中東やアフリカなどの統治能力がぜい弱な国において、国家統治の空白地域がアル・カーイダや「イラクとレバントのイスラム国」(ISIL:Islamic State in Iraq and the Levant)などの国際テロ組織の活動の温床となる例が顕著にみられる。こうしたテロ組織は、国内外で戦闘員などにテロを実行させてきたほか、インターネットなどを通じて暴力的過激思想を普及させている。その結果、欧米などにおいて、国際テロ組織との正式な関係はないものの、何らかの形で影響を受けた個人や団体が、少人数で計画・実行するテロが発生している。さらに、極右思想を背景とした、特定の宗教や人種を標的とするテロも欧米諸国で発生している。
国際テロ組織のうち、ISILは、元々の拠点であるイラクやシリアのほか、両国外に「イスラム国」の領土として複数の「州」を設立し、こうした「州」が各地でテロを実施している。
アフガニスタンなどを拠点とするアル・カーイダは、多くの幹部が米国の作戦により殺害されるなど弱体化しているとみられる。しかしながら、声明を発出するなどの活動は継続している。
国際テロ対策に関しては、テロの形態の多様化やテロ組織のテロ実行能力の向上などにより、テロの脅威が拡散、深化しているなかで、テロ対策における国際的な協力の重要性がさらに高まっている。
アフリカでは、ISILやアル・カーイダ関連組織が活発に活動している。その一部を例としてあげると、アフリカ西部においては、例えば、マリをはじめとするサヘル地域で、テロ組織の活発な活動のみならず、組織間の衝突がみられる。アフリカ中部や南部においては、2019年4月以降、主にコンゴ民主共和国東部やモザンビーク北部においてISILの「中央アフリカ州」が活動を継続していた。2022年5月、これまでISILの「中央アフリカ州」名義で犯行声明を発出していたモザンビークの武装集団がISILの「モザンビーク州」名義で犯行声明を発出し、新たな支部としての活動を開始した。アフリカ東部においては、ソマリアにおいてアル・シャバーブが、政治プロセスを妨害し続けている。
このようなテロ組織の活動に対し、欧州諸国などにより、対テロ作戦や訓練支援が行われてきた。たとえば、サヘル地域においては、2013年から2022年までの間、フランス軍が主導となって、イスラム過激派に対する対テロ作戦を展開した。モザンビークにおいては、周辺国の部隊派遣により、対テロ作戦が実施されたほか、2021年11月には、EUの訓練ミッションの活動が開始された。しかし、2023年12月以降、ISILの「モザンビーク州」の活動の活発化の兆しがみられる。
ISILは、2013年以降、情勢が不安定であったイラクやシリアにおいて勢力を拡大し、2014年に「イスラム国」の樹立を一方的に宣言した。同年以降、米国が主導する有志連合軍は、両国において、空爆や現地勢力に対する教育・訓練などに従事し、2019年、米国は、有志連合とともに両国におけるISILの支配地域を100%解放したと宣言するに至った。2022年には、2月と11月に米国がISIL指導者の死亡を発表したが、ISILはそれぞれ同年3月と11月に新指導者の就任を発表しており、ISILは、イラクとシリアにおいて、依然活動を継続しているとみられる。こうしたなか、米軍は両国への部隊駐留を継続し、引き続きISILの再興防止に努めている。
アフガニスタンにおいては、タリバーンが支配地域を拡大するなか、2015年以降、ISIL「ホラサン州」が、首都カブールや東部を中心にテロ活動を継続してきた。アル・カーイダと協力関係にあるタリバーンがカブールを制圧した2021年8月、米国は、米軍の撤収を完了したが、遠隔からの対テロ作戦の継続を表明した。
米軍撤収後も、ISIL「ホラサン州」は、カブールなどで、テロ攻撃を継続しているが、件数は減少傾向にある。アル・カーイダについては、2022年8月、米国は、アフガニスタンの首都カブールにおいて、ドローン攻撃によりその指導者を殺害したと発表した。