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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

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第3節 新防衛大綱の内容

1 基本的な考え方―統合機動防衛力の構築―

新防衛大綱では、わが国の平和と安全を守る中核として、22大綱の「動的防衛力」に代えて、新たに「統合機動防衛力」を構築することとした。

そもそも「動的防衛力」は、51大綱以来の「基盤的防衛力構想」によらずに取り組む観点から、静的な抑止力のみならず動的な抑止力を重視するなど、「基盤的防衛力構想」に比べれば「運用」に焦点をあてた防衛力であった。

しかしながら、わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、平素の活動に加え、グレーゾーンの事態を含め、自衛隊の対応が求められる事態が増加するとともに長期化しつつある。このような中、自衛隊の活動量を下支えする防衛力の「質」と「量」の確保が必ずしも十分とは言えない状況となっていた。また、多様な活動を実効的に行うためには、幅広い後方支援基盤を確立することが必要不可欠であった。

新防衛大綱では、このような反省点に立って、より統合運用を徹底し、装備の運用水準を高め、その活動量をさらに増加させるとともに、各種活動を下支えする防衛力の「質」と「量」を必要かつ十分に確保し、抑止力および対処力を高めていくこととした。あわせて、後方支援基盤をこれまで以上に幅広く強化し、最も効果的に運用できる態勢を構築することとした。

防衛力の「質」と「量」を確保するための具体的方策として、統合運用の観点からの能力評価を実施した。自衛隊のオペレーションは統合運用により行われているが、防衛力整備については、陸・海・空の各自衛隊の能力評価が大勢を占めるなど、統合運用の観点を十分に反映できる手法とはなっておらず、必ずしも自衛隊全体として最適な防衛力整備が行われてきたとは言えなかった。

したがって、今回は、各種事態などに統合運用により対応するとの基本的考え方を徹底したうえで、自衛隊全体の機能・能力に着目した能力評価を実施し、総合的な観点から特に重視すべき機能・能力を導き出したことに大きな意義がある。このような能力評価の結果を踏まえて防衛力整備を進めていくことで、今まで以上に陸・海・空の枠にとらわれることなく、メリハリのきいた防衛力の効率的な整備が可能となった。

さらに、22大綱と比較して、幅広い後方支援基盤を確立することとした。たとえば災害派遣に際して、自衛隊の駐屯地・基地は重要な展開基盤となるが、これら駐屯地・基地への被害を最小限にするため、その復旧能力を含めた抗たん性1を高めておく必要がある。また、隊員の宿舎や家族支援施策も充実させなければ、事態発生時において迅速に対応できず、「即応性」を十分確保することができない。加えて、「技能」「経験」「体力」「士気」などの様々な要素を勘案しつつ、自衛隊の「精強性」を確保する必要がある。そのため、平素から厳しい訓練・演習を行うとともに、女性自衛官や予備自衛官のさらなる活用、募集・再就職支援といった人事教育施策を総合的に推進していく必要がある。さらには、各種事態において自衛隊が的確に対処するためには、地方公共団体や民間企業との連携・協力、国民の理解と協力が必要不可欠であることから、地方コミュニティーとの積極的な連携の強化や情報発信の強化がきわめて重要である。このように、多様な活動を実効的に実施するためには、22大綱と比較して抜本的に後方支援基盤を強化していくことが不可欠であることから、新防衛大綱においては、訓練・演習、運用基盤、人事教育、衛生、防衛生産・技術基盤、装備品の効率的な取得、研究開発、地域コミュニティーとの連携、情報発信の強化、知的基盤の強化、防衛省改革の推進など、幅広い分野を防衛力の能力発揮のための基盤として強化することとしている。

1 基地や施設などが敵の攻撃を受けた場合、その組織的機能を維持する能力をいう。