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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第4節 ロシア

1 全般

これまで「強い国家」や「影響力ある大国」を掲げ、ロシアの復活を追求してきたプーチン大統領は、18(平成30)年に再選を果たした。同大統領は同年5月の就任演説において、ロシアが強く、積極的で、かつ影響力を有する国際社会の一員であり、国家の安全と防衛力は確実に保障されていると述べたほか、生活の質、幸福、安全、健康が重要事項であると言及し、ロシアは歴史的に何度も不死鳥のごとく復活してきたとして、今後の躍進を確信している旨表明した。

同年3月、大統領選挙前に行われた年次教書演説で、プーチン大統領は「今日のロシアは強力な対外的経済力と防衛力を持つ主要な大国の一つである」と述べたほか、戦略核戦力をはじめとする装備の近代化や米国内外におけるミサイル防衛システム配備への対抗手段としての新型兵器開発について強調した。そのうえで、ロシアの軍事力が世界の戦略的な均衡の維持につながっているとの認識を示し、国際安全保障及び文明の持続的発展の新たなシステム構築に向けて交渉する用意がある旨表明している。

中距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)全廃条約をめぐってロシアは、19(平成31)年2月の米国による脱退通告を受けて、同年3月、同条約の義務履行を停止する旨米側に通知したことを発表した。

ウクライナ情勢をめぐっては、ロシアによる違法なクリミア「併合」後、不安定化したウクライナ東部に関する停戦合意(ミンスク合意)1が結ばれたものの、その後特に大きな進展はみられない。欧米などは、ロシアが、いわゆる「ハイブリッド戦」を展開し、力を背景とした現状変更を試みたとみていることから、ロシアに対する警戒感を強めている2。そのような中、18(平成30)年11月には、ロシア国境警備局警備艇によるウクライナ海軍艦艇拿捕(だほ)事件を受け、ウクライナが一時戒厳令を出すなど、ロシアとウクライナの緊張関係が続いている。

また、15(平成27)年9月以降、ロシアはシリアへの軍事介入を実施しているが、同国内における拠点を確保しつつ、遠隔地にその軍事力を迅速かつ継続的に展開する能力があることを示すとともに、装備の試験・展示の機会として捉えているものと考えられる。ロシアはISIL及び「ハヤート・タハリール・シャム」(HTS)(旧ヌスラ戦線)との闘いを続行しながら、ロシア、トルコ及びイランの仲介によるシリア和平協議を開催しているほか、残存する反体制派の主要拠点である北西部イドリブをめぐって、トルコとともに非武装地帯を設置する覚書を結ぶなど、シリア情勢をめぐる存在感の増大は中東への影響力拡大に向けた動きとして注目される。

参照3章7節(国際テロリズム・地域紛争などの動向)

ロシアは、厳しい経済状況に直面しているが、主要輸出産品である原油価格の回復に伴い、19(平成31)年の経済成長もプラスを維持すると予測されている3

こうした中、プーチン大統領がいかに権力基盤を維持しつつ、欧米などとの外交的孤立状態や経済的状況に対処し、経済構造改革や軍事力の近代化、国際的影響力拡大に向けた取組などを推進していくか注目されている。

1 14(平成26)年9月のミンスク合意は次の項目からなる。①双方による武器の即時使用停止、②武器の使用停止を欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)が監視、③ドネツク及びルガンスク州の特別な地位に関する法律を採択、④ウクライナとロシアの間に安全地帯を設置し、OSCEが監視、⑤全捕虜の即時解放、⑥ドネツク及びルガンスク州事案に関連する起訴・科刑を禁止、⑦包括的な全国民的対話の継続、⑧ドンバスにおける人道状況改善施策の実施、⑨ドネツク及びルガンスク州の前倒し選挙の実施、⑩ウクライナ領内の不法武装勢力・戦闘員・傭兵の撤退、⑪ドンバスの経済復興及び社会生活再建の計画立案、⑫本協議参加者の個人の安全を保証。
その後、同月にミンスク覚書が、また、15(同27)年2月にミンスク合意の実施に係る包括的措置が署名された。これらを合わせてミンスク諸合意と呼ぶ。

2 「ハイブリッド戦」に関しては、経済、情報作戦、外交などが混合した複雑さを持っているため、その脅威の高まりは軍事同盟であるNATOと安全保障・防衛分野の取組を強化するEUが緊密に協力するきっかけになるという指摘もある。

3 IMFはロシアのGDP成長率について、2018年は1.7%、また、2019年は1.8%になると予想している。