進めることとした。
具体的な取組として、インドネシアとの間では、2021年3月に東京で開催された第2回日インドネシア「2+2」において、防衛装備品・技術移転協定22に署名し、即日発効した。
シンガポールとの間では、2023年6月にシンガポールで開催されたシャングリラ会合において、防衛装備品・技術移転協定23に署名し、即日発効した。
タイとの間では、2022年5月、岸田内閣総理大臣のタイ訪問の際に防衛装備品・技術移転協定24に署名し、発効した。
フィリピンとの間では、2016年4月に防衛装備品・技術移転協定25が発効した後、2018年3月までに、計5機の海自TC-90練習機をフィリピン海軍へ引き渡したほか、海自によるパイロットの操縦訓練支援やわが国企業による維持整備の支援を実施した。また、2019年9月までに陸自で不用となったUH-1H多用途ヘリコプターの部品などをフィリピン空軍に引き渡した。これら2件の移転は、2017年6月に施行された、自衛隊で使用しなくなった装備品の無償譲渡などを可能とする自衛隊法の規定を適用した事例である。
加えて、2019年1月には、防衛装備・技術協力に関する事務レベルの定期協議の枠組みを設置した。
2020年8月には、フィリピン国防省と三菱電機株式会社との間で、同社製警戒管制レーダー(4基)を約1億ドルで納入する契約が成立し、2014年の防衛装備移転三原則策定以来、わが国から海外への完成装備品の移転としては初の案件となった。2023年10月に1基目、2024年3月に2基目のレーダーがフィリピン空軍に納入され、テオドロ・フィリピン国防大臣出席のもと、それぞれ2023年12月および2024年4月に現地で引渡し式典が実施された。また、本移転事業に伴い、空自および陸自においてはフィリピン空軍の要員に対する教育支援を実施した。
フィリピン空軍主催警戒管制
レーダー1基目の引渡し式典の様子
(2023年12月)
ベトナムとの間では、2016年11月の日越防衛次官級協議において、「防衛装備・技術協力に関する定期協議の実施要領」に署名した。また、2019年5月の日越防衛相会談の際に、具体的な分野などを示した「防衛産業間協力の促進の方向性に係る日ベトナム防衛当局間の覚書」が署名された。その後、2021年9月の岸防衛大臣(当時)のベトナム訪問に際し、両国間で防衛装備品・技術移転協定26に署名し、発効した。2023年12月には、ベトナム軍からニーズが示されていた装備品への防錆処理技術について、ベトナム側と日本企業とが契約に至り、納入を完了した。
マレーシアとの間では、2018年4月、防衛装備品・技術移転協定27に署名し、発効した。2023年5月にランカウイ国際海洋航空宇宙装備品展示会「LIMA(Langkawi International Maritime Aerospace Exhibition23) 2023」に防衛装備庁のブースを出展するとともに、この展示会に参加した海自の護衛艦「くまの」と連携しての装備品紹介を行った。
LIMA 2023におけるブースの様子
参照III部3章1節2項8(東南アジア諸国(ASEAN諸国))
アラブ首長国連邦(UAE:United Arab Emirates)との間では、2023年5月、中東の国との間では初めてとなる、防衛装備品・技術移転協定28に署名、2024年1月に発効した。
イスラエルとの間では、2019年9月、わが国とイスラエル防衛当局間で提供される、防衛装備・技術に関する秘密情報を適切に保護するため、防衛装備・技術に関する秘密情報保護の覚書29に署名した。
ヨルダンとの間では、2019年に陸自の退役済み61(ロクヒト)式戦車1両を無償で貸し付けるとともに、ヨルダン側からヨルダンで開発された装甲車が陸自へ贈呈された。こうしたやり取りを受け、防衛省において、式典を開催し、覚書の署名・交換が行われたほか、ヨルダン王立戦車博物館において、貸し付けた陸自61式戦車の除幕や説明パネルの設置が実施された。
参照III部3章1節2項11(6)(アラブ首長国連邦)、III部3章1節2項11(7)(イスラエル)、III部3章1節2項11(15)(ヨルダン)
わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか、わが国と安全保障・防衛上の協力・友好関係にある国が適切な能力を備え、安全保障環境の改善に向けて国際社会全体として協力して取り組む基盤を整えることが重要である。
この点、経済規模や財政事情により独力では十分な装備品を調達できない友好国のなかには、以前から、不用となった自衛隊の装備品を活用したいとのニーズがあった。
こうしたなか、友好国のニーズに応えていくため、自衛隊で不用となった装備品を、開発途上地域の政府に対し無償または時価よりも低い対価で譲渡できるよう、財政法第9条第1項30の特例規定を自衛隊法に新設し、2017年6月から施行されている。
なお、この規定により無償または時価よりも低い対価で譲渡できるようになった場合においても、いかなる場合にいかなる政府に対して装備品の譲渡などを行うかについては、防衛装備移転三原則などを踏まえ、個別具体的に判断されることとなる。また、譲渡した装備品のわが国の事前の同意を得ない目的外使用や第三者移転を防ぐため、相手国政府との間では国際約束を締結する必要がある。
11 2024年4月現在、わが国は、防衛装備品・技術移転協定を、米国、英国、オーストラリア、インド、フィリピン、フランス、ドイツ、マレーシア、イタリア、インドネシア、ベトナム、タイ、スウェーデン、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)と締結している。
12 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定
13 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とインド共和国政府との間の協定
14 陸上無人車両
15 防衛装備品及び他の関連物品の共同研究、共同開発及び共同生産を実施するために必要な武器及び武器技術の移転に関する日本国政府とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国政府との間の協定
16 「共同による新たな空対空ミサイルの実現可能性に係る日英共同研究」(2014年11月開始、2018年3月完了)、「人員脆弱性評価に係る共同研究」(2016年7月開始、2020年7月完了)、「ジェットエンジンの認証プロセスに係る共同研究」(2018年2月開始、2020年2月完了)、「共同による新たな空対空ミサイルの実証に係る日英共同研究」(2018年12月開始、2023年6月完了)の4件。
17 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定
18 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とドイツ連邦共和国政府との間の協定
19 1998年に創設された、欧州を中心とした各国による装備プログラムの仕様の検討、開発、製造、運用支援、廃棄といった一連のプロセスを管理する独立した国際機関。
20 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とイタリア共和国政府との間の協定
21 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とスウェーデン王国政府との間の協定
22 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とインドネシア共和国政府との間の協定
23 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定
24 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とタイ王国政府との間の協定
25 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とフィリピン共和国政府との間の協定
26 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とベトナム社会主義共和国政府との間の協定
27 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とマレーシア政府との間の協定
28 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とアラブ首長国連邦政府との間の協定
29 防衛省とイスラエル国防省との間の防衛装備・技術に関する秘密情報保護の覚書
30 財政法第9条第1項は、「国の財産は、法律に基づく場合を除くほか、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない」と規定。