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第IV部 共通基盤の強化

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第3節 防衛装備・技術協力と防衛装備移転の推進

わが国は、自国の安全保障、平和貢献・国際協力の推進や技術基盤・産業基盤の維持・強化に資するよう、2014年4月に策定された防衛装備移転三原則およびその運用指針1に基づき、諸外国との防衛装備・技術協力を推進している。

防衛装備移転は、国家安全保障戦略などに記載のとおり、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、わが国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使または武力による威嚇を受けている国への支援などのための重要な政策的手段となる。

こうした観点から、防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しについて検討することとされた。自民党と公明党は与党ワーキングチーム2(WT)において、2023年4月以降、防衛装備移転にかかる過去の歴史や有識者からのヒアリングも含め、23回の議論を行った。これを受け、2023年12月、与党WTの提言を踏まえ、防衛装備移転三原則と運用指針が改正された。さらに、与党間での協議を経て、2024年3月、閣議決定および運用指針の一部改正により、厳格な仕組みを設けつつ、わが国が英国およびイタリアと共同開発を行っているグローバル戦闘航空プログラム(GCAP:Global Combat Air Programme)の完成品について、わが国からパートナー国以外の国に移転を認めうることとなった。

また、防衛装備移転を円滑に進めるため、基金を創設し、必要に応じた企業支援を行うことなどにより、官民一体となって防衛装備移転を進めることとしている。

1 防衛装備移転三原則にかかわる制度

1 防衛装備移転三原則
(1)移転を禁止する場合の明確化(第一原則)

防衛装備の海外への移転を禁止する場合を、①わが国が締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、②国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合、または③紛争当事国への移転となる場合とに明確化した。

(2)移転を認めうる場合の限定ならびに厳格審査および情報公開(第二原則)

移転を認めうる場合を、①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合、または②わが国の安全保障に資する場合などに限定し、透明性を確保しつつ、仕向先(しむけさき)および最終需要者の適切性や安全保障上の懸念の程度を厳格に審査することとした。また、重要な案件については国家安全保障会議で審議し、あわせて情報の公開を図ることとした。

(3)目的外使用および第三国移転にかかる適正管理の確保(第三原則)

防衛装備の海外移転に際しては、適正管理が確保される場合に限定し、原則として目的外使用および第三国移転についてわが国の事前同意を相手国政府に義務付けることとした。ただし、平和貢献・国際協力の積極的な推進のため適切と判断される場合、部品などを融通し合う国際的なシステムに参加する場合、部品などをライセンス元に納入する場合などにおいては、仕向先の管理体制の確認をもって適正な管理を確保することも可能とした。

参照資料65(防衛装備移転三原則)資料66(防衛装備移転三原則の運用指針)

2 防衛装備移転三原則などの一部改正

国家安全保障戦略などにおいて、安全保障上意義が高い防衛装備移転や国際共同開発を幅広い分野で円滑に行うため、防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しについて検討することが記載された。その際、三つの原則そのものは維持しつつ、防衛装備移転の必要性、要件、関連手続の透明性の確保などについて十分に検討することとされた。

これを踏まえて、2023年4月以降、与党WTが23回に渡って開催され、海外移転を認めうるケースの見直しについて議論されるとともに、移転の可否を判断する際の厳格審査や、第三国移転の事前同意を含めた移転後の適正な管理の確保のあり方について、諸外国の例も踏まえつつ、議論が重ねられた。2023年12月、与党WTは政府に対する提言をまとめ、政府として同提言を踏まえて、同月、防衛装備移転三原則と運用指針を一部改正した。防衛装備移転三原則の改正は2014年4月の策定以来、初めてのものである。

また、運用指針の改正により、幅広い分野の防衛装備が移転可能となった。改正後の最初の案件として、わが国がライセンス生産を行っているペトリオット・ミサイルのわが国から米国への移転について、国家安全保障会議での審議の結果、海外移転を認めうる案件に該当することが確認された。防衛省としては、わが国にとって望ましい安全保障環境を創出するため改正された制度に基づき、関係府省庁と連携しながら、官民一体となって防衛装備移転を一層推進していく考えである。

この改正により、幅広い分野の防衛装備が移転可能となったが、同時に移転にかかる審査をより一層厳格に行うこととしている。政府として、防衛装備移転にあたっては国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念およびこれまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持するとの方針に変わりなく、これまで同様、厳正かつ慎重に対処する方針である。

2023年12月の防衛装備移転三原則と運用指針の改正の概要は以下のとおり。

(1)防衛装備移転三原則

現行の三つの原則そのものは、引き続き維持し、国家安全保障戦略を踏まえ、前文に防衛装備移転の意義や安全保障環境認識などを追加・更新した。また、運用指針は、安全保障環境の変化や安全保障上の必要性などに応じて改正する旨を明記した。

(2)国際共同開発・生産

国際共同開発・生産のパートナー国以外の国へ、わが国から部品や技術の直接移転が可能となった。

(3)ライセンス生産品にかかる防衛装備の移転

米国由来以外も含むライセンス生産品にかかる防衛装備(完成品を含む。)をライセンス元国へ提供可能となった。ただし、自衛隊法上の武器3に該当するライセンス生産品にかかる防衛装備をライセンス元国から他国へさらなる提供を行う場合については、わが国の安全保障上の必要性を考慮して特段の事情がない限り、武力紛争の一環として現に戦闘が行われていると判断される国への提供は除く。

(4)他国軍隊に対する修理などの役務提供

米軍以外の安保協力関係のある国に対しても、平素からの修理などの役務提供が可能となった。

(5)部品の移転

部品4の定義を明確化したうえで、安全保障上の協力関係にある国に対しては、部品は総じて移転可能となった。

(6)いわゆる5類型(救難、輸送、警戒、監視および掃海)

掃海艦や輸送艦に搭載される機関砲など、本来業務の実施や自己防護に必要な自衛隊法上の武器の搭載が可能であることを明確化した。

(7)侵略などを受けている国に対する自衛隊法上の非武器の移転による支援

わが国との安全保障協力関係の有無にかかわらず、国際法に違反する侵略などを受けている国に対して、自衛隊法上の武器に該当しない装備品であれば、総じて移転可能となった5

(8)厳格審査

自衛隊法上の武器の直接移転やライセンス元国から第三国への移転など、移転類型の多様化を踏まえ、厳格審査の視点を拡充した。

(9)審議プロセス

自衛隊法上の武器の直接移転やライセンス元国から第三国への移転は、国家安全保障会議での審議・公表を基本とした6

3 GCAPの完成品の第三国への直接移転について

国際共同開発・生産におけるわが国からパートナー国以外の第三国への完成品の直接移転のあり方については、2023年12月に与党WTがとりまとめた提言において、引き続き議論が必要な事項とされた。こうしたなか、特に、GCAPの完成品について、わが国防衛に必要な性能を有する機体を実現するためにも、わが国からパートナー国以外の第三国に直接移転を行いうる仕組みを持つことが必要という考えのもと、政府として、与党との調整、国会などにおける説明を重ねた。

これを踏まえて、2024年3月、閣議決定において、GCAPの完成品について、わが国から第三国に完成品を移転しうることなどについて決定するとともに、将来、実際にわが国から第三国に直接移転する際にも、個別案件ごとに閣議決定を行うという、いわば「二重の閣議決定」を盛り込んだ。

さらに、運用指針を一部改正し、「3つの限定」として、①今回、第三国への直接移転を認めるのはGCAPに限定すること、②移転先の国は国連憲章に適合した使用を義務付ける国際約束を締結している国に限定すること、③武力紛争の一環として現に戦闘が行われている国には移転しないこと、とした。

これらの厳格な決定プロセスを設けることで、国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念を引き続き堅持することを、より明確な形で示している。

防衛省として、今般の改正を踏まえて、将来にわたってわが国の平和と安定を確保するため、わが国の安全保障環境に相応しい戦闘機の実現を目指して、英国およびイタリアとの協議をしっかりと進めていく。

1 防衛装備移転三原則の名称は、例えば、自衛隊が携行するブルドーザなどの被災国などへの供与にみられるように、移転の対象となりうるものが、平和貢献・国際協力にも資するものであることなどから「防衛装備」の文言が適当であり、また、貨物の移転に加えて技術の提供が含まれることから「輸出」ではなく「移転」としたものである。

2 与党国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチーム

3 火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、または武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置などをいう(なお、本来的に、火器などを搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷または武力闘争の手段としての物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものを含み、部品を除く。)。

4 完成品の一部として組み込まれているものをいう。ただし、それのみで装備品としての機能を発揮できるものを除く。

5 改正前は、「国際法違反の侵略を受けているウクライナに対して自衛隊法第116条の3の規定に基づき防衛大臣が譲渡する装備品等に含まれる防衛装備の海外移転」と規定。

6 自衛隊法上の武器を初めて移転(直接移転または第三国移転)する国は、すべて国家安全保障会議で、同様の武器を2回目以降移転する場合も、特に慎重な検討が必要な場合には、国家安全保障会議で審議。