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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第6節 南アジア

1 インド

1 全般

広大な領土に12億を超える人口を擁し、近年着実な経済発展を遂げているインドは、世界最大の民主主義国家であり、南アジア地域で大きな影響力を有している。また、アジア・太平洋と中東・ヨーロッパを結ぶ海上交通路を有するインド洋のほぼ中央という、戦略的および地政学的に重要な位置に存在している。

多くの国と国境を接するインドは、中国およびパキスタンと国境未画定地域を抱えている。また、国内においては、多様な民族、宗教、文化、言語を抱えていることもあり1、極左過激派や分離独立主義者などの活動や、パキスタンとの国境をまたいで存在しているイスラム過激派の動向も懸念されている。

14(平成26)年5月、下院の任期満了にともなう総選挙で野党であったインド人民党(BJP:Bharatiya Janata Party)が過半数を上回る282議席を獲得し、モディ新首相が就任した。インド人民党は、選挙マニフェストにおいて、軍の近代化の推進、越境テロ対策の強化、核ドクトリンの見直しなどに言及しており、今後具体的にどのような国防政策が採られるのか注目される。

2 軍事

インドは、自国を取り巻く安全保障環境が、近隣諸国、西アジア、中央アジア、東南アジア、東アジアおよびインド洋地域と直結しており、戦略的および経済的要因から果たすべき責務が増大していると認識している。安全保障上の懸念事項が多角化し、世界規模となっていることを背景に、インドは各国との協力関係を強化しており、また、従来から国連平和維持活動(PKO:UN Peacekeeping Operations)に積極的に人員を派遣している。また、多様な安全保障上の課題に迅速かつ効果的に対応するため、国家および軍は常に態勢を整えているとしている。

インドは、03(同15)年に発表された核ドクトリンに基づき、最小限の核抑止、核の先制不使用、核兵器非保有国への不使用、98(同10)年の核実験の直後に表明した核実験の一時休止(モラトリアム)の継続などを維持している。インドは、各種弾道ミサイルの開発、配備を推進しており、13(同25)年8月、10月および12月に「プリトビ2」(射程約250km)、同年9月に「アグニ5」(射程約5,000~8,000km)、同年12月に「アグニ3」(射程約3,000~5,000km)、14(同26)年1月に「アグニ4」(射程約3,500km)の発射実験に成功している。さらに、「アグニ6」(射程約8,000~10,000km)2の開発にも着手していると伝えられており、弾道ミサイルの射程の延伸などの性能向上を追求しているとみられている。巡航ミサイルについては、ロシアと「ブラモス」(射程約300km)を共同開発し、陸軍および海軍に配備しているほか、弾道ミサイル防衛システムも開発中であり、14(同26)年4月に弾道ミサイル迎撃実験に成功している。

また、インドは、近年特に海軍力および空軍力の近代化に取り組んでいる。この一環で、インドは、海外からの装備調達や共同開発を推進しており、世界第1位の兵器輸入国であると指摘されている3。海上戦力としては、空母は、英国製「ヴィラート」1隻に加え、13(同25)年11月にロシア製空母「ヴィクラマディティヤ」を導入したほか、国産空母「ヴィクラント」を建造中である。潜水艦については、09(同21)年に、インド初の国産原子力潜水艦「アリハント」が進水しているほか、12(同24)年4月にはロシア製のアクラ級原子力潜水艦「チャクラ」をリース方式により導入した。さらに、09(同21)年、米国とP-8哨戒機8機の購入契約を締結している。航空戦力としては、現有の戦闘機の改修を行っているほか、07(同19)年から機種選定を行っていた多目的戦闘機126機は、12(同24)年1月にフランス製ラファールを選定した。さらに、10(同22)年に米国とC-17輸送機10機の購入契約を締結している。ロシアとは12(同24)年12月にSu-30戦闘機42機の購入契約を締結したほか、第5世代戦闘機「PAK FA」の共同開発を行うなど、軍事技術協力を強化している。また、インドは国産軽攻撃機の開発にも取り組んでいる。

参照図表I-1-6-1(インド・パキスタンの兵力状況(概数))

図表I-1-6-1 インド・パキスタンの兵力状況(概数)

3 対外関係
(1)パキスタンとの関係

インドとパキスタンは、カシミールの帰属をめぐり主張が対立しており4、過去に三度の大規模な武力紛争が発生した。カシミール問題は、両国の長年にわたる懸念事項であり、両国は対話の再開と中断を繰り返している。両国間の対話は、08(同20)年のインド・ムンバイでの連続テロを受けて中断していたが、11(同23)年2月の外務次官協議の結果を受けて再開された。同年、両国間の全ての重要問題を、協議を通じて平和的に解決することの重要性を確認し、パキスタンはインドに最恵国待遇付与を決定した。その後、13(同25)年9月には両国首脳会談が行われるなど、両国は関係改善の姿勢を示している。一方、13(同25)年にはカシミール地方で両軍の武力衝突がたびたび発生し、両国が互いに抗議を表明するなど、カシミール問題は依然として両国の懸念事項となっている。

(2)米国との関係

インドは、米国との関係強化に積極的に取り組んでおり、米国もインドの経済成長にともなう関係拡大を背景に対印関与を促進している。両国は、「マラバール」5などの共同演習を定期的に行っている。インドは、米国製兵器の調達を行っているほか、安全保障分野での協議も行っており、13(同25)年6月にはケリー米国務長官がインドを訪問し、クルシード外相と第4回米印戦略対話を行い、海洋紛争の平和的解決の重要性の確認や装備品の共同生産・共同開発に向けた技術協力の強化、アフガニスタン情勢などについて協議を行った。また、同年9月には、シン首相が訪米し、オバマ米大統領と首脳会談を実施し、防衛調達の強化、環太平洋合同演習(RIMPAC 2014)へのインド軍参加、テロリストに関する情報交換などに関する共同声明を発表するなど、安全保障分野での協議も行っている。

(3)中国との関係

参照I部1章3節3項5((3)南アジア諸国との関係)

(4)ロシアとの関係

参照I部1章4節5項2(アジア諸国との関係)

1 人口の大部分はヒンズー教徒であるが、イスラム教徒も1億人を超える。

2 各ミサイルの射程は、「ジェーン戦略兵器システム(2013)」などによる。また、「プリトビ2」は移動型で液体燃料推進方式の弾道ミサイル、「アグニ3」は移動型で2段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル、「アグニ4」は移動型で2段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル、「アグニ5」は移動型で3段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル、「アグニ6」は3段式固体/液体燃料推進方式の弾道ミサイル、「ブラモス」は移動型で固体燃料推進方式の超音速巡航ミサイルと指摘されている。

3 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)「国際的な兵器移転の傾向2013」(14(平成26)年3月)

4 カシミールの帰属については、インドが、パキスタン独立時のカシミール藩王のインドへの帰属文書を根拠にインドへの帰属を主張するのに対し、パキスタンは48(昭和23)年の国連決議を根拠に住民投票の実施により決すべきとし、その解決に対する基本的な立場が大きく異なっている。

5 「マラバール」は米印の二国間海軍共同演習であったが、「マラバール07-2」には日本、オーストラリアおよびシンガポールが参加し、「マラバール09」には日本が参加した。「マラバール10」以降は、米印の二国間で行われている。