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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 対外関係など

1 全般

中国は、特に、海洋における利害が対立する問題をめぐり、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させ、さらに、その既成事実化を着実に進めるなど、自らの一方的主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示している。また、「人類運命共同体」の構築を提唱し91、「相互尊重、公平正義、協力、ウィン・ウィンの新型国際関係」の建設推進について言及しつつ、国家戦略として「一帯一路」構想を推進している。さらに、中国主導の多国間メカニズムの構築92など、独自の国際秩序形成への動きや、他国の政治家の取り込みなどを通じて他国の政策決定に影響力を及ぼそうとする動きなども指摘されている93。一方、一部の「一帯一路」構想の協力国において、財政状況の悪化などからプロジェクト見直しの動きもみられる。

同時に、中国は、持続的な経済発展を維持し、総合国力を向上させるためには、平和で安定した国際環境が必要であるとの認識に基づき、諸外国との間で軍事交流を積極的に展開している。近年では、米国やロシアをはじめとする大国や東南アジアを含む周辺諸国に加えて、アフリカや中南米諸国などとの軍事交流も活発に行っている。一方、中国が軍事交流を推進する目的としては、関係強化を通じて中国に対する懸念の払拭に努めつつ、自国に有利な安全保障環境の構築や国際社会における影響力の強化、資源の安定的な確保や海外拠点の構築などがあるものと考えられ、中国の軍事交流は、国家利益を保護するための戦略的手段の一つとして位置づけられているとみられる。

2 台湾との関係

参照本節4項1(中国との関係)

3 米国との関係

米中間には、貿易問題、南シナ海をめぐる問題、台湾問題、中国の人権問題など、種々の懸案が存在している。一方、中国は、米中関係は世界で最も重要な二国間関係の一つであるとしており、安定的な米中関係が経済建設など自国の発展を図るうえで必須であると認識しているとみられる。このため、中国は、自国の「核心的利益と重大な関心事」については妥協しない姿勢を示しつつ、相互尊重及び「ウィン・ウィン」の協力などに基づく米中関係をさらに発展させていくとしてきている94。米中両国は、今後も安定した両国関係の存続を望んでいくものと考えられるが、最近では、相互に牽制する動きが見られることに強い関心が集まっている。

南シナ海で発生したとされる中国艦艇の米艦艇への異常接近事案【Jane's by IHS Markit】

南シナ海で発生したとされる中国艦艇の米艦艇への異常接近事案
【Jane's by IHS Markit】

米国は、トランプ政権発足後、北朝鮮問題などにおける米中間の協力の必要性に度々言及する一方、国際貿易や海洋安全保障などの国際的課題について、国際ルール・規範を遵守するよう中国に求めてきた。そのような状況のなかトランプ政権は、中国による長年の不公平な貿易慣行を理由に、18(平成30)年6月以降、段階的な輸入関税引上げなどを通じて中国に対する厳しい対応を行ってきている。これに対し、中国側も、対抗措置として段階的な輸入関税の引上げなどを図ってきている95。また、米国は、中国を自身の独裁主義的モデルに沿って世界を形成しようとする「修正主義国家」の一つととらえ、それら修正主義勢力による長期的な戦略的競争の再出現を米国の繁栄及び安全保障に対する中心的な課題であるとしたうえで、中国が軍近代化などを通じ、近い将来に向け、インド太平洋における地域覇権を追求しているとの認識を示している96。さらに、19(平成31)年1月に米国防省が発表したミサイル防衛見直し(MDR:Missile Defense Review)においては、中国などのミサイル戦力が米国や同盟国の軍に対する脅威となっているという認識も示されている。このような米国の認識に対し、中国は強い反発を示している。

尖閣諸島については、米国は日米安全保障条約が同諸島に適用される旨繰り返し表明しており、17(平成29)年2月、トランプ政権となって初の日米首脳会談の共同声明においては、尖閣諸島への同条約5条の適用に明示的に言及する形で、日米首脳間の文書として初めて確認した。これらに対し中国は、強く反発する姿勢を示している。また、南シナ海をめぐる問題については、米国は、海上交通路の航行の自由の阻害、米軍の活動に対する制約、地域全体の安全保障環境の悪化などの観点から懸念を有しており、中国に対し国際的な規範の遵守を求めるとともに、中国の一方的かつ高圧的な行動を累次にわたり批判している97。また、中国などによる行き過ぎた海洋権益の主張に対抗するため、南シナ海などにおいても「航行の自由作戦」98を実施している。18(平成30)年5月、米国防省は、「中国による南シナ海における継続的な軍事拠点化」を理由に、同年の環太平洋合同演習(リムパック)への中国の招待を取り消した99。同年9月には、米軍の駆逐艦「ディケーター」が南シナ海で「航行の自由作戦」を実施していた際に、中国海軍艦艇が45ヤード(約41メートル)以内にまで接近する事案が生じたとされる。

このような相違点を抱えつつも、米中両国は、軍事交流を比較的安定的に継続してきたとみられる100。08(平成20)年4月には両国の国防当局間にホットラインが開設され、14(平成26)年11月及び15(平成27)年9月には米中間で意図せぬ衝突のリスクを低減することを目的とした信頼醸成措置についての合意が発表されている。また、米軍の演習へのオブザーバーの派遣、海軍艦艇の相互訪問の機会における共同訓練が行われているほか、13(平成25)年11月以降、年に一度のペースで米中両軍による人道支援・災害救助演習が実施されている。トランプ政権発足以降は、両国ともに二国間軍事交流の重要性にたびたび言及しており、新たな対話枠組みの立ち上げが相次いだ。例えば17(平成29)年4月の米中首脳会談において、新たに立ち上げられた米中包括対話の一つとして、外交・安全保障対話が創設され、同年6月に第1回会合が、18(平成30年)11月に第2回会合が開催された101。17(平成29)年には米中統合参謀部対話メカニズムも立ち上げられ、同年11月に第1回対話が開催された。

しかし、近年比較的安定して推移してきた軍事交流について、変化を窺わせる動きも確認されている。18(平成30)年9月に予定されていた米中統合参謀部対話メカニズムの第2回対話については、延期が報じられた。さらに米国においては、南シナ海の非軍事化などが達成されるまで環太平洋合同演習(リムバック)への中国の招待を禁じる条項を含む19会計年度国防授権法が成立したほか、19(平成31)年4月に中国が開催した国際観艦式への艦艇の派遣を見送った。

米国は中国との関係改善を望みつつも、米国の安全保障と経済のために妥協しない姿勢を示している。米中関係の動向については、引き続き重大な関心を持って注視する必要がある。

4 ロシアとの関係

1989(平成元)年にいわゆる中ソ対立に終止符が打たれて以来、中露双方は継続して両国関係重視の姿勢を見せている。90年代半ばに両国間で「戦略的パートナーシップ」を確立して以来、同パートナーシップの深化が強調されており、01(平成13)年には、中露善隣友好協力条約102が締結された。04(平成16)年には、長年の懸案であった中露国境画定問題も解決されるに至った。両国は、世界の多極化と国際新秩序の構築を推進するとの認識を共有し、関係を一層深めている。

軍事面では、中国は、90年代以降、ロシアから戦闘機や駆逐艦、潜水艦など近代的な武器を購入しており、中国にとってロシアは最大の武器供給国である103。中国の装備国産化の進展などを背景に近年取引額が低下傾向にあるとされている一方で、中国は引き続きロシアが保有する先進装備の輸入に強い関心を示しているとの指摘もある。例えば、中国は、ロシアから最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機を導入しているほか、14(平成26)年には、S-400対空ミサイルシステムの購入契約を締結した。同ミサイルシステムは、18(平成30)年に納入が開始され、中国軍による試験が実施されていると伝えられている。一方、ロシアは、陸上で国境を接する中国に対して自国に脅威が及ぶような特定の高性能武器は供与しないといった方針や、輸出する兵器の性能を差別化するなどといった方針を有しているとの指摘や、武器輸出における中国との競合を懸念しつつあるとの指摘もある104

中露間の軍事交流としては、定期的な軍高官などの往来に加え、共同訓練などを実施している。例えば、18(平成30)年には、ロシア軍による演習として冷戦後最大規模とされる「ヴォストーク2018」演習に参加した。また、中露両国は、海軍による大規模な共同演習「海上協力」を、12(平成24)年以降実施してきており105、17(平成29)年には初めてバルト海及びオホーツク海で実施した。16(平成28)年及び17(平成29)年には、共同ミサイル防衛コンピュータ演習「航空宇宙安全」も実施した。中国としては、これらの交流を通じて、ロシア製兵器の運用方法や実戦経験を有するロシア軍の作戦教義などを学習することも見込んでいるものと考えられる。また、中国は、中露二国間もしくは中露を含む上海協力機構(SCO(Shanghai Cooperation Organization)。01(平成13)年6月に設立。)加盟国間で、対テロ合同演習「平和の使命」を実施している106

さらに、19(令和元)年7月には「初の共同空中戦略巡航」と称して、中露両国は日本海で合流した爆撃機を東シナ海に向けて飛行させた。

5 その他の諸国との関係
(1)東南アジア諸国との関係

東南アジア諸国との関係では、引き続き首脳クラスなどの往来が活発である。また、ASEAN+1(中国)やASEAN+3(日本、中国及び韓国)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)といった多国間枠組みにも中国は積極的に関与している。18(平成30)年11月には、李克強(り・こくきょう)総理がシンガポールでASEAN+1首脳会議などの多国間会議に出席した。さらに、中国は「一帯一路」構想のもと、インフラ整備支援などを通じて各国との二国間関係の発展を図ってきている。

軍事面では、18(平成30)年8月に実施された机上演習に引き続く形で、10月に中国とASEANの実動演習「海上連演2018」が初めて実施されるなど、信頼醸成に向けた動きも見られる。17(平成29)年9月には、ユアン級とも指摘される潜水艦がマレーシアに寄港した。このような動きには、中国海軍のインド洋方面での遠方の海域における活動拠点を確保しようとする目的もあると考えられる。

中国による南シナ海進出に対し、一部のASEAN諸国は引き続き懸念を有しているとみられるが、18(平成30)年には、中国とこれらの国の間で、南シナ海の領有権を巡る対立は表立って激化していない。フィリピンは、スカーボロ礁、セカンドトーマス礁など南シナ海をめぐる中国との紛争に関し、国連海洋法条約(UNCLOS:United Nations Convention on the Law of the Sea)に基づく仲裁手続を行い107、16(平成28)年7月、フィリピンの申立て内容をほぼ認める最終判断が下された。しかし、中国からの巨額の経済支援などを背景に、フィリピンは仲裁判断への言及を控えているとされる108。フィリピンが議長国として開催した第31回ASEAN首脳会議(17(平成29)年11月)の議長声明では、中国・ASEANの関係改善に言及され、南シナ海情勢に対する懸念が表明されなかった109一方で、シンガポールが議長国として開催した第32回ASEAN首脳会議(18(平成30)年4月)の議長声明では、改めて南シナ海情勢に対する懸念が表明された。17(平成29)年7月及び18(平成30)年3月には、外国企業がベトナム政府の許可を得て南シナ海で実施していた石油掘削を、中国の圧力を受け、ベトナム政府が中止させたと報じられており、これは、中国が自らの一方的な主張に基づく強硬な態度を示した一例とみられる。また、中国とASEANは「南シナ海行動規範(COC:Code of Conduct of Parties in the South China Sea)」の策定に向けた協議を続けており、18(平成30)年11月、李総理が3年以内の交渉妥結を望む旨表明している。

参照3章5節(海洋をめぐる動向)

(2)中央アジア諸国との関係

中国西部の新疆ウイグル自治区は、中央アジア地域と隣接し、カザフスタン、キルギス及びタジキスタンの3か国とは直接国境を接している。それぞれの国境地帯にまたがって居住する少数民族がおり、人的交流も活発である。そのため、中国にとって中央アジア諸国の政治的安定やイスラム過激派によるテロなどの治安情勢は大きな関心事項であり、SCOへの関与はこのような関心の表れとみられる。さらに、中国は近年、アフガニスタン情勢安定化への関与を強めているとの指摘もある。また、資源の供給源や調達方法の多様化などを図るため、中央アジアの豊富な資源に強い関心を有しており、中国・中央アジア間に石油や天然ガスのパイプラインを建設するなど、中央アジア諸国とエネルギー分野での協力を進めている。

(3)南アジア諸国との関係

中国は、パキスタンと従来から特に密接な関係を有し、首脳級の訪問が活発であるほか、武器輸出や武器技術移転を含む軍事分野での協力関係も進展しているとみられている。海上輸送路の重要性が増す中、パキスタンがインド洋に面しているという地政学上の特性もあり、中国にとってパキスタンの重要性は高まっていると考えられる。中国が建設を支援しているグワダル港から新疆ウイグル自治区カシュガルまでの地域における電力施設や輸送インフラなどの開発計画である中パ経済回廊は、「一帯一路」構想の旗艦プロジェクトと位置付けられている。パキスタンの財務状況の悪化に伴い、同プロジェクトは難しい局面に差し掛かっているとの指摘もあるが、同プロジェクトの進展は、パキスタンにおける中国の影響力をますます高めるものと考えられる110

中国は、インドとの間に国境未確定地域111を抱えている。また、中国及びインドと密接な関係にあるブータンは、互いにドクラム高原の領有権を主張しており、同高原において、17(平成29)年6月から8月にかけて中印両軍が対峙する事案も発生した。一方、近年中国は、パキスタンとのバランスに配慮しつつも、インドとの関係改善にも努めている112。インドとの関係を戦略的パートナーシップの関係にあるとして積極的な首脳往来を行っている。インドとの関係進展の背景には、中印両国における経済成長の重視や米印関係の強化の動きへの対応があるものと考えられる。

近年中国は、スリランカとの関係構築も進めている。15(平成27)年1月の選挙において中国傾斜から全方位外交への転換を公約し勝利したシリセーナ大統領は、就任当初、中国資金によるコロンボ港湾都市事業を差し止めたが、16(平成28)年1月にはその再開を表明し、その後、中国との新規開発事業も進展をみせている。17(平成29)年7月には、中国の融資で建設されているハンバントタ港の中国企業への権益貸与が合意された。これらの動きに対しては、いわゆる「債務の罠」であるとの指摘もある。また、中国は、バングラデシュとの間でも、海軍基地のあるチッタゴンにおける港湾開発や、武器輸出113などを通じて関係を深めている。

軍事交流としては、中国とパキスタンやインドとの間で、03(平成15)年以降、海軍共同捜索・救難訓練、対テロ訓練をはじめ、各種の共同訓練が行われている。18(平成30)年12月には、ドクラム対峙後中断されていた中印「携手」対テロ共同訓練が再開された。

(4)欧州諸国との関係

近年、中国にとってEU(European Union)諸国は、特に経済面において、わが国、米国と並ぶパートナーとなっている。中国は、EU諸国に対し、89(平成元)年の天安門事件以来の対中武器禁輸措置の解除を強く求めてきている114

KEY WORD対中武器禁輸措置とは

89(平成元)年の天安門事件の際の中国国内における人権弾圧に対する措置として、EU諸国は中国への武器の売却中止を宣言。ただし、実際の禁輸対象は各加盟国の解釈に最終的には委ねられている。中国側は対中武器禁輸解除を継続して求めており、また、EU内での再検討の動きもある。

EU加盟国は、情報通信技術、航空機用電子機器、潜水艦の大気非依存型推進システムなどにおいて中国やロシアよりも進んだ軍事技術を保有している。EUによる対中武器禁輸措置が解除された場合、EU諸国の武器や軍事技術が中国に移転されたり、ロシアとの武器取引を有利にするための交渉材料として用いられたりする可能性がある。16(平成28)年7月、10年ぶりに採択されたEUの対中戦略では、対中武器禁輸に関する立場に変化がない旨明記されたが、引き続き今後のEU内の議論に注目していく必要がある。

また、中国は空母「遼寧」の元となった未完成のクズネツォフ級空母「ワリャーグ」をウクライナから購入しているように、武器調達の面でウクライナとの関係が深く、今後のウクライナとの関係も注目される115

(5)中東・アフリカ諸国、太平洋島嶼国及び中南米諸国との関係

中国は、従来から、インフラ建設支援や資源開発への積極的な投資などの経済面において、中東・アフリカ諸国との関係強化に努めており、その影響力をさらに拡大させつつある。近年では、首脳クラスのみならず軍高官の往来も活発であるほか、武器輸出や部隊間の交流なども積極的に行われている。また、中国はアフリカにおける国連PKOへ要員を積極的に派遣している。このような動きの背景には、資源の安定供給を確保するねらいのほか、将来的には海外拠点の確保も念頭においているとの見方がある。16(平成28)年12月にはサントメ・プリンシペが、18(平成30)年5月にはブルキナファソが、それぞれ台湾と断交し、中国と国交を回復した。

オーストラリアとの間では、ダーウィン港における中国企業によるオーストラリア北部準州政府との間でのリース契約が安全保障上の議論を生起させた116。また、太平洋島嶼国との関係も強化しており、パプアニューギニアにおいて資源開発などを進めているほか、同国と軍事協力に関する協定を締結している。他の島嶼国に対しても積極的かつ継続的な経済援助を行っているが、オーストラリアなどの各国からは、中国によるこれらの動きに対する懸念の表明もみられる117。さらに、バヌアツやフィジー、トンガとの間で軍事的な関係強化の動きもみられる。

中南米諸国との関係では、アルゼンチンやブラジルをはじめとする各国を軍高官が継続的に訪問しているほか、15(平成27)年以降、中国とラテンアメリカカリブ諸国共同体(CELAC:Comunidad de Estados Latinoamericanos y Caribeños)の閣僚級会議を開催するなど、一層の関係強化に努めている。17(平成29)年6月にはパナマが、18(平成30)年5月にはドミニカ共和国が、同年8月にはエルサルバドルがそれぞれ台湾と断交し、中国と国交を樹立した。

6 武器の国際的な移転

中国は、13(平成25)年以降、武器輸出総額が輸入総額を上回っており、アジア、アフリカなどの開発途上国に小型武器、戦車、航空機、UAVなどの供与を拡大している。具体的には、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマーなどが主要な輸出先とされているほか、アルジェリア、ナイジェリア、スーダン、タンザニア、ガーナ、ケニアなどのアフリカ諸国や、ベネズエラなどの中南米諸国、イラク、イランなどの中東諸国にも武器を輸出しているとされる。中国からの武器移転については、友好国との戦略的な関係の強化や国際社会における発言力の拡大のほか、資源の獲得にも関係しているとの指摘がある。中国は、国際的な武器輸出管理の枠組みの一部には未参加であり、ミサイル関連技術などの中国からの拡散が指摘されるなどしている118。中国が、国際社会の懸念に応えて武器の国際的な移転に関する透明性を向上させていくかが注目される。

91 18(平成30)年6月に開催された中央外事工作会議において、習近平総書記は、「新時代の中国の特色ある社会主義外交思想」として、「人類運命共同体」の構築の推進、「一帯一路」建設の推進、グローバルなパートナーシップの構築、グローバルなガバナンスシステムの改革の牽引などを強調した。

92 中国は、アジア信頼醸成措置会議(CICA:Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asia)において軍事同盟を批判し、「アジア人によるアジアの安全保障」を提唱するなど、安全保障の分野で独自のイニシアティブを発揮しようとしているほか、国際金融の分野でも、新開発銀行(BRICS開発銀行)や、アジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)の設立を主導するなどしている。

93 17(平成29)年12月、豪議会に国家安全保障法改正法案を提出するにあたり、ターンブル豪首相(当時)は、「わが国のメディア、わが国の大学、わが国の代議士の意思決定を妨害しようとする中国共産党の活動に関する報道を深刻に捉えている」と演説している。

94 12(平成24)年に習近平国家副主席(当時)が訪米した際、オバマ米大統領(当時)との会談で「新型の大国関係」について初めて言及し、中国側は①衝突・対抗せず、②相互尊重、③協力・「ウィン・ウィン」の3点であると説明してきた。しかし、17(平成29)年4月以降の習国家主席とトランプ米大統領との会談において言及されたとはされていない。

95 例えば米国は、補助金などによる中国のハイテク産業振興政策「中国製造2025」を、米国その他の国の経済を不当に害する不公正な経済慣行であるとし、非難を表明してきている。なお、19(平成31)年3月に開催された第13期全国人民代表大会第2回会議において、外国企業から技術移転を強要することを禁止する条項や知的財産権の侵害行為に対する法的責任を追及する条項などを盛り込んだ外商投資法が成立したが、実効性を疑問視する指摘もある。

96 米国「国家防衛戦略」(18(平成30)年1月)

97 本節脚注80参照

98 米軍が南シナ海で実施した「航行の自由作戦」については、2章1節1項参照。

99 中国海軍の艦艇は、14(平成26)年と16(平成28)年に実施された同演習に参加した。

100 過去、08(平成20)年10月及び10(平成22)年1月に米国防省が台湾への武器売却を議会に通知した際には、中国が米国との主要な軍事交流の中止を通告するなどといった事例も見られた。しかし、近年の通知の際は、中国は厳重な抗議の姿勢を示すものの、軍事交流の中止にかかる発言はなく、中国は従来に比して抑制的な対応をとっている。

101 1回目及び2回目ともに、同会合では、北朝鮮問題、南シナ海、米中軍事交流などに関する協議が行われたとされる。

102 同条約は、軍事面において、国境地域の軍事分野における信頼醸成と相互兵力削減の強化、軍事技術協力などの軍事協力、平和への脅威などを認識した場合の協議の実施などに言及している。

103 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)は、14(平成26)年から18(平成30)年までの中国の武器輸入におけるロシアのシェアが70%を占めると指摘している。

104 中国はロシア製のSu-27戦闘機を元にJ-11B戦闘機を独自に再設計するなど、軍事科学技術の剽窃(ひょうせつ)、コピー、リバースエンジニアリングを行っていると指摘されており、ロシアは中国に対し強い不満と疑念を抱き、Su-35戦闘機やS-400対空ミサイルなどの最新鋭の装備品の供給には慎重に対応しているとの指摘がある。例えば、Su-35戦闘機の供給については、コピー生産を行った際の巨額の賠償金支払いを契約に盛り込むよう求めているとする指摘があるほか、S-400については、比較的短射程のミサイルのみを供給する可能性などが指摘されている。

105 12(平成24)年4月、13(平成25)年7月、14(平成26)年5月、15(平成27)年5月及び8月、16(平成28)年9月に、それぞれ、黄海、ウラジオストク沖の日本海、東シナ海北部、地中海及びピョートル大帝湾、南シナ海において実施された。18(平成30)年には実施されなかったが、19(平成31・令和元)年4月から5月にかけ、青島沖及び中国領海内において実施された。

106 05(平成17)年8月、09(平成21)年7月及び13(平成25)年7月から8月には、中露二国間で、また、07(平成19)年8月、10(平成22)年9月、12(平成24)年6月、14(平成26)年8月、16(平成28)年9月及び18(平成30)年8月には、中露を含むSCO加盟国間で実施した。

107 3章5節1項参照

108 過去数年間、中国はスカーボロ礁周辺に海警所属と思われる海上法執行船を派遣し、フィリピン漁船による同礁への接近を妨害してきたと指摘されていた。CSIS/AMTIによると、16(平成28)年10月の比中首脳会談後においても、フィリピン漁船がスカーボロ礁周辺で操業していることが確認された。同年11月、中国外交部報道官は「フィリピン漁民が漁を行うことについて友好に基づいて適切に処置した」と述べた。

109 南シナ海情勢に対する懸念が表明されなかったのは、14(平成26)年5月のASEAN首脳会議議長声明以来、初めてであった。

110 中国は、中パ経済回廊構築に460億ドルを投資すると発表していた。中国の投資予定額は620億ドルに増加したとされるものの、個別のプロジェクトについては遅れや撤回も見られているとの指摘がある。

111 カシミール地方、アルナーチャル・プラデシュ州など

112 17(平成29)年9月、モディ印首相との会談の際、習国家主席は「中印両国が互いを発展のチャンスとし、互いに脅威にならないことを基本的判断として堅持しなければならない」などと発言したと報じられている。

113 SIPRIは、14(平成26)年から18(平成30)年までの中国の武器輸出におけるバングラデシュのシェアが16%を占め、第2位であると指摘している。

114 例えば、10(平成22)年11月には胡錦濤国家主席(当時)がフランスを訪問し、中仏双方が対中武器禁輸措置の解除を支持する旨を盛り込んだ共同声明を発表するなど、EU内の一部には対中武器禁輸の解除に前向きな姿勢を示す国もあるとみられる。中国は、18(平成30)年12月に発表した対EU政策文書においても、対中武器禁輸措置の早期解除を求める旨記述している。

115 中国は、第5世代戦闘機に搭載するエンジンの開発を継続しているとみられており、株式取得や合弁会社設立を通じ、高度なエンジン製造技術を有するウクライナのモトール・シーチ社との協力の推進に努めているとの指摘がある。

116 15(平成27)年11月、オバマ米大統領(当時)は、マニラにおける米豪首脳会談において、中国企業によるダーウィン港のリースについて、「注意喚起がほしかった」、「次回は知らせてほしい」など発言したとされている。

117 18(平成30)年1月、豪のフィエラバンティ・ウェルズ国際開発・太平洋担当相は、中国が投資している太平洋島嶼地域におけるインフラ事業に関して「基本的に無用の長物だ」とコメントし、「中国に(融資を)返済する段になって何が起きるか全く見当がつかない」と述べたと報じられている。

118 例えば中国はミサイル技術管理レジーム(MTCR)には参加しておらず、中国からパキスタンなどへのミサイル関連技術の拡散が指摘されている。