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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 韓国・在韓米軍

1 全般

韓国では、17(平成29)年5月に文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足した。文在寅(ムン・ジェイン)政権は、対北朝鮮政策について、対話の可能性は開かれているが、挑発には強力に対応していく旨の立場を表明しており、新政権による新たな対北朝鮮政策が、緊張関係の高まっている南北関係にどのような影響を与えるか注目していく必要がある。

韓国には、朝鮮戦争の休戦以降、現在に至るまで陸軍を中心とする米軍部隊が駐留している。韓国は、米韓相互防衛条約を中核として、米国と安全保障上極めて密接な関係にあり、在韓米軍は、朝鮮半島における大規模な武力紛争の発生を抑止する上で大きな役割を果たしている。

2 韓国の国防政策・国防改革

韓国は、約1,000万人の人口を擁する首都ソウルがDMZから至近距離にあるという防衛上の弱点を抱えている。韓国は、「外部の軍事的脅威と侵略から国家を守り、平和的統一を後押しし、地域の安定と世界平和に寄与する」との国防目標を定めている。この「外部の軍事的脅威」の一つとして、かつては国防白書において北朝鮮を「主敵」と位置づけていたが、現在では、「北朝鮮政権と北朝鮮軍は韓国の敵」との表現が用いられている69

韓国は、国防改革に継続して取り組んでいる70。韓国国防部は、05(同17)年、「兵力中心の量的軍構造」から「情報・知識中心の質的軍構造」への転換のための計画として、兵力規模削減などを含む「国防改革基本計画2006-2020」を発表したが、北朝鮮によるミサイル発射や核実験実施といった情勢の変化などを踏まえ、09(同21)年には、兵力削減規模の縮小や、北朝鮮の核及びミサイル施設への先制攻撃の可能性などについて明示した「国防改革基本計画2009-2020」を発表した。また、10(同22)年の韓国哨戒艦沈没事件や延坪島砲撃事件などを受け、12(同24)年8月には、北朝鮮への抑止能力の向上や、軍のさらなる効率化を盛り込んだ「国防改革基本計画2012-2030」が発表71され、さらに14(同26)年3月、北朝鮮による脅威への対応能力を確保しつつ、朝鮮半島統一後の潜在的脅威に対応するための長期的な防衛力整備も視野にいれた「国防改革基本計画2014-2030」を発表した72。17(同29)年2月には、「国防改革基本計画2014-2030」の目標・基調を維持しつつ、北朝鮮の核・ミサイルなどの非対称の脅威に対応するための組織と戦力を最優先に補強しながら、局地挑発と全面戦争の脅威に同時に備えられる能力を持つことに重点を置いた「国防改革基本計画2014-2030(修正1号)」を発表した。

3 韓国の軍事態勢

韓国の軍事力については、陸上戦力は、陸軍22個師団と海兵隊2個師団、合わせて約52万人、海上戦力は、240隻、約21.3万トン、航空戦力は、空軍・海軍を合わせて、作戦機約620機からなる。

韓国軍は、北朝鮮の脅威はもとより、未来の潜在的な脅威にも対応する全方位国防態勢を確立するとして、陸軍はもとより海・空軍を含めた近代化に努めている。海軍は、潜水艦、大型輸送艦、国産駆逐艦などの導入を進めており、現在はステルス性を備えた次世代戦闘機としてF-35A戦闘機の導入が推進されている。

12(同24)年10月、韓国政府は、北朝鮮の武力挑発への抑止能力を高めるため、自ら保有する弾道ミサイルの射程などについて定めたミサイル指針について、弾道ミサイルの最大射程を300kmから800kmに延伸することなどを内容とする改定を行ったことを発表した。さらに、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対応するため、韓国軍のミサイル能力の拡充73、ミサイルなどによる迅速な先制打撃を行うためのキル・チェーンと呼ばれるシステムの構築74、韓国型ミサイル防衛システム(KAMD:Korea Air and Missile Defense)の構築75などに取り組むこととしている。また、北朝鮮による5回目の核実験の実施を受けて、16(同28)年9月、韓国国防部は、既存のキル・チェーン、KAMDに大量反撃報復概念(KMPR:Korea Massive Punishment & Retaliation)76を追加し、韓国型の3軸システムへと発展させると発表した。

また、韓国は近年、装備品の輸出を積極的に図っており、15(同27)年の輸出実績は契約額ベースで約35億ドルに達し、06(同18)年から9年間で約14倍となっている。輸出品目についても通信電子や航空機、艦艇など多様化を遂げているとされている77

なお、2017年度の国防費(本予算)は、対前年度比約3.6%増の約40兆3,337億ウォンとなっており、00(同12)年以降18年連続で増加している。

参照図表I-2-2-5(韓国の国防費の推移)

図表I-2-2-5 韓国の国防費の推移

4 米韓同盟・在韓米軍

米韓両国は近年、米韓同盟を深化させるため様々な取組を行っている。

平素から首脳レベルで米韓同盟の強化について確認するとともに、具体的な取り組みとして、両国は、13(同25)年3月に北朝鮮の挑発に対応するための「米韓共同局地挑発対応計画」78に署名したほか、同年10月の第45回米韓安保協議会議(SCM(Security Consultative Meeting)、両国防相をトップとする協議体)において、両国は、北朝鮮の核・大量破壊兵器の脅威に対応する抑止力向上の戦略である「オーダーメード型抑止戦略(Tailored Deterrence Strategy)」79を承認した。また、14(同26)年10月の第46回米韓安保協議会議においては、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対応する「同盟の包括的ミサイル対応作戦の概念と原則(4D作戦概念)」に合意し、15(同27)年11月の第47回米韓安保協議会議において、その履行指針を承認した80。さらに、16(同28)年1月の北朝鮮による核実験の強行などを受け、米韓両国は、同年2月より在韓米軍へのTHAAD配備に関する公式協議を開始し、同年7月、配備を公式に決定した。17(同29)年3月に同システムの一部が韓国に到着し、4月末には運用予定地への配備が開始された。また、同年3月から4月にかけて実施された米韓連合演習には、韓国軍約30万人、米軍約1万3,000人が参加したほか、前年に続き空母打撃群の参加を含む過去最大規模の兵力・装備が投入されたと報じられている。

一方、両国は、米韓連合軍に対する戦時作戦統制権の韓国への移管81や在韓米軍の再編などの問題に取り組んできたが、これらは計画の修正を迫られている。まず、戦時作戦統制権の韓国への移管については、10(同22)年10月に移管のためのロードマップである「戦略同盟2015」が策定され、15(同27)年12月1日までの移管完了を目標として、従来の「米韓軍の連合防衛体制」から「韓国軍が主導し米軍が支援する新たな共同防衛体制」に移行する検討が行われていた。しかし、北朝鮮の核・ミサイルの脅威が深刻化したことなどを受け、第46回米韓安保協議会議において、戦時作戦統制権の移管を再延期し、韓国軍の能力向上などの条件が達成された場合に移管を実施するという「条件に基づくアプローチ」が採られることが決定された。この新しいアプローチでは具体的な移管期限を示されていないが、韓国軍の能力向上における中心的な課題は、キル・チェーン、KAMD及びKMPRの3軸システムの構築であるとみられ、これらのシステムの整備完了目標が2020年代初頭までとされていることから、戦時作戦統制権の移管時期への影響が注目される。

在韓米軍の再編問題82については、03(同15)年、ソウル中心部に所在する米軍龍山(ヨンサン)基地のソウル南方の平沢(ピョンテク)地域への移転や、漢江(ハンガン)以北に駐留する米軍部隊の漢江以南への再配置などが合意されていた。しかし、これまでも平沢地域への移転が移転費用の増加などの事業上の要因により遅延してきたところ、第46回米韓安保協議会議において、戦時作戦統制権の移管が延期されたことに伴い、米軍要員の一部が龍山基地に残留する必要が生じたことや、北朝鮮の長距離ロケット砲の脅威に対応するため在韓米軍の対火力部隊を漢江以北に残留することが決定されたことなど、計画の一部修正を迫る新たな要因が生じている。これにより、計画自体は維持されるものの、事業完了時期については「適切な時期に完了されるよう努力する」と修正された。その後、韓国国防部は、16(同28)年5月、「在韓米軍司令部を含む大部分の部隊が17(同29)年までに平沢への移転を完了する予定である」と発表した。これらの課題は、朝鮮半島における米国及び韓国の防衛態勢に大きな影響を与えるものと考えられるため、動向に注目する必要がある。

5 対外関係
(1)中国との関係

中国と韓国との間では継続的に関係強化が図られてきている。最近では、15(同27)年2月に9年ぶりに中国国防部長が韓国を訪問し、同年9月には朴槿恵大統領(当時)が訪中し、いわゆる「抗日戦争勝利70周年記念大会」の軍事パレードを観覧するなど、政府首脳・高官による関係強化の傾向が見られた。

一方、中国と韓国の間には、懸案も生じており、13(同25)年11月に中国が発表した「東シナ海防空識別区」が、韓国の防空識別圏と一部重複し、また排他的経済水域の管轄権をめぐって中韓の主張が対立している暗礁・離於島(イオド)(中国名・蘇岩礁)周辺海域上空なども含んでいたことから、韓国政府は同年12月、韓国防空識別圏の拡大を発表し、同月から発効させた。また、16(同28)年1月の北朝鮮による核実験や同年2月の弾道ミサイルの発射などを受け、同年7月、在韓米軍へのTHAAD配備が公式に決定され、17(同29)年3月に同システムの一部が韓国に到着し、4月末には運用予定地への配備が開始されたが、中国はTHAADの韓国への配備は中国の戦略的安全保障上の利益を損なうものであるとして反発している。

(2)ロシアとの関係

韓国とロシアとの間では、近年、軍高官の交流などの軍事交流が行われているほか、軍事技術、防衛産業、軍需分野の協力についても合意されている。08(同20)年9月の韓露首脳会談では、今後の両国関係を「戦略的協力パートナーシップ」に格上げすることで合意した。12(同24)年3月には初の韓露国防戦略対話が開催され、同対話を定例化することで合意している。13(同25)年11月には、プーチン大統領が訪韓し、政治・安保分野における対話の強化などを盛り込んだ共同声明を発表した。

他方、ロシアは在韓米軍へのTHAAD配備について、米国のミサイル防衛網の一環であり、地域の戦略的安定を損なうとの理由で反対している。

(3)海外における活動

韓国は、1993(同5)年にソマリアに工兵部隊を派遣して以来現在まで、様々な国連平和維持活動(国連PKO)に参加している。09(同21)年12月には、PKOへの派遣要員を現行の水準から大幅に拡大する方針を明らかにし83、10(同22)年7月には海外派遣専門部隊である「国際平和支援団」を創設している。13(同25)年3月以降、工兵部隊を中心とする部隊を国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)へ派遣している。

また、韓国は、海軍艦艇をソマリア沖・アデン湾に派遣し、韓国船舶の護送及び連合海上部隊(CMF:Combined Maritime Forces)の海洋安全保障のための活動(MSO:Maritime Security Operation)に従事させているほか、11(同23)年1月からは、アラブ首長国連邦(UAE:United Arab Emirates)軍特殊部隊に対する教育訓練支援、共同訓練、有事における韓国国民の保護などを目的として、韓国特殊戦部隊を同国に派遣している。

69 韓国の「2016国防白書」では、北朝鮮について、「北朝鮮の常時の軍事的脅威と挑発は、韓国が直面する第一義的な安全保障上の脅威であり、特に、核・ミサイル等の大量破壊兵器、サイバー攻撃、テロの脅威は、韓国の安全保障に大きな脅威となる。このような脅威が続く限り、その実行主体である北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵である」と表現されている。

70 06(平成18)年に成立した国防改革に関する法律において、国防改革基本計画は、その策定後も、情勢の変化や国防改革推進実績を分析・評価し、修正・補完を行うことが義務づけられている。

71 韓国国防部は、韓国軍を朝鮮半島の作戦環境に一致する「オーダーメード型の軍構造」に転換するため、西北島嶼地域の対処能力の大幅拡充、戦時作戦統制権の移管に備えた上部指揮構造の改編、兵力削減と部隊改編の漸進的な推進、ミサイル及びサイバー戦対応能力の大幅拡充などを行うとしているほか、「高効率の先進国防運営体制」を構築するため、効率化の推進、人材管理体系の改編、軍の福祉の向上及び将兵の服務環境の改善を行うとしている。

72 韓国国防部は、現存及び潜在的脅威に対応するための能力を確保するため、イージス艦3隻の追加導入、次期駆逐艦・潜水艦の戦力化、中・高高度無人偵察機や多目的衛星の導入などを計画している。

73 12(平成24)年4月、韓国国防部は、北朝鮮全域を攻撃可能な巡航ミサイルなどを独自開発し、実戦配備していると発表した。また、13(同25)年2月には、12(同24)年10月のミサイル指針改定により保有が可能となった射程800kmの弾道ミサイルの開発を加速すると表明したほか、艦艇及び潜水艦から発射され、北朝鮮全域を攻撃可能な巡航ミサイルを実戦配備していると発表した。また、同年10月、韓国軍は建軍65周年の記念行事において、射程300kmとされる弾道ミサイル「玄武(ヒョンム)2」及び射程1,000kmとされる地対地巡航ミサイル「玄武(ヒョンム)3」を初めて一般に公開したほか、14(同26)年4月には射程500kmの新型弾道ミサイルの発射実験に、17(同29)年6月には射程800kmの新型弾道ミサイルの発射実験に成功した。

74 韓国国防部はこのシステムを、ミサイル発射兆候の探知から識別、攻撃の決心、攻撃までが即時に可能なシステムと説明している。また、ISR能力(無人偵察機及び衛星)、打撃能力(F-35戦闘機、空対地ミサイル及び新型弾道ミサイル等)及び迎撃能力(現有のPAC-2に加えて、PAC-3及び国産対空ミサイル)から構成されるとの指摘がある。

75 韓国国防部は、米国のミサイル防衛システムへの参加を否定し、あくまで独自のシステムを構築することを強調しており、米韓の脅威認識の違いや中国からの反発への懸念、費用対効果などがその理由として伝えられている。

76 韓国国防部HPには「第3の軸であるKMPRとは、韓国型の大量報復概念であり、北朝鮮が核兵器によって脅威を加える場合、北朝鮮の戦争指導本部を含む指揮部を直接狙って反撃報復するシステム」「同時かつ大量の精密打撃が可能なミサイル等の打撃戦力や、精鋭化された専門の特殊作戦部隊等をこのために運用する」とされている。

77 近年では、例えば12(平成24)年に209型潜水艦3隻をインドネシアに輸出する契約、同年新型補給艦(MARS)4隻を英国に輸出する契約、14(同26)年にFA-50軽攻撃機12機をフィリピンに輸出する契約などが締結されている。

78 韓国合同参謀本部は、本計画には北朝鮮の挑発時に米韓共同で対応するための協議手続きと強力かつ徹底的な対応方法が含まれると発表しているが、計画の細部は公開されていない。

79 第45回米韓安保協議会共同声明によれば、本戦略は、戦時及び平時における北朝鮮の主要な脅威シナリオに合わせた抑止の戦略的枠組みを制定し、抑止効果を最大にするための米国と韓国の連携を強化するものとされているが、細部は公開されていない。

80 第46回米韓安保協議会共同声明によれば、本「概念及び原則」は、北朝鮮の核・生物・化学弾頭を含むミサイルの脅威を、探知(Detect)、防御(Defend)、かく乱(Disrupt)、破壊(Destroy)するための方針とされているが、細部は公開されていない。また、在韓米軍の「戦略ダイジェスト2015」によれば、本「概念及び原則」は、平時から戦時まで適用され、作戦における意思決定、計画、演習、能力構築、調達の指針となるものとされている。

81 米韓両国は、朝鮮半島における戦争を抑止し、有事の際に効果的な連合作戦を遂行するための米韓連合防衛体制を運営するため、1978(昭和53)年より、米韓連合軍司令部を設置している。米韓連合防衛体制のもと、韓国軍に対する作戦統制権については、平時の際は韓国軍合同参謀本部議長が、有事の際には在韓米軍司令官が兼務する米韓連合軍司令官が行使することとなっている。07(平成19)年、両国は12(同24)年4月に米韓連合軍司令部を解体し戦時作戦統制権を韓国に移管することとしたが、10(同22)年6月、北朝鮮の軍事的脅威の増加などを理由に移管時期を15(同27)年12月1日に延期することで合意していた。

82 米国は、在韓米軍に関し、在韓米軍の安定した駐留条件と韓国の国土の均衡発展を保障するため、全国に散在している在韓米軍基地などを統廃合し再配置することとしている。両国間の合意には、①漢江以南への再配置を2段階で進めるとの合意(03(平成15)年6月)や②約3万7,500人の人員のうち1万2,500人を削減するとの合意(04(同16)年10月)などがあり、米国はそれらの合意に基づき、その態勢の変革を進めている。ただし、人員については、08(同20)年4月の米韓首脳会談において、現在の2万8,500人を適切な規模として維持することで合意され、その後もこの規模を維持することが適切である旨が両国間で確認されている。

83 韓国は、韓国軍の国連PKOへの参加を拡大するための法的・制度的基盤を整えるとしており、09(平成21)年12月には、国際連合平和維持活動参加に関する法律を制定している。