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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

5 対外関係

1 全般

ロシアは、多極化のすう勢の中で、影響力のある一つの極としてロシアの国際的地位が強化されているとの認識のもと、国益を実現していくことを対外政策の基本方針としている35。また、外交は自国民の利益にかなう国家安全保障に基づき行うとしており、自国経済の近代化へ向けた課題の解決に資する実利的な外交を目指している36

このため、ロシアは、独立国家共同体(CIS:Common wealth of Independent States)諸国との間で経済的な連携を強化する一方、欧州連合(EU:European Union)との間で近代化のためのパートナーシップの構築に着手するなど、欧米諸国との間で近代化へ向けた協力関係の強化に取り組んでいる37。また、自国の近代化の観点からアジア太平洋諸国とも関係を強化すべきとしている38。自国の近代化実現という実利を重視した対外姿勢が、安全保障面を含めた今後の各国との関係をどう進展させていくか、注目される。

2 アジア諸国との関係

ロシアは、多方面にわたる対外政策の中で、アジア太平洋地域の意義が増大していると認識し、シベリアおよび極東の経済開発39や対テロ、安全保障の観点からもアジア諸国との関係が重要としている40。プーチン大統領は12(平成24)年5月の外交に関する大統領令で、東シベリアおよび極東の社会経済的発展を加速するため、アジア太平洋地域の統合プロセスに参加していく方針を掲げ、中国41、インド、ベトナムのほか、わが国や韓国などとの関係発展に努めていくとしている42

このような方針の下、ロシアは、各種のアジア太平洋地域の枠組みに参加している43。なお、12(同24)年9月には、アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation)首脳会議がウラジオストクで開催されている。

インドとの関係では、戦略的パートナーシップのもと、首脳が相互訪問するなど緊密な関係を維持している。13(同25)年10月には、プーチン大統領が訪露したシン首相と会談し、武器輸出を含む軍事分野での協力の拡大などについて合意した。両国は、第5世代戦闘機「PAK FA」や超音速巡航ミサイル「ブラモス」の共同開発を行うなど、軍事技術協力も強化しているほか、03(同15)年以降、両国の陸軍および海軍による対テロ演習「インドラ」を行っている。また、わが国との関係では、互恵的協力を発展させるとしており、近年、政治、経済、安全保障など、多方面において働きかけを強めている。

3 独立国家共同体との関係
(1)全般

ロシアは、CISとの二国間・多国間協力の発展を外交政策の最優先事項としている。また、自国の死活的利益がCISの領内に集中しているとし44、ウクライナ(クリミア)、モルドバ(沿ドニエストル45)、アルメニア、タジキスタンおよびキルギスのほか、09(同21)年8月にCISを脱退したグルジア(南オセチア、アブハジア)46にロシア軍を駐留させるなど、軍事的影響力の確保に努めている47

中央アジア・コーカサス地域においては、イスラム武装勢力の活動の活発化にともない、テロ対策を中心とした軍事協力を進め、01(同13)年5月、CISの集団安全保障条約機構(CSTO:Collective Security Treaty Organization)48の枠組みにおいて合同緊急展開部隊を創設した。また、09(同21)年6月には、CISの合同緊急展開部隊の機能を強化した常設の合同作戦対応部隊を創設している49

このほか、ロシアおよび中央アジア各国は、アフガニスタンの治安悪化が中央アジア地域の不安定化を招くことを懸念して、アフガニスタン支援を行うとともに、アフガニスタン国境の警備強化について対策を検討している50

(2)ウクライナをめぐる情勢

ウクライナでは、14(同26)年2月の政変により、ヤヌコーヴィチ政権が崩壊し、野党主導の暫定政権が発足した。これと同時に、ウクライナ南部のクリミア自治共和国では、ロシア軍とみられる武装勢力が、同共和国の地方政府庁舎と議会の建物を占拠するとともに、空港やウクライナ本土に通じる幹線道路、主要なウクライナ軍の施設などを制圧した。クリミア自治共和国を事実上の支配下に置いたロシアは14(同26)年3月、ロシアへの「編入」の賛否を問う、同共和国における「住民投票」の結果を受けてクリミアを「編入」し、プーチン大統領は、14(同26)年3月、演説において、西側諸国を非難するとともに、ウクライナに居住するロシア系住民などの利益の保護を主張した。これに対し、欧米諸国やわが国は、ウクライナの主権および領土の一体性、ならびに、国連憲章などの国際法に違反するものとして非難し、クリミアの「編入」を承認しておらず51、このようなロシアによる力を背景とした現状変更は、アジアを含めた国際社会全体に影響を及ぼすグローバルな問題であるとの認識を示している。14(同26)年4月には、ウクライナ東部や南部において、ロシア系住民とみられる勢力などによるウクライナ暫定政権への抗議活動や攻撃が活発化し、地方政府庁舎などの建物が占拠された。これに対し、ウクライナ暫定政権は、このような事態にロシアが関与しているとして非難するとともに、軍などを投入して占拠している勢力の排除を試みているものの事態の解決には至っていない。一方、ロシアは、ウクライナとの国境付近に最大4万人の規模の軍を展開させたとされている。14(同26)年5月には、ウクライナにおいて大統領選挙が、クリミアおよび東部の一部を除き、自由、公正かつ平穏に行われ、ポロシェンコ候補が過半数の票を獲得し当選、同年6月に大統領に就任した。ウクライナ情勢をめぐっては、外交的な解決を模索する動きがあるものの、事態は流動的であり、今後の見通しはきわめて不透明・不確実である。

4 米国との関係

グルジア紛争などにより滞っていたロシアと米国との関係は、09(同21)年1月に発足したオバマ米政権のもと、双方が改善の姿勢をとった時期があったものの、両国の溝は埋まっていない。

13(同25)年8月、ロシアが米情報機関の元職員スノーデン52の一時亡命を認めたことなどをめぐり米国が反発し、ロシアに対して、同年9月にモスクワで予定されていた米露首脳会談の延期を通知した53。シリア問題に関しては、シリア政府が化学兵器を使用したとの認識から、オバマ大統領がシリアへの軍事行動を表明したことにロシアは強く反発するとともに、シリアのアサド政権に働きかけ、化学兵器の全面廃棄を認めさせた。

ロシアは、米国のMD欧州配備計画は自国の核抑止能力に否定的影響を与える可能性があるとして強く反発していたが、09(同21)年9月、米国はMDシステムの欧州配備計画の見直しを発表し54、これに対してロシアは一定の評価を与えた。

しかしながら、ロシアは、米国がMDにかかわる能力を量的または質的に発展させ、その戦略核戦力の潜在能力を脅かす場合には、11(同23)年2月に発効した新戦略兵器削減条約は効力を有しなくなると解しており55、最近の欧州における米国のMD計画の進展に対し、ロシアは同条約からの脱退を示唆するなど牽制を図っている56

米国との軍事交流について、ロシアは、12(同24)年7月にハワイ周辺海域で行われたリムパックに艦艇を初参加させるなど一定の協力関係の構築を指向しているものとみられていたが、ウクライナ情勢をめぐるロシアの動きを受けて、米国は14(同26)年3月、ロシアとの軍事交流を中断すると発表している57。さらに米国は、ミサイル駆逐艦を黒海に派遣するとともに、ポーランドにF-16戦闘機を派遣するなど、ロシアをけん制する動きを見せている。

5 欧州・NATOとの関係

ロシアとNATOとの関係については、グルジア紛争などにより一時的に停滞したこともある一方で、NATO・ロシア理事会(NRC:NATO-Russia Council)の枠組みで、ロシアは、一定の意思決定に参加しており、共通の関心分野において対等なパートナーとして行動してきた。

10(同22)年11月、リスボンで開催されたNRC首脳会合は、ロシアとNATOは真の現代化された戦略的パートナーシップの構築に向けて協力を進めていくとし、現在、両者の間で、ミサイル防衛(MD)、アフガニスタン、対テロ協力、海賊対策といった分野で対話や協力の模索が続けられてきた。しかし、MD協力については、11(同23)年6月のNRC国防相会合における協議の中で、NATOとロシアがそれぞれ保有する独立した二つのシステムのもと、情報・データの交換のみを内容とするMD協力を主張するNATOと、ロシアとNATOによる統一的なシステムのもと、各国の担当空域を設定して一体的運用を行う「セクターMD」を目指すロシアの立場の違いが浮き彫りとなるなど、両者の協力には進展がみられなかった。

また、ロシアとNATOとの間では、欧州通常戦力(CFE:Conventional Armed Forces in Europe)適合条約をめぐる問題も未解決である58。さらに、ロシアによるクリミア「編入」を受けて、NATOや欧州各国は14(同26)年4月、NRCの大使級会合を除き、軍事面を含むロシアとの実務協力の停止を決定している59。NATOは、ウクライナに隣接するNATO加盟国の上空および黒海の監視を目的に早期警戒管制機(AWACS)の派遣などを行った。

6 武器輸出

ロシアは、軍事産業基盤の維持、経済的利益のほかに、外交政策への寄与といった観点から武器輸出を積極的に推進しているとみられ、輸出額も近年増加傾向にある60。また、07(同19)年1月、武器輸出権限を国営企業「ロスオボロンエクスポルト」に独占的に付与し、引き続き、輸出体制の整備に努めている。さらにロシアは、軍事産業を国家の軍事組織の一部と位置づけ、スホーイ、ミグ、ツポレフといった航空機企業の統合を図るなど、その充実・発展に取り組んでいる。

ロシアは、インド、ASEAN諸国、中国、アルジェリア、ベネズエラなどに戦闘機や艦艇などを輸出している61

35 「ロシア連邦対外政策構想」(08(平成20)年7月)

36 メドヴェージェフ大統領(当時)によるロシア大使・外交機関常駐代表会議における演説(10(平成22)年7月)および年次教書演説(09(同21)年11月、10(同22)年11月および11(同23)年12月)。なお、プーチン首相(当時)は12(同24)年2月に発表した外交政策に関する選挙綱領的論文で、外国との互恵的な協力関係を構築しつつ、自国の安全保障と国益を確保していく姿勢を示している。

37 プーチン首相(当時)は、11(平成23)年10月4日付イズベスチヤ紙において、関税同盟および統一経済圏を土台に域内の経済的連携を強化する「ユーラシア同盟」の創設を提唱した。このほか、同月、CIS8か国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウクライナ、モルドバおよびアルメニア)がCIS自由貿易圏創設条約に調印した。

38 メドヴェージェフ大統領(当時)によるロシア大使・外交機関常駐代表会議における演説(10(平成22)年7月)および年次教書演説(同年11月)

39 ロシアは現在、シベリアやサハリンの資源開発などを進めている。

40 「ロシア連邦対外政策動向」(08(平成20)年7月発表)。なお、プーチン首相(当時)は12(同24)年2月に発表した外交政策に関する選挙綱領的論文で、アジア太平洋地域全体の重要性が高まっているとの認識を示している。

41 中国との関係については、I部1章3節3参照

42 13(平成25)年11月、プーチン大統領はベトナムと韓国を公式訪問している。

43 アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)、上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)、11(平成23)年からは東アジア首脳会議(EAS:East Asia Summit)などの地域的な枠組みへ参加してきている。

44 メドヴェージェフ大統領(当時)は、グルジア紛争後の08(平成20)年8月、外交の5原則の一つとして、ロシアには特権的利害を有する地域があるとの認識を示した。

45 ドニエストル川の東岸地域の沿ドニエストルでは、90(平成2)年、ロシア系住民がモルドバからの分離・独立を宣言したが、国際社会はこれを承認していない。ロシアによるクリミア編入を受けて14(同26)年3月、沿ドニエストル議会は、沿ドニエストルの編入を認めるようロシアに要請した。また、プーチン大統領は14(同26)年3月、オバマ大統領との電話会談で沿ドニエストルが封鎖状態にあると非難している。なお、沿ドニエストルには約1,500人のロシア軍部隊が駐留している。

46 グルジアは08(平成20)年8月のグルジア紛争を経て、09(同21)年8月、CISから脱退したが、ロシアはグルジア領内の南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認したほか、これらの地域に引き続き軍を駐留させている。なお、12(同24)年10月のグルジア議会選挙で対露関係の改善を公約とした野党連合「グルジアの夢」が反露的な政策を採る与党「統一国民運動」に勝利し、13(同25)年10月の大統領選挙では「グルジアの夢」が擁立したマルグヴェラシヴィリ氏が当選し、同年11月に大統領に就任した。なお、マルグヴェラシヴィリ大統領は、就任式での演説でロシアとの対話を深化させる用意があると述べ、ロシアとの関係改善を図る一方で親欧米路線も継続していくとの考えを示している。

47 CIS諸国の中には、ベラルーシやカザフスタンなどロシアとの関係を重視する国がある一方、ロシアとの関係に距離を置こうとする動きもみられ、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバなどの国々は、安全保障や経済面でロシアへの依存度低下を目指し、おおむね欧米志向の政策をとってきた。なお、12(平成24)年9月、キルギスとロシアは、17(同29)年に期限を迎えるキルギス国内のロシア軍基地の使用期間を、さらに15年間延長することに合意している。12(同24)年10月、タジキスタンとロシアは、タジキスタン国内の第201ロシア軍基地の使用期限を42(同54)年まで延長することに合意した。13(同25)年12月には、ベラルーシにロシア空軍のSu-27戦闘機が初めて配備された。

48 92(平成4)年5月にウズベキスタンのタシケントにおいてアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの6か国首脳が集団安全保障条約(CST:Collective Security Treaty)に署名した。93(同5)年にはアゼルバイジャン、グルジア、ベラルーシの3か国が加わり、同条約は94(同6)年4月に発効した。しかし、99(同11)年にアゼルバイジャン、グルジア、ウズベキスタンは同条約を更新することなく脱退した。02(同14)年5月にCSTは集団安全保障条約機構に改編された。なお、06(同18)年8月にウズベキスタンはCSTOに復帰したが、12(同24)年6月にCSTOへの参加停止を通告、事実上、同機構を脱退した。

49 CSTOは、10(平成22)年6月のキルギス南部における民族衝突に際してキルギスからの平和維持の要請に十分に対応できなかったことを教訓として、危機対応の体制の効率化について議論している。また、11(同23)年12月のCSTO首脳会議は、加盟国が自国に第三国の基地を設置する場合、すべての加盟国の了承を要するとして、外国軍隊の加盟国への駐留を牽制した。なお、CSTO共同演習「ヴザイモディストヴィエ(協同作戦)」が09(同21)年10月および10(同22)年10月にカザフスタン、12(同24)年9月にアルメニア、13(同25)年9月にベラルーシで実施されている。

50 13(平成25)年12月のロシア国防省評議会拡大会合において、プーチン大統領は、14(同26)年に国際治安支援部隊(ISAF)がアフガニスタンから撤収することは、同国のみならず中央アジアの不安定要素であり、ロシアの国益および安全保障にとって脅威となる可能性があると述べている。

51 中国の秦剛外交部報道官は、14(平成26)年3月2日の記者会見で、「中国は内政不干渉の原則を維持しており、ウクライナの独立、主権と領土の保全を尊重する」と述べた。同報道官は、14(同26)年3月7日の記者会見では、「中国は国際関係での安易な制裁発動や威嚇としての制裁にはこれまでも反対してきた。全ての関係国が一段の緊張悪化を避け、危機への政治的解決を模索するよう望む」と発言、クリミア自治共和国の住民投票は国際法違反かとの質問には直接答えず、「ウクライナの全ての勢力に対し、対話と交渉による合法的で秩序だった枠組みのもと平和裏に問題を解決し、全てのウクライナ人の利益を守り、早急に秩序を回復して、地域の平和と安定を維持するよう求める」と述べた。また、中国は、14(同26)年3月の国連安全保障理事会によるクリミアでの住民投票を無効とする決議案の採決を棄権している。なお、プーチン大統領は、14(同26)年3月のクリミアでの住民投票の結果を受けた演説において、中国への謝意を表明した。

52 米情報機関の元職員エドワード・スノーデンは、米情報機関による米国内外の個人情報収集の実態を暴露したことから、米当局によりスパイ活動取締法違反容疑などで訴追されている。なお、同氏はロシアに亡命した。

53 08(平成20)年3月にモスクワで開催されて以来、約5年半ぶりとなる米露外務・防衛閣僚協議(2+2)は、13(同25)年8月にワシントンで予定どおり開催されている。

54 米国のMD欧州配備計画については、I部1章1節2参照

55 ミサイル防衛に関するロシア連邦の声明(10(平成22)年4月8日)

56 ロシアは、米国のMD計画がロシアに向けられたものではないことの法的な保証を求めているほか、米国はロシアの懸念を考慮していないとして11(平成23)年11月、早期警戒レーダーを実戦配備するなどの対抗措置や新戦略兵器削減条約から脱退する可能性について言及した大統領声明を発表した。また、13(同25)年11月にラヴロフ外相は、イランの核問題をめぐるジュネーブでの合意が履行されれば、米国の欧州MDシステムは不要になると述べている。

57 14(平成26)年3月、米国防総省のカービー報道官は、ロシアによるクリミア半島占拠を受け、ロシア軍との合同演習や当局者協議、軍艦の寄港など、一切の軍事交流を中断すると発表した。

58 99(平成11)年の欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)イスタンブール首脳会議において、従来のブロック別保有上限の国別・領域別保有制限への変更、CFE適合条約発効までの現行CFE条約の遵守などが合意された。ロシアは、自国がCFE適合条約に批准したにもかかわらず、NATO諸国がグルジアとモルドバからロシア軍が撤退しないことなどを理由としてCFE適合条約を批准しないことを不満とし、07(同19)年12月、CFE条約の履行停止を行い、同条約に基づく査察などが停止された。現時点では、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの4か国のみが批准しており、CFE適合条約は未発効である。このほか、ロシアは、NATOを中心とする既存の安全保障の枠組みを脱却し、新たな欧州・大西洋地域における安全保障の基本原則を定める新たな欧州安全保障条約を提案している。

59 ウクライナ情勢をめぐり、NATOは非難声明を発出し、東欧・バルト諸国に軍事力を追加的に展開しているが、加盟国内部ではロシアへの対応に温度差がある。英国は、ロシアとの軍事協力の停止に加えて、装備品輸出の停止やバルト諸国の領空警備強化のために戦闘機を派遣する意向を表明している。ドイツは、ロシアへの装備品輸出の停止を表明している。

60 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)によれば、09(平成21)年から13(同25)年の間のロシアの武器輸出は、04(同16)年から08(同20)年の間に比べて28%増加している。

61 インドネシアとの間ではSu-27およびSu-30戦闘機の売却契約が03(平成15)年と07(同19)年に、マレーシアおよびベトナムとの間ではSu-30戦闘機の売却契約が03(同15)年に行われ、これらの国に引き渡されている。ベトナムについては、09(同21)年にSu-30戦闘機およびキロ級潜水艦の売却契約が行われたと伝えられており、14(同26)年1月には同潜水艦の1番艦「ハノイ」がベトナムに到着している。インドについては、13(同25)年11月、ロシア北部のセヴェロドヴィンスクで改修を終えた空母「アドミラル・ゴルシコフ」がインド側に引き渡され、「ヴィクラマディチャ」と改称された。なお、同艦は14(同26)年1月にインドに到着している。また、06(同18)年にはアルジェリアとベネズエラとの間でSu-30戦闘機などの売却契約が結ばれ、一部は引き渡されている。中国については、Su-27戦闘機、Su-30戦闘機、ソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級潜水艦などが輸出されているが、中国の武器国産化の進展などを背景に近年取引額が低下傾向にあるとの指摘もあるものの、補修用の航空機エンジンなどの輸出は継続している。