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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

2 南スーダンPKOにおける新たな任務の付与

1 経緯

16(平成28)年10月8日、稲田防衛大臣は、南スーダンを訪問し、派遣施設隊第10次要員の活動状況を視察するとともに、南スーダン政府要人やロイ国際連合南スーダン共和国ミッション事務総長特別代表(当時)と会談し、派遣施設隊の活動への謝意と今後の活動への期待などについて表明を受けた。また、この訪問により、南スーダンの情勢については、大変厳しい治安情勢にあるものの、ジュバ市内及びその近郊においては、比較的安定していることを確認した。

同年10月23日には、稲田防衛大臣は、いわゆる駆け付け警護や宿営地の共同防護などにかかる派遣施設隊第11次要員の派遣準備訓練を視察し、また陸幕長から訓練結果の報告を受け、派遣部隊の練度が新たな任務に十分対応可能なレベルに達していることを確認した。

これらを受け、政府として現地の情勢及び新たな任務の追加に向けた訓練の状況を踏まえて総合的に検討した結果、派遣施設隊第11次要員からいわゆる駆け付け警護の任務を付与するとともに、宿営地の共同防護を行わせることとし、同年11月15日に、国家安全保障会議(九大臣会合)の審議・決定を経て、「南スーダン国際平和協力業務実施計画」の変更を閣議決定した。

南スーダンにおいて派遣部隊から栄誉礼を受ける稲田防衛大臣(16(平成28)年10月)

南スーダンにおいて派遣部隊から栄誉礼を受ける稲田防衛大臣
(16(平成28)年10月)

岩手山演習場(岩手県)で実施された派遣準備訓練においていわゆる駆け付け警護の訓練を行う様子(16(平成28)年10月)

岩手山演習場(岩手県)で実施された派遣準備訓練において
いわゆる駆け付け警護の訓練を行う様子(16(平成28)年10月)

岩手山演習場(岩手県)における派遣施設隊第11次要員の派遣準備訓練にかかる説明を受ける稲田防衛大臣及び同行した岡部陸幕長(16(平成28)年10月)

岩手山演習場(岩手県)における派遣施設隊第11次要員の派遣準備訓練に
かかる説明を受ける稲田防衛大臣及び同行した岡部陸幕長
(16(平成28)年10月)

2 新任務付与に関する基本的な考え方

前述の閣議決定に際し、政府は、いわゆる駆け付け警護や宿営地の共同防護などに関する政府の基本的な考え方1を示した。その概要は次のとおりである。

(1)前提

南スーダンにおける治安の維持については、原則として南スーダン警察と南スーダン政府軍が責任を有しており、これをUNMISS(国連南スーダン共和国ミッション)の部隊が補完しているが、これは専らUNMISSの歩兵部隊が担うものである。わが国が派遣しているのは、自衛隊の施設部隊であり、治安維持は任務ではない。

(2)いわゆる「駆け付け警護」

「駆け付け警護」については、自衛隊の施設部隊の近傍でNGO等の活動関係者が襲われ、他に速やかに対応できる国連部隊などが存在しない、といった極めて限定的な場面で、緊急の要請を受け、その人道性及び緊急性に鑑み、応急的かつ一時的な措置としてその能力の範囲内で行うものである。

南スーダンには、ジュバ市内を中心に少数ながら邦人が滞在しており、邦人に不測の事態が生じる可能性は皆無ではなかった。

過去には、自衛隊が、東ティモールやザイール(当時。現在のコンゴ民主共和国)に派遣されていた時にも、不測の事態に直面した邦人から保護を要請されたことがあった。

その際、自衛隊は、そのための十分な訓練を受けておらず、法律上の任務や権限が限定されていた中でも、できる範囲で、現場に駆け付け、邦人を安全な場所まで輸送するなど、邦人の保護のため、全力を尽くしてきた2

「駆け付け警護」はリスクを伴う任務であるが、万が一にも、邦人に不測の事態があり得る以上、①「駆け付け警護」という、しっかりとした任務と必要な権限をきちんと付与し、②事前に十分な訓練を行った上で、しっかりと体制を整えた方が、邦人の安全に資するだけではなく、自衛隊のリスクの低減に資する面もあると考えている。

自衛隊は自己防護のための能力を有するだけであり、あくまでもその能力の範囲で、可能な対応を行うものである。

他国の軍人は、通常自己防護のための能力を有しているが、それでも対応困難な危機に陥った場合、その保護のために出動するのは、基本的には南スーダン政府軍とUNMISSの歩兵部隊であり、そもそも治安維持に必要な能力を有していない施設部隊である自衛隊が、他国の軍人を「駆け付け警護」することは想定されないものと考えている。

これまでの活動実績を踏まえ、派遣施設隊第11次要員から南スーダンにおける活動地域を「ジュバ及びその周辺地域」に限定する。「駆け付け警護」の実施も、この活動地域内に限定される。

(3)宿営地の共同防護

国連PKO等の現場では、複数の国の要員が協力して活動を行うことが通常となっており、南スーダンにおいても、一つの宿営地を、自衛隊の部隊のほか、ルワンダなど、いくつかの部隊が活動拠点としている。

このような宿営地に武装集団による襲撃があり、他国の要員が危機に瀕している場合でも、これまでは、自衛隊は共同して対応することはできず、平素の訓練にも参加できなかった。

しかし、同じ宿営地にいる以上、他国の要員がたおれてしまえば、自衛隊員が襲撃される恐れがある。他国の要員と自衛隊員は、いわば運命共同体であり、共同して対処した方が、その安全を高めることができる。

また、平素から共同して訓練を行うことが可能になるため、緊急の場合の他国との意思疎通や協力も円滑になり、宿営地全体としての安全性を高めることにつながると考えられる。

このように、宿営地の共同防護は、厳しい治安情勢のもとで、自己の安全を高めるためのものである。これにより、自衛隊は、より円滑かつ安全に活動を実施することができるようになり、自衛隊に対するリスクの低減に資するものと考えている。

参照本章2節1項4(国際平和協力法の改正)

3 自衛隊施設部隊の活動の終了

UNMISSに派遣されている自衛隊の施設部隊については、17(同29)年1月で派遣開始から5年という節目を越えた。南スーダンでは国連による地域保護部隊の創設・展開準備により、ジュバの治安の一層の安定に向けた取り組みが進みつつあり、また、南スーダン政府による民族融和を進めるための国民対話の開始の発表など、国内の安定に向けた取り組みが進展しており、国造りは新たな段階に入ろうとしている。

一方、前述のように、自衛隊の活動は施設部隊として最長となる5年以上を経過し、首都ジュバを中心とした道路補修などの実績は、過去のわが国PKO活動の中で最大規模の実績を積み重ねた。このため、わが国としては、自衛隊が担当する首都ジュバにおける施設活動については、一定の区切りをつけることができたと考えている。このような点を総合的に勘案した結果、同年5月末をもって、自衛隊の施設部隊による活動を終了した。これにより、南スーダン国際平和協力業務におけるいわゆる駆け付け警護等の新たな任務も終了することとなる。

なお、UNMISS司令部への自衛官の派遣は継続し、引き続きUNMISSの一員として国連PKOへの貢献を行っていく。

参照III部2章3節2項1(国連南スーダン共和国ミッション)
資料66(UNMISSにおける自衛隊施設部隊の活動終了に関する基本的な考え方)

1 「新任務付与に関する基本的な考え方」(16(平成28)年11月15日内閣官房、内閣府、外務省及び防衛省発表)

2 安倍内閣総理大臣は国会において、「過去、自衛隊が東ティモールや当時のザイールに派遣されていたときにも、不測の事態に直面した邦人から保護を要請されたことがありました。自衛隊は、十分な訓練もなく、任務や権限が限定された中でも邦人保護に全力を尽くしてくれました。実際の現場においては、自衛隊が近くにいて、助ける能力があるにもかかわらず何もしないというわけにはいかないのが現実です(中略)。しかし、これまでは法制度がないため、そのしわ寄せは結果として現場の自衛隊員に押し付けられてきました。本来あってはならないことであります。」と答弁している。(16(平成28)年11月28日 参議院本会議 安倍内閣総理大臣答弁)