Contents

第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

2 国連PKOなどへの取組

国連PKOは、世界各地の紛争地域の平和と安定を図る手段として、伝統的な停戦監視などの任務に加え、近年では、文民の保護(POC:Protection of Civilian)、政治プロセスの促進、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration)、治安部門改革(SSR:Security Sector Reform)、法の支配、選挙、人権などの分野における支援などを任務とするようになっている。

また、紛争や大規模災害による被災民などに対して、人道的な観点や被災国内の安定化などの観点から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)などの国際機関や各国政府、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)などにより、救援や復旧活動が行われている。

これまで、わが国は、30年以上にわたって、カンボジア、ゴラン高原、東ティモール、ネパール、南スーダンなど、様々な地域において国際平和協力業務を実施し、内外から高い評価を得ている。現在、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)および多国籍部隊・監視団(MFO:Multinational Force and Observers)にそれぞれ司令部要員を派遣している。

今後も国際平和協力活動については、これまでに蓄積した経験を活かし、人材育成などに取り組むとともに、現地ミッション司令部要員などの派遣や、わが国が得意とする分野における能力構築支援、国連本部への幕僚派遣などの活動を通じ積極的に貢献していくこととしている。

動画アイコンQRコード資料:国連PKO派遣30周年 陸上自衛隊「国際活動の軌跡と発展」
URL:https://www.mod.go.jp/gsdf/about/pko30/index.html

1 多国籍部隊・監視団(MFO)への派遣
(1)MFOへの派遣の意義

MFOは、「エジプト・アラブ共和国とイスラエル国との間の平和条約の議定書」(1981年8月)により、平和条約に定められた国際連合の部隊や監視団の任務および責任を代替する機関として設立された。MFOは、エジプトとイスラエル間の停戦監視を任務とし、1982年の活動開始以来、両国の対話や信頼醸成の促進を支援することにより、わが国の「平和と繁栄の土台」である中東の平和と安定に貢献してきた。

このようななか、MFOからわが国に対し、要員の派遣について要請があり、わが国としても、国際平和のための努力に対し人的な協力を積極的に果たしていくため、2019年4月以降、国際連携平和安全活動としてMFOへ司令部要員を派遣している。

MFOで活動する派遣隊員

MFOで活動する派遣隊員

(2)司令部要員などの活動

現在、陸上自衛官4名が、シナイ半島南部に所在するMFO司令部(連絡調整部および後方支援部施設課)において活動を実施している。

連絡調整部には、2019年4月以降、2名の司令部要員を派遣しており、エジプト、イスラエルとの連絡調整や、これにかかる中長期の活動方針の作成などの業務に従事している。

後方支援部施設課には、2023年6月以降、2名の司令部要員を派遣しており、MFOの各種施設の更新に関する計画作成や進捗管理などの業務に従事している。そのほか、MFOに派遣された司令部要員が円滑かつ効果的に活動を行えるよう、カイロに連絡調整要員1名を派遣し、関係機関との連絡・調整などにあたらせている。

この活動を通じ、中東の平和と安定へのわが国の一層積極的な関与の姿勢を示すほか、米国をはじめ他の要員派遣国との連携の促進、人材育成の機会となることが期待される。

参照図表III-3-3-2(MFO関連地図)、図表III-3-3-3(MFO組織図)

図表III-3-3-2 MFO関連地図

図表III-3-3-3 MFO組織図

動画アイコンQRコード資料:シナイ半島国際平和協力業務(国際連携平和安全活動)
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/kokusai_heiwa/pko/201904_egy.html

2 国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)
(1)UNMISSへの派遣の意義

2011年7月、南スーダン独立に伴い、平和と安全の定着や南スーダンの発展のための環境構築の支援などを目的として、UNMISSが設立された。わが国は、国連からのUNMISSに対する協力、特に、陸自施設部隊の派遣要請を受け、司令部要員、自衛隊の施設部隊などを派遣してきた。

南スーダンは6つの国と国境を接し、アフリカ大陸を東西南北に結ぶ、極めて重要な位置にある。南スーダンの平和と安定は、南スーダン一国のみならず、周辺諸国の平和と安定、ひいてはアフリカ全体の平和と安定につながるものであり、かつ国際社会で対応すべき重要な課題である。防衛省・自衛隊は、これまでの国連PKOにおいて実績を積み重ね、国連も高い期待を寄せているインフラ整備面での人的協力を行うことで、南スーダンの平和と安定に貢献してきた。

UNMISSは、現在、わが国が要員を派遣する唯一の国連PKOであり、司令部要員の派遣は、南スーダンの和平プロセスの進展を国際社会とともに支援するものである。国連への緊密な関与の継続や周辺アフリカ諸国などとの連携、人材育成の機会確保などの観点から、引き続き要員を派遣する意義がある。

参照I部3章10節2項(アフリカ)

(2)司令部要員の追加派遣

国連によるUNMISSにおける人事・評価・訓練を担当する副参謀長(大佐級)の公募およびその補佐官の派遣要請を受け、2024年4月、陸上自衛隊より1等陸佐と2等陸曹の計2名を追加派遣することとした。大佐級ポストの派遣は、わが国の司令部要員としては、過去最高位となる。

(3)司令部要員などの活動

南スーダンの首都ジュバに所在するUNMISSの本部において、従前から陸上自衛官4名(兵站幕僚、情報幕僚、施設幕僚、航空運用幕僚)が活動を実施しており、兵站幕僚はUNMISSの活動に必要な物資の調達・輸送、情報幕僚は治安情勢にかかる情報の収集・整理、施設幕僚はUNMISS全体の施設業務にかかる企画・立案、航空運用幕僚はUNMISSが運航する航空機の飛行計画の作成などの業務を行っている。

2024年に追加派遣した陸上自衛官2名のうち、副参謀長は、UNMISS軍事部門司令部における人事・評価・訓練部門の運営・監督を務めており、補佐官は、同副参謀長が円滑に業務を実施できるようサポートを行っている。

さらに、司令部要員の活動を支援するため、在南スーダン日本大使館内の連絡調整事務所に、連絡調整要員1名を派遣している。連絡調整要員は、わが国のUNMISSに対する協力を円滑かつ効率的に行うことを目的として、南スーダン政府などと南スーダン国際平和協力隊との間の連絡調整にあたっている。

このように、わが国は引き続き、UNMISSの活動に貢献していくこととしている。

参照図表III-3-3-4(UNMISS組織図)

図表III-3-3-4 UNMISS組織図

動画アイコンQRコード資料:国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/kokusai_heiwa/pko/201111_ssd.html

3 国連事務局への防衛省職員の派遣

防衛省・自衛隊は、国連の国際平和に向けた努力に積極的に寄与し、また、派遣された職員の経験をわが国のPKO活動への取組に活用することを目的に、国連事務局へ職員を派遣している。2024年3月現在、3名の自衛官(室長級および担当級)が、国連平和活動局において国連PKOの方針や計画の作成、各国派遣要員の能力評価などに関する業務を行っているほか、自衛官と事務官の各1名(ともに担当級)が国連活動支援局において国連三角パートナーシップ・プログラム2(UNTPP:United Nations Triangular Partnership Programme)に関する業務を行っている。

参照資料59(国際機関などへの防衛省職員の派遣実績)

4 PKO訓練センターへの講師などの派遣

防衛省・自衛隊は、平和維持活動におけるアフリカ諸国などの自助努力を支援するため、アフリカなどに所在するPKO訓練センターなどに自衛官を派遣し、PKO要員の教育訓練を支援しており、これらPKO訓練センターの機能強化を通じ、アフリカなどの平和と安定に寄与している。

参照資料59(国際機関などへの防衛省職員の派遣実績)

5 UNTPPへの支援

わが国は、これまでPKOの円滑化に欠かせない施設や輸送の分野で確かな信頼を得てきた。今後もPKOの早期展開を支援し、質の高い活動を実現するため、2014年9月のPKOサミットにおいて、わが国は積極的な支援を表明し、UNTPPによって具体化された。

UNTPPは、わが国が拠出した資金を基に、国連活動支援局が重機の調達や工兵要員への訓練を実施するものとして始動した。プログラムの開始から2024年3月までに、のべ184名の陸上自衛官をアフリカ地域に派遣し、同地域の8か国312名の要員に対して、計10回の訓練を実施した。

また、PKO要員の30%以上がアジアから派遣されていることを踏まえ、2018年より、UNTPPをアジアおよび同周辺地域においても実施している。2023年6月、陸上自衛官24名をインドネシア平和安全保障センターに派遣し、インドネシアおよび周辺国の工兵要員を対象として、PKOにおけるインフラ整備、宿営地の造成などに必要な知識、技能の修得に寄与した。プログラムの開始から2024年3月までに、のべ116名の陸上自衛官を派遣し、アジアおよび同周辺地域の10か国95名の要員に対して、計5回の訓練を実施した。

さらに、国連PKOにおいて、派遣要員の安全確保のための衛生能力強化が課題となっていることから、国連がUNTPPでの支援の枠組みを衛生分野にまで拡大し、国連野外衛生救護補助員コース3(UNFMAC:UN Field Medical Assistant Course)が設置されることとなった。2023年7月、ウガンダにある国連エンテベ地域支援センターで実施された同コースに、防衛省・自衛隊は教官要員として陸上自衛官1名を派遣し、派遣要員25名に対して教育を実施した。

国連三角パートナーシップ・プログラム野外衛生救護補助員訓練の教官として勤務する隊員

国連三角パートナーシップ・プログラム野外衛生救護補助員訓練の
教官として勤務する隊員

そのほか、UNTPPの一環として、工兵要員を対象とした作業工程管理課程をオンラインで開催している。本課程は、国連PKOミッションにおける工事管理、問題発生時の対処法などを教育するものであり、2023年11月、陸上自衛官5名の教官が、ベトナム、タイ、モンゴルの工兵要員25名を対象に、同年12月には、ケニア、タンザニア、ウガンダの工兵要員26名を対象に教育を実施した。

6 ウクライナ被災民に対する救援活動への協力

2022年のロシアによるウクライナ侵略を受け、UNHCRから人道救援物資の輸送支援の要請があった。これを受けて、同年5月から6月までの間、「ウクライナ被災民救援国際平和協力業務」として、自衛隊機により、ドバイ(アラブ首長国連邦)にあるUNHCRの倉庫の人道救援物資をウクライナ周辺国(ポーランドおよびルーマニア)へ輸送した。今般の協力について、UNHCRから謝意を表明されたほか、ウクライナ政府関係者からも感謝と高い評価が得られた。

2 国連、国連PKOの要員派遣国および支援国(技術や装備を有する第三国)間の協力により、国連PKOに派遣されるPKO要員の訓練、必要な装備品の提供を行う協力枠組み。

3 PKOの活動地域において、衛生隊員または医療従事者が専門的な治療を行う前に、応急処置を実施できる要員の育成を目的とする課程。