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第III部 わが国の防衛のための取組

4 沖縄を除く地域における在日米軍の駐留

防衛省は、沖縄を除く地域においても、在日米軍の抑止力を維持しつつ地元負担の軽減を図り、在日米軍の安定的な駐留を確保する施策を行っている。

1 神奈川県における在日米軍施設・区域の整理など

地方公共団体などからの強い返還要望を踏まえ、日米間で協議した結果、04(平成16)年10月の日米合同委員会で、横浜市内の上瀬谷(かみせや)通信施設など6施設・区域の返還方針と、「池子(いけご)住宅地区及び海軍補助施設」(横浜市域)の約700戸の米軍家族住宅などの建設について合意した。その後、10(同22)年9月の日米合同委員会では、住宅建設について、上記約700戸のうち当面の措置として根岸住宅地区の移設分約400戸とし、「池子住宅地区及び海軍補助施設」(逗子市域)の一部の土地については、返還までの措置として要件が整った段階で共同使用することで合意した。

これまでに2施設・区域(小柴貯油施設および富岡倉庫地区)の返還が実現しているところ、残る施設・区域の早期返還の実現に向けて日米間で協議を重ねてきた結果、14(同26)年4月の日米合同委員会で、深谷(ふかや)通信所および上瀬谷通信施設の具体的な返還時期について合意した。なお、このうち、深谷通信所については、14(同26)年6月に返還が実現した。また、同委員会では、約400戸整備することとしていた池子住宅地区の住宅建設戸数を171戸に変更することについてもあわせて合意した。

参照図表III-2-3-8(神奈川県における在日米軍施設・区域の整理などに関連する施設・区域)

図表III-2-3-8 ‌神奈川県における在日米軍施設・区域の整理などに関連する施設・区域

2 ロードマップに示された米軍再編の現状など
(1)在日米陸軍司令部能力の改善

キャンプ座間(神奈川県)に所在する在日米陸軍司令部は、高い機動性と即応性を有し、かつ、統合任務が可能な司令部となるよう、07(同19)年12月に在日米陸軍司令部・第1軍団(前方)として発足し、08(同20)年9月末に改編された。

また、各種事態への迅速な対応のため在日米陸軍司令部との連携強化を図るべく、機動運用部隊や専門部隊を一元的に管理する陸自中央即応集団司令部を平成24年度末に、朝霞駐屯地(埼玉県)から在日米陸軍司令部が所在するキャンプ座間へ移転した。この改編にともない、相模総合補給廠(しょう)(神奈川県)内に任務指揮訓練センターその他の支援施設が米国の資金で建設された。さらに、キャンプ座間および相模総合補給廠のより効果的かつ効率的な使用のため、それぞれ一部返還などの措置が講じられることとなっており、08(同20)年6月には相模総合補給廠の一部土地(約17ha)の返還について、11(同23)年10月にはキャンプ座間の一部土地(約5.4ha)の返還について、12(同24)年6月には相模総合補給廠の一部土地(約35ha)の共同使用について、日米合同委員会においてそれぞれ合意された。

(2)横田飛行場および空域

ア 共同統合運用調整所の設置

司令部間の連携向上は、統合運用体制への移行とあいまって、日米両部隊間の柔軟かつ即応性のある対応の観点からきわめて重要である。さらに、横田飛行場(東京都)に所在する在日米軍司令部は、「指針」のもとの各種メカニズムにおいても、重要な位置を占めている。これらを踏まえ、後述の空自航空総隊司令部の移転にあわせ、平成23年度末に共同統合運用調整所13を設置し運用を開始した。

参照III部2章2節1項2(「日米防衛協力のための指針」にかかる取組)

イ 空自航空総隊司令部の移転

空自航空総隊司令部は、わが国の防空のほか、弾道ミサイル防衛(BMD)における司令部機能も保持している。防空およびBMDにおける対処可能時間は短いため、特に日米間で必要な情報を迅速に共有する意義が大きい。そのため、平成23年度末に、府中(東京都)に所在していた空自航空総隊司令部および関連部隊約800名を米第5空軍司令部の所在する横田飛行場へ移転した。これにより、前述の共同統合運用調整所の設置とあわせて、防空やBMDにおける情報共有をはじめとする司令部組織間の連携強化を図った。

ウ 横田空域

米軍は、横田飛行場において、首都圏西部から新潟に広がる横田空域の進入管制を行っているが、その空域を飛行する民間航空機の運航を円滑化するための措置が行われた。

06(同18)年9月より、空域の一部について、軍事上の目的に必要でないときに航空管制業務の責任を一時的に日本側当局に移管する措置が開始された。また、07(同19)年5月から横田ラプコン(RAPCON:Radar Approach Control)施設への空自航空管制官の併置が開始されるとともに、08(同20)年9月に羽田空港西側に隣接する部分約40%が削減され、管制業務が日本に返還された。なお、横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件の検討については、10(同22)年5月に完了している。

エ 横田軍民共用化

横田飛行場の軍民共用化については、03(同15)年5月の日米首脳会談において検討していくこととされ、政府関係省庁と東京都との実務的な協議の場として「連絡会」を設置し、累次議論が行われてきた。

また、日米両国政府は、共用化により横田飛行場の軍事上の運用や安全などを損なわないとの認識のもと、06(同18)年10月以降、具体的な条件や態様に関する検討を行ってきた。今後のさらなる調整や検討の結果を踏まえ、日米両国政府で協議のうえ、適切な決定を行うこととしている。

(3)横須賀海軍施設、厚木飛行場および岩国飛行場に関する施策

ア 米空母の展開

現在、原子力空母14ジョージ・ワシントンが横須賀(神奈川県)に前方展開しているが、このような米太平洋艦隊のプレゼンスは、アジア太平洋地域における海洋の安全や地域の平和と安定に重要な役割を果たしており、米空母はその能力の中核となるものである。

なお、14(同26)年1月、米海軍は、空母ジョージ・ワシントンを燃料交換のために米国へ移動し、原子力空母ロナルド・レーガンが前方展開する旨を発表している。

米海軍は、空母ジョージ・ワシントンを含めたすべての原子力艦について、港に停泊中は通常、原子炉を停止させることや、日本において原子炉の修理や燃料交換を行うことはないことなど、その安全面での方針を守り続けることを確約している。政府としても、引き続きその安全性確保のため、万全を期する考えである。

イ 空母艦載機の移駐

空母艦載機の拠点として、厚木飛行場(神奈川県)が現在使用されている。厚木飛行場は市街地の中心に位置し、特に空母艦載ジェット機の離発着にともなう騒音が、長年にわたり問題となっており、空母の運用を安定的に維持していくためには、こうした問題を早期に解決することが必要である。

一方、岩国飛行場については、滑走路を1,000m程度沖合へ移設する滑走路移設事業15終了後には、周辺地域の生活環境への影響がより少ない形で、安全な航空機の運用が可能となる。

これらを考慮し、第5空母航空団は、厚木飛行場から岩国飛行場に移駐することとした。この移駐にともない、岩国飛行場における運用の増大による影響を緩和するため、①移駐が滑走路の沖合移設後に行われることに加え、②岩国飛行場の海自EP-3などの厚木移駐、③普天間飛行場から岩国飛行場に移駐するKC-130の海自鹿屋基地とグアムへの定期的なローテーションでの展開、④岩国飛行場の米海兵隊CH-53Dヘリのグアム移転などの関連措置がとられることとなった。

これらにより、岩国飛行場周辺の騒音は、住宅防音の対象となる第一種区域の面積が約1,600haから約500haに減少するなど、現状より軽減されると予測される。

その後、13(同25)年10月の「2+2」において、厚木飛行場に所在する第5空母航空団の岩国飛行場への移駐が、17(同29) 年頃までに完了することを認識するとともに、上記②岩国飛行場の海自EP-3などの厚木移駐については、岩国飛行場の地元地方公共団体などからの要望を受け、防衛態勢上の観点も踏まえて日米間で検討した結果、同部隊を岩国飛行場に残留させることを確認した。

なお、上記④岩国飛行場の米海兵隊CH-53Dヘリのグアム移転については、同部隊が一時的に岩国飛行場から中東に派遣されていたところ、ロードマップなどを踏まえ、同飛行場に戻ることなくグアムへ移転することを日米間で確認した。

また、空母艦載機の岩国飛行場への移駐などにともない必要となる家族住宅などを建設するための用地(愛宕山用地)について、12(同24)年3月に売買契約を締結し、現在、家族住宅や運動施設などの敷地造成工事を実施している。

ウ 空母艦載機着陸訓練

ロードマップにおいては恒常的な空母艦載機着陸訓練施設について検討を行うための二国間の枠組みを設け、恒常的な施設をできるだけ早い時期に選定することが目標とされ、11(同23)年6月の「2+2」会合では、新たな自衛隊施設のため、馬毛島(まげしま)が検討対象となる旨地元に説明することとされた。同施設は、大規模災害を含む各種事態に対処する際の活動を支援するとともに、通常の訓練などのために使用され、あわせて米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として使用されることになるとしている。なお、05(同17)年の「共同文書」においては、空母艦載機着陸訓練のための恒常的な訓練施設が特定されるまでの間、現在の暫定的な措置に従い、米国は引き続き硫黄島で空母艦載機着陸訓練を行う旨確認されている。

エ 岩国飛行場における民間航空再開

山口県や岩国市といった地元地方公共団体などが一体となって民間航空再開を要望していたことを踏まえ、05(同17)年10月、米軍の運用上の所要を損なわない限りにおいて、1日4往復の民間航空機の運航を認めることが合意された。

その後、ロードマップにおいて「将来の民間航空施設の一部が岩国飛行場に設けられる」とされた。これに基づき、12(同24)年12月に岩国飛行場に岩国錦帯橋(きんたいきょう)空港が開港し、民間機による定期便が48年ぶりに再開された。

(4)弾道ミサイル防衛(BMD)

BMDに関しては、日米双方がそれぞれのBMD能力の向上に応じ、緊密な連携を継続することとされた。具体的には、TPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が、米軍車力(しゃりき)通信所に配備された16。また、06(同18)年10月、米軍のペトリオットPAC-3が嘉手納飛行場と嘉手納弾薬庫地区に配備されている。

また、13(同25)年2月の日米首脳会談において、日本国内に2基目のTPY-2レーダーを配備し、弾道ミサイル防衛により万全を期する必要があるとの方針で一致した。

同年10月の「2+2」会合では、2基目のTPY-2レーダーの配備先として空自経ヶ岬分屯基地(京都府)を選定する意図が確認され、13(同25)年12月、配備に必要な施設・区域を米国に提供した。

参照III部1章1節3(弾道ミサイル攻撃などへの対応)

(5)訓練移転

訓練移転17については、当分の間、嘉手納、三沢(青森県)および岩国飛行場(山口県)の3つの在日米軍施設からの航空機が、千歳(北海道)、三沢(青森県)、百里(茨城県)、小松(石川県)、築城(福岡県)および新田原基地(宮崎県)といった自衛隊施設において、自衛隊との共同訓練に参加することとされた。これに基づき07(同19)年3月以降、米軍の飛行場から自衛隊の基地への訓練移転を行っている。また、防衛省は、実地調査を行ったうえで、必要に応じて自衛隊施設における訓練移転のためのインフラの改善を行っている。

訓練移転を受け入れる空自隊員の画像

空自新田原基地において米空軍の訓練移転を受け入れる空自隊員

なお、訓練移転の実施にあたっては、関係地方防衛局は、空自と協力して米軍を支援するとともに、訓練期間における周辺住民の安心、安全を図るため、現地連絡本部を設置し、関係行政機関との連絡や周辺住民への対応にあたるなど、訓練移転の円滑な実施に努めているところである。

また、10(同22)年5月の「2+2」共同発表に基づき、11(同23)年1月、日米合同委員会において、航空機訓練の移転先として新たにグアムなどを追加し、従来の訓練より規模を拡大することが合意された。その後日米間で協議を行い、同年10月、日米合同委員会において、訓練実施場所などの詳細について合意された後、在日米軍の航空機による訓練が初めてグアムなどに移転して行われ、その後も実績を重ねている。

さらに、14(同26)年3月、従来からの戦闘機戦闘訓練に加えて、空自の三沢または千歳基地へ飛来して行われる訓練移転に、三沢対地射爆撃場を使用した空対地射爆撃訓練を追加することについて日米合同委員会で合意した。この訓練は、日米間の相互運用性の向上に資するとともに、本来であれば嘉手納飛行場へ飛来して鳥島射爆撃場などで実施されていた空対地射爆撃訓練の一部を、三沢対地射爆撃場へ移転するものであり、嘉手納基地周辺における騒音軽減にもつながることから、沖縄の負担軽減に資するものである。

13 共同統合運用調整所は、日米の司令部組織間での情報の共有や緊密な調整、相互運用性の向上など、日本の防衛のための共同対処に資する機能を果たすものである。

14 原子力空母は、原子炉から生み出されるエネルギーによって推進することから、燃料を補給する必要がないうえ、航空機の運用に必要な高速航行を維持できるなど、戦闘・作戦能力に優れている。

15 岩国市などの要望を受け、岩国飛行場の滑走路を東側(沖合)に1,000m程度移設する事業。10(平成22)年5月に新滑走路の運用が開始され、平成22年度末に事業完了

16 レーダーは、06(同18)年6月、青森県の空自車力分屯基地に配備されたが、その後、隣接する米軍車力通信所に移設された。

17 日米間の相互運用性を向上させるとともに、在日米軍飛行場の周辺地域における訓練活動の影響を軽減することを目的として、在日米軍航空機が自衛隊施設において共同訓練を行うこと