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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 アフリカ

1 アフリカ諸国が抱える課題

アフリカ諸国は14億人を超える人口を擁し、高い潜在性と豊富な天然資源により国際社会の関心を集めている。一方で、紛争、テロや海賊などの安全保障上の課題を抱えている地域でもある。

スーダンでは、2023年4月、国軍と準軍事組織である「即応支援部隊(RSF:Rapid Support Forces)」とが、RSFの国軍への統合などをめぐって対立し、武力衝突に至った。同年5月20日以降、米国およびサウジアラビアの仲介による停戦合意が繰り返し発表されたが、6月21日に停戦合意期間が終了して以降は新たな停戦合意は発表されておらず、現在も激しい戦闘が継続している。

南スーダンでは、2011年の独立以降、政治的対立に起因する大規模な武力衝突が2度発生した。2度目の衝突後、衝突の当事者であるキール大統領、マシャール前副大統領らによって、和平合意にあたる「再活性化された衝突解決合意」(R-ARCSS:Revitalised Agreement on the Resolution of the Conflict in the Republic of South Sudan)が署名され、正式政府発足に向けたロードマップなどが示された。2020年に暫定政府が設立され、2024年12月に国政選挙が予定されているが、R-ARCSSでの合意事項の履行はいまだ限定的であり、現在も政治的対立や地方における散発的な武力衝突は継続している。

近年、西アフリカでは、軍事的政権奪取が相次いでいる。

マリでは、2020年8月と2021年5月のゴイタ大佐率いる軍の反乱により政権が崩壊し、ゴイタ大佐を暫定大統領とした暫定政権が樹立された。フランス軍は、2013年以来、対テロ作戦に従事するために部隊を展開していたが、対テロ作戦の難航や、マリ国内世論の反仏親露傾向などによって、マリ暫定政権との関係が悪化したことなどを背景に、2022年8月に撤退した。また2023年6月には国連PKO(Peacekeeping Operations)のMINUSMA(United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali)を同年12月までに撤収させる決議が採択され、今後テロの増加など治安状況の悪化が危惧されている。

マリの隣国であるブルキナファソでは2022年1月と9月に、ニジェールでは2023年7月に、それぞれ軍事的政権奪取が発生した。

参照図表I-3-10-1(現在展開中の国連平和維持活動)、3項2(アフリカにおける動向)4章5節2項(2)(海賊)III部3章3節2項2(国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)

図表I-3-10-1 現在展開中の国連平和維持活動

2 アフリカ諸国とその他の国との関係

アフリカは、安全保障面ではかねてより米国、欧州、ロシアとの関係が深い。そのうえで、近年はロシアとの関係のさらなる深化に加え、中国によるアフリカへの関与が目立っている。

(1)中国・ロシア

中国は、アフリカにおいて2000年代から経済的利益を享受してきたが、近年は軍事的関与も強めている。例えば、2017年8月には、ジブチにおいて、中国軍の活動の後方支援を目的とするとされる「保障基地」の運用が開始され、2022年3月と8月には、大型揚陸艦の「保障基地」への入港が指摘されている。また、アフリカ西岸での活動もみられ、2023年6月から7月にかけては、海軍の海賊対処部隊がギニア湾岸諸国を訪問し、共同訓練を実施した。さらに、タンザニアや赤道ギニアなどに軍事関連施設の設置を検討している可能性が指摘されているなど、引き続き、アフリカにおける軍事的プレゼンスの拡大を図っていくものとみられる3

ロシアはアフリカ諸国に対して、武器輸出を積極的に行ってきたほか、近年は民間軍事会社の活動などを通じて関与を深めてきた。2023年の「ワグネル」の「武装反乱」やその創設者の一人であるプリゴジン氏の死去後も、ロシアはアフリカへの大きな影響力を維持しているとみられる。

また、中露は2019年11月と2023年2月に南アフリカと合同軍事演習を実施するなど、連携を強めている。

(2)米国・欧州

米国はかねてより、米アフリカ軍(AFRICOM)などとの共同演習4などを通じて、アフリカと軍事的に連携してきた。2022年10月に発表された国家安全保障戦略において、米国はアフリカの平和と安全の強化に取り組むなどアフリカとのパートナーシップを構築する考えを示しており、米国は引き続きアフリカに関与していくとみられる。

また、欧州も従前から、駐留や訓練ミッション、対テロ作戦への人員派遣という形でアフリカにおいてプレゼンスを発揮してきており、アフリカへの関与を続けていくものとみられる。例えば、フランスは、複数の地域において対テロ作戦や能力構築支援を実施してきた。マリをはじめとするサヘル地域においては、各国における軍事的政権奪取の発生後に部隊を撤退させた例もあるが、チャドへの部隊駐留やギニア湾岸諸国への支援を継続している。

3 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(2023年)による。

4 米軍は過激派組織への対抗や海上法執行能力向上を目的とした演習を開催している。例えば、過激派組織への対抗を目的とした演習「Flintlock」をサヘル地域で2005年から毎年開催しており、2023年3月にはガーナとコートジボワールで開催され、29か国から1,300人以上の兵士が参加した。