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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 拡散する国際テロリズムをめぐる動向

1 最近の国際テロリズムの特徴

アル・カーイダやISILをはじめとする国際テロ組織は、中東・北アフリカを中心に、特に統治機構が弱体化又は破綻した国家・地域に活動の拠点を置きつつ、管理が十分でない国境を越えて、その活動を拡大・活発化させており、中には、拠点から遠く離れた地域においてもテロを実行する能力を持つ組織も存在する。これらテロ組織は、活動目的や能力が組織によってそれぞれ異なると見られるが、一般的な傾向として、ソーシャル・メディアなどサイバー空間を活用するなどして、テロ組織による組織内外における情報共有・連携、武器や資金の獲得のためのグローバルなネットワークを形成している。中には、高度な広報戦略により、組織の宣伝や戦闘員の勧誘、テロの呼びかけを巧みに行う組織も存在する63ほか、サイバー攻撃を行う可能性が指摘されているテロ組織も存在する64

01(平成13)年の米同時多発テロ以降、欧米諸国が主体となり「テロとの闘い」を進めてきたが、昨今テロによる犠牲者の数は増加傾向にある65

こうした中、欧米諸国では、アル・カーイダやISILの唱える過激思想に感化されて過激化し、居住国でテロを実行するいわゆる「ホーム・グロウン型」のテロが脅威となっており、特に、自国民がイラクやシリアといった紛争地域で戦闘訓練や実戦経験を積み、過激な思想を吹き込まれ、本国に帰国後にテロを実行することが懸念されている。

また、近年では、アル・カーイダやISILなどのテロ組織との正式な関係はないものの、インターネットなどの情報により自ら過激化した個人や団体が単独又は少人数でテロを計画し実行主体となる「ローン・ウルフ型」テロも、事前の兆候の把握や未然防止が困難なため、脅威として認識されている。ISILは引き続き欧州を始めとする世界各地でのテロ攻撃を呼びかけていることから、今後もテロの発生が懸念される。

わが国との関係でも、15(同27)年初頭、シリアにおける邦人殺害テロ事件において、ISILが日本人をテロの対象とする旨、明確に宣言したほか、同年10月のバングラデシュ邦人殺害事件においてISILが犯行声明を発出し、機関誌において日本人を攻撃対象に挙げている。邦人7名が死亡した16(同28)年7月のバングラデシュにおけるダッカ襲撃テロ事件も踏まえれば、国際テロの脅威に対しては、わが国自身の問題として正面から捉えなければならない状況となっている66

このように国際テロの脅威の拡散傾向に拍車がかかっており、その実行主体も多様化し、地域紛争の複雑化とあいまってその防止がますます困難となっていることから、国際テロ対策に関する国際的な協力の重要性がさらに高まっており、現在、軍事的な手段のほか、テロ組織の資金源の遮断やテロ戦闘員の国際的移動の防止67など国際社会全体として各種の取組みが行われている。

2 主要な国際テロ組織の動向
(1)ISIL

ISILは地域における従来の国家による統治体制を真っ向から否定し、カリフ制国家を標榜するなど、独自の政治・宗教的秩序の追求を優先するという特徴を有している。

また、従来のテロ組織と異なり、潤沢な資金や強力かつ洗練された軍事力、整備された組織機構を有し、一定の領域を事実上支配する点が特徴として指摘されてきた。ISILは、旧イラク政権のバース党員や旧イラク軍の将兵の参加により優れた軍事作戦能力を持つほか、数多くの外国人戦闘員を有しているとされ、巧みな広報戦略もあり、戦闘員の数を増加させたが、最近では空爆による殺害、財政難による給与支払いの遅延や士気の低下などによる脱走が増加し、戦闘員の数は大きく減少していると指摘されている。

イラクへの侵攻開始以降、ISILはイラク治安部隊などから奪取した各種装備を活用し、欺瞞戦術など68も用いつつ、イラク及びシリア国内の要衝都市、油田地域、軍事施設などを相次いで制圧した。しかし、最近では支配領域を大きく失うとともに、16(同28)年10月には、イラク国内で小型商用無人機に爆弾を搭載させて使用する戦術が確認されるなど、徐々に非対称戦にシフトしていると指摘されている。

ISILは、欧米諸国などへのテロも呼びかけており、各国ではイラクやシリアなどの紛争地から帰還したISIL戦闘員によるテロが懸念されている。15(同27)年11月のパリ同時多発テロや、16(同28)年7月のバングラデシュのダッカにおけるレストラン襲撃事件に見られるように、ISILは、欧州やアジアなど自らの拠点から離れた地域においてもテロを実行してきた。しかし、ISILは爆弾や銃を入手できない場合は、ナイフや車両などを用いてテロを実行するよう支持者に呼びかけており、身近に存在するものを使用した更なるテロが懸念されている。さらに、最近では、ISILが直接指揮するテロから、テロを呼びかけられた一部の支持者によるテロ(遠隔操作型)へと変化していると指摘されており、さらなるテロの拡散・過激化が懸念される。

(2)アル・カーイダ

01(同13)年に発生した9.11テロを主導したとされるアル・カーイダについては、11(同23)年5月、パキスタンに潜伏していた指導者ウサマ・ビン・ラーディンや系列組織の多くの幹部が米国の作戦により殺害され、その中枢は昨今は組織の生き残りを重視しているとされるが、アル・カーイダによる攻撃の可能性が根絶されたわけではない。アル・カーイダ指導部の指揮統制力が衰退する一方、関連組織は主に北アフリカや中東などを拠点として勢力を増大させ、テロを実行している。

(3)アラビア半島のアル・カーイダ(AQAP)

イエメンを拠点に活動するイスラム教スンニ派の過激組織AQAP69は、イエメン情勢が混乱する中、イエメンを拠点に活動を拡大し、イエメン軍の基地を制圧するなどしており、力の空白を利用した更なる勢力拡大が懸念されている。米国は無人機による掃討作戦を実施し指導者のウハイシ師を殺害するなど、限定的な軍事作戦を実施しており、17(同29)年1月にはオスプレイなどを投入した作戦を実施している。

(4)イスラム・マグレブ諸国のアル・カーイダ(AQIM)

アルジェリアを拠点に活動するイスラム教スンニ派の過激派組織AQIMは、主にアルジェリア人や欧米人を標的とした誘拐事件を起こしてきた。AQIMは、13(同25)年に開始されたフランス主導の軍事介入によってマリ北部における勢力を縮小させたが、その後もマリ北部など西アフリカ地域でテロを継続しており、またリビアやチュニジアでも活動を継続している。さらに、15(同27)年12月、アル・ムラビトゥーンがAQIMに合流し、17(同29)年3月にはAQIMサハラ、アンサール・ディーン及びアル・ムラビトゥーンが合併したが、これらは、西アフリカでも勢力を拡大させAQIMの既得権益を侵しつつあるISILに対抗する措置であったとの指摘もなされており、今後AQIMによるテロ活動の活発化が指摘されている。

3 世界各地で発生するテロをめぐる動向
(1)中東・北アフリカ

中東では、イラク・シリアを拠点に活動を続けるISILやアル・カーイダ系組織などのイスラム過激派によるテロ事件が各地で発生している。

サウジアラビアは、AQAPやISILによる攻撃対象とされており、これらの組織との関連が疑われる者の摘発を続けている70。特に、ISILは、シーア派のモスクなどを標的としたテロ攻撃を高頻度で発生させ、今後も攻撃を継続する旨声明で明らかにしていることから、引き続きテロの拡大が懸念されている。

トルコでは、近年、テロの発生件数が増加傾向にあると指摘されており、長年政府と対立するクルディスタン労働者党(PKK)71などによるテロが引き続き発生している72。また、16(同28)年1月のイスタンブールの観光地における爆弾テロ、同年6月の同地アタチュルク国際空港における自爆テロ及び17(同29)年1月の同地におけるナイトクラブ襲撃事件にはISILが関与していたとみられている。こうしたISILによると見られるテロ事件増加の背景には、トルコによる対ISIL軍事作戦への関与の強化が影響していると指摘されている。

また、北アフリカでも、アルジェリア、エジプト、リビア及びチュニジアでISILやアル・カーイダ系組織が活動しているとみられており、近年、テロ事件が頻発している。アルジェリアでは、13(同25)年1月、ベルモフタールが率いるアル・ムラビトゥーンの一派である覆面旅団が、同国南東部イナメナスの天然ガスプラントを襲撃し、邦人10人を含む多数が犠牲となった。チュニジアでは、15(同27)年3月、ISILによってチュニスのバルドー国立博物館が襲撃され、邦人3人を含む外国人観光客など21人が死亡したほか、ISILは同年6月に発生した観光地のスースのビーチでの銃乱射により、38人が死亡した事案に関与している。

図表I-3-1-2 アフリカ・中東地域の主なテロ組織

(2)サブサハラ・アフリカ

サブサハラ・アフリカ地域では、ケニア、マリ、ソマリア、ナイジェリアなどでイスラム過激派が勢力を拡大させている。

ケニアではアル・シャバーブ73が同国のナイロビ、モンバサ、北東部及び沿岸部で攻撃を増加させている。一方、ISILは16(同28)年に入り多数の関係者が国内で逮捕されているほか、同年9月のモンバサ警察署襲撃事件や同年10月の米国大使館の警察官襲撃事件などで犯行声明を発出している。これらの事件から、東アフリカにおけるISILネットワークの広がりやISIL帰還兵の増加の可能性も指摘されており、今後ケニア国内におけるISILのさらなるテロ攻撃が懸念されている。

さらにソマリアでは、アル・シャバーブによるAMISOM部隊に対する攻撃が継続しているほか、16(同28)年2月には、モガディシュを離陸したジブチ行き航空機でパソコン型爆弾を爆発させるなど、これまでとは異なる手法も確認されている。

一方、ナイジェリアでは09(同21)年以降、イスラム国家の建設を目的とする「ボコ・ハラム」74が、警察などの取り締まりに対する報復としてテロ75を繰り返すなど活動を活発化させてきた。15(同27)年3月、同組織の最大派閥を率いるシェカウがISILに忠誠を誓い、同月ISILはこれを受け入れISIL西アフリカ支部を認定した。しかし、16(同28)年8月、ISILはバルナウィを新指導者として指名したことから、組織内における内部抗争が激化している。それら抗争の背景として、シェカウ派が子どもや女性による自爆テロで一般市民やイスラム教徒を標的に攻撃をしているのに対し、バルナウィ派は治安部隊やキリスト教徒を標的にするなどの差異も指摘されている。ボコ・ハラムに対しては、ナイジェリア軍を中心として周辺国が掃討作戦を実施しており、その勢力は弱体化しているといわれており、大規模なテロを実施することは困難になっているとみられている。

(3)欧州

欧州では、イスラム過激派の影響を受けた人物又は、イラク・シリアなどから帰国した戦闘員によるテロが発生している。ISILは外国人戦闘員を出身国に帰還させ、各地でのテロ攻撃を指示している可能性があり、対ISIL有志連合に参加する欧州各国は、ISILから直接指示もしくはその思想の影響を受けた個人によるテロの脅威にさらされているとの指摘もある。欧州テロ対策センターは、この指摘を踏まえて特にフランス、ベルギー、ドイツ、オランダ及び英国でのテロのリスクが大きいとしている。

フランスでは、15(同27)年1月、週刊誌「シャルリー・エブド」本社等襲撃事件76が発生した。同年11月には、パリ同時多発テロによって多数が死亡し、ISILフランスと記載された犯行声明が出された。さらに、16(同28)年7月には、南部ニースでISILの過激思想に感化された人物が運転するトラックが民衆に突入し、86人が死亡している。

ベルギー77では、16(同28)年3月にブリュッセルで発生した連続テロ事件によって35人が死亡した。事件後は、ISILベルギーと記載された犯行声明が発出された。

さらに、ドイツにおいても、16(同28)年には、ISILとの関連が指摘されるテロ事件が複数発生しており、例えば同年12月にベルリンのクリスマスマーケットにトラックが突入した事案では、12人が死亡した。

英国では、17(同29)年3月、ロンドン中心部で車両が歩行者の列に突入し、国会議事堂を襲撃するなどして5人が死亡、同年5月には同国中部のマンチェスターのコンサート会場で自爆テロが発生し、22人が死亡するテロが発生した。特に、マンチェスターのテロでは、犯人がISILのリクルーターと接触しており、シリアに渡航した可能性なども指摘されており、英国でもイスラム過激派に影響を受けた人物の浸透が懸念されている。

近年、ISIL関連組織及びISIL支持者が実行したとみられる欧州でのテロ事件では、各々の事件の間で何らかの関係が指摘されている。例えば、ニース、ベルリン及びロンドンの事件では同じくトラックを使用した方法が用いられている。また、パリ同時多発テロとブリュッセル連続テロでは、それぞれの犯行グループが連携していたとの見方もなされている。これらのことから、ISILはイラク・シリアでの支配地域の減少にかかわらず、域外での作戦運用能力を誇示する意図が指摘されている。また、依然として域外におけるテロの呼びかけを行うなど遠隔操作型のテロにシフトしているとも指摘されており、欧州各国政府は警戒を強めている78

(4)米州・オセアニア

テロの脅威は米州にも拡散しており、米国でも15(同27)年12月以降、ISILによるテロ事件が発生している。一連の事件では、ソフトターゲットが標的とされており、ISILによるローン・ウルフ型のテロの米国内での更なる発生が懸念されている。

また、カナダでは、14(同26)年10月、オタワの連邦議会前で、ISILの過激思想に同調したとみられる、イスラム教に改宗した男性によってカナダ軍兵士が銃殺される事件が発生している。

このほかオーストラリアでも、14(同26)年12月にISIL支持者がシドニーのカフェを襲撃する事件が発生した。15(同27)年11月に同国に導入された国家テロ脅威警戒システムでは、依然として、5段階中上から3段目の「起こりそうである」との評価が継続している。また、16(同28)年9月、ISILによるオーストラリアの観光施設を名指ししたテロの呼びかけが行われたほか、テロを計画していた人物の摘発・逮捕が続いており、依然としてテロの脅威は高いと指摘されている。

(5)東南アジア

東南アジアでは、16(同28)年も引き続き、テロ組織の取締りなどに一定の進捗がみられる一方、インドネシアやフィリピンでは、イスラム過激派による活動が活発化している。また、外国人戦闘員としてインドネシアやマレーシアなどからイラク・シリアに渡航する若者の存在が伝えられており、域内における新たな脅威となっている79

インドネシアでは、ISIL支持者に対する取り締まりが強化されているが、16(同28)年1月にはISILによる東南アジアにおける初めてのテロ攻撃であるジャカルタ爆発テロ事件が発生した。東南アジア最大のISIL戦闘員の出身国である同国では、戦闘員の帰還によるテロの発生が懸念されている。

マレーシアでは、大規模なテロは発生していないものの、16(同28)年6月、首都クアラルンプール近郊の飲食店で手投げ弾が爆発し負傷者が出る事件が発生し、同国初のISILによる犯行とされている。同国では、14(同26)年以降、ISIL支持者が多数逮捕されており、ISIL支持者の層が拡大しているとの見方がある80

フィリピンでは、ISILに忠誠を誓うアブ・サヤフ・グループ(ASG)及びマウテ・グループ81によるテロが発生している。特に、ASGは16(同28)年9月に南部ダバオの市場で発生した爆弾テロに関与しており、最近ではスールー海において航行中の船舶に対する襲撃、人質誘拐などにも関与していると考えられている。また、17(同29)年5月以降、同国南部のミンダナオの都市マラウィで同勢力などによるものと見られる占拠が続いており、国軍が奪還作戦を実施しているが、同勢力が市民を人質にとる中、戦闘の犠牲者は市民にも広がっており、大きな懸念材料となっている。ASGのISILへの忠誠はプロパガンダとみる向きも多いが、同年6月にはカナダ人の人質が、また、17(同29)年2月にはドイツ人の人質が斬首される事案が発生、ISIL同様の残虐性が示されていることから、ISILの過激思想が広く東南アジアまで浸透していることが懸念されている。

(6)南アジア

南アジアは、以前からテロが頻発しており、特にパキスタンでは、パキスタン・タリバーン運動(TTP)などによる教育機関や軍関係施設などを標的としたテロが多発している。最近では16(同28)年8月及び10月の同国西部クエッタで発生した爆弾テロのように、被害者数が比較的多い事件では、TTPとISIL双方が犯行声明を発出することがあり、ISILがパキスタンの過激派との連携を深めている可能性があると指摘されている。

また、バングラデシュでは15(同27)年10月及び16(同28)年7月に邦人が巻き込まれるテロ事件が発生し、特に同年7月のダッカのレストラン襲撃事件では援助関係者の邦人7名を含む20名が死亡した。これらの事件では、ISILバングラデシュと記載された犯行声明が発出された。

さらに、ISILはアフガニスタン及びパキスタン国内にホラサーン支部を一方的に設置したほか、インド亜大陸では、14(同26)年9月、アル・カーイダのザワヒリ容疑者が新たに支部を設立したと発表82しており、17(同29)年5月にアフガニスタンの首都カブールの独大使館付近で500人以上の死傷者を出した爆発テロが発生するなど、南アジアでのイスラム過激派によるテロの拡大が懸念される。

(7)ロシア

ロシア南部では、ISILが勢力を拡大しており、15(同27)年6月、ISILコーカサス支部が設立された83。また、ISILは、シリアで空爆を行っているロシアに対し、15(同27)年10月及び11月、テロ攻撃を呼びかける声明を発出している。ロシア国内ではこれまで大規模なテロは確認されてこなかったが、17(同29)年4月にはロシア第2の都市サンクトペテルブルクの地下鉄で13人が死亡する爆破テロ及び未遂事件が発生している。この事件ではイスラム過激派による影響が指摘されており、北コーカサス地域がISIL戦闘員の一大供給地であることを考慮すれば、今後とも同地域におけるISILの影響を受けた戦闘員や支持者によるテロのほか、ロシア国内へのテロの脅威の拡散が懸念されている。

63 インターネットやソーシャル・メディアを用いて若者を戦闘員に勧誘しており、15(平成27)年5月の国連の報告によると、女性のテロ組織への参加問題について国際社会の協力が求められている。

64 15(平成27)年1月、米中央軍のツイッターのアカウントがサイバー攻撃を受ける事案が発生。攻撃者はサイバー・カリフ(ISILのサイバー部隊)とみられている。

65 ISILをはじめとするイスラム過激派によるソフトターゲットを狙ったテロの増加を受けて、テロに巻き込まれる一般市民の被害が増加している。

66 15(平成27)年2月に発行されたISIL機関誌「ダービク」第7号では、シリアにおける邦人2名の殺害についての記述があり、改めて日本人及びその権益を標的としたテロを呼びかけ、さらに、第11号(15(同27)年9月発行)において、ボスニア、マレーシア及びインドネシアに所在する日本の外交使節を標的にしたテロ攻撃を呼びかけている。また、第12号(15(同27)年11月発行)ではバングラデシュにおける邦人殺害事件についての記述があり、日本国民及び国益が攻撃対象であると改めて警告している。

67 14(平成26)年9月、国連安保理は、テロ行為の実行を目的とした渡航を国内法で犯罪とすることなどを求めた、外国人テロ戦闘員問題に関する決議第2178号を採択した。同決議では、テロ行為への参加の目的で自国領域内に入国又は通過しようとしていると信じるに足りる合理的な根拠を示す信頼性の高い情報を有する場合、当該個人の領域内への入国又は通過を阻止することを義務づけるなどの措置を含んでいる。また、15(同27)年6月にドイツで開催されたG7首脳会議でも、テロリストの資産凍結に関する既存の国際的枠組みを効果的に履行するとのコミットメントが再確認されている。

68 ISILはイラク治安部隊などから奪取した戦闘服などを利用して、検問所や車両に近づき自爆テロを実施しているほか、鹵獲した装甲車両や一般車両に装甲板などを取り付け、偽装などを施した上で自爆車両として活用していると指摘されている。

69 AQAPは09(平成21)年、創始者のウハイシ師が、アラビア半島及び中東全域でのカリフ制国家の成立とシャリーアの施行のため、サウジアラビアで活動するアル・カーイダメンバーなどを合流させ結成した。また、09(同21)年12月のノースウエスト航空爆破未遂や、10(同22)年10月のイエメン発米国向けの複数の航空貨物からの爆発物発見事案などに関与したとされている。10(同22)年7月にAQAPから発行されたインスパイア第1号では簡単な爆弾製造方法が紹介されている。

70 15(平成27)年7月、サウジアラビアの治安当局はISILとの関連が疑われる431人を逮捕するなど、国内でのテロリストの取り締まりを強化している。

71 クルディスタン労働者党とは、トルコ南東部やイラク北部を拠点にクルド人国家の樹立を目的として活動する分離主義組織である。主に、トルコ政府や同治安部隊などを標的とした攻撃を行っている。

72 16(平成28)年2月には、アンカラ市内の空軍司令部付近で、トルコ軍を狙ったと見られる爆発テロが発生して、29人が死亡し、PKKの関連組織である、クルド開放の鷹がPKKに対する攻撃を続けるトルコ政府に対する報復である旨の犯行声明を発出している。

73 アル・シャバーブは、アル・カーイダの公式な関連組織であり、イスラム国家の樹立、ソマリア政府の打倒や駐留する外国部隊を排除するために、ソマリア軍や駐留外国部隊を標的として攻撃を実施している。構成員の多くは、ソマリア人及び外国人の戦闘員である。15(平成27)年2月、アル・シャバーブは米国、英国、フランス、カナダ国内にあるショッピングモールや商業地区を攻撃するようこれらの国のイスラム教徒に呼びかけている。

74 ボコ・ハラムは、ナイジェリア政府の打倒、イスラム法の施行、西洋式教育の否定などを目的に、ナイジェリア北部(主に、イスラム教徒の多い同国ボルノ州など)を中心に軍、警察、政府関係者などの他、キリスト教などの関係施設や最近では市場などのソフトターゲットを対象とした自爆テロなどを繰り返している。現在は、ISILの西アフリカ支部として活動している。14(平成26)年4月、ボコ・ハラムによって200人以上の女子生徒が拉致され、米国はナイジェリア政府による捜索活動の支援のため無人機などを派遣し、国連安保理のアル・カーイダ制裁委員会(当時の名称。現在は「ISIL(ダーイッシュ)及びアル・カーイダ制裁委員会」に改称)はボコ・ハラムを制裁対象に加えた。

75 最近は周囲に警戒されにくい女性や少女を利用した自爆テロを繰り返しているとの指摘もある。

76 「シャルリー・エブド」本社を襲撃した兄弟2人組の内、1人はAQAPのキャンプで訓練を受けていたことが確認されている他、AQAPは兄弟に対して直接指示を出したとの声明を発表。また、明確な関連性は確認されていないものの、ユダヤ系食料品店を襲撃したクリバリ容疑者はISILに忠誠を誓う動画をインターネット上に投稿していた。

77 このほか、14(平成26)年5月、シリアでイスラム過激派に参加していたとされるフランス人がユダヤ博物館で銃を乱射し、4人が死亡する事件が発生した。

78 仏政府は15(平成27)年1月の「シャルリー・エブド」襲撃事件後、パリ市内のテロ警戒レベルを最高度に引き上げており、多数の警察官や軍人を動員しているほか、同時多発テロ直後に発出した非常事態宣言を延長するなど警戒を続けている。

79 インドネシアでは14(平成26)年8月、政府がISILへの参加を禁止したが、既存の法体系では、明確にテロ活動に関与したとする証拠がなければ、ISILの支持者を逮捕する権限はないといわれている。

80 その中には治安部隊員や公務員などの政府職員に加え、主婦などの一般人までもが含まれていると指摘されている。

81 マウテ・グループは、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の残党及び外国人戦闘員で構成されているイスラム過激派組織である。16(平成28)年12月の米大使館付近の爆発物の発見事案等に関与したとしてフィリピン警察が捜査している。

82 アル・カーイダ指導者のザワヒリ容疑者は、バングラデシュ、インド、ミャンマー、スリランカで抑圧されているムスリム教徒を解放することがインド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS:Al-Qaida in the Indian Subcontinent)の目的であると述べている。

83 ダゲスタン、チェンチェン、イングーシ、カバルディノ・バルカリア及びカラチャイ・チェルケス共和国のイスラム過激派の組織が忠誠を誓い設立された。