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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 世界各地で発生するテロをめぐる動向

イラクでは、11(平成23)年12月の米軍撤収以降も政府高官や外国人、治安当局などを標的とするテロが続発しており、米国務省がテロ組織に指定し、隣国シリアでも活動していると指摘される「イラク・レバントのイスラム国(ISIL:Islamic State of Iraq and the Levant)」がイラク西部の都市を支配下に置くなど、引き続きテロの脅威に直面している。このような状況を受け、14(同26)年1月、米国はイラク政府の対テロ能力向上のため、攻撃ヘリおよび空対地ミサイルなどの売却を発表した6。しかし、同年6月、「イラク・レバントのイスラム国」などの武装勢力はイラク北部の都市モースル市を襲撃、同市を制圧するとともにバグダッドに向け南進を開始した。これに対し、イラク政府はバグダッドへの進攻を阻止するため、軍による空爆や民兵組織の動員を行っている。一方、米国は戦闘部隊の派遣を否定する一方で、ペルシャ湾に空母「ジョージ・H.W.ブッシュ」を展開しつつ、軍事顧問団をイラクに派遣するなど、イラク政府への支援を拡大している。

イエメンでは、近年、外交団、治安当局などに対する累次のテロ事件が発生している。また、10(同22)年10月には、米国向けの複数の航空貨物から爆発物が発見され、これらの貨物がイエメンから発送されたものであることが判明した。こうした事件はアルカイダ関連組織が実行したものとみられている。また、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP:al-Qaeda in the Arabian Peninsula)」による活動が継続しているとの指摘がある7

リビアでは12(同24)年9月、イスラム過激派勢力がベンガジの米国総領事館を襲撃し、大使を含む4人の米国人が殺害された。14(同26)年1月、同事件に関与したとされる「アンサール・アル・シャリーア」を米国務省がテロ組織として指定した。また、米国やNATOは、リビア政府の治安能力向上のため軍の訓練や軍事顧問団の派遣などを表明している8

アルジェリアでは、13(同25)年1月、それまで主にアルジェリア人や欧米人を標的とした誘拐事件を起こしてきた「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM:al-Qaeda in the Islamic Maghreb)」から離脱したとされるイスラム過激派勢力が、同国南東部イナメナスの天然ガスプラントを襲撃し、邦人10人を含む多数が犠牲となった。同年6月には、マリやリビアとの国境付近でアルジェリア軍と武装勢力の銃撃戦が起きるなど依然としてテロの脅威に直面している。

マリでは、13(同25)年1月、同国北部を実効支配し、アルカイダとの関連が指摘される「アンサール・ディーン(Ansar al-Dine)」などを、マリ暫定政府からの要請を受けて派遣されたフランス軍部隊が攻撃したのに対し、同勢力は報復テロを宣言するなど、現在もテロの脅威が継続している。

ソマリアでは、12(同24)年11月に新統一政府が発足したものの、各地でアルカイダとの関連が指摘され、ソマリアの一部を実効支配している「アル・シャバーブ」と政府軍およびアフリカ連合ソマリア・ミッション軍(AMISOM:African Union Mission in Somalia)などとの戦闘が依然として継続している。13(同25)年9月には、隣国ケニアがソマリアに派兵したことへの報復として同国首都ナイロビの商業施設を襲撃し、外国人を含む多数が犠牲となった。また、14(同26)年5月、ソマリアに派兵しているジブチの首都ジブチにおいて自爆テロが発生し、アル・シャバーブが犯行声明を出しており、依然として地域の脅威となっている。

ナイジェリアでは、10(同22)年以降、イスラム国家の建設を目的とする「ボコ・ハラム」が、警察などの取り締まりに対する報復としてテロを繰り返すなど活動を活発化させている。また、11(同23)年8月、首都アブジャの国連ビルを標的とした自爆テロが発生し、ボコ・ハラムが犯行声明を出している。13(同25)年5月、ナイジェリア政府は北東部の3州に非常事態宣言を発令し、軍による掃討作戦を開始したと伝えられている。こうした中、14(同26)年4月、北東部のボルノ州において、ボコ・ハラムによって200人以上の女子生徒が拉致された。これを受け、米国はナイジェリア政府による捜索活動の支援のため無人機などを派遣し、国連安保理の制裁委員会はボコ・ハラムを制裁対象に加えるなど、国際社会による取組が行われている9

南アジアでは、以前からテロが頻発している地域であり、特にパキスタンでは、「パキスタン・タリバーン運動(TTP:Tehrik-e Taliban Pakistan)」やアルカイダなどによる宗教施設や政府機関などを標的としたテロが多発している10

東南アジアでは、テロ組織の取締りなどに一定の進捗がみられる。フィリピンでは、国内治安上の最大の懸案となってきた、イスラム過激派テロ組織「アブ・サヤフ・グループ(ASG:Abu Sayyaf Group)」などのテロ組織が衰退していると指摘されている11

米国では13(同25)年4月、ボストンのマラソン会場で爆発が起き、3人が死亡し多数が負傷した。典型的なホームグローン・テロリストによる犯行とされる。

参照図表I-2-3-1(アフリカ・中東地域の主なテロ組織)

図表I-2-3-1 アフリカ・中東地域の主なテロ組織

6 14(平成26)年1月、米国防安全保障局は議会にAH-64E攻撃ヘリ24機の輸出を通知

7 DNI「世界脅威評価」(14(平成26)年1月)

8 13(平成25)年10月、ラスムセンNATO事務総長は、リビアに軍事顧問団を派遣することを発表。同年11月、米国防省はリビア軍5,000~8,000人をブルガリアで訓練すると発表

9 13(平成25)年11月、米国務省はボコ・ハラムをテロ組織に指定

10 パキスタン情勢についてはI部1章6節2参照

11 フィリピン情勢についてはI部1章5節2参照