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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

3 わが国を取り巻く安全保障環境と国家安全保障上の課題

1 グローバルな安全保障環境と課題

中国・インドなどの新興国の台頭により国家間のパワーバランスが変化している。一方、世界最大の総合的な国力を有する米国は、安全保障政策および経済政策上の重点をアジア太平洋地域にシフトさせる方針を明らかにしている。

また、 グローバル化の進展や技術革新の急速な進展により、非国家主体の相対的影響力の増大、非国家主体によるテロや犯罪の脅威が拡大しつつある。

さらに、大量破壊兵器・弾道ミサイルなどの移転・拡散・性能向上にかかる問題、特に、北朝鮮による核・ミサイル開発問題やイランの核問題は、わが国や国際社会にとっての大きな脅威である。

グローバル化の進展により、国際テロの拡散・多様化が進んでいる。現に海外において邦人やわが国権益が被害を受けるテロが発生しており、わが国・国民は、国内外において国際テロの脅威に直面している。

国際公共財(グローバル・コモンズ)については、海洋において、近年、資源の確保や自国の安全保障の観点から、力を背景とした一方的な現状変更を図る動きが増加しつつある。このような動きや海賊問題などにより、シーレーンの安定や航行の自由が脅かされる危険性も高まっている。宇宙空間においては、衛星破壊実験や人工衛星同士の衝突などによる宇宙ゴミの増加をはじめ、持続的かつ安定的な利用を妨げるリスクが存在している。サイバー空間においては、社会インフラの破壊、軍事システムの妨害を意図したサイバー攻撃などによるリスクが深刻化しつつある。

貧困、国際保健課題、気候変動その他の環境問題、食料安全保障、さらには内戦、災害などによる人道上の危機といった一国のみでは対処できない地球規模の問題が、個人の生存と尊厳を脅かす人間の安全保障上の重要かつ緊急な課題となっている。また、一国の経済危機が世界経済全体に伝播(でんぱ)するリスクが高まっている。

2 アジア太平洋地域における安全保障環境と課題

アジア太平洋地域の戦略環境の特性としては、様々な政治体制が存在し、核兵器国を含む大規模な軍事力を有する国家などが集中する一方、安全保障面の地域協力枠組みは十分に制度化されていないことがあげられる。

北朝鮮は、核兵器をはじめとする大量破壊兵器や弾道ミサイルの能力を増強するとともに、軍事的な挑発行為やわが国などに対する様々な挑発的言動を繰り返し、地域の緊張を高めている。特に米国本土を射程に含む弾道ミサイルの開発や、核兵器の小型化および弾道ミサイルへの搭載の試みは、わが国を含む地域の安全保障に対する北朝鮮の脅威を質的に深刻化させるものである。

中国は、国際的な規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より積極的かつ協調的な役割を果たすことが期待されている。一方、中国は十分な透明性を欠いた中で軍事力を広範かつ急速に強化している。東シナ海、南シナ海などの海空域においては、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力による現状の変更の試みとみられる対応を示している。また、台湾海峡を挟んだ両岸関係は、経済的関係を深める一方、軍事バランスは変化しており、安定化の動きと潜在的な不安定性が併存している。