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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第5節 大洋州

1 オーストラリア

1 全般

オーストラリアは、戦略的利益、自由と人権の尊重、民主主義といった普遍的な価値をわが国と共有する特別な戦略的パートナーであり、わが国や韓国と同様、米国と同盟関係にある。

16(平成28)年2月に発表された国防白書においては、今後20年間、豪軍の高い能力水準を維持するため、豪政府として重要な投資を行っていくとして、兵力を増強するとともに、高性能な装備品の取得などを継続する方針を示している。また、国防予算についても、今後10年間における増額方針を明確に示すとともに、20(令和2)年までに対GDP比2パーセントを達成するという具体的な目標も提示している。対外関係においては、米国との同盟関係を引き続き最重要視しつつ、わが国を含むインド太平洋地域のパートナーとの実用的な関係の成熟・深化を目指していくとしている。さらに、ルールに基づく国際秩序における国益に資する共同オペレーションへの軍事的貢献という国防戦略上の目標を達成するため、海外への豪軍派遣などを通じて積極的に国際社会の平和と安定に向けた貢献を行っている。

19(令和元)年5月18日、総選挙が実施され、与党・保守連合(自由党と国民党)が勝利した。

2 安全保障・国防政策

豪政府は13(平成25)年1月、初の国家安全保障戦略を発表した1。同戦略は、今後10か年の国家安全保障の方向性を示すものであり、アジア太平洋地域における経済的、戦略的変化に対応していくことがオーストラリアの国家安全保障にとって重要であるという認識を示している。同戦略は、同国の国家安全保障上の目標を、①国民の安全と強じん性の確保、②主権の保護と強化、③資産、インフラ及び組織の保護、④望ましい国際環境の促進の4つとしたうえで、①アジア太平洋地域への関与の強化2、②サイバー政策及び作戦の統合3、③効果的なパートナーシップの構築4を今後5年間の最優先課題にするという方針を示した。

16(平成28)年2月に発表された国防白書5では、今後20年間にオーストラリアが直面する安全保障環境の見積りを示したうえで、こうした環境に対処するための国防戦略とそれに基づく国防力の整備の方向性を示している。

具体的には、35(令和17)年までは自国領域が軍事攻撃を受ける可能性は低いものの、新たな複雑性と挑戦に直面するとの認識のもと6、国防戦略上の利益として、オーストラリアの安全と強じん性(シーレーンなどの安全を含む)、近隣地域の安全、インド太平洋地域の安定及びルールに基づく国際秩序を挙げている。また、国防戦略上の目標としては、①自国・国家利益などへの武力攻撃又は脅威の抑止・拒否・撃破、②東南アジアの海洋安全保障と太平洋島嶼国などの政府による安全の確立・強化に資する軍事的貢献、③ルールに基づく国際秩序における国益に資する共同オペレーションへの軍事的貢献を挙げている。さらに、これらの目標を達成するうえで必要となる豪軍の高い能力水準を維持するため、政府として重要な投資を行っていくとして、兵力の約4,400名7の増強に加え、新型潜水艦12隻8、防空駆逐艦(イージス艦)3隻、F-35統合攻撃戦闘機(JSF:Joint Strike Fighter)72機、MQ-4C無人哨戒機7機などの高性能な装備品を取得する方針を示している。同時に、情報・監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance, Reconnaissance)能力、電子戦能力、サイバーセキュリティ能力の強化のほか、オーストラリア北部などに所在する基地機能の強化も追求するとしている。そして、これらの事業を予算面から裏づけるため、国防予算を増額し、20(令和2)年までに対GDP比2パーセントを達成するという具体的な目標も提示している。

また、北朝鮮が過去に例を見ない頻度で挑発行動を繰り返す中、ターンブル首相(当時)は17(平成29)年10月、「複数の国、特に北朝鮮が距離と速度を向上させたミサイルを開発しており、我々は迎撃できる能力を持たなければならない」と述べ、海軍の次期フリゲート9隻(イージスシステム搭載)に弾道ミサイル迎撃システムを搭載することを発表している9

3 対外関係

オーストラリアは、国防白書2016において、自国の安全と繁栄は、近隣地域、インド太平洋地域及びグローバルな戦略環境の発展に直結しているとの認識を示したうえで、国防戦略上の目標を達成するため、安全保障分野における対外関係を構築・維持していくとしている。特に、米国との同盟関係を引き続き最重要視しつつ、インドネシア、日本、韓国、ニュージーランド、インド、中国などのインド太平洋地域のパートナーとの実用的な関係の成熟・深化を目指していくとしている。17(平成29)年11月に14年ぶりに発表された外交白書2017もこうした方針を踏襲している10

参照III部3章1節2項1(オーストラリア)

(1)米国との関係

オーストラリアは、国防白書2016において、ANZUS(Security Treaty between Australia, New Zealand and the United States of America)条約11に基づく米国との同盟関係について、共通の価値観に基づいており、オーストラリアの国防政策の中心であり続けるとしている。そして、今後20年間にわたり卓越したグローバルな軍事大国であり続ける米国は、最も重要な戦略的パートナーであり、米国による積極的なプレゼンスが地域の安定を支え続けるとしている。そのため、オーストラリアは、インド太平洋地域の安定確保において米国が担う重要な役割を歓迎・支持するとしている。

両国は、1985(昭和60)年以降、外務・防衛閣僚協議(AUSMIN:Australia United States Ministerial Consultations)を定期的に開催し、主要な外交・安保問題について協議している。運用面では、「タリスマン・セーバー」12をはじめとする共同訓練を通じて相互運用性の向上を図っているほか、12(平成24)年4月以降、米海兵隊のオーストラリア北部へのローテーション展開を実施している13。装備面においては、13(平成25)年5月に発効した米豪防衛貿易協力条約に基づき装備品取引にかかる輸出手続の簡素化を行っているほか、F-35の共同開発やミサイル防衛協力に関する検討14も実施している。このほか、ISR、宇宙15、サイバー16などの分野における協力も推進している。14(平成26)年8月には米海兵隊によるローテーション展開の法的枠組みとなる「戦力態勢協定」に署名したほか、同年10月からは米国が主導する対ISIL作戦の戦闘任務に豪軍を参加させた。また、15(平成27)年7月には米本土から飛来した米軍のB-52戦略爆撃機がオーストラリア内の射爆場に爆弾を投下し帰還する訓練を実施した。

ターンブル政権下では、同年10月のAUSMINで、将来の防衛協力の指針となる「防衛協力に関する共同声明」17に署名するなど、強固な二国間協力を再確認した。18(平成30)年7月に開催されたAUSMINの共同声明では、「開かれ、包摂的で繁栄したルールに基づくインド太平洋」を形成するため協力すること、インド太平洋に関する日米豪印協議を歓迎すること、日本との3か国対話の強化を再確認したほか、米海兵隊ローテーション展開の規模を定員の2,500人へ可及的速やかに増員するとした。19(令和元)年7月のAUSMINでは、2,500人への増員達成を発表したほか、南シナ海や太平洋の軍事利用に懸念を表明した。また、インド太平洋地域における米豪協力の重要性を確認するとともに、日本、インド、英国、フランス、ドイツ等との協力を強化する方針を示し、東南アジア諸国及び太平洋島嶼国に対する支援の強化や北朝鮮に対する圧力の維持で協力するとした。

(2)中国との関係

オーストラリアは、国防白書2016において、中国との関係について、米国とは異なる意味で重要であるとして、中国経済の継続的成長とそれが自国とインド太平洋地域の国々にもたらす機会を歓迎するとしている。そして、中国との国防分野における関係を引き続き発展させ、相互理解の深化、透明性の促進、信頼の構築に向けて努力するとしている。

このような方針のもと、中国とは国防当局間の対話を継続的に実施しているほか18、共同演習や艦艇の相互訪問など、両国軍の協力関係を発展させるための交流も行っている19

一方で、オーストラリアは、中国に対する自国の立場を明確に発信する姿勢を見せるなど、対中警戒心を顕在化させている。

南シナ海問題において、豪政府は、中国による埋立及び建設活動に対し強い懸念を表明し、全ての領有権主張国に対して軍事化などの停止を要求しているほか、航行の自由及び上空飛行の自由にかかる権利を行使し続ける旨表明している20。外交白書2017では、オーストラリアが最重要と位置付けるインド太平洋地域において中国が米国の地位に挑戦している旨明記した。

豪軍艦艇や米軍艦艇も利用してきたダーウィン港をはじめとする中国資本による豪施設の買収に対しては、内外から懸念の声21が上がり、豪政府は17(平成29)年1月、特定の港湾など安全保障上の重要インフラが外国資本に買収されることを防ぐため、監視が必要な施設を洗い出し、売却リスクを精査して関係機関に助言する専門の組織を司法省に設置した22

中国によるオーストラリアへの影響力の行使とみられる活動が活発になる中23、外国からの内政干渉などを阻止するための法律が可決された24。豪政府は、通信分野においても、中国通信企業のファーウェイ(華為)が一部受注していた海底ケーブル事業について豪政府の支援により豪企業が行うことを発表25した。また、ファーウェイは18(平成30)年8月、次世代通信規格「5G」の整備事業への同社とZTEの参入を豪政府から禁止された旨、明らかにした26

(3)インドとの関係

オーストラリアは、国防白書2016において、インドがインド太平洋地域において積極的役割を拡大することを歓迎するとともに、インドを主要な安全保障上のパートナーとみなしている。そして、共通の戦略的利益に資するため、インドとのさらなる国防関係の成熟を目指すとしている。

両国は09(平成21)年11月に戦略的パートナーシップ関係に引き上げ、各種戦略対話、軍高官の相互訪問、各軍種間の交流及び軍教育機関への学生の相互派遣などを定期的に実施してきた。14(平成26)年11月、インドのモディ首相が、同国の首相としては28年ぶりにオーストラリアを訪問し、研究、開発及び産業分野への防衛協力の拡大、国防大臣間の会談及び海上演習の定期的開催、両国の各軍種間における協議の開催などについて合意した。その後、両国は、海軍艦艇の相互訪問や合同海軍演習を行うなど、両国の相互交流は着実に進んでいる。

参照2章7節1項2(インド軍事)

(4)東南アジア及び太平洋島嶼国との関係

オーストラリアは、国防白書2016において、東南アジア及び南太平洋の海域を含む近隣地域の安全を自国の戦略的利益とみなしている。特に、東南アジアにおける不安定や紛争は、自国の安全保障上及び各国との経済関係への脅威となり得るとしている。さらに、オーストラリアは東南アジア各国との海上貿易及び東南アジアを通過する海上貿易に依存しており、これらのシーレーンの安全は、航行の自由とともに保障されなければならないとしている。こうした認識のもと、オーストラリアは、東南アジアの海洋安全保障と太平洋島嶼国などの政府による安全の確立・強化に資する軍事的貢献を行うとしている。

インドネシアとは、06(平成18)年11月のロンボク協定署名、10(平成22)年3月の戦略的パートナーシップへの引き上げ及び12(平成24)年9月の防衛協力協定締結などを経て、安全保障・国防分野の関係を強化してきた27。両国間の安全保障・国防分野の協力関係は断続的に停滞28した時期もあったが、その後、15(平成27)年後半に入り、閣僚級の往来が再開されたほか、外務・防衛閣僚協議(2+2)の定期開催や18(平成30)年の海上安全保障やテロリズムに関する防衛協力協定及び海洋協力行動計画への署名などを通じ、両国関係は改善している。

シンガポール及びマレーシアとは、「五か国防衛取極(FPDA:Five Power Defence Arrangements)」29の枠組みで、南シナ海などにおいて定期的に共同統合演習を行っている30。シンガポールについては、オーストラリアの最も進んだ国防パートナーであり、安全な海上貿易環境に対する利益を共有するとしている。16(平成28)年10月には、包括的戦略パートナーシップのもと、オーストラリアにおける軍事訓練及び訓練区域の開発に関する了解覚書に署名するなど、防衛協力も進んでいる。マレーシアに対しては、同国のバターワース空軍基地に豪軍を常駐させるとともに、南シナ海やインド洋北部の哨戒活動を通じて、同地域の安全と安定の維持に貢献している31

太平洋島嶼国及び東ティモールに対しては、治安維持、自然災害対処及び海上警備などの分野における支援を主導的に行っている32。特に、海上警備分野においては、現在も定期的に豪軍アセットを南太平洋に派遣して警備活動を支援しているほか、14(平成26)年6月に過去、太平洋島嶼国に提供してきた22隻の警備艇を更新するとともに、東ティモールへも警備艇を新規提供する計画を発表した33。18(平成30)年11月には、最大30億豪ドルという過去最高となる資金を太平洋島嶼国におけるインフラ構築にあてる旨発表し、関係の強化を図っている。19(令和元)年5月、モリソン首相は、総選挙後の組閣直後に、「パシフィック・ステップ・アップ」と称する太平洋島嶼国への積極的な関与を継続する旨表明し、組閣後初の外遊先として同年6月にソロモン諸島を訪問し、太平洋島嶼国を重視する姿勢を鮮明にしている。

参照2章5節2(ニュージーランド)
2章6節(東南アジア)

(5)海外における活動

オーストラリアは、国防白書2016において、国防戦略上の目標として、ルールに基づく国際秩序における国益に資する共同オペレーションへの軍事的貢献を挙げており、こうした目標に沿って、19(令和元)年6月現在、約5万7,050人の現有兵力34のうち、約2,400人を海外に派遣し、活動させている。

イラクでは、米軍がイラク北部でISILに対して実施した空爆にも14(平成26)年10月から参加した。現在はイラク治安部隊への軍事面の助言及び支援活動、能力構築支援を行っている35

アフガニスタンでは、01(平成13)年10月以降、年平均約1,550人の豪軍が国際治安支援部隊(ISAF:International Security Assistance Force)のもとで復興支援活動やアフガニスタン治安部隊(ANSF:Afghan National Security Forces)の訓練などに従事してきた。14(平成26)年末のISAF活動終了に伴い、現在は約300人の豪軍がNATO主導によるアフガン軍の訓練、助言及び支援任務に当たっており、同支援を20(令和2)年まで延長するとしている。

18(平成30)年以降、国連安保理決議により禁止されている北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、哨戒機及び艦艇による警戒監視活動を行った。

1 同戦略は、08(平成20)年12月に発表され、オーストラリアの国家安全保障上の論点を明示し、国家安全保障コミュニティの改革を始動させた「国家安全保障声明」に続くもの。

2 具体的には、①米豪同盟の強化、②中国、インドネシア、日本、韓国、インドなどの影響力のある地域諸国との二国間協力の拡大、③多国間フォーラムの優越性及び効果性の促進に取り組むことなどが示されている。

3 オーストラリア・サイバー・セキュリティ・センター(ACSC:Australian Cyber Security Centre)に、国防省、司法省、連邦警察の能力及び犯罪委員会のサイバー関連の人材を統合

4 国内外のパートナーとの確実かつ迅速な情報共有、民間との情報共有の強化など

5 オーストラリアの国防白書は、国防に関する政府の将来計画及び実現策などを示すものであり、これまでに、1976(昭和51)年(フレーザー自由党政権)、1987(昭和62)年(ホーク労働党政権)、1994(平成6)年(キーティング労働党政権)、00(平成12)年(ハワード自由党政権)、09(平成21)年(ラッド労働党政権)、13(平成25)年(ギラード労働党政権)及び16(平成28)年(ターンブル自由党政権)の計7回発表されている。

6 今後20年間にオーストラリアの安全保障環境を形成する要素として、①インド太平洋地域における米中の役割と関係、②ルールに基づく国際秩序の安定への挑戦、③国内外のオーストラリア国民に対するテロの脅威、④経済発展の不均衡、犯罪、社会、環境、統治上の問題及び気候変動による脆弱国家の発生、⑤軍事近代化のペースと地域における高度な軍事力の発展、⑥複雑かつ地理的概念を超える新たな脅威の登場(サイバー脅威など)の6つを挙げている。このうち、⑤としては、インド太平洋地域において、世界の潜水艦の半数及び新型戦闘機の半数以上が運用され、弾道ミサイル技術を取得する国も増加する可能性などを示している。

7 今後10年間で、現役兵の数を現在の約5万8,000人から約6万2,400人へ引き上げる方針を示している。これが実現すれば、1993(平成5)年以来、豪軍は最大規模となる。

8 国防白書では、取得する潜水艦について、「地域的に優位性を備えた潜水艦」と表現し、16(平成28)年内に艦種を選定し、1隻目の運用開始を30(令和12)年代初期としている。日独仏が潜水艦の建造受注を競っていたが、豪政府は16(平成28)年4月、建造パートナーをフランスのDCNS社に決定したと発表した。同年8月には同社が受注したインド海軍の潜水艦に関する同社の機密文書の漏洩が発覚し、豪国内で採用見直しを求める声も上がったが、ターンブル首相は「オーストラリアが建造する潜水艦はリーク対象とタイプが異なる」と強調し、採用見直しを否定している。

9 17(平成29)年4月、ビショップ外相(当時)が「全ての選択肢がテーブルの上にあるという米国の対北朝鮮政策を支持する」などと述べたことを受け、北朝鮮外務省報道官が「オーストラリアが米国に追従するなら、わが戦略軍の核の照準鏡内に自ら首を突っ込む自滅行為になるだけである」と反発している。

10 外交白書2017は中国が国益のために影響力を高めていると認識し、インド太平洋地域の一部では、中国の影響力が米国以上の場合もあると分析している。その上で、オーストラリアは米豪同盟の深化を確保しながら、戦略的な関係を地域の「同じ志を持つ」民主主義国家に広げると指摘し、アジアからアフリカに至る安定と成長を目指す日米豪印の4か国の枠組みなどを念頭に、関係を強化すると強調している。

11 1952(昭和27)年に発効したオーストラリア・ニュージーランド・米国間の三国安全保障条約。ただし、ニュージーランドが非核政策をとっていることから、1986(昭和61)年以降、米国は対ニュージーランド防衛義務を停止しており、オーストラリアと米国の間及びオーストラリアとニュージーランドの間でのみ有効

12 「タリスマン・セーバー」は05(平成17)年以降、2年に1度行われている米豪共同演習であり、戦闘即応性及び相互運用性の向上を目的としている。17(平成29)年6月から7月に行われた同演習には、米豪から約3万3,000人が参加した。なお、陸上自衛隊も15(平成27)年及び17(平成29)年に参加し、米豪軍との関係強化を図った。

13 米豪は11(平成23)年11月の「戦力態勢イニシアティブ」を通じ、米海兵隊によるダーウィン及びオーストラリア北部への約6か月ごとのローテーション展開を発表した。これに基づき、12(平成24)年及び13(平成25)年は約200名、14(平成26)年及び15(平成27)年は1,150名、16(平成28)年及び17(平成29)年は約1,250名、18(平成30)年は約1,600名、19(令和元)年は約2,500名の米海兵隊員が展開している。国防白書2016では、20(令和2)年までに、約2,500名の規模に拡大するとしていた。また、同イニシアティブにおいては、オーストラリア北部における豪軍の施設・区域への米空軍機のアクセスを拡大し、共同演習・訓練の機会を拡大するとされた。これにより、17(平成29)年2月には米空軍のF-22戦闘機12機がオーストラリアに展開した。

14 オーストラリアは、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)による自国への攻撃の脅威は低いとする一方、長射程及び潜水艦発射型の弾道ミサイルや巡航ミサイルによる自国領域に対する脅威の可能性に加え、短距離弾道ミサイル及び巡航ミサイルによる展開中の豪軍への脅威の可能性を認識している。こうした脅威に対抗するため、米国との間でワーキング・グループを立ち上げ、地域におけるミサイル防衛に貢献可能なオプションを調査する作業を進めている。

15 米豪は10(平成22)年11月に宇宙の状況監視に関するパートナーシップに署名して以降、米国の地上配備型Cバンド・レーダーシステム及び宇宙監視望遠鏡のオーストラリアへの移設などの宇宙協力を進めている。

16 両国は、11(平成23)年9月に開催されたAUSMINにおいて、サイバー空間における協力に関する共同声明に署名し、両国の長年の防衛関係及びANZUS条約を踏まえ、領土保全、政治的自立あるいは両国の安全保障を脅かすような態様のサイバー攻撃が発生した場合に、協議のうえ、脅威に対処するための適切な選択肢を決定することを確認した。

17 同声明では、資源をめぐる競争及び領土紛争の激化が、アジア太平洋及びインド洋地域における誤算及び紛争の可能性を増大させるなどと展望したうえで、これに対処するため、米豪の防衛面での関係をさらに深めていく方針を示している。具体的には、相互運用性の強化、政策・情報面での協力強化、科学技術・能力開発・防衛産業分野での協力強化、多国間協力などについて明記している。

18 豪中間では、1997(平成9)年以降、国防戦略対話が定期的に開催されており、18(平成30)年10月の第21回対話に際しては、モリアティー次官及びキャンベル豪国防軍司令官が中国を訪問し、李作成・中央軍事委員会統合参謀部参謀長と会談した。

19 豪は、豪中両軍のチームワーク、親善、信頼を構築することを目的とする演習「パンダルー」(15(平成27)年以降)のほか、米中豪3か国の生存訓練「コワリ」(14(平成26)年以降)を毎年実施している。18(平成30)年8~9月には、豪海軍主催の多国間海上軍事演習「カカドゥ」に中国海軍艦艇が初参加したほか、同年9月には、豪艦艇が中国・湛江を訪問し、中国軍艦艇と航行訓練を実施した。

20 13(平成25)年11月の中国による「東シナ海防空識別区」の発表に対しては、ビショップ外相(当時)が、東シナ海の現状を変更するいかなる力による又は一方的な行動に反対する立場を明確にするとの声明を発表した。15(平成27)年10月の米豪外務・防衛閣僚協議(AUSMIN)の共同コミュニケにおいて、中国を名指しした上で、南シナ海における最近の埋立及び建設活動に対し強い懸念を表明し、全ての領有権主張国に対して軍事化などの停止を要求した。また、同月に米国が南シナ海において「航行の自由作戦」を実施した際には、ペイン国防相(当時)が声明を通じ、航行及び飛行の自由に関する国際法に基づく権利を強く支持する旨表明した。16(平成28)年7月には、ビショップ外相(当時)が、比中仲裁判断に対し、オーストラリアは国連海洋法条約を含む国際法に従い、平和的に紛争を解決する全ての国家の権利を支持し、国際法に基づく権利である航行の自由及び上空飛行の自由にかかる権利を行使し続ける旨表明している。

21 ダーウィン港をめぐっては、当該中国企業が中国共産党や人民解放軍と関係が深いとみられる点、ダーウィン港を利用している米軍と事前に協議しなかった点などについて、野党やシンクタンクなどからは懸念の声が上がったほか、報道によると、オバマ米大統領(当時)もターンブル首相(当時)に対し、事前に通知が欲しい旨伝えたとされる。また、当該中国企業は現在、新型潜水艦の建造が予定されているアデレード周辺の港湾に対して関心を示しているとされ、動向が注目される。

22 豪政府は、中国企業によるオーストラリア大陸の約1%に当たる土地を所有する同国の牧場経営会社S.キッドマン社の買収及びオーストラリアの大手電力会社オースグリッドの買収を安全保障上の理由から拒否している。設置された「クリティカル・インフラストラクチャー・センター」は、個別案件の審査と政府への提言を担う既存の外国投資審査委員会(FIRB)を支援する組織とみられる。

23 豪メディアの調査で、少なくとも5人の中国系人物が政界への巨額な政治献金と賄賂を通じて、内政に干渉してきたことが明らかになっている。

24 同法案は外国政府及び外国政府系企業の代理人として議会でロビー活動する際の登録を義務付け、登録せずに働きかけを行った場合や政策プロセスに影響を与えた場合に懲役刑を科すとしている。

25 中国大手通信会社の華為が豪・ソロモン間の海底ケーブル敷設を受注していたが、ターンブル首相(当時)は18(平成30)年6月、豪・パプアニューギニア・ソロモン間の豪企業によるケーブル敷設を発表した。

26 豪政府は18(平成30)年8月23日、「5G」に関して、外国政府の違法な指示を受ける可能性の高い企業は国の安全を脅かすリスクがある旨発表した。発表では国や企業名は挙げられておらず、豪政府は特定の国を対象としたものではないとしている。

27 ロンボク協定は、幅広い防衛分野における協力をうたった安全保障協力の枠組みであり、08(平成20)年2月に発効した。また、防衛協力協定には、テロ対策や海上安全保障での協力強化などが盛り込まれている。

28 13(平成25)年11月には、豪情報機関がインドネシアのユドヨノ前大統領、同夫人、閣僚などの電話を盗聴していたことが報じられた。インドネシア政府は駐豪大使の召喚や豪政府への謝罪要求などを通じて強く抗議するとともに、オーストラリアとの軍事交流や情報協力の停止を発表した。15(平成27)年4月には、インドネシアにおいて、オーストラリア人2人が麻薬の密輸に加担したとして処刑され、豪政府は強く反発した。

29 2章6節脚注4参照

30 18(平成30)年4月に行われた「ベルサマ・シールド」には、豪軍から約440人の要員、艦艇及び哨戒機などが参加した。同年10月には、マレーシア、シンガポール、南シナ海で「ベルサマ・リマ」が行われ、豪軍からは約750人の要員、艦艇及び哨戒機などが参加した。

31 豪国防省は15(平成27)年12月、同活動の一環として、豪空軍機による南シナ海の哨戒活動を11月から12月の間に行ったことを認めた。これに先立ち、英BBCは、オーストラリアが南シナ海において航空機における「航行の自由作戦」を実施しているとして、豪空軍機と中国海軍間で行われたとされる無線交信の内容を公開した。

32 オーストラリアは、東ティモールにおいて独立の機運が高まった1999(平成11)年以降、東ティモールの政治的、社会的安定のために積極的な支援を行ってきた。豪軍は、06(平成18)年以降、国際治安部隊(ISF:International Stabilization Force)を主導してきたが、東ティモールの治安情勢が安定したことから、13(平成25)年3月に撤収を完了した。豪軍は、ソロモン諸島においても03(平成15)年7月から同国に対する地域支援活動(RAMSI:Regional Assistance Mission to Solomon Islands)を通じて同国の安定化のための支援を行ってきたが、軍事部門の活動終了に伴い、13(平成25)年8月に撤収した。

33 豪国防省は、23(令和5)年までの間に新型のガーディアン級哨戒艇21隻を太平洋島嶼国及び東ティモールに提供する予定。

34 「ミリタリー・バランス(2019)」による。軍種別の内訳は、陸軍:約2万9,000人、海軍:約1万3,650人、空軍:約1万4,400人

35 17(平成29)年12月のイラク首相による対ISIL勝利宣言を受け、豪政府は同月に空爆を停止する方針を発表し、F/A-18戦闘攻撃機6機を18(平成30)年1月に本国に撤収させたが、E-7A早期警戒管制機1機、KC-30A給油機1機は引き続き中東地域に配置している。