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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第7節 国際テロリズム・地域紛争などの動向

1 全般

1 最近の動向

グローバルな安全保障環境においては、一国・一地域で生じた混乱や安全保障上の問題が、直ちに国際社会全体に影響を及ぼす不安定要因として拡大するリスクが増大している。

世界各地において、民族、宗教、領土、資源などの問題をめぐる紛争や対立が、依然として発生又は継続している。とりわけ、政権交代に伴う権力闘争が部族間、宗派間、党派間の対立を生起又は助長させるとともに、こうした対立が、経済・社会格差や高い失業率などに対する国民の不満を背景に、長期化・過激化する例がみられる。そして、こうした紛争や対立に伴い発生した人権侵害、難民、飢餓、貧困などが、紛争当事国にとどまらず、より広い範囲に影響を及ぼす場合がある。

また、政情が不安定で統治能力がぜい弱な国において、国家統治の空白地域がアルカイダや「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL:Islamic State in Iraq and the Levant)をはじめとする国際テロ組織の活動の温床となる例も顕著にみられる。こうしたテロ組織は、不十分な国境管理を利用して要員、武器、資金などを獲得するとともに、各地に戦闘員を送り込んで組織的なテロを実行させたり、現地の個人や団体に対して何らかの指示を与えたりするなど、国境を越えて活動を拡大・活発化させている。さらに近年では、インターネットなどを通じて世界中に暴力的過激思想を普及させている。その結果、欧米などの先進国において、社会への不満から若者がこうした暴力的過激思想に共感を抱き、国際テロ組織に戦闘員などとして参加するほか、自国においてテロを行う事例がみられる。このように、国際テロ組織の活動は、引き続き国際社会にとって重大な課題となっている。わが国との関係でも、シリアやバングラデシュで日本人が殺害される事件が発生しており、日本人がテロの対象に挙げられている1。国際テロの脅威に対しては、わが国自身の問題として正面から捉えなければならない状況となっている。

2 国際社会の取組

このような複雑で多様な不安定要因に対し、国際社会がそれぞれの性格に応じた国際的枠組みや関与のあり方を検討し、適切な対処を模索することがより重要となっている。こうした中、近年国連PKO2の任務は、停戦や軍の撤退などの監視といった伝統的な任務に加え、武装解除の監視、治安部門の改革、選挙や行政監視、難民帰還などの人道支援など、文民や警察の活動を含む幅広い分野にわたっており、特に文民保護や平和構築などの任務の重要性が増している。

参照図表I-3-7-1(現在展開中の国連平和維持活動)

図表I-3-7-1 現在展開中の国連平和維持活動

また、国連PKOの枠組みのみならず、国連安保理に授権された多国籍軍や地域機構などが、紛争予防・平和維持・平和構築に取り組む例もみられる。アフリカにおいては、アフリカ連合(AU:African Union)3などの地域機構が国連安保理決議に基づいて活動を行い、その後、国連PKOが権限を引き継ぐ例もある。また、アフリカ各国の自助努力を促すという長期的観点から、現地の統治機関の強化や軍・治安機関の能力向上のため、国際社会は助言や訓練支援、装備品供与などの取組を行っている。

国際テロ対策に関しては、テロの形態の多様化やテロ組織のテロ実行能力の向上などにより、テロの脅威が拡散、深化している中で、テロ対策における国際的な協力の重要性がさらに高まっている。現在、軍事的な手段のみならず、テロ組織の資金源の遮断、テロリストの国際的な移動の防止、暴力的過激思想の拡散防止などのため、各国が連携しつつ、様々な分野における取組が行われている4

1 15(平成27)年初頭、シリアにおける邦人殺害テロ事件において、ISILは日本人をテロの対象とする旨を明確に宣言した。さらに同年2月に発行されたISIL機関誌「ダービク」第7号では、同事件についての記述があり、改めて日本人及びその権益を標的としたテロを呼びかけた。同年9月には、第11号において、ボスニア、マレーシア及びインドネシアに所在する日本の外交使節を標的にしたテロ攻撃を呼びかけている。また、同年10月のバングラデシュ邦人殺害事件についても、第12号(同年11月発行)において言及したうえで、日本国民及び国益が攻撃対象であると改めて警告している。

2 19(平成31)年3月末現在、全世界で14の国連PKOが設立されている(122か国、約8万8,480人の軍事・警察要員と、約1万2,930人の文民要員が国連PKOに参加している)。このうち、10の国連PKOが中東・アフリカ地域に設立されている。(図表I-3-7-1参照)

3 アフリカ55か国・地域が加盟する世界最大級の地域機構。平和維持活動の主体としてアフリカ待機軍(ASF:Africa Standby Force)を設置し、アフリカを5つの地域に区分して、それぞれに旅団規模の部隊を整備してきた。2016年には北部を除く4つの地域で完全な能力の獲得が宣言された。これまでに展開実績はなし。

4 14(平成26)年9月、国連安保理は、テロ行為の実行を目的とした渡航を国内法で犯罪とすることなどを求めた、外国人テロ戦闘員問題に関する決議第2178号を採択した。同決議では、テロ行為への参加の目的で自国領域内に入国又は通過しようとしていると信じるに足りる合理的な根拠を示す信頼性の高い情報を有する場合、当該個人の領域内への入国又は通過を阻止することを義務づけるなどの措置を含んでいる。また、15(平成27)年6月にドイツで開催されたG7首脳会議では、テロリストの資産凍結に関する既存の国際的枠組みを効果的に履行するとのコミットメントが再確認されている。さらに、17(平成29)年6月には、フェイスブックやマイクロソフトなどの米国大手IT企業4社は、暴力的過激思想の拡散防止のための新たな業界団体の設立を発表した。