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第IV部 防衛力の能力発揮のための基盤

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第5節 防衛生産・技術基盤の維持・強化に向けた取組

1 防衛生産・技術基盤戦略

防衛省では、昨今の厳しい財政事情やグローバルな防衛産業の再編などによる海外企業の競争力の向上といった状況を踏まえ、防衛力を支える重要かつ不可欠な要素である防衛生産・技術基盤を維持・強化するため、14(平成26)年6月19日、防衛大臣を長とする総合取得改革推進委員会において、「防衛生産・技術基盤戦略~防衛力と積極的平和主義を支える基盤の強化に向けて~」を決定した。

1 防衛生産・技術基盤戦略策定の背景
(1) 防衛生産・技術基盤戦略策定の背景とその位置づけ

わが国の防衛生産・技術基盤は、終戦にともないその大部分が喪失されたが、自衛隊創設後、米国からの供与・貸与に依存する時期を経て、70(昭和45)年に策定された装備の生産および開発に関する基本方針等1(いわゆる「国産化方針」)に基づいて官民で連携し、主要防衛装備品のライセンス国産や国産化に取り組み、防衛生産・技術基盤の強化に努めてきた。

一方、冷戦が終結した1990年代以降の約25年間において、わが国を取り巻く厳しい財政事情、装備品の高度化・複雑化にともなう単価や維持・整備経費の上昇および海外企業の競争力強化など、防衛装備品を取り巻く環境は大きく変化した。

このような状況を踏まえ、13(平成25)年12月に策定された国家安全保障戦略において、「限られた資源で防衛力を安定的かつ中長期的に整備、維持および運用していくため、防衛装備品の効果的・効率的な取得に努めるとともに、国際競争力の強化を含めたわが国の防衛生産・技術基盤を維持・強化していく」とされ、また、新防衛大綱において 「わが国の防衛生産・技術基盤の維持・強化を早急に図るため、わが国の防衛生産・技術基盤全体の将来ビジョンを示す戦略を策定する」こととされた。これを受け、防衛省は、これまでの「国産化方針」に代わり、今後の防衛生産・技術基盤の維持・強化の方向性を新たに示し、防衛力と積極的平和主義を支える基盤の強化を行うための新たな指針とするため本戦略を策定した。

本戦略の具体化にあたっては、防衛生産・技術基盤の維持・強化がわが国の安全保障の主体性確保のための防衛政策であると同時に、防衛装備品の生産という民間企業の経済活動に波及効果のある産業政策の要素もあわせ有していることにかんがみ、防衛省のみならず関係府省が連携して取り組むことが必要となる。また、本戦略は、新防衛大綱と同じくおおむね今後10年程度の期間を念頭に置くが、昨今の安全保障環境などの変化が著しく速いことを踏まえつつ、今後の防衛生産・技術基盤の状況変化も考慮し、国家安全保障会議に必要な報告を行ったうえで、適宜見直しを行うこととしている。

(2) 防衛生産・技術基盤を取り巻く環境変化など

わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している中、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備し、各種事態の抑止・対処のための体制を強化していく必要があることから、わが国の国益を守り、国際社会においてわが国に見合った責任を果たすため、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、積極的に対応することが不可欠となっている。

これらの目標を実現するための国内基盤の一つであるわが国の防衛生産・技術基盤については、生産基盤・技術基盤の脆(ぜい)弱化という課題に直面するとともに、欧米企業の再編と国際共同開発の進展という国際的な環境変化に晒(さら)されている。一方、14(同26)年4月に新たに決定された防衛装備移転三原則に基づく、防衛装備の海外移転という新たな制度環境の変化も生まれている。

参照IV部1章1節(防衛生産・技術基盤と防衛装備品の取得をめぐる現状)

2 防衛生産・技術基盤の維持・強化の目標・意義

本戦略に基づく防衛生産・技術基盤の維持・強化を通じ、①安全保障の主体性の確保、②抑止力向上への潜在的な寄与およびバーゲニング・パワーの維持・向上、ひいては、③先端技術による国内産業高度化への寄与を図る。また、これらの三つの目標・意義にかんがみ、わが国がこれまでに培ったわが国の防衛生産・技術基盤を、防衛装備品取得の効率化・最適化との両立を図りつつ、保持していく。

3 施策推進に際しての基本的視点

防衛生産・技術基盤の維持・強化を図るにあたっては、①官民の長期的パートナーシップの構築、②国際競争力の強化、③防衛装備品取得の効率化・最適化との両立、といった基本的視点を踏まえ、必要な施策を推進することが必要である。

4 防衛装備品の取得方法

防衛装備品の取得については、現在、国内開発、国際共同開発・生産、ライセンス国産、民生品などの活用および輸入といった複数の取得方法を採用しているが、その取得方法のあり方は、防衛生産・技術基盤に直接的な影響を及ぼす。今後、防衛生産・技術基盤の維持・強化を効果的・効率的に行うためには、新たに策定された防衛装備移転三原則によって、より機動的・弾力的な取組が可能となった国際共同開発・生産を含め、防衛装備品の特性に応じ、それぞれの取得方法を適切に選択することが必要である。

5 防衛生産・技術基盤の維持・強化のための諸施策

防衛生産・技術基盤の維持・強化を図るためには、それぞれの特性に合致した取得方法を効率的に組み合わせるとともに、基盤の維持・強化のための施策を推進することとなるが、その際には、第一に防衛装備品に関する技術分野全般について、わが国に比較優位がある分野と劣後する分野を個別具体的に明らかにし、第二に防衛技術の動向を勘案し、将来の防衛装備品が備えるべき機能・性能を想定することで、そのために必要となる技術の方向性を見極めたうえで、これと合致する基盤を有する企業や大学などの研究機関に支援を行うなど、厳しい財政事情を勘案してメリハリと効率性を重視した諸施策を展開する必要がある。

このような考え方を基本とし、今後、①契約制度などの改善、②研究開発にかかる施策、③防衛装備・技術協力など、④防衛産業組織に関する取組、⑤防衛省における体制の強化、⑥関係府省と連携した取組、について推進していくこととしている。

参照図表IV-1-5-1(防衛生産・技術基盤の維持・強化のための諸施策)

図表IV-1-5-1 防衛生産・技術基盤の維持・強化のための諸施策

6 各防衛装備品分野の現状および今後の方向性

主な防衛装備品分野(陸上装備、需品など、艦船、航空機、弾火薬、誘導武器、通信電子・指揮統制システム、無人装備、サイバー・宇宙)の防衛生産・技術基盤に関し、これまでに述べた防衛生産・技術基盤の維持・強化にかかる考え方および方針、新防衛大綱で示された自衛隊の体制整備にあたっての重視事項などを踏まえ、それぞれの分野における防衛生産・技術基盤の維持・強化およびそれぞれの防衛装備品の取得の今後の方向性を示し、防衛省としての方針とするとともに、企業側にとっての予見可能性の向上を図ることとしている。

参照図表IV-1-5-2(各防衛装備品分野の方向性(概要))

図表IV-1-5-2 各防衛装備品分野の方向性(概要)

1 「装備の生産および開発に関する基本方針、防衛産業整備方針並びに研究開発振興方針について(通達)」(45.7.16)