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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第8節 欧州

1 全般

冷戦終結以降、欧州の多くの国では、欧州域内やその周辺における地域紛争の発生、国際テロリズムの台頭、大量破壊兵器の拡散、サイバー空間における脅威の増大といった多様な安全保障課題に対処する必要性が認識されてきた一方で、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識されてきた。しかし、14(平成26)年2月以降のウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによる力を背景とした現状変更や、「ハイブリッド戦」に対応すべく、既存の戦略の再検討や新たなコンセプト立案の必要に迫られている。また、国際テロリズムに関しては、各国国内におけるテロとみられる事案の発生を受け、その対応が急務となっている1。さらに、長期化するシリア内戦など、混迷する中東情勢を背景として急増した難民・移民をめぐる問題をはじめ、依然として国境の安全確保が課題となっている。

こうした課題・状況に対処するため、欧州では、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)や欧州連合(EU:European Union)といった多国間の枠組みをさらに強化・拡大2しつつ、欧州域外の活動にも積極的に取り組むなど、国際社会の安全・安定のために貢献している。また、各国レベルでも、安全保障・防衛戦略の見直しや国防改革、二国間3・多国間4での防衛・安全保障協力強化を進めている。

また、安全保障環境の変化や防衛支出の下降傾向及び米国とそれ以外の加盟国の差の拡大を踏まえ、NATO加盟国は14(平成26)年、国防支出を対GDP比2%以上の額とする目標を、24(令和6)年までに達成することに合意した5。これについて、トランプ米大統領は18(平成30)年7月のNATO首脳会合で、目標未達成国に対して国防費の増額を強く要求し、米国の負担率が米国以外のNATO加盟国の負担率より大きいことに対する不公平感を強調した6

参照図表I-2-8-1(NATO・EU加盟国の拡大状況)

図表I-2-8-1 NATO・EU加盟国の拡大状況

1 最近では、英国において男が駅で通行人らを刃物で襲撃する事案(18(平成30)年12月)、フランスにおいて男がクリスマスマーケット付近で通行人を銃及び刃物で襲撃する事案(18(平成30)年12月)、ドイツにおいて男がスーパーマーケット内で客を刃物で襲撃する事案(17(平成29)年7月)などが発生した。各国は警備体制の見直しや入国管理の強化などの対策を行っている。3章7節参照

2 NATOは、欧州・大西洋地域全体の安定を目的として、中・東欧地域への拡大を継続しており、19(平成31)年2月に北マケドニアのNATO加盟が承認され、加盟国間で批准手続中である。NATOの加盟国拡大は17(平成29)年のモンテネグロ以来となる。

3 例えば、英国とフランスは10(平成22)年11月の首脳会議において、二国間の防衛・安全保障協力に関する条約と、核施設の共用などに関する条約に署名した。また、ドイツとフランスは19(平成31)年1月の首脳会談において、欧州統合の強化に向けた協力などに関するアーヘン条約に署名した。同条約では、両国は軍事協力をさらに強化するほか、共同訓練及び共同展開行動を実施し、第三国を安定させる作戦のための共通の部隊の創設などを目指している。

4 例えば、18(平成30)年6月に、フランス、ドイツ、英国、エストニア、オランダ、スペイン、デンマーク、ベルギー及びポルトガルの欧州9か国は、戦略面において欧州の再活性化を促進するという共通の確固たる意志をもって、「欧州介入イニシアティブ」を立ち上げた。同年11月には、フィンランドがこれに加わり、10か国による初の閣僚級会合が開催され、運用レベルの作業を今後進めていく上での礎となる政治的指針を承認した。このイニシアティブは、自然災害に対し共同で迅速に対処する能力の構築や、世界各地における高強度軍事作戦を実施する能力の強化など、目に見える成果を追求するとしているが、細部については検討の段階である。

5 18(平成30)年に当該基準を達成したのは加盟国中7か国(米国、ギリシャ、英国、エストニア、ポーランド、ラトビア、リトアニア)にとどまっている。一方、18(平成30)年7月のNATO首脳会合で採択された宣言においては、NATO加盟国のうちおよそ3分の2が、目標とする24(令和6)年までに対GDP比2%以上の国防支出を達成する計画を保持していることを明らかにした。

6 この点、トランプ米大統領が軍事同盟の必要性に疑問を呈し、18(平成30)年7月のNATO首脳会合の前後に、NATO脱退の可能性について政府高官と議論していたとも伝えられている。また、同大統領は同首脳会合後の会見で、NATO加盟国の国防支出は最終的に対GDP比4%に達するべきとの考えを明らかにした。